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96話



いつも読んでいただきありがとうございます。











「おかみさーん!」


「あら、タロー。いらっしゃい。今日はどうしたんだい?」


 おかみさんとは誰か? それはロドル村唯一の宿屋「コロネの宿」店主のアドリさんだ。


 この村に住むようになってなんだかんだとスミスカンパニーのみんなに対してよくしてもらって世話してもらっている優しいおばちゃんである。


「お菓子のおすそ分け持ってきた。最近誰か泊まりに来た?」


「おや、ありがとう。あんたんとこのお菓子はいつも美味しいからありがたいよ。それにこの前もらったお茶もいいねぇ。気持ちもなんだか落ち着くよ」


 おかみさんのところには、こうしてたまにお茶とお菓子のおすそ分けに来ている。


リーシャやマーヤなどはよくお茶会と称してお菓子をつまみながら駄弁りにくるらしい。というか、リーシャについでに持って行ってくれと言われたから来たのだが。


「それで、客だったかい? 最近はめっきり減ったかねぇ。タローのおかげで村に近づく魔物も減ったから、村長もペギーさんもベントレの冒険者ギルドへの依頼を減らしているみたいだしね」


 おっと、なんかそれは申し訳ない気がしないでもない。


村に近づく魔物が減ったとはいえ、大森林には様々な魔物が数多く存在している。


それに薬や錬金術に使用するような薬草や素材となる植物も豊富なので、ベントレから多くの冒険者が大森林へと訪れている。

ただ、魅力の少ないこの村を拠点としないだけなのだ。


 家のお披露目会の後、早速魔物避けと結界を村を囲うように設置したため、村の中は比較的安全になった。まぁ、警戒は今まで通りするらしいが。


「だけどね、ペギーさんなんかはロドル村所属の冒険者の教育に力を入れてるみたいだし、村長も村に人を集めるために色々と考えているらしいよ」


 あぁ、たしかにばっちゃんにトーマを貸し出せって言われたことがあったっけ。今もたまにロドル村冒険者ギルドからの依頼ということで、トーマとフリックはランクの低い冒険者の見守り役として依頼について行ってる。


魔物避けと結界のおかげで村に魔物が近寄りにくいなったことが数日で証明されたあと、ばっちゃんはギルドに留まってばかりいるのではなく、自らベントレに出向いたり、村を歩いている姿を見かけるようになった。今まではいつ村に魔物が侵入してくるかわからなかったので、いつでも駆けつけられるようにほぼ冒険者ギルドに待機していたらしい。


そしてたびたび侵入してくるゴブリンやフォレストウルフなどの対応をしていた。大森林も浅いところでランクの低い魔物が生息しているので、村に侵入してくるのもそういったランクの低い魔物がほとんどだったが、村人からすればそんなランクの低い魔物でも大いに脅威な事は事実であり、そんな脅威に怪我なく安定して対応でき、なおかつロドル村に定住していたのはペギーだけだった。


それにしてもばっちゃんも村長も色々考えてるんだなあ。


 先ほども述べたように、大森林における冒険者としての仕事も決して少ないわけではない。活動拠点をベントレにしている冒険者が多いだけで、このロドル村周辺は大森林やセレブロの裾野の森が隣接するため魔物も多く、魔物の討伐や採取依頼に訪れる冒険者はかなりの数いる。だが、護衛依頼や貴族からの指名依頼、その他雑用系のような依頼などのことも考えれば、ベントレの方が格段に仕事は多く、さらに仕事に必要な備品や、武具防具、生活に必要な雑貨、食事の豊富さ、店の多さを見れば、ベントレに拠点を置くのも道理というものだ。


もともと、その日のうちにベントレまで行けないような人が寄ったりする程度の村だったわけだが、大森林もセレブロから広がる森もすぐ近くにあることを考えれば、ベントレもほど近いので、特産品や魅力的な何かがあれば冒険者を中心に多くの人が寄り付く村となることだろう。


