第10話 神の次は王様かよ!
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「さて。今日も一日頑張るぞいってことで、まずは洗い物からだな。スー、ムー頼むぞ」
「スーー!」
「ムーー!」
夕勤の子達と入れ替わり、今日も22時から6時までの仕事が始まった。
昨日はとんだハプニングがあったりもしたが、それと引き換えに強力な助っ人が2人もできたことは正直かなり嬉しい。
「スーはこっちで、ムーはこっちな。どっちかが先に終わったら残ってる方を手伝ってくれ」
「スッ!」
「ムッ!」
スーとムーはやる気満々のようで、キリリとした表情でぴょんと洗い物に飛び乗ると、触れたところからみるみるうちに綺麗になっていく。
俺が働いているコンビニの流しは、2つ隣接して設置している。さらにその隣には食洗機も設置してあるので、昨日までだったらフライヤーなどの油物を扱った物をお湯に浸けておくのに片方を使い、もう片方にそれ以外の物を置いて洗っていたが今日からは違う。
スーが担当している右の流しにフライヤーで使った網や落し蓋にトングなどを置いて、左を担当しているムーのところには、コーヒーマシーンの内部で水洗いしなければならない道具類をまとめて置いている。
うちにはコーヒーマシーンが2つあるので、今のが終わったらもう一回同じ作業が待っているが、水洗いではないので拭かずにすぐに使用できるのが良い。
そしてスーとムーが洗い物を綺麗にしているその間に、俺は雑誌の返品作業が出来るので大変大助かりだ。
今日返品予定の雑誌を集めていると、今日もあいつが来るのかと考えてしまう。
「にしても今日もあいつは来るのか? いや、昨日はあんだけ店の中見ていたんだし、さすがに今日も来ないだろ」
あいつとはもちろんアイオーンのことであり、あいつのせいで俺の日常が無くなったことを考えなければ、来てほしくないと思ってしまうのもしょうがないと思う。来たら絶対に面倒事が起こるからだ。
「さすがに昨日はいきなりだったからそん時の流れに流された感はあったが、やっぱおかしいよな?」
アイオーンが招いた厄介ごとと、スーやムー、それに地球神からの特典とを考えて秤にかけてみるも、俺1人の判断では答えなど出ない。
返品する雑誌を集める作業をしながらそんなことを考えていたら、昨日よりも早い時間に聞き覚えのある声で聞こえ、奴が来たことが分かった。
『テロンテロン。テロンテロン』
「やぁやぁやぁ! 今日も僕が来たよーー!」
両手をあげて走るように店内に入って来たアイオーン。しかも今日のアイオーンは1人ではなかったようで、その後ろから庶民の俺が会うには相応しくないお方を連れていた。
一目見て上質だと分かる仕立ての良さそうな服に身を包み、どこか品のある佇まいのダンディなお髭が特徴の初老のおじさん。
「ほう、ここが異世界コンビニと言うやつか。ふむ、外は夜なのに中はここまで明るいとは……これには一体どんな魔道具が使われているのか、興味深いな」
「でしょー! 蒼、やっほー」
そう言って立派な口髭に手を携えてながら興味深そうに店内を物色している金持ちそうなおじさんは、アイオーンの言葉を聞いて俺と目があった。
「おぉ! お主が東蒼か? アイオーンからは話は伺っておるぞ」
「あっどうも」
こちらに近づきながら右手を差し出して握手を求められたので、思わず頭を下げながら応じてしまった俺の肩をパンパンと叩いて来る目の前の偉そうなおじさん。
心なしか大人な男の良い匂いもする。
「私はコンラート。ここでは身分は関係ないと言う話なのでな、ただのコンラートと名乗っておこう」
「俺は東蒼です。……えっと、普段は何のお仕事を?」
相手が言わないのならば聞かなくてもいい気はするが、知らないで何かしでかした時に怖いので、念のため相手の職業を恐る恐る聞いてみた。
「うむ。向こうの世界では王をやっている」
「……」
ピシッと、その一言を聞いて俺は動けなくなった。
ちょっと待て。何がどうなって昨日の今日でこうなった? ってか、神の次は王かよ!
「フォッフォッフォッ。そう硬くならずともとって食ったりはせんよ。そんなことをしでかしたら、わしの方があやつに大目玉を喰らってしまうわ」
そう言って王様が指差す先には、しゃがみこんでカゴに集めた雑誌を見ているアイオーン。
「ちょっ! おまっ! 未成年がなんてもん見てんだ! って、アイオーン子供じゃないんだよな」
「うん。こんな見た目だけど一応数千年は生きているかな?」
アイオーンが見ていたのは未成年が買ってはいけない雑誌。しかも他の雑誌と違い、立ち読みもできないようにテープが付いているやつだ。
その2次元と3次元が表紙の雑誌を両方を手に持っていたので、思わず取り上げてしまったのだがアイオーンは未成年ではなかった。
「まじか、数千年なのか」
「うん。だから、刺激を求めて来ちゃった」
「いや、来られたこっちはいい迷惑だからな?」
「何をー!」
ポカポカと俺を叩くアイオーンを鬱陶しく思いながら相手をしていたら、ぽろっと雑誌が手から離れて落ちてしまった。
慌てて拾おうとするも、俺よりも先に王様がそれを自ら拾ってしまう。
「あっ! すいません。……えっと、王様さん?」
「蒼君!」
「うえっ?」
雑誌を受け取ろうと手を出したにも拘わらず、ジッと動かない王様に対してあれっ? と思った瞬間に、ガシッと肩を掴まれた上にグイッと近寄られた。
「これを、君の言い値で買おう!」
ずいっと目の前に出されたエロ雑誌。
ダンディな見た目とは裏腹に、王様もエロ関連には貪欲であった。
「言い値って、それきちんと値段設定されているので、その金額さえ払ってくれるのなら大丈夫ですよ。
ってか、ここのスペースがそれと同じジャンルなので好きなの選んでください」
王様とアイオーンを連れて雑誌の成人コーナーに向かえば、王様はキラキラと目を輝かせて陳列してある雑誌を一つ一つ取り出して吟味し始めた。
「フォッフォッフォッ! 見よ、アイオーンよ! こんなにたくさんのあられもない姿をしたフォッフォッフォッ!」
もしや、ここに置いてあるやつ全部買うつもりか?
俺達を気にする暇もないのか、次々と雑誌を手にとっては様々なところから眺める王様を、王と言ってもエロオヤジじゃんと思いながら見ていたら、アイオーンにクイクイッと袖を引かれた。
「ねぇ蒼。何でここにある雑誌だけ中が見れないんだい?」
「ん? あぁー。こっちだと未成年が立ち読みできないようにテープで止められているんだよ」
「ふーん」
聞いてきたのにあまり興味がなさそうな返事をしたアイオーンに、いちおう補足をしておく。
「そっちの世界じゃあ知らないが、こっちだと20歳が成年だからそれ未満は体を商売にする云々は犯罪になるんだよ」
「へー。こっちだと15歳で成人なのにー!」
「なんと! どおりで見目の若い女子がおらぬのか! しかし、私はあまりにも若いのには興味が無いのでな。これくらいの方が滾るのだよ!」
「いや、王様の好みとか聞いてねぇよ」
次回予告
「買ったはいいけど保管する場所はあるのか?」