98話
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「マジックシールド!」
ストーンバレットが勇者達を貫かんとしたその時、勇者達の前に大盾をもった男が現れ、魔法による障壁を展開した。
「……ほう」
ザビエラは自らの放った魔法を防がれたことに目を見開く。
「マジックシールド……その盾の効果か。なかなかに良い武具を持つ者がおるようだ。簡単にはお目にかかれぬ性能であるなぁ」
勇者達の前に飛び出したのはリュトスだ。
ザビエラの放ったストーンバレットは、彼の持つ大盾に魔力を流すことで展開させることのできるマジックシールドによって全て防がれた。盾を中心に後方を守るように広く展開された魔法障壁は、ストーンバレットの脅威から勇者一行を逃すことに成功する。
「スカルドラゴンは我らが引き受けた。残りの魔物を引き受けてはもらえないか?」
リュトスは盾を構えたまま、前を見据え、後ろにいる勇者達に問いかける。
その横にはいつのまにか現れたヤークとカラナも立っている。
「……あ、あぁ。わかった」
リュトスの問いに答えた芳樹。その返答にリュトスはひとつ頷き、3人揃ってスカルドラゴンへと駆け出した。
「おいおいおい、我の相手はせぬのか!」
それを見たザビエラが、叫びながら再び魔法を放とうとしたその時、ザビエラの背後から白銀の鎧を身に纏うシズカが斬りかかる。
「……ぬっ!」
「あっ。やっぱ避けられちゃうか」
それをギリギリでかわすザビエラと避けられ言葉を漏らすシズカ。
「お主が我の相手か。女子1人とは我も舐められたもんよ」
「女子1人って舐めてるのはそっちでしょ」
そう言いつつも、鋭い剣技を繰り出すがザビエラは紙一重で避け続ける。
「……なかなかの実力を持つようであるな」
今度はザビエラが自らの爪を鋭く伸ばし、斬撃を繰り返す。
魔法も織り交ぜた互いの多彩な攻撃と防御。一歩も引かぬ攻防は熾烈を極める。しかし、どちらも致命傷も隙も与えぬ膠着状態が続いた。
一方その頃、勇者達はキマイラにガーゴイル、そしてアークデーモンなど、高ランクの魔物を相手に奮闘していた。そのほとんどは先ほどのシズカの攻撃により命を落としていたので、数は多くない。傷負っただけの魔物は容易く屠れるし、生きている他の魔物達もキマイラやアークデーモンに比べればそれほど脅威ではなかった。しかし、スカルドラゴンの咆哮を聞き、血の匂いを嗅ぎつけた魔物達が集まり始め、勇者達の戦いも過酷なものへと姿を変え始める。
そして魔王であるスカルドラゴンを相手にしているリュトスたち3人は……戸惑っていた。
「も、もうやめて! これ以上傷つけないで!」
スカルドラゴンを追い詰め、その命の灯火も燃え尽きようかというところで、スカルドラゴンの後ろにいたアメリが泣きながら前に飛び出してきた。
両手を広げ傷ついた者をを守るように立つサタンの女を前にどうしたらいいのかと頭を悩ませる3人。
「ドラちゃんもう戦わなくていいの……こんなこと頼んでごめんね……」
「「「……ド、ドラちゃん!?」」」
3人の息の合った戸惑いが言葉となって口から漏れる。
満身創痍で、ほっておいたところで1時間もしないうちに命を落とすだろうスカルドラゴン。魔王たる存在感に威圧感。巨大な体躯に、強烈な攻撃。そんなスカルドラゴンとの戦闘に悪戦苦闘しつつも、やっとのことで追い詰めた3人。しかし、アメリの放ったドラちゃんという呼びかけ1つが、スカルドラゴンを愛嬌のある可愛い魔物へと感じさせ、攻撃する気を失わさせるほどのものであった。
「ど、どうしよう?」
カラナが2人に問う。
「……ものすごくやりづらくなった」
ヤークの言葉に頷く2人。
「だが、あのサタンがなにをするかわからん。せっかく追い詰めたスカルドラゴンを回復させられても困る」
リュトスの言う通り、アメリがスカルドラゴンを回復する可能性もなにかしら仕掛けてくる可能性もなくはない。しかし、今の今まで戦いを見ているだけでとくに手出しをしてこなかったことを考えるとその可能性も低いのではと、思えてくる。
「お、おい! そこをどけ。でなければお前ごとスカルドラゴンにとどめを刺すことになるぞ!」
リュトスは攻撃しづらくなった気持ちを抑えつつ、少し強気で、そして脅すように声をかけた。
「……やるならやりなさいよ! ドラちゃんはこのままでも死ぬわ! いっそのこと私も一緒に殺して……死ぬときもドラちゃんと一緒にいさせて!」