「だからこれからはきっと忙しくなるからね。暇なのは今だけさ」


「あはは、それならよかったです。またなんか手伝えることがあったら言ってください」


 忙しくなるならさすがにおかみさんだけでは手が足りなくなる。人も雇うことになるだろうな。


あ、村の魔道具屋にあのリング置いてもらうのは人寄せのひとつとしてありかもしれない。


あのリングとは、最近ミーシャと一緒に作った飲み水が出るリングと火種が出るリングだ。

生活魔法が使えれば必要ないものだが、攻撃魔法としての水魔法や火魔法が使えても生活魔法が使えない人は意外と多いらしい。水魔法や火魔法でも、しっかりと魔力の制御ができれば飲み水や火種として使えるが、うまくできなければ威力過多になりやすい。そして生活魔法といえども、魔力を消費する。つまり魔力量が少ない人からすれば少しでも魔力は抑えておきたい。でも水を持って移動するのは大変……そういう人のために、極少の魔力で水を出せるリング、火を出せるリングを作ったわけだ。

これは少しでも魔力があれば使えるので、普通の家庭でも使ってもらえると思う。


このリングが完成したとき「これは売れるぞ」……と、ミーシャとニヤニヤしたものだ。


リングと言ったが、一応指輪型と腕輪型とある。どちらも魔力効率と威力は変わらない。

今のところ、トーマやフリックがついて行っている駆け出し冒険者たちに試しに使ってもらっているところだ。


村長も色々考えているなら俺も色々とやりやすい。この村も賑やかになっていくかもしれないな。


そんなたわいもない話をして、おかみさんの宿を出る。次の目的地は冒険者ギルドだ。


「カレンさんこんにちは」


「あ、タローくん。久しぶりね」


ん、たしかに久しぶりに顔を出したかもしれない。


「あれ? 新しい職員ですか?」


 カウンターには見知らぬ顔の女性が座っていた。


「はい、そうなんです。なんかマスターが気合い入れちゃってベントレで新しい子雇ったみたい」


 気合い入れるの早いだろばっちゃん。

まぁ、早めに仕事に慣れてもらった方がいいのは確かだが。

ところでなんでばっちゃんも村長もそんなに気合い入れて村を盛り上げようとしているのだろうか?なにか盛り上げるキッカケになるようなことがあっただろうか?


「よ、よろしくお願いします」


 緊張の面持ちの新人ちゃん。


これでロドル村の冒険者ギルドにはばっちゃんとカレンさん、そして俺はほとんど顔合わせたことないがもう1人の受付嬢と新人の受付嬢、査定担当の青年と爺さん7人くらいの職員がいることになるのか。まぁ、まだ会ったことのない人もいるかもしれないが。


「あ、こちらこそよろしくお願いします。僕はタロー、Eランク冒険者です」


「「え?」」


「え?」


「あ、あれ? タローくんって冒険者ギルドに登録してたの?」


 あれ? 知らなかったのか? 言ってなかったっけ? たしか1番最初に言った気がするが……あぁ、でもまだ自己紹介も済んでないような頃だったし仕方ないか。


「してましたよ。ほとんど登録してるだけみたいなもんですけどね。とりあえずこれ、ポーション持ってきましたんで置いといてください。金は使用分だけもらうことになってますので」


