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94話




本日投稿3話目です。











マシバ王国には深淵のダンジョンと呼ばれるダンジョンが存在する。


フレンテ王国のラビオスに存在するダンジョンと同じでここもまた最下層の到達に至っていない。


そんな深淵のダンジョンで最近、攻略を進める大規模パーティーがいた。


それはフレンテ王国にて勇者召喚された4人の勇者を軸に魔王討伐に向けて組織された精鋭達であった。


マシバ王国内の森で出現すると言われている魔王に備え、マシバ王国入りした勇者一行は、訓練、そして連携の確認の確認のため深淵のダンジョンに潜っていた。


魔王討伐にはこのダンジョンにいる精鋭たちを中心に、多くの冒険者や各国の騎士達が参加する手筈となっている。


各国の騎士は国ごとに派遣された者達だが、冒険者はそうではない。参加したい者が自由に参加することになっている。


魔王討伐という危険な仕事に参加する冒険者は少ないと思われがちだが、実際は多くの者が参加する。

理由として、この仕事への参加報酬は一般依頼よりはるかに高報酬。そして国を跨いで行なわれる魔王討伐にて高ランクの魔物を討伐したとなればその冒険者や所属するパーティー、クランの知名度は一気に上がり、今後の冒険者活動、ランクアップへ大いに期待できる。


それに、高ランクの魔物を討伐しなくても、魔王や、その他高ランクの魔物は基本的には選ばれた精鋭達が対処するので、まだ冒険者ランクが低く、腕にそこまで自信がなくとも、低ランクの魔物だけを討伐し貢献すれば、それなりの報酬の上乗せがある。


つまり、冒険者たちにとって魔王討伐は稼ぎ時であり、知名度の上げ時である。

冒険者としての活躍を考える者からすれば参加しない理由がないのだ。


もちろん危険な依頼に変わりはなく、冒険者として致命的な怪我をするリスクも、命を落とすリスクもあるのが事実で、参加も強制ではない。あくまでも自由参加のうちで多くの者が集まるのが魔王討伐依頼だ。


「くそっ!!おい、しっかりしろ!!」


魔物の振り抜いた前足をまともに受けた鎧の男が吹き飛ばされ、それに近づき声をかける輝かしい鎧の男。


「一旦引くぞ!大樹、俺とお前でこいつを食い止める!その間に梨花と小百合はみんなを守りながら下がってくれ!」


吹き飛ばされた男に駆け寄った男より一層煌びやかな鎧を身に纏い、輝く長剣を振りかざしながら、魔物と対峙する男が周囲の仲間たちに声をかけた。


彼こそ勇者召喚された勇者達の中心的存在である鳳芳樹。


「誰か、この男を頼む」


吹き飛ばされた男にポーションを振り撒き、他の者へと預けて自らも前線へ駆け戻る。そして大盾を構えて魔物に再び対峙するのが宮田大樹。


「で、でもそれじゃあ2人が……!」


「ダメよ!2人を残してなんていけない!」


その2人の後ろで周囲を囲う魔物たちからの猛攻をギリギリで防ぎながら叫ぶのが橘小百合と天海梨花であった。


彼らがいるのは深淵のダンジョン82階層。最高到達階層を5階層も更新した階層であった。


しかし、現状はデビルウルフと呼ばれる魔物の大群に苦戦を強いられ、多くの者が戦線を離脱、戦闘不能に陥り、頼みである勇者の4人の攻撃も、デビルウルフの大群をまとめる一際体の大きなデビルウルフに決定的なダメージを与えられずにいた。


他のデビルウルフより2回りほども体の大きなデビルウルフはクイーンデビルウルフである。

デビルウルフより上位の魔物で単独でSに近いランクに位置するほどの魔物であった。


デビルウルフという魔物は、その黒い毛皮が耐刃、耐魔法に優れて攻撃が通じにくく、素早い身のこなしが有名なB級の魔物であるが、その上位となれば、その魔物の性能自体も大幅に上がり、さらなる耐性と素早さが加わる。


