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第13話 一番簡単な解決(異世界side)

ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。

「さぁ! 早くそのスライムについて説明してもらいましょうか!」


 物理と魔法、そのどちらの攻撃も効かないと問題になっているスライムを肩に乗せている王に向かって、私は尋問するように問いただす。


「何もこんなところで……」

「他人にそう易々と聞かせていい内容なんですか?」

「ううむ」


 先ほどの廊下から、王がひょっこりと現れたすぐそばの部屋に移動していた。

 ここにはあまり人が立ち寄らないのか、ほんのりと埃の臭いがする。

 王もこの臭いを嗅ぎ取っているのか、あまりいい顔をしていないが、何も話していないのに逃すわけがない。


「言うまで、逃がしませんからね? これも、没収したままです」

「それは……。困るな」


 私は王が逃げられないように、両手を壁に当てて逃亡経路を防いでいる。さらに王の足の間に私の右足をねじ込んでいるので、かなり王との距離が近いもののこれなら簡単に私から逃げられないだろう。

 それに、私の元にはこのいかがわしい本があるのだ。絶対に私が納得するまで返すわけにはいかない。


「うむ。簡潔に簡単に説明すると、神からこのスライムを貰った。に、なるんだが」

「はぁ? それじゃあ、林で確認されているスライムは何なんですか? もっと詳しく説明しなさい!」


 簡潔すぎた説明では、王が何を言っているのかが分からない。このスライムが神からの贈り物? では、林にいると言われているあのスライムも王の物と言うことか?


「うーん。儂も詳しく知ったのは昨日だったから上手く説明が出来るか分からん。よし、手っ取り早くアイオーンを呼ぶか」


 目を瞑り考え込んでいた王は、ポンっと手を叩く。そして、開かれた瞳の色が普段の青から金色に変わったことに、私は驚愕した。


「アイオーンよ。頼みたいことがある」

「出したの? 呼んだ?」


 王の呼びかけに、どこからともなく現れたのは小柄な少年。しかし、その姿には見覚えがあった。


「アッ、アイオーン様!」

「そうだよ! 僕が創造神アイオーンだ」


 教会はもちろん、国中でも絵画や彫刻でその姿が描かれていて、誰でも知っているほどに有名な神の一人である【創造神アイオーン】様。

 そんな神様が、私の目の前でえっへんと胸を張って立っていた。


「急に済まぬが、この者に8-10スライムと異世界コンビニの説明をして欲しいのだ」

「あれ? 何かあったの?」

「いや、私も今さっき帰ってきたばかりで、いきなりこやつに捕まったので私も知らぬ」

「あぁー。エロ本の中身を吟味する前に見つかっちゃったのかー」

「そうなのだ! しかも一冊はヴォルフに取られてしまったので早急に取り返すべく、そなたを呼んだのだ」

「ほほーん」

「ニヤニヤとした顔で私を見るでない!」

「お二人とも、お楽しみの途中で申し訳ありませんが、私の話を聞いてください」


 知らない単語が次々と王の口から飛び出すのだが、アイオーン様はその単語を知っているのだろう。私とは違い理解しているようだし、せっかく神自ら私に説明して下さる様なので、一旦王から離れつつも逃げ出さないように扉を背にして、私は今日の朝から起こった出来事について説明した。