「ポーションの件はマスターに聞いてます。ありがとう」


 ポーションと各種薬品をマジックバックに入れたまま渡す。


「今日ばっちゃんは?」


「うーん、多分村のどっかにいると思うんだけど、さっき少し出るって行ったっきりまだ戻ってきてないの」


 どこをブラブラしてんだか。


 冒険者ギルドを出て再び用を済ますために村を歩く。


 あ、そういえば新人ちゃんの名前聞くの忘れたなぁ。まぁ、また会ったときにでも聞けばいいか。それに誰かとの会話の間に名前が判明するかもしれないし。


そんなことを考えながら、次なる目的地である村の鍛治屋へ向かう。


「こんちは」


「おう! らっしゃい! ってタローか」


「タローかってそんな態度変えなくてもいいじゃんか、おやっさん」


「わりぃ、わりぃ。そんで、なにしに来たんだ?」


「そうそう、頼まれてた素材持ってきたんだった」


 俺はマジックバックから鉄や銀などの金属、魔物の皮や骨などの素材を並べていく。


「こりゃまた、いいもん持ってきてくれたなあ。こんなにいい素材買い取れねぇぞ? ……ってこれミスリルか?」


「そうそう、ミスリル」


「馬鹿野郎! こんなの使えるわけねぇだろ! あ、いや、違う! 使ってみてぇのは山々だが、こんな村でミスリルの武器や防具なんて買うやついねぇぞ」


 職人として使ってみたいという好奇心は抑えられてはいないようだ。なんせ、ミスリル触りまくってるからな。もう絶対離しはしないぞ、あれ。


「ミスリルも含めて、色んな素材の加工の仕方とか色々なこと、ミーシャから教えてもらってるんでしょ?」


 実はこのおやっさんはドワーフなのだが、ミーシャの作る武具に惚れ込み、弟子入りした。ミーシャは嫌がって未だに弟子とは認めてはいないので「自称弟子」ではあるのだが。


ミーシャもそんな暑苦しいおやっさんに辟易しながらも、鍛治のこととなれば話が別らしく、技術を教えることはしている。それに教えている時のミーシャは楽しそうであった。もう弟子と認めればいいのに。


ミーシャ曰く、もともとおやっさんはなんでこんな村にいるの? と思うほどなかなか腕のいい鍛治職人らしい。

そのおやっさんと仕事について話すのはミーシャにとっても有意義な時間なのだろう。


「だがなぁ〜、流石にこれだけの材料を買う余裕はないぞ」


 ミスリルもたくさん出したわけではないし、魔物の素材もダンジョンの深層に行けば手に入るような物、貴重ではあるが流通していないほどの素材ではない。セレブロでしか手に入らないような物も出していない。それでもこのレベルの素材となるとかなりいい値段で取引されているはずだ。


「まぁ、この村の駆け出し冒険者でも買えるような物を作れる素材もたくさんありますし、高ランクの魔物の素材はその素材を使った武具が売れた時に素材代をもらうということでどうですか?」


「……い、いいのか?」


「せっかくですから、ここにある分はそう言うことにしましょう。それが売れたらまたその利益から素材買い取ったり注文してくれたらいいですから」


 おやっさんも自分の作りたい物作りたいだろうしな。目前にこれだけの物を並べられて手が出せないと言うのもなかなか可哀想なもんだ。それに、せっかくミーシャに色々教わったのだから、実践してみなければ腕が磨かれないだろう。


ま、素材採取依頼の客作りとしても悪くないと思う。

ここに出したような素材は家の倉庫に溜まりに溜まっているような物ばかりだから売れるだけありがたいのだ。


 よし、これでミーシャに頼まれた用も済んだな。


目を輝かせ、嬉々として素材を作業場へ運び込むおやっさんとおやっさんの弟子達を後ろ目で見ながら鍛治屋を出て、魔道具屋へ向かう。


「……いらっしゃい」


「おじいさん、魔石持ってきたよ」


「おぉ、悪いねぇ。ここ置いてくれるか」


 村の魔道具屋はおじいさんが趣味でやってる店だ。

便利な物を探しに歩いて、良いものを見つければ買い付け、ここで売る。そんなお店だ。


だがロドル村ではいかんせん需要が少なく、完全におじいさんの趣味のお店になっている。


「最近なんか売れた?」


「てんで駄目だなぁ〜。この前見つけたこれなんか売れると思ったんだが……」


 お爺さんが手元で弄るのは魔力で動く冷水機のようなものだ。箱型の機械の中に水を汲み入れて、魔力を流しながら蛇口のようになっている部分からコップなどへ水を注げば少し冷えた水が出て来るという仕組みだである。


アイディアはいいな。うん。


「ちょっ……これめっちゃ魔力持ってかれるんだけど」


 使えるやついるの?


