第18話 コンビニデザート
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「甘味かぁ。めっちゃ種類あるから宰相さん付いて来てもらって良い?」
「おお! そんなに沢山の種類があるんですか? それは楽しみですなぁ」
甘い物好きの宰相さんは、嬉々として俺の後ろを付いて来る。王様はすでに満腹だからか、元々甘い物に興味が無いのか、クラスティーナを突いて戯れていて付いてくる気配は無いので放置だ。
「コンビニスイーツって結構色んなジャンルの甘い物があってさ。ここからここが甘い系のスナック菓子と駄菓子。特徴としては単価が安い」
「ほうほう。このドーナツやパンケーキは私の国にも似た様なのがありますが、こちらのは周りに砂糖をまぶしてはいないんですね」
「うへぇ。それって甘すぎじゃね?」
「……確かに。この歳になってから、半分食べたあたりからくどく感じることが多々あります。しかし砂糖は使えば使うだけ贅沢品なので、城勤務ではどうしてもその様なお菓子しか出ないのですよ」
「いやぁそれは大変だな。砂糖は沢山使えば良いってのは違うと思うぞ? 素材の味を生かしてこその美味しさが、正義だ」
異世界での甘さを重視したお菓子やデザートの話を聞きながら、グミや飴にソフトキャンディなどのコーナから、レジ前の和菓子。それに続けてアイスやシュークリームなどの冷凍、冷蔵保存のデザート、その上にあるクッキーやマドレーヌ。その反対側にある羊羹やどら焼きを宰相さんに紹介する。
やっぱり宰相さんは、最初に教えたドーナツやバウムクーヘン、クッキー以外の甘い系のお菓子やデザートを見るのが初めてだった。
「はぁ。ここまで種類があると、どれを選んで良いか分からないですね。いや、こんなに沢山の甘味があるのは素晴らしいことだと私は思うのですが……」
甘い物と言っても、コンビニで売られている甘味は沢山の種類があるため、中々どれを選んでいいのか困惑している様に見える。
「今回は食べ慣れたものを除外して、初めて食べる物を選んだらいいんじゃないか? それに、アイスやここら辺の物は冷たく保存してあるから、慣れない内にあまりに沢山食べると腹を壊すかもしれないぞ?」
飲み物を選んだ時も、10度以下に保たれている商品を手に取ってビックリしていたくらいだから、向こうの世界では冷たい物が無いのかもしれないし、あったとしても数が少ないのかもしれない。
それにどれくらい食べるのか分からないが、慣れないうちから何個も冷たいのを食べるのは、体に良く無いだろう。
宰相さんは初老の見た目をしているからな。お年寄りに冷たい物は注意が必要なのだ。簡単に腹を下してしまう。
「と言うわけで、俺的にオススメなのがこのミニサイズの羊羹。持ち運びに便利だし、小腹が空いた時に食べると意外と腹持ちがいいんだ。ちなみに主な原材料は豆と砂糖」
「その黒いのが? それはちゃんと食べ物なのですか?」
どうやら宰相さんは、黒い見た目の羊羹に不信感を抱いているみたいだが、これが食べられないのであれば、和菓子の殆どが全滅してしまう。
「あははは。羊羹はちゃんとした食べ物だよ。小豆って言う赤紫っぽい色の豆を砂糖と共に煮た後に加工した物だな。
このフルーツあんみつに乗っている豆がそうだ。これが食べられないとなると、あんこって言うほぼ同じ材料で作られた和菓子が全滅するんだけど」
「あんこ?」
「そう。ここで売ってあるあんこを使った和菓子は、あっ和菓子ってのは、この国独自のお菓子って意味ね。それであんこを使ったのは、ここにあるどら焼きにレジ前にある饅頭と、月餅にきんつば。あとは最中かな?」
俺が一通り売り場にある和菓子の名前をあげていけば、宰相さんは感嘆のため息を吐いて羊羹を1つ手に取った。
「はぁ。かなり種類があるのですね。では、蒼のお言葉に従い1つ食べてみますか」
「まいど」
「ムグムグ。もぐもぐ。パクパク」
「おい。お主はいつまで食べ続けるつもりだ?」
「ここにあった和菓子全種2周目っすか」
少し前にお試しで買った一口サイズの羊羹を、しかめ面で少しだけ口に含んだ宰相さんは、パァと顔を輝かせると残りを一気に口に入れて、いそいそと俺が紹介した和菓子全種類を1個ずつお買い上げしてくれた。
ちなみに宰相さんが買った和菓子は、練り羊羹、小倉羊羹、どら焼き、栗どら焼き、フルーツあんみつ、きんつば、月餅、大福、よもぎ大福、栗饅頭の全部で10種類。