その必死な訴えに、脅すような声をかけたはずのリュトスの足が一歩下がり、なぜか自分が脅されているような、悪いことをしているような、そんな気になってしまう。
「……最後くらい静かにあの世に送らせてよ……こんな姿にしてしまって……私はドラちゃんを苦しめてばかりなのに……」
スカルドラゴンの顔を撫でながら独り言のように呟くアメリの姿を見て、もうなにもできないと悟る3人。こればかりは手を出してはいけない気がする……と、攻撃することを諦めた。
「……ま、まぁ、なんかする様子もないし、大丈夫じゃないかな……? ないかな?」
ぐりんっと後ろを振り返り、カラナと、ヤークに同意を求めるリュトスの顔は必死である。
「そ、そうね。とりあえず監視だけ続けましょう」
カラナの一言で、3人はスカルドラゴンが息を引き取るまで、その様子を見守ることにしたのだった。
そんな3人が見守る中、スカルドラゴンはついに息を引き取った。そしてその傍らには、未だにスカルドラゴンの亡骸に縋り付き、とめどなく涙を流し続けるアメリの姿。この子が泣き止むまで待ってあげようと心の中で3人は頷きあうのだった。
「……シズカ様の方はどうだ?」
「……まだ戦ってるみたいね」
リュトスの問いに答えたのは、未だに聞こえてくる激しい戦闘音から戦いは終わっていないと推測したカラナである。
「シズカ様が苦戦するとは……。少し様子を見てくる」
泣き続けるサタンを見守るだけになってしまい、暇を持て余していたリュトスは、ここをカラナとヤークに任せ、ザビエラとの戦闘を続けるシズカの様子を見に行くのであった。
リュトスは足早に激しい戦闘音の元へと向かう。
そこでは目にも留まらぬ剣技、そして魔法の応酬が繰り広げられていた。
「ハッ!!」
「くっ……!」
シズカが水平に繰り出した剣は炎を纏い、リーチを伸ばした灼熱の炎の刀身がザビエラの腹を掠める。
致命傷となる傷を負ってはいないものの、ザビエラは体のいたるところから血を流していた。
(くそっ。どうなってるんだ……我がここまで受身に回るとは……)
そして、追い詰められつつある現状に、内心焦りを感じ、悪態をついていた。
そんなザビエラと同じく、シズカも焦りを感じていた。
(……攻撃が当たらない。すべてギリギリで避けられてしまう。このままじゃ倒しきれない……)
「シズカ様! 援護します!!」
そんな時現れたリュトス。声をかけながらこちらへ駆け寄る姿が見えた。
「ダメよ! 手を出さないで!」
リュトスの援護はありがたいと思いつつも、今のリュトスの実力ではザビエラに狙いをつけられてしまえばひとたまりもないと判断したシズカはリュトスの援護を止める。リュトスが怪我をする確率、そしてその時に自分が冷静でいられなくなる可能性を考慮した、戦闘中とは思えない冷静な決断であった。
リュトスもシズカとザビエラの戦いを見て、自分の参戦が足手まといになることを理解し、シズカの言葉を素直に受け入れ、その場で止まる。
「ラスタちゃん、リュトスをタローくんのところへ連れて行って」
タローから預かり、懐に潜んでいたラスタ(分裂体)へ声をかけると、ラスタは素早くその身をリュトスの元へと向かわせる。
「リュトス! ラスタちゃんと一緒にタローくんのところへ行って! 誰でもいいから助けを呼んで来て!」
「……え? 助け……? しかし……」
突然の事に戸惑うリュトス。
「誰でもいいと言われてもシズカさんより強い人なんて……それにどうやって……」
タローからスライムを預かっていたことは知っていたものの、なぜそのスライムを預かるのか、そしてタローの元へと駆けつけたところで一体誰に助けを乞えばいいというのか。シズカより強い者などいないのにどうしてあの商人の元へと助けを求めに行かなければならないのか。なにより、今から助けを求めに向かったところでどれだけの時間がかかるか。
戸惑うリュトスはさらに疑問を深めていくばかりであった。
「早く!」
しかし、シズカはそんなリュトスの戸惑いを無視するように急かす。
それと同じようにリュトスの元へとたどり着いたラスタが木の陰に隠れるように移動する。
そして、ラスタがおもむろに魔法を展開したかと思えばそこに人が通れる程度の暗い空間が出現した。
「……これはいったい」
リュトスがその空間を怪訝そうに見ていると後ろからなにかに突き飛ばされ、暗い空間へと入り込んでしまう。
「うわっ!!」
もちろん後ろから突き飛ばしたのは飛び跳ね、体当たりをしたラスタ(分裂体)である。
そして転がるようにして出た先で目を開けると、目の前に建つのは見たことのある屋敷であった。
