91話
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「あ、あれ?ここは……家……?」
ゲートを抜け、屋敷の庭へと出ると、5人は呆然と立ち尽くし、ネキは周囲を見回しながら見覚えのある風景に困惑している。
そんな6人に構わず、俺は屋敷の方へと歩みを進める。
「ただいま〜」
「おかえりなさいませ、タロー様。お風呂にしますか?それとも食事にいたしますか?」
中へと入ると、ライエから帰宅を聞いたロシャスが出迎えてくれたが、その言葉が俺の背筋をゾッとさせた。
「……その続きは言わないでくれ!!」
「……続き?」
目を点にして疑問顔のロシャス。
「続きなどありませんが……それでどちらにしますか?」
「……流すの早くない?」
ぞんざいな扱いである。
「まぁいいや。俺的には風呂かなあ〜」
「いえ、タロー様ではなく、ネキのお仲間たちのことなのですが」
「……悲しいぜ、俺は」
ついに俺はここまで底辺な存在になったようである。
「……風呂にしようか。みんな外の暮らしで汚れているだろうし」
「かしこまりました、それではそのように伝えてまいります」
時間的にもすでに夕方にさしかかるところ。今日の店の当番の者達もそろそろ店を閉め、ネキ達が風呂から出るころには屋敷に戻ってくるだろう。
そのあと、いきなりゲートで屋敷に連れてこられたことで放心状態となり、なにがどうなってるのかわからないネキ達に簡単にゲートのことを説明し風呂に入れたり、風呂から上がったフローラルな香りを纏う興奮したエリーを落ち着かせたりとなんだかんだバタバタして、やっと食事の時間となった。
「ヤクダムはもう起きて大丈夫なのか?」
バタバタが落ち着き少しラスタとリビングでくつろいでいたら、食事が準備できたと知らされたので食堂へ行ったところ、ヤクダムがいたので声をかけた。
病が原因なのか元々なのかわからないが、ヒョロッとした気の良さそうな顔をした男である。
「はい、おかげさまですっかり良くなりました。ご挨拶遅れて申し訳ありません。この度は私を買っていただいただけでなく、治癒までしていただきありがとうございます。これから精一杯の命令に従う所存です。よろしくお願いいたします」
なんかものすごい丁寧な男である。
「まぁ、あまり気負わず、適当にやっていこうよ」
と、適当に声をかけとくザ・適当人間タロー。それが俺。
食事が始まり、1番興奮していたのは予想通りタッカム。美味しい美味しいと言って幸せそうな笑顔を浮かべながら夢中で食べていた。
今日のメイン料理は、なんかの魔物のステーキだ。なんの肉なのかとかその辺はその日の料理担当が決めて作っているので俺は特に聞いていない。出された物を美味しくいただく主義である。まぁ、気になれば聞くことはあるが、なにを使っていようが、彼女らの料理の腕と工夫に賞賛の嵐である。
ただのステーキとはいえ、その辺で出されるようなただのステーキではない。焼くときにニンニクのような野菜やバターも使っているし、胡椒も使っている。バターなんて物は、たぶんうちでしか作っていないし、使っていない。他には真似できない、最高の美味しさである。
タッカムが興奮し、夢中で食べるのも仕方のないことだ。
そんな美味しい食事をしながら、スミスカンパニーのみんなの紹介や、仕事などについての話をする。
「タッカムとマクリは喫茶店の料理、ヤクダムとヒネリとヒナミが商売希望、そしてエリーが意外にも薬か」
マクリはネキと一緒に生活していた熊人族の少女で、ヒネリとヒナミが鼠人族の兄妹だ。ちなみに、虎人族の少女はカーラ、ネキの弟はナキである。
「意外ですか?お風呂で石鹸に惚れ込んでしまったんです。石鹸も薬も同じように作るって聞いたから……できる自信はないけど、やってみたい気持ちはあります」
なんだかしおらしいエリーが自分の希望理由を述べる。
食事中に、スミスカンパニーが今やっている仕事の話をして、その中でやってみたいことがあるかを聞いたところ、こんな結果になった。
エリーは薬師としての仕事に興味を持った。それは俺としては結構意外であったが、理由を聞けば、エリーが薬師に興味を抱いたことに納得いく。それにエリーは顔立ちもいいし、村で開く薬屋の凄腕薬師として彼女が看板代わりになるってのは悪くないかもしれない。
「やれるやれないは問題じゃないさ。やりたいことがあったら言って欲しかっただけだしね」
実際、スキルを付与すればだいたいのことはやれるようになる。そうでなければ俺なんかなにもできない男だろう。あとはその仕事を本当に好きになれるか。嫌々な気持ちでなく、楽しんでやっていけるかだ。楽しんで興味関心を持ってやれることが技術の進歩に繋がる。
それに美容に敏感なエリーのような女性が石鹸作りなどに関わるのは意外といいかもしれない。
「タッカムとマクリはみんなに教えてもらいながら少しずつリーシャたちの料理を覚えて、それから自分の作りたい料理、それぞれのやりたいやり方、工夫の仕方で好きな料理を作っていけばいい」
「「はい!」」
タッカムはある意味予想通りの選択だし、俺の希望でもあった。マクリも元々料理は好きだったみたいなので、美味しい料理に興味をひかれたのだろう。
2人ともキラキラしたやる気に満ちた顔である。
ヤクダムとヒナミとヒネリは商売がしたいと言っている。
商売と言っても、今は店を経営してるくらいなので、たいしたことはしないが、それもいい経験ではあるだろう。
「今は、王都とラビオス、そして村で開店させる店をみんなで回している。その3つを手伝いながら商売するって感じかな。将来的には自分の店を持ってもらってもいいし」
まぁ、ラビオスはアランたちが中心となって運営しているので、そこはアランたちに任せる。
村の店も大きくするつもりはないので人手もそこまで多くはいらないだろう。
ネキとナキはどんなことでもやるスタンスらしいし、カーラはまだ小さいのでメイのお手伝いをしながら徐々に色々やれるようになればいいってくらいの感覚だ。スタッズはフランクたちと同じようなローテーションで仕事をすることになるだろう。
スタッズとフランクは年が近いこともあり仲良くなれそうだ。
「とりあえずやりたいことはわかった。まぁしばらくは村の店の開店準備しながら、みんなは少し鍛えてもらうことになるけどね」
鍛えてもらうという言葉に、新人たちは首を傾げ疑問顔。
戦えるようになってもらうとはみんな思っていないだろうし、まさか自分が魔物と戦うとも思っていないかもしれない。でも、俺の奴隷となったからには自分と自分の大切な仲間を守る力は持ってもらう。
そんなこんなで地下の森やゲート、スキルなどについても説明と付与をしていった。
これからしばらくは忙しくなるな。
……みんなが。
俺はたいして変化ない日々を送ることだろう。
▽▽▽▽▽
「これで大金貨30枚ですか?」
「えぇ、格安だと思いますよ?」
ほんまかいなあ〜。
今俺はベントレにて拠点となる家を探しに来ている。
商業都市と謳うだけあって、各地からたくさんの物が集まり、様々な人が集う。醤油を見つけたときみたいにこれからも欲しい物が見つかる可能性もあるし、買い物に来ることも多くなるだろう。
そうなると、ゲートで行き来するのに違和感がなく、そして楽をするために、家を一軒、小さい物でいいので買うべきだと思い、商人ギルドへ赴いたところである。前に急ぎ買った拠点としての家は、今日、新たな拠点を買うにあたって売却する予定だ。
「今空き家になっていて、1番安い物でも大金貨20枚ですね」
場所と大まかな見取り図のようなものを見