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第15話 腹が減っては何とやら

ブックマーク、感想、評価ありがとうございます。

完全に予告詐欺をしてしまいました。

申し訳。

 俺が飯とトイレ休憩を終えた頃には、王様と宰相さんの口論バトルは終わっていた様で、今は店内の装飾や陳列されている商品を物色している宰相さんが、王様に質問をするのだが、それを王様が答えたいけど答えられない状況の様であった。


「はぁ。コンラート、あなた何も知らないではないですか」

「だから、儂は今日来たばかりだと申したであろう! たった一日で全てを網羅するなど出来る訳がないではないか!」

「そうですか? アイオーン様は網羅していた様な気がしましたが」

「あれと儂を同列に語るでない!」


 俺はそれを聞いていただけで会話には加わらず、今は二人の様子を外から見ていた。

 別にサボっているわけではなく、外掃除をしているからだ。

 二人には外掃除をする前に「外の掃除をしてくるから、何か用があったらガラス越しで知らせてくれ」と伝えてあるので、何か用があったり買う物があったらガラス越しに呼んでくれるはずだ。

 ガラス越しなのは、二人が自動ドアを通ると異世界へと帰ってしまうからだ。


「揉めてるには揉めてるみたいだけど、まだ大丈夫か? あとはブラシをかけるだけだからもうちょい待ってもらいたいな」


 外掃除の内容は、外に設置してあるゴミ箱の内、満杯になった物を捨てたり、駐車場内の落ちているゴミを箒と塵取りを使って集めたりする。

 これがまた、ゴミ箱に捨てずに駐車場に捨てていく客が後を絶たないんだ。

 車のラインに沿う様にタバコが落ちているのはもちろん、カップ麺とか空き缶、ペットボトルなんかも捨てずにその場に置かれていることが多々ある。

 酷い時には、中に食べ残しや飲み残しが入っている状態で捨てるのではなく、駐車場に置いてあるのだ。

 全くもって迷惑この上ないので、俺個人で思う『客に止めてもらいたいことトップ10』に入る行為だ。


 そして忘れてはならないのがタバコの吸い殻だ。タバコの吸い殻入れに入っているのを捨てて、火消し用に水を入れなければならないのだが、俺自身がタバコを吸わないせいで最初の頃は、よくこの存在を忘れていた。


 それらが全て終わったらホースでタイル全体に水を撒き、ブラシに持ち替えたらひたすら無心で擦る。擦る。擦る。


「ふぅ。きっちぃー」


 体重をかけて汚れが付いている部分を重点的にブラシで擦ると、じんわりと顔から汗が出る。

 それに、中腰の姿勢での作業は中々に腰に来るものがあり、額の汗を拭ったあと、ブラシを杖代わりにして右手で拳を作り腰を叩いた。

 その時にふと視線を感じたので辺りを見回せば、ガラス越しに王様と宰相さんが俺のことを見ていた。


「何かありました?」


 自動ドアのところまで行き、ひょこりと顔を覗かせてみれば、王様と宰相さんがこっちに来つつも、何かを考えている様な顔で宰相さんが聞いて来た。


「蒼。君は魔法が使えたのか?」

「へ?」

「いまさっき大量の水を出していたではないか? 違うのか?」

「儂も見たぞ。かなりの量の水が勢い良く出ていたではないか!」

「いやいやいや違いますよ! なんて説明すれば……。取り敢えずこっち来てもらえます?」


 宰相さんと王様は真剣な表情で聞いてきたが、言われた俺にはビックリな発言だった。

 こっちの世界だと当たり前のことが、宰相さん達向こうの住人からだと魔法現象の様に見えてしまうか? そう思いながら掃除道具を片付けて、二人をレジ内にある流しが見えるところまで来てもらうと、俺だけレジに入り蛇口を上げた。


