第19話 あれから数日後
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アイオーンがやって来てから早数日が過ぎた、もう5月も終わろうとしている今日この頃。
その期間に色々な出来事や変化があった。
まず1つは、俺にとって初めてのエイトフェアが開催されたことだ。
エイトフェアとは700円買う毎に、その場でくじを引くことが出来るキャンペーンの1つのことだ。
アタリ券には8-10の商品と引き換えが出来る引き換え券が、ハズレには何枚か貯めて応募すると懸賞が当たるキャンペーンである。
客として何回もこのエイトフェアをやったことはあるが、店員としてやるとハード過ぎて目が回る様な忙しさであった。
すでにフェア自体は終わったこととは言え、世の中のコンビニ店員はここまで大変だったとは思わなかった。
ちなみにこのフェアは、年に3回あるらしい。
またあの忙しさがあると思うと、今から憂鬱である。
もう1つは俺の制服が冬服から夏服に変わったことだ。
今まで俺が来ていた制服は冬春用で、さつまいもの様な紫色だったのに対して、夏秋用は入道雲が似合う真っさらな空色をしている。
俺がフェア中にその夏秋用の制服に衣装チェンジすれば、目敏くアイオーンが気が付き質問責めにあった。
何で着ているものが違うの?
今までの服はどうしたの?
そういえば、その服の上げ下げするやつってどんな仕組みなの?
ところでこれってどうやって使うの?
これってタダなの?
何でタダなの?
など様々だ。
それに王様や宰相さんが便乗し、ファスナーの仕組みを知りたいと言うので持って帰るのは厳禁だが、1回他の誰も着ていない制服を手渡して大人しくさせたことがあった。
ファスナーを使った服は向こうにはまだ無いらしく、貴族である自分達で着るためには他にも細工を付けなければならないが、国民にとっては十分な機能であり、老若男女の全てがボタンや腰紐で結んだりしている今よりも、簡単に着られる服があればそれも導入してみたいと話していた。
この2人は俺が暇かどうかを見極めるのが上手く、手が空いた時や口は空いている品出しの時にだけ声を掛けるのに対し、アイオーンだけは俺がどんな仕事をしていようが、休憩していようが関係無しに聞きに来るもんで、一回仕事の邪魔をするなと叱ったことがあった。
なんせ来店したら、自分の気がすむまで質問して来るのだ。
酷い時には10分毎に質問をして来たので、止むを得ず叱ったが、全然堪えた気がしない。
まぁ、休憩中の質問が無くなったから良しとしよう。
「ほほっ! 今日もお宝が増えてしまったなぁ」
「エロジジイだな。おい」
「まぁ、こうなったのも原因はあるんですけどね」
そんなアイオーンに連れて来られた異世界人第1号の王様は、いまでもエロ本を買いに来ては、鼻の下を伸ばしただらしのない顔をしている。
「原因ですか?」
「えぇ。実は……」
何故ここまで王様がエロ本に執着するかと思えば、宰相さん曰く王様の奥さんは非常に嫉妬深く、妾や側室と言った相手を作ることを悉く嫌っているのだとか。
ただ王様はまだ40代で精力が衰えていないらしく、悶々としたものを奥さんで解消しようとしても、すでに子供を5人も生んだ奥さんから拒否られてしまうらしい。
なのに他の女性での発散を奥さんは許さないし、1人でやろうにもおかずがそもそも乏しいので、その解決を探すのに非常に困惑していた様だ。
「それはアレっすね」
「ええ。私もアレには強く文句が言えない状態で」
俺と宰相さんは同じ男として、王様に同情的な眼差しを送った。
「さてー、お次は缶ビール! あっ缶ビール!」
あとは、エロ本と同じくらいに酒類も好んでいる様で、初めてここに来た日から新商品や定番の缶チューハイから缶ビールを、1日1本のペースで飲んでいる。
ただ、王様の好みが高アルコールだったみたいで、3%の缶チューハイは美味しいがジュースの様だと零し、口直しでビールを買うとか俺にはよく分からないことをしている。
それと、どんな酒にもおつまみにはチーズ系を好んでいるので、最近腹回りがパツパツしているように見える。
