第12話 消えた王様(異世界side)
お待たせしました。
ブックマーク、評価、感想ありがとうございます。
「この一大事と言う時に、あの人は一体どこに行ったんですか!」
私の名はヴォルフ・エクスマーレ。
この国の宰相をしているのだが、私はいまとても焦りながら、城の至る所をある人物を捜すために駆けずり回っていた。
「くそっ! こんな時に私の身分が邪魔ですね」
しかし、この国の宰相と言う身分の私が慌ただしく廊下を走るなどと言った、はしたない行為は私の貴族としての立場から見れば、かなり見っともないと言われる行為であり、もしその現場を他の貴族、特に私の立場を虎視眈々と狙っている阿保共が見ていたら、即座に誹謗中傷を言われて辞任しろなどと言われてしまうために出来ない。
そのため仕方がなく、できる限り優雅に見えつつもなるべく急いで歩きながら探し歩いていた。
ことの発端は、兵士が今まで見たことのない焦り顔で私の元へと来たところから始まる。
ーー○○ーー
「宰相様っ! お忙しいところ失礼します。衛兵隊、冒険者ギルドの方々から急を要するお知らせがあります!」
「どうした。何があった」
私は入って来た兵士をチラリと確認しただけで、溜まっている書類を書く手を止めずに目線だけで続きを兵士に促す。
「はっ! 城門付近の林にてスライムを発見」
チラッと兵士を見て話の内容を聞くに、ここまでは何てことのない話だった。
むしろ「スライムが出た」ごときでこの様に焦る内容ではないし、私に聞かせに来たのであれば事態はもっと深刻なはずである。
私が黙って兵士の言葉に耳を傾けていると、とんでもない報告を聞かされた。
「しかし、そのスライムは新種の様でありまして、どんな攻撃も効いていないようなのです!」
「……新種。しかも攻撃が効いていないだと?」
林から出現したそのスライムには、問題があったようだ。
私は書類を書いていた手を止めて、顎に手をやりことの重要性を理解した。
「そのスライムが新種だと判明した理由は?」
「はっ! 此度のスライムには、目と思わしき部分と、その上に謎の紋様が有るとの報告を受けております!」
「スライムの姿を写したものはあるか?」
「ただいま安全地帯にて絵師が製作中ですが、衛兵に冒険者の方々も満場一致で、今まで見たことの無いスライムとの証言をしております」
「ふむ」
確かに数十年感覚で新種のモンスターが現れることはあるが、それは冒険者などが未開の地へと出向いた時や、モンスターが異常な成長をしたり交配によって変異種が出るくらいであり、今回の様な城門付近で新種が出てくる話など、スタンビートなどの災害を除けばこの国ができてから数百年の間、聞いたことのない話だ。
「して、攻撃が効かないとはどう言うことだ? 打撃、剣撃が効かぬのか? それとも魔法が効かぬのか?」
そして、ここが一番厄介で重要な話だった。
時たま物理耐性や魔法耐性を持つ魔獣が出現することを知っている私は、兵士にどのような攻撃が効かないのか尋ねて見たが、兵士は言いづらそうに目を泳がし始めた。
「それが……」
「何だ? 早く申せ」
顔を青くさせていた兵士はゴクリと唾を飲み込むと、堰を切ったようように言った。
「先程宰相様が仰った攻撃方法を全て試した様ですが、そのどれもが無効となっている様なのです!」
「なっなんだと!」
「ひぃ!」
私は仰天して、思わず机を両手で叩き大声を出してしまった。私のあまりの剣幕に兵士は慄いたようだが、今はそれどころではない。
直ぐさま対策を取らねば、この国がパニックに陥ってしまう!
「私は至急このことを王に伝える。其方らはスライムが城壁内へと向かわぬように牽制せよ!」
「はっ!」
たとえ如何なる攻撃が届かなくても、この国の敷地の中にさえ入らせなければどうとでもなる。
王族には王族にしか使えぬ血統魔術が存在し、それを使えば全攻撃無効のスライムなど退けることができるだろう。
ならば善は急げと私は王を探しに出たのだが、一向に姿形が見当たらない。
いつもこの時間には王専用の執務室に居るはずなのに、今日に限って不在だと……ふざけるな!