「あぁ、確かにどんな攻撃も効かないように設定してたね」

「……設定って、アイオーン様がお創りになられたのですか?」

「うん。僕の暇潰し用にちょちょいのちょんって」


 アイオーン様のお言葉に、今回の原因の一つが神様の暇潰しで起こったものだと知り、思わず溜息が出た。


「……はぁ。それでこのスライムの対処法を知りたいのです。いま林の近くでは我が国の衛兵や冒険者達がスライムを討伐出来ないかと奮闘している最中なのです」


 いま現在も林では、衛兵や冒険者達があの手この手でスライムの対処を検討しているはずだ。

 その間は林の近くの道は交通規制が掛かっているので、できることなら早く対処をしてしまいたい。


「対処法って言われても、スライムからは襲わないから放っておけば大丈夫だよ?」

「いえ、ここまで問題が多くなってしまったからには、何かしらの対処をしない事には問題が収束しないです」


「人間って面倒だね。でも、そんなところが面白い!」と言いつつも、アイオーン様は頬に指を当てて「うーんとー」と考え込むと、ポンっと手を叩いた。


「そうだ! ヴォルフが8-10スライムの飼い主になればいいんだよ! それが一番簡単な解決方法だよ!」


 アイオーン様は名案とばかりにうんうんと頷き、王もアイオーン様のお言葉に賛同する。


「おぉ! それは確かに良い案だな。ヴォルフ、お主がスライムの飼い主になればこの問題は片付くぞ」

「ちょっと待ってください! 私があのスライムと契約をするという事ですか?」


 スライムと言えば雑魚モンスターとして有名であり、多少特殊な生態に進化するスライムがいるにはいるが、ほとんどの場合は油断せずに対処すれば子供でも討伐が可能と言われているほどに最弱なモンスターなのだ。

 そんなスライムと貴族、しかも宰相という役職に就いている私が契約などしたら、周りからどんな目で見られるかを考えただけでイライラする。


「そうだよ? じゃなければスライムが勝手に移動するまでは何もできないもん。それに、あのスライムはただのスライムじゃないんだ」

「と、言いますと?」

「あれは異世界へと行くために、必要なアイテムでもあるんだよ」


 アイオーン様が説明された異世界コンビニとやらの内容は、にわかには信じ難い話であった。

 だが、私の手にはこの世界では見たことがないほどに色彩豊かな女体が描かれている本がある。

 しかも見たことがない記号の様なものまであり、アイオーン様のお言葉が正しければ、この記号は異世界での文字ということになる。

 それに私にはもう一つ利点がある。


「分かりました。脱走癖が再来したであろう王を捕まえるためにも、是非私が契約しましょう」

「あっ! そうだった! これでは私が気軽にコンビニへと行けないではないか! アイオーンよ、ヴォルフに契約させるのは止めよ!」

「えー。それはちょっとぉー……」


 私の目的を察して慌て始めた王は、アイオーン様に私がスライムと契約するのを止めさせようとしたが、アイオーン様は「人間皆平等!」と言って取り付く島もない。


「アイオーン様。また、ふらっと王がコンビニに行かれた際に、私がスライムと契約をしていれば、私も異世界コンビニとやらに行けるのですよね?」

「そうだよ。異世界コンビニのルールさえ守ってくれれば、どんな種族だって僕は大歓迎さ!」


 アイオーン様は異世界コンビニ仲間を作りたいらしく、異世界コンビニの素晴らしさを皆でワイワイと共有したいらしい。


「分かりました。早速林にいるスライムと契約をしてきます! 王よ。あなたの責任もあるのですから、もちろん付いて来てくださいね。それまでこの本は私が預かっておきます」

「はぁ。せっかく楽しもうと思っていたのに」

「あのね、あのね。異世界のコンビニって凄いんだよ! 魔力が無い世界だから魔法は使えないんだけどね、その代わりに科学って言うのが発展していて、魔法の代わりの様なんだ。しかも、そこにある商品は全て見たことも無いものばっかりで、何時間そこにいても全く飽きないんだ! それでね、僕の異世界での協力者が東蒼って言ってねーー」


 落胆した王を引き連れつつ、その道中で異世界コンビニのルール説明をアイオーン様から聞く。そして、林にいた8-10スライムと無事に契約が成立した。

 衛兵や冒険者達にはアイオーン様からの説明に目を白黒させていたが、私からの褒美を受け取ったことでなんとか落とし所をつけて納得した様で、皆散り散りに帰って行った。

 そしてこの場に残ったのは私と王のみ。


「これで用は済んだな? では私はこれでーー」

「何を行っているのですか? 王は付いて来てくださいね。さぁ異世界へと行きましょうか。よろしくお願いしますよ。リチャード」

「リッリー!」


 林に出現した8-10スライム。

 そのスライムにリチャードと名付けて私と契約を結ぶと、そのまま異世界コンビニへと転移した。



次回予告

「なるほど、よく分かった」

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