第8話 愛でる
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朝飯を食べ終わった俺は、一先ず自分の部屋がある2階へと向かった。流石にみんなの元で
「神様に会いました。その神様からスライムを貰いました」
って言っても誰も信じないだろうし、むしろ俺以外の犠牲者を出してはいけない気がしたからだ。
優子辺りだったら何とかなりそうだが、爺ちゃんとかに知られたら、びっくらこいてポックリ死んでしまいそうだ。
「にゃーん」
「にゃにゃにゃ」
ドアを開けるとミケと黒白がお出迎えしていた。どうやら日当たりが良い俺の部屋で日向ぼっこを楽しんでいた様だ。
「足元で戯れるな」
俺の足元に近づいて顔を擦り寄せてくる2匹を踏まない様に移動して、ポスンとベットに座りそのまま仰向けに寝転がる。
俺の部屋には収納式ベットと簡易テーブル。あとは少年誌と青年誌の漫画で埋まっている本棚と、小さいテレビが1つ。
それ以外はあまり物が無い、至って普通のシンプルな部屋だ。
ベットに寝転がっていると、先程戯れ付いていたミケと黒白もベットへと飛び乗り、俺の両サイドから腹をふみふみしだす。
「むー」
「すー」
しばらく2匹の好きな様にされていたら、ポケットからムーとスーが這い出て、よじよじと俺の体を登り始めた。
「っ!? ……?」
「? にゃっ!? ……」
その光景に驚いたミケと黒白は、一瞬で俺から離れて距離を取り、ジッとスーとムーを観察した。
その後に、そろーりそろーりと忍び足で近寄って来ては匂いを嗅いだり、猫パンチ? をちょん、ちょんとスーとムーに当てる。
猫パンチを当てらているスーとムーは、我関せずで必死に登ったままだ。
「お前ら、何やってんだ?」
「こっこれは、一体何なんだ!」って感じで戦々恐々としながらスーとムーを観察していたミケと黒白だが、自分達の脅威にならないと分かった瞬間に興味が無くなった様で、ベットの陽に当たっているところで丸くなり日向ぼっこし始めた。
「うぅ〜ん。良い揉み心地だなぁ……。俺的にはもっとデカくても良い」
俺はようやく頂上に到着したスーを掴むとむにゅむにゅと揉み、独特の張りと弾力を持っているスーを堪能し終わった後に、今度はムーも揉もうと思って掴もうとしたら、ムーの形が変わっていた。
「むぅ?」
「おっおまっ!」
腹の上に乗っていたムーが、質量はスライムの時と同じたが、透明な猫の形になっていたのだ。
「これは……黒白か?」
我が家の黒白は尻尾が無い。正確には尻尾はあるのだがかなり短く、兎の尻尾ほどしか無いのだ。
そんな、色は無色透明でパッチリお目々と『8-10』のロゴが額に出ている以外は、同じ見た目となったムーを見て、俺はアイオーンの言葉を思い出した。
「確か……学習能力や感情を付けるって言っていたよな? これはその一種って事か?」
「ムー?」
ムーに向かって呟いてみるが、今は猫の形になっているので傾げることが出来る首を、こてんと傾げるだけだった。
ただ猫型のムーもそれはそれで可愛かったから、腹に居たムーを胸元を叩いてそこに来させると、ミケと黒白にする様に耳の先から尻尾の先までを堪能させて貰った。
さすがにスライム状態だったスーの時の様に、原型を留めない様な揉み方は猫の形になったムーに、したくなかったからだ。
「スゥー!」
スーを手放してムーの全身を可愛がっていたら、ベットに放置していたスーがやきもち? をやいたようで、俺の顔を触手を伸ばしてペチペチと叩き、スーも何かに変形しようとした。
「おおっ! スーも何かに変形するのかって……ちょっと待てこら! それは今月の俺のお宝の表紙の娘じゃないか!