「……ここは王都の……。なぜ……。あっ!!」
こんなことしている場合ではない。混乱は後回しにして、今はシズカ様に頼まれたことを優先して遂行せねば、と、立ち上がり、屋敷へと向かっていくのであった。
▽▽▽▽▽
その頃タローは屋敷のキッチンでおやつを食べていた。
「ん、うまい。さすがだ」
「ありがとうございます!」
タローの食べていたのはパンケーキ。ホットケーキとパンケーキって何が違うんだ? と思っているタローではあるが、今食べているのはきっとパンケーキであろうと判断していた。
以前作ったホットケーキから改良が重ねられ、美味しさを追求していたリーシャたち。そしてその技術とアイディアを惜しげもなく教わるタッカム。
今、目の前にあるのはそのタッカムが作ったものである。
少し厚みのあるふわふわな生地が表面はほんの少しこんがりと焼かれ、そこへカットされたフルーツとそのフルーツを使ったソース、そして生クリームが添えられていた。
これはまさしくパンケーキであるとタローは勝手に決めつけていた。
「よくできているよ。これならきっと客も喜ぶ」
タッカムは開店が間近に迫った「森の喫茶店(仮)」でのスイーツメニューを試食させてくれていたのである。
「よ、よかった〜。なるべくお茶に合うような物がいいかと思いまして、色々考えてみてはいるんですが、自分だけの評価だと本当に美味しいかどうかわからなくて」
「なるほど、よく考えてるんだね」
タッカムの努力に脱帽である。
「逆に自分のスイーツに合うお茶を探してみるってのもありだと思うよ? マーヤがすごいたくさんの種類のお茶作ってるから」
もはや俺の知らないお茶もたくさんあるだろう。飲んで気に入った物を少しストックするようだが、それは多くのマーヤの好みではなかったお茶も存在するということである。それこそ、俺に出されるのはマーヤが気に入った物の中でも特に彼女の好みのものであり、それだけでも多種のお茶がこの家にはあるのだ。
「それに最後に好きな物を決めるのは店に訪れる客であって、その人が好きなものを飲んで好きな物を食べる。それが一番いいと思う。だからタッカムは自分が美味しいと思うもの、みんなが美味しいと思ってくれるだろう物を一生懸命作ることが大切」
この組み合わせがベストだ! とオススメするのはいいけど、それを押し付けがましくするのはあまり良いとは思わない。客が食べたいもの飲みたいものを選んで楽しむことが一番いいことだと思う。
「なんにしてもよくできてるし、すごく美味しいと思うよ。とくに女子には気に入ってもらえるはずだ。な、メイ」
「うん! すごく美味しいよ!」
「あ、ありがとうメイちゃん」
タッカムは少し顔を赤め、恥ずかしそうにお礼を述べる。
メイはといえば、幸せそうな満面の笑顔で美味しそうにパンケーキを頬張っている。
ちなみにメイは本日、休息日である。
暇そうにしていたので、タッカムの試食会に誘ったのだ。
「このお茶との相性は最高ですね」
真剣な顔で出されたお茶とスイーツの相性の良さを楽しむのは大人顔負けのオルマ。2つが混ざり合って醸し出す余韻が口の中に広がってなんたらかんたらで最高ですとかなんとか評論家のような言葉を口にしていた。
「オルマくんの口にも合うのなら大人の男の人でも楽しんでもらえるかな?」
と、タッカムまで言う始末である。
オルマは仕事の休憩中にキッチンを通りかかったので誘ってみたのであった。
「そういえば、なんでメイは今日もメイド服着てるんだ?」
「……間違えちゃった」
テヘヘと恥ずかしそうに笑うメイは、今日が自分の休息日だということをすっかり忘れてメイド服に着替え、仕事を始めようとした時にマーヤに言われて休日ということに気づいたようだ。そして着替えるのもめんどくさかったので、そのまま一日過ごすという判断に至ったらしい。
まぁ、嫌でないのならそれでいいだろう。
「だ、だれか! 誰かいないか!!」
そんなたわいもない話をしていたら、なにやら玄関の方から緊迫した声が聞こえてくるのであった。
お読みいただきありがとうございました。
次回更新は未定ですが、来年になってしまう予定です。すみません。
今年はたくさんの方に読んで頂いて感謝でいっぱいです。
まだまだ文章も未熟で、ストーリーも面白くないと思う方もたくさんいるでしょうが、読んでいただいている方々に少しでも楽しんで頂けるようにこれからもがんばりますので、よろしくお願いします。
今年はありがとうございました。
来年もよろしくお願いします。
あ、今年中に更新できたらもう1話更新します。