「そうなんだよなぁ。儂が使ってもコップ一杯も冷えた水が出てこないんだなあ」


 ダメじゃん……。


おじいさんの魔力は多くないとは言っていたが、それでもコップ一杯も飲めないのはダメだろ。


「それで、この前タローに言われただろ? 魔力で動く道具は魔石で代用できるようにしたらどうかって」


 あぁ、確かに言ったな。


それなら魔力少ない人でも魔石で代用できるし、かなり便利になるはずだと。


「だがなぁ、よく考えてみたらこれ程の魔力を使う道具の魔力を魔石で補うとなるとそれなりに高ランクの……最低でもAランクの下位レベルの魔石がいると思うわけだ。しかも頻繁に魔石の交換をしなけりゃならん」


 このおじいさん、魔道具買い集めるのも好きなのだが、魔道具を弄るのも好きらしく、使いやすく改造したり、一から魔道具を作成したりするらしい。


「なかなか効果に見合わないコストがかかる」


「その魔力効率を高めたらいいんじゃないの?」


「ここにある素材じゃ今の性能が限界じゃなあ」


 あぁ、そういうことか。


おじいさんが弄り回して限界っていうなら素材がないとこれ以上の性能は見込めないか。


でも、この冷水機みたいなのってかなり用途あると思うんだよなあ。グッドアイデア賞あげたいくらい。


だって、食堂や家で水を入れて置いておけば冷たい水がいつでも飲める。数を揃えられるなら果実水やエールだって冷えた物が提供できる。


「なんの素材があればいいの?」


「上を見ればキリがないが、エレキテルキャットフィッシュの髭と骨があれば触媒やらなんやらでかなり効率上がるんだが……さすがに簡単には討伐できるような魔物でもないし、依頼すればかなり高額の報酬を請求されて割りに合わないんだよなあ」


 あぁ、あの普通に陸を歩いてるナマズか?あれだよな?


「……たぶんあるからちょっと待ってて」


 俺はさっと屋敷に戻って電気ナマズくんの素材を持っておじいさんの店に戻る。


「これじゃない?」


「……おぉ!! これじゃぁ!!」


 うおっ! ビビった。


いきなりめちゃでかい声出すなよ〜。


「よ、よかったらあげるよ」


「……ええのか? 本当にええのか? かなり高額で売れるはずだぞ?」


でも、家にまだあるしなぁ……。


「たしか、B……それもかなりAクラスに近い魔物だぞ?」


 ……そいつは初耳。


まぁいいだろ。この魔道具が村のいろんな店に設置されればかなり村も過ごしやすくなるわけだし、村に貢献したと思えば悪くない。


「それはあげます。それだけあればいくつか冷水機? 作れるんだよね?」


「おぉ、これがあればかなりの数を作れる。むしろ儂が一から作り直してもっといい物にしてみせる!」


 なんか気合いスイッチ入ったらしい。


「とりあえず売れないとおじいさん赤字になるから売れるようになってから作ったらいいと思うけどね……」


「大丈夫じゃ! 金ならある!」


 本当に大丈夫かよ。たしかにこれだけの魔道具を買う金があるんだからかなりの金持ちだとは思うが、この人何者なんだ。


「まずは試作じゃ。ひとまずはゴブリンレベルの魔石でも動くように作る」


「……まぁ、またなんか必要なものあったら教えてください。あ、あとこれ置いて欲しいんだけど」


 そう言って青色と赤色のリングを取り出す。


「……これは?」


「魔力を使って飲み水と火種を作り出すリングです」


「使ってみて良いか?」


「えぇ、どうぞ」


 じいさんはおもむろにリングに魔力を流し、水をコップへ注ぐ。


「ほう。これはいいな。魔力も使ったか使わんかわからん程度しか流さなかったがちゃんと水は出た。冒険者や商人にはかなり重宝されそうじゃ」


 火種の方も使用感を確かめて、かなり好感度である。


「よし、ここで販売しよう。あとは雑貨屋の婆さんのとこでも売れるはずじゃ」


 ん、確かに。おばあさんのとこも後で寄ろう。


リングを10個ずつ置き、早速冷水機を弄り始めたじいさんに挨拶をして俺は店を出た。


そのあとおばあさんの営む雑貨屋を経由し、リングを置いてもらうことを交渉して家路についた。










お読みいただき、ありがとうございます


次回更新は未定ですが、1週間くらいを目安に投稿します。

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