ってアレか! アレ見たのか!」
コンビニで売られている漫画雑誌。その中のエロ系の漫画の表紙の娘の形になりつつあるスーに焦りつつ、枕の横に放置されていたエロ雑誌をスーが見つけてしまい、それで変身したのだと理解した。
「スー! それもそれでアレなんだが、出来ればムーの様な猫にしてくれ」
スーは下着姿であられもないポーズをしている女の子の形にはなったが、いかんせん手乗りサイズな上に全体が透明なせいで、これに欲情するかと言えばしない。むしろ、芸術作品を見た感じになってしまった。
透明なガラスやプラスチックでできた置物と言えばいいのか。まぁアレらよりもカット加工されていないぶん、宝石の様な輝きは無いが、ツルンとしたフォルムは純粋に綺麗だと思う。
「いくら可愛くても額に8-10が付いてたら萌えも半減な上に、全体が透明だから着衣ゆえのエロさが皆無なんだよなぁ。
ほら、スーはミケと同じ形になってちょっと待ってろ」
スーにはミケの形に変更してもらい、ムーを胸元から退かして立ち上がり、部屋の一角に置いてあるおやつ置き場から1つを取り出し、机の上に置き位置を確かめ見極めてから袋の状態のまま叩き割る。
そのまま3回同じ事を繰り返して袋を開けると、見事3分割された美味棒があった。
「ほら、スーとムーおいで」
ベットの端により、俺のやっている事を興味深そうに見ていたスーとムーを、掌に乗せてテーブルの上まで移動させる。
スーはその間に、ちゃんとミケと同じ形になっていた。
「これがコンポタで、こっちは明太。その白いのが甘いやつな。ちょうど3分割だから、最後の1本は俺が食うか。
ほれ、あーん」
スーとムーに、それぞれコンポタ味の美味棒(3分の1ずつ)を与えると、2匹とも「うまうま」と美味しそうに食べ進める。
この場合の食べるとは溶かすという事なので、猫の形で口を開けている2匹の中に、美味棒を入れていると言った方が正しいかもしれない。
そしてあっという間に美味棒が無くなると、美味棒を持っていた俺の指をパクッと咥えて、指に付いていたカスも綺麗に溶かすと、次の美味棒を催促する。
「スーは甘いので、ムーは明太か」
スーとムーが次に食べたい物を取って、再び口の部分に押し込んだ美味棒は、スルスルと入って行きあっという間になくなる。
「元がスライムだから、よく噛んで食べなさいって言えないんだよな。
にしても、アイオーンからこいつらの飯の事聞くの忘れていたな……。まぁ、次に会った時でもいいか」
アイオーンに、スーとムーの餌についての事を聞き逃していたのを思い出したが、どうせ今日の夜勤の時にまた来るだろうと思い、その時に聞けばいいかと思い直して残りの美味棒を与え、余った分は俺が食べている最中に残ったゴミを2匹が食べてしまっていた。
「スライム便利だなー」
2匹が何でも食べるので、面白がっておやつ置き場にあったお菓子や菓子パンを手当たり次第に与えていたら、ものの数分で空っぽになってしまった。
もちろんゴミもゼロだ。
「これは……。面白がって与えすぎるのはダメだな。今日は駄菓子がメインだったが良いが、他のだったら散財してしまうぞ。
……いや、もしかしたら俺ってとんでもない物を貰ってしまったのか?」
何でも食べてしまい、まだ食べられそうな2匹を見て、ゴミや不用品までも食べられる物凄く便利な機能の反面、これって殺人とかで使えば完全犯罪が出来ちゃうんじゃね? と想像してしまった俺。
「うぅ、変な事考えちまった。スー、ムー。いいか2人とも。絶対に俺が許可した物以外は食うなよ。たとえ道端に落ちている死体とか見つけても、絶対に食うなよ!」
「スーー!」
「ムーー!」
「よく分からないが分かった!」みたいな反応だったら嫌だなと思いつつ、さっき思い浮かんでしまった事を揉消すために、むにゅむにゅ触感の2匹の感触をただ楽しむ事にした。
次回更新までお待ちください。
次回予告
「譲渡されたスライム」