他にも執事やメイドに庭師などなど、手当たり次第に会う人会う人に、王を見かけたかと問いかけているのだが、誰一人として王を見た者は居ない。
一応その者らにも、王を見かけたら私に連絡を入れるように言ってあるが、未だに連絡が来ないことを見るに、王は見つかっていないのだろう。
「クソッ! あいつマジでどこに行きやがった!」
未だに見つからない王についつい口が滑ってしまうが、それには理由がある。
幼い頃の王は脱走や放浪癖などがあったが、あの頃比べれば格段に大人しくなったというのに、このタイミングで再発されても困るのだ。
我が国の王であるコンラート・ディオス・イーヴィッヒは、私と同い年だった。ゆえに幼い時から学園を卒業して今日に至るまで、私は側近として王の側にいたのだが、あいつの幼い頃は酷かった。
幼い頃の王は、家庭教師の勉強よりも剣の修行や魔法の習得の方に興味があり、家庭教師が来る時間には教室から姿をくらます事が多々あった。
その度に私が王を探しに行かねばならず、私の勉強の時間も探しに行くことによって潰れていた。さらに最初から王を見張っていた時には、巧妙な罠を何個も巡らせては脱走を繰り返していたので、あの時の王のあだ名が脱走王子となっていた。
そんな昔の事を思い出していたら、なんだかムカムカして来たように思う。
いまでは立派に国を治める王になったというのに、この有様では私への負担が大きいではないか! 本当にあいつには若い頃から苦労させられて居るな私は!
そんな思いを抱きつつ長い廊下を歩く、と言うよりもほぼ走っているようなスピードで進んでいると、ちょうど向こう側の曲がり角から探していた人物がひょっこりと姿を現した。
「むほほ。なんと耽美な。早く誰にも見つかる前に全ての中身を確ーー」
「コンラート! 貴方今まで何処をほっつき歩いていたんですか! って、コンラート! 貴方その肩のスライムは一体何なんですか!」
デレデレと鼻の下を伸ばして、だらしのない欲情しているかのような顔をしている王。その王が両手で支えているのは見たことの無い色彩は豊かだが、かなり薄い頁数の本と思われるもの。
そして、その王の肩には兵士が言っていた特徴を持つ、いま問題となっているスライムが引っ付いているではないか!
「あ〜と。うおっほん。ヴォルフよ。此度の話は、話せば長くなる。故に後で時間を取るのでその……」
私に見つかったことに咄嗟に手に持っていた本を背中に隠し、威厳を取り戻す様に咳払いをしつつもその目は完全に泳ぎ、私の質問に言い淀んだ王の言葉を遮って背中に回り込み、王が隠し持っていた物を奪い取って驚愕した。
「あっ! 何をするんだヴォルフ!」
「貴方が咄嗟にこれを隠すからでしょうが……なっ! 何なんですかこれは!」
薄い本だと思ったそれは、はやり分類的には本に間違いはないのだが、表紙に当たる部分を見て私は王に突きつけながら問い質した。
なぜなら、この本に描かれているのはあられもない程に肌を露出している女性の姿だったからだ。
「ほら、えっと、だから、その、少し話を整理するための時間をくれーー」
「いえ、大丈夫です。いま、すぐに、話してください」
「……はい」
本を突き付けられてあわあわして時間を稼ごうとした王を無視して、単語を区切ってはっきりと言えば、肩を落とした王は素直に頷いた。
そんな私と王を、王の肩に乗っているスライムはニコニコと眺めていた。
「あっ、その本は私が買ったものだから返しなさい」
次回予告
「一番簡単な解決」
最近めっちゃ暑くて、熱中症のニュースをよく見ます。皆さんもお気を付けて!