同じ日だったが、王様の次にここに来たのは宰相さんだった。
宰相さんは突然現れた8-10スライムの対処で契約をしたらしく、最初はスライムとの契約は嫌々だったらしいのだが、今では運が良かったと話している。
その理由が甘い物が大好きで、特に和菓子にハマったらしい。
そもそも向こうの甘い物は砂糖をふんだんに使ったお菓子で、甘い物好きの宰相さんを持ってしても、半分を食べたあたりから胸焼けしてしまうほど甘々に仕上がっている。
なので、こっちの甘さ控えめな甘い物に夢中になっている様だ。
「宰相さん。体平気っすか?」
「はい? 全然元気ですけど? むしろ自由に好きな分甘い物を食べられるので、今までよりも健康な気がしています!」
「あっそっすか」
そんな宰相さんは、甘いものに関してだけはかなりの大食いなので、俺は最近糖尿病にならないかと心配をしている。
最近のお気に入りはもちろん和菓子系なのだが、宰相さんは和菓子1種類と、それ以外の甘い物を2種類を日替わりで3個から5個買っていく。
1番変わったことといえば、8-10スライム達の出来ることが増えていたことだ。
今までは洗い物や掃除系をしていたのだが、スーやムー達の上達が早いことや、クラスティーナやリチャードが来たことにより、他の仕事を任せられる状況になったのだ。
「ほい。スーとムーはタバコの、クラスティーナとリチャードは箸とかの補充をよろしくな」
「ス〜」
「むっむー」
「クゥー!」
「りりー!」
スーとムーの前には、バックヤードから取って来たカートンが入ったカゴを置き、クラスティーナとリチャードには各レジに箸類などを置き、箸、スプーン、フォーク、大小のストローと各袋の補充を頼んでいる。
ちなみにカートンとは、タバコが10個入った物のことで、これを1つ買う毎にライターが1つ貰える。
それを触手を使って器用に補充していくスライム達は、今では俺よりも早く補充できる程に成長をしている。
本当にスライムマジ万能。
最初はそんな3人とスライム達だけで何日かが過ぎたのだが、ようやくこの日、新しい異世界の住人がやって来た。
「あいも変わらず凄い量ですね」
「そうですかね? 私としてはこの量でもまだまだ不服なのですが」
レジに置かれた甘い物はレーズンサンド、ビターのアルフォント、それと大好な和菓子系の水羊羹。それを各々5個ずつが置かれているのである。
これを数日かけてとか、皆で食べると言うのなら分かるが、1人で今日中に食べらのだから宰相さんの甘い物好きはガチだ。
『テロンテロン。テロンテロン』
「いらっしゃいま……せ」
「おや? 子供?」
店内ベルが鳴ったので、自然と目線を自動ドアの方へと向ければ、そこに居たのは子供だった。
「えぇー。アイン、ここどこなのー?」
「アッウー!」
「アイン。アウーじゃ分からないよー」
その子供は、赤くくすんだ子供特有のサラサラの髪に、これぞ異世界みたいな服装の男の子だった。
その男の子の腕の中には、俺がよく見かけるスライムがいる。
「そっちの住人だよな?」
俺は思わず宰相さんに声をかけた。
「そうですね。こちらの平民の標準的な服装なので、こちらの住民でしょう」
「なら、アイオーン!」
宰相さんも同意したので、ここでの説明係であるアイオーンを呼んだ。
『テロンテロン。テロンテロン』
「呼んだ?」
「あっ。アイオーン様だ」
「やぁ! 僕がアイオーンだよ!」
「じゃあ、アイオーン。ここでの説明を頼んだぞ」
「任されたー!」
来店したアイオーンを見た男の子は、アイオーンのことを知っていたようで、ここでの説明をアイオーンに丸投げして俺は仕事に戻った。
「じゃあ、ここがどんなところか説明するよ。ここは僕たちが住んでいる世界とは違う世界なんだ! 違う世界といっても国が違うとかそんな話ではなくで、本当世界そのものが違うんだよ! それでね、ここは8-10って言うコンビニでね、こっちの世界にはーー」
「え、えぇー! 意味が分からないよ!」
いきなり神から怒涛の説明を受けた男の子の声が、店内に響き渡った。
次回予告
「50円で買えるもの」