「なんと、水がこんなに!」

「私達の世界とは仕様が違うみたいですね」


 当然蛇口を上げれば水が出て来るのだが、それを見た二人は驚いた顔でそれを見ている。

 俺は一先ず水道の流しっぱなしは悪いので、外掃除で汚れた手を洗ってから水を止めて、簡単にこっちの世界での水道のシステムについて説明した。

 俺が説明した上水、下水のシステムや、二人が質問してきた蛍光灯や冷凍食品やアイスの保冷の仕組みを説明すると、二人は感心したようであった。


「なるほど。こちらでも実践して『グゥーーー』」


 宰相さんが、冷凍食品の冷気が出ている部分との境目に手を当てながら何かを言おうとした時に、腹の音が盛大に鳴った。

 隣にいた俺はもちろんのこと、アイスを見ていた王様にもバッチリ聞こえているであろう腹の音だったが、宰相さんは顔色一つ変えずにいた。むしろ、笑顔で俺に謝罪した。


「失礼しました。どっかの誰かさんのせいで昼食を食べ損ねていたのです。蒼。何かオススメはあるかな?」


 どっかの誰かとは、当然のことながら王様である。当の王様は俺達からスッと目線を逸らして冷凍パスタを手に取っているが、チラチラとこちらを伺っている。


 いまの時刻が一時半頃なので、何時に朝食を食べたのかは知らないが、俺達と同じ時間帯と想定した場合、確かに空腹になる時間だろうし、王様のせいで駆けずり回った宰相さんだ。いつもより腹ペコにもなるだろう。


「そうだな。そっちで似たようなのはないか? それと食べられないものとかは?」


 いきなり食べ慣れないものをお勧めするよりかは、多少食べ慣れている物の方が警戒せずに食べられるであろう質問だ。


「食べられないものは無い。向こうと似たようなのだと、こちらのパスタとかあちらのパンとかだが、どれも私が見たことの無い形状をしていたり、馴染みのない食べ物の様に見える。唯一見慣れているのはこのロールパンくらいだろうが、向こうのはここまで柔らかくは無い」

「ほうほう。なるほど、なるほど。あと、前菜とかスープとかメインとか、コースで欲しいとかあります?」


 四個入りのロールパンを手に、軽くふにふにと触っていた宰相さんに質問すると、陳列されている商品を眺めたあと、緩く首を振りながら答える。


「いや。こちらの世界では、食べ物を残すのは品に欠ける行動なのだろう? だったら私は単品で充分だ。もし足りなければ追加で買うので大丈夫だ」

「だったら、最初はこのカルボナーラかな?」


 宰相さんの言葉を聞いて、俺は温玉カルボナーラを手に取って宰相さんに手渡す。


「カルボナーラ?」

「そっちの世界では無いのか? チーズと生クリームと卵で味付けしたパスタなんだけど……。あっ、さっぱりしたものの方が良かったか?」

「いや、これで大丈夫だが、私はカルボナーラは食べたことは無いな」

「あと、飲み物はこっちな」


 カルボナーラを宰相さんに手渡して、俺は二人をペットボトルと紙パックがあるドリンクコーナーに連れて行く。


「ここからここまでがドリンクコーナーで、こことここはお酒。こっちに入っている分は冷えているけど、暖かいのものが欲しいならレジの隣にあるぞ」

「んん? 見慣れない物ばっかりだな」


 宰相さんはどれを選べば良いのか端から端までをウロウロして、王様は俺を手招きする。


「おい蒼。ここは全部酒か?」

「そう。そこ全部酒。あぁ、けどこれとこれはノンアルコール」

「ヌォンアルコォール?」


 ノンアルコールビールを指差せば、聞き慣れない単語だったようで俺は軽くノンアルコールビールについても説明する。

 なんだか、今日は説明ばかりしている気がした。






「温めたら持って行くから、二人はテーブルに行ってても大丈夫だぞ?」


 宰相さんが買ったのは、俺が進めたカルボナーラと無糖の紅茶。

 王様もツマミは食べたが昼食をちゃんと取っていなかったということで、ペペロンチーノとノンアルコールビールを買って、いまはレンジでチン待ちだ。


「では頼むぞ。蒼! クゥーー! 昼から酒を飲めるとは思わなかったぞ!」

「いや、それノンアルコールビールだから。ビール風味のドリンクだから」


 こっちは真夜中だが、王様の世界だとお昼過ぎだ。王様は完全にサボってしまった業務を片付けなければならないらしいので、飲み過ぎで泥酔になり仕事放棄が出来ない王様にとって、このノンアルコールビールは画期的な飲み物だそうな。


「ほら、さっさと移動して下さい。蒼の迷惑になるでしょうが」

「あぁ、ちょっと待った! これの開け方だけ教えてくれ」

「あぁ。ここをこうしてこう」


 酒が飲めると浮かれている王様を宰相さんは引きずってテーブルに行こうとしたが、それを王様が遮って俺の前にノンアルコールビールを出した。

 どうやら開け方が分からなかったようで、俺は二人に見えるようにプルタブを開けた。


『プシュッ!』

『チン!』

『チン!』


 プルタブを開けた瞬間に温めが終わってしまった。


次回予告

「和菓子にハマる」


今度こそ!

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