B級クラスの魔物の大群というだけで脅威であるのにS級に近い魔物が指揮をとっていることで、さすがの精鋭たちも絶望を感じずにはいられなかった。


ただ、勇者も一緒にいるということだけが彼らのモチベーションを保つ要因であったが、その勇者も苦戦しているのが今の現状である。


「このままじゃ全滅だ!みんなが引いたのを確認して俺らもすぐ引く!」


「で、でも……」


大樹が芳樹に続いて訴えかけるが、それでも納得できない梨花。


そんな彼女の心配そうな目線の先にはクイーンデビルウルフに斬りかかる芳樹の姿があった。


「ちっ!なんでこんなに硬いんだよっ!!」


芳樹が悪態をつきながらも繰り出すロングソードもほぼ空振りに終わり、当たったものもその強靭な毛皮に防がれる。


「ぐっ……!」


芳樹の右側から迫るクイーンデビルウルフの尾を大樹が大楯で防ぐものの、あまりにも強烈な衝撃に耐えきれず、芳樹と共に後方に吹き飛ばされる。


「芳樹!!!」


吹き飛ばされた2人に梨花が駆け寄る。


「梨花危ない!」


その梨花に迫っていたデビルウルフを小百合がファイヤアローで攻撃するが、デビルウルフを完全に止めるには至らず、梨花の肩をデビルウルフの牙が掠める。


「……ッ!」


一瞬痛みに顔を顰めるが、すぐに自分自身を治癒魔法で治療する。


そして、吹き飛ばされた2人に駆け寄り、彼らに声をかける。


「芳樹!大樹!」


「……くっ。なんて馬鹿力なんだ」


痛みに耐えている状態ではあったが、2人とも意識は保っていた。


「よかった。待ってて今ヒールかけるから」


そして2人に治癒魔法をかける。


「ハイヒール!」


しかし、その治癒魔法の威力が目に見えて減衰していた。


「……も、もう魔力が」


しかし、自分の持っていた魔力ポーションは全て使ってしまい、残りはない。


「みんな大丈夫!?」


そこへ小百合も駆け寄ってくる。


「小百合、魔力ポーションちょうだい!」


「……ごめん、さっき使ったので最後だった」


駆け寄ってきた小百合に魔力ポーションを強請るが、小百合も持ってきていた全てを使い終わっていた。


梨花は治癒魔法や結界魔法、そして少しの攻撃魔法。小百合は攻撃魔法をメインに使う戦闘スタイルだったため、魔力ポーションは多めに持っていたのだが、しばらくダンジョン攻略を続けていたこと、そして強敵ばかりの出現にポーションの使用量が増え、ついには底を尽きたのであった。


「ど、どうしよう……」


この現状はやばい。本当に全滅の危機が……と頭をよぎった時、ふと違和感を感じたのは小百合だった。


「……あれ?」


デビルウルフからの猛攻が収まった……?と、周囲を見渡してみると、彼らを囲んでいたデビルウルフがクイーンデビルウルフの元へと駆け寄っていた。


「「「ワオーーーン」」」


そして、突如始まった遠吠え。

すべてのデビルウルフが同時に行なったその遠吠えがおさまったと思えば、今度は地響きのような振動が近づいてくるのがわかる。


「……あ、あれは」


小百合がなにかに気付き指をさす。その指差す先にはクイーンデビルウルフよりさらに一回り体の大きな漆黒の狼がいた。


「……まじかよ」


大樹が唖然と呟く。


「……キングデビルウルフ」


芳樹が痛む身体に鞭を打ち、立ち上がりながら零した言葉は、「絶望」と同義であった。


そのキングデビルウルフの出現に士気は一気に乱れ、さすがの精鋭たちの顔にも絶望が滲み出ていた。


「ウォオォォォーーーン」


キングデビルウルフが遠吠えしたと同時にデビルウルフたちは一斉に攻撃を再開し、再び勇者含む精鋭たちを蹂躙し始める。


もはや、その惨劇は逃げ惑う騎士や冒険者を追い回す狼の姿ばかり。当の狼達の様子もただ遊んでいるようにしか見えなかった。


人間は狼たちからの攻撃を防ぐのに精一杯。その必死の防御でさえ、いつまでも続くものではなく、彼らが蹂躙され尽くされるのも時間の問題というところまで迫っていた。


「くそ!くそ!」


デビルウルフたちと対峙しながら自分たちの危機に焦りや憤りを感じずにいられなかった芳樹。


そんな勇者一行にもデビルウルフ、そしてクイーンデビルウルフが飛びかかろうとしたその時だった。


「フレイムランス」


彼らの遥か後方から聞こえてきた言葉とともに数多の火矢が彼らに襲いかかろうとするデビルウルフ達に襲いかかる。


そしてデビルウルフは体を貫かれ絶命、クイーンデビルウルフは体のあちこちにフレイムランスが突き刺さり、痛みに悶えていた。


自分達の繰り出す剣戟も魔法も、そのほとんどが傷を負わせることのできなかったクイーンデビルウルフの体には、いくつも火で作られた矢が突き刺さっている。


勇者一行は目の前で起きたことに理解が追いつかず、ただただその場に立ち尽くした。


そんな彼らの目の前には、白銀の鎧を身に纏う女性がいつの間にか立っていて、次の瞬間、クイーンデビルウルフに斬りかかりその首を落としていた。


周囲を見渡せば、彼ら精鋭達を囲んでいたデビルウルフも次々に矢に射られ、魔法で貫かれ、長剣で斬り伏せられており、あっという間に大群全てのデビルウルフが討伐されていた。