それの2周目のほぼ終わりに突入しているので、宰相さんは王様が引くほどの大食いであった。
「王様。王様」
「何だ? 蒼」
俺が王様の側により、耳元でヒソヒソと声を掛けると、王様の方も声を抑えて話す。
「宰相さん。めっちゃ大食いっすね」
「そうだな。若い頃は今くらいに食べていたが、今はそれほど食べていなかったはずだ」
王様は思案顔でそう言ったが、それは宰相さんが年を取ったのと、砂糖ドカ盛りのお菓子に胸焼けする様になってしまったからだろう。
俺でさえ宰相さんが言ったお菓子は、一口でも食べたら胸焼けしそうだと思った程だったのだ。
そのお菓子中で比較的砂糖が少ない物でも、マドレーヌの様な生地……と言っても他の材料に比べると砂糖が2倍も3倍も入っているやつに、ドーナッツの定番のアイシングが施されて、それに砂糖をまぶし固め、その上に色違いのアイシングを施して、あとはそれを何層にもなる様に重ねるらしい。
その層が厚いほど裕福や権力の証となるらしく、普通に5段とか6段、最大で12段まで重ねた貴族が居たそうだ。
それを聞いた俺はどんだけ砂糖盛るねん! って、思わず大声で突っ込んでしまう程に甘々に仕上がっている。
「向こうでは、そこまで甘い物を食べてはいなかったではないか」
「えっ? これだったら私はまだ全然いけますけど? 特にこれは一口サイズなので、携帯食としても重宝するかもしれないですね。
蒼、これとこれ。あとこれもあるだけ買います」
これとこれ。と指差したのは練り羊羹とどら焼きだ。ここにあるどら焼きは3種あり、通常のどら焼きと栗入りのどら焼き。そして、宰相さんがまとめ買いすると言った大判どら焼きである。
この大判どら焼き。大きさが通常の1.5から2倍ほどでかい。
あとの1つはきんつばだったのだが、ここで俺がストップを掛けた。
「あっ! 宰相さん。悪いんだけど、これ1個だけ俺に譲ってくれないか?」
「んむ? ……それはもちろん良いですが、何かあるのですか?」
「あぁ。俺の曾祖母ちゃんがきんつばが好きでさ。今日、仕事帰りに買って来てくれって言われているんだ」
危ない。危ない。昨日の朝に、曾祖母ちゃんから和菓子買って来いってご命令があったのだ。
曾祖母ちゃんは和菓子の種類は何でも良いと言っていたが、その和菓子の中で一番好きなのがきんつばなのだ。出来るのならば、好物を買って帰ってあげたい。
「ええ。それはもちろん良いですよ」
「良かった。じゃあ、早速レジでーー」
「ちょっと待った!」
話が纏まったので、早速和菓子のまとめ買いの為にレジに行こうとしていた俺達を、王様が呼び止めた。
「王よ。何ですか?」
「うおっ! 王様どうした?」
俺はいきなり呼び止められたので、ビックリしてしまった。別にビビったわけではない。
そして王様は咳払いをして、某裁判ゲームの様に宰相さんを指差した。
「コホン。ヴォルフよ! つい先ほど胡椒のまとめ買いが禁止されたではないか! ならば、この和菓子も当然まとめ買い禁止だ!」
「ハッ!」
たった今気が付いたと言った顔をした宰相さんは、見る見るうちに顔色が暗くなりションボリとなっていく。
どんだけショックなんだ。
「そうでしたね。確かに胡椒のまとめ買いが禁止されているのであれば、当然他の商品も大量購入すれば同じ危険があるわけですから我慢しなければなりませんね」
「そうだそうだ! 儂もせっかく買ったエロ本を我慢しているのだ。お主も我慢せよ」
「うわちゃー」
胡椒の件はまだ良かったが、その後の理由が残念過ぎる。
「分かりました。でしたら、今日の分として、先ほど述べた和菓子をそれぞれ5つずつ下さい。そうして毎日日替わりで他の甘味と和菓子を買いに来ます!」
「えっ?」
「はっ?」
グッと拳を握って力説した宰相さんだったが、一回に買う量を減らしたにも関わらず、トータルで換算すれば結構な量になるその発言に、俺と王様は言葉を失った。
「これ以上は、たとえ2人が相手でも私は断固として戦いますよ!」
自分好みの甘味に巡り会えたことで、宰相さんの中の何かがぶっ壊れたらしい。
「まぁ、毎日違う種類ならそれでも良いか」
こぼれ話。
あの後の会話。
蒼「宰相さんは、あんだけ食べても太らないのか?」
宰「そうですね。別に動いているわけではないですが、何故かいくら食べても全く太らないですね」
蒼「へぇ。それは羨ましいな」
王「……(無言で自分の脇腹を摘む)」
次回予告
「あれから数日後」