「シズカ様〜待ってくださいよ〜」


首を落とされたクイーンデビルウルフの傍らに立つ女性に駆け寄る3人組。

1人は長剣、1人は弓矢、1人は杖を持つ者達。彼らがデビルウルフの大群を討伐したのわかりきったことだった。


「リュトス、まだ終わってないんだからね!」


「はっ!わかっております!」


声を掛けながら走り寄って来た青年が女性の一言でビシッと背筋を伸ばして返事をする。


「まったく、なんでリュトスはこんなにもシズカちゃんに従順なのかしら」


杖を持つ女性が呆れたように言葉を溢す。


「今までのリュトスとは思えない」


小柄な……まだ少年とも思える弓矢を持つ男が呟く。


自分たちを全滅の危機にまで追い込んだデビルウルフ達をほんの一瞬で蹂躙したのが4人という事ですら信じられないのに、この気の抜けた会話をする余裕があることにさらに衝撃を受ける勇者たち。


「……シズカ……静香なの?」


会話を聞いていた小百合が、知っている名前が呼ばれたことと聞き覚えのある声に思わず声を上げる。


「むっ……?シズカ様お知り合いですか?」


その声に反応したのは長剣を手にした金髪の青年であった。


そう問われ、シズカは後ろを振り向くと、たしかによく知った顔が4つ、困惑した表情で並んでいた。


「……あ」


まさか助けたのが勇者一行とは思わず、シズカはどうしたもんかと口から間抜けな声が漏れただけであった。


「し、静香なわけないじゃない!あ、あんな魔法も剣技も使えるわけない!そ、それに顔が……顔が違うわ!眼鏡はどうしたのよ!!!」


たしかに静香の印象は大きく変わっている。眼鏡はかけていないし、顔を隠す様に伸びていた重い前髪は短く切りそろえられている。


梨花は叫ぶように否定しているが、シズカは「視力は回復してもらったし……」という言葉が喉元まで出かかる。しかし、口にすればさらに話がややこしくなると思い、口をつぐむのであった。


そして、彼らの視線から逃げる様にシズカは体ごと顔を背け、4人のいる方とは反対側……キングデビルウルフの方を向く。


「……だが、確かに面影はある……な。それに俺らはあいつの素顔をまともに見たことがない」


大樹は痛む身体を抑えながらも冷静に現状を分析しようとしていた。シズカの素顔は、メガネと長く髪の毛の影響とともに、常に俯いていたことからまともに見たことがないと誰もが理解する。


「……あはは、まさか」


4人の勇者のリーダー格である芳樹に至っては、体の痛みからか危機的状況がそうさせたのか、理解が追いつかない様子で呟く。


「あんな……あんな根暗な女とこの女が一緒なわけないじゃない!!」


梨花はひたすらに目の前の女をシズカと認めたくないようである。

さすがのシズカもここで肯定しようが否定しようが意味がないと思い、ただひたすら時が過ぎるのを待っていた。


「貴様、シズカ様に無礼なことばかり喚くな。なにを意固地になっているか知らぬが、まずは助けられたことに礼を言うべきではないのか?」


諭すように語りかけるリュトスを見てシズカ、カラナ、ヤークの3人は目を丸くした。あのリュトスがこれほど穏やかに人を宥めようとするのを見たことがなかったのだ。


「……リュトスって最近変なもの食べた?」


「……さっきどこかで頭ぶつけたのかしら」


「きっと何かが起きる……雨じゃなくて槍が降るかも」


各々が好き放題言葉を漏らせば、その言葉に反応するようリュトスは振り向き情けない顔を向ける。


「……あんまりです、シズカ様。俺だってシズカ様に相応しくあろうと……」


「あ、ごめん!ごめんね、リュトス」


よしよしと頭を撫でるシズカと撫でられるリュトス。いったいこの自称主従関係はどうしたもんかと頭をひねるカラナとヤークであった。


「……な、なんなのよ!あんたたちはなんなのよ!」


そんな様子を見ていた梨花が癇癪を起こすかのようにさらに叫び、それにリュトスが何か言おうとしたがそれをシズカが止め、周りを見渡す。


「怪我が酷い人はいなさそうかな」


周囲を確認し、気絶こそしている人も見受けるが、腕や足などの部位欠損のような重症者がいないことを確かめる。


周りの者に聞こえるか聞こえないかといったボリュームで呟くと、シズカはおもむろに治癒魔法を展開し始めた。


「エリアハイヒール」


シズカの放つ治癒魔法は、20人程はいる勇者一行の全員を範囲内に収め、全ての者に治癒を施した。


それは勇者たちの中でもとくに治癒魔法を得意とする梨花の放つエリアハイヒールの規模を大きく上回り、そして梨花の施す個人に向けたハイヒールよりも効果が高いことがわかる。


つまり、梨花の治癒魔法のレベルよりも数段高いレベル、そして魔力量の豊富さと魔法技術の高さをまざまざと見せつけていたのだった。










読んでいただきありがとうございました。



本日投稿3話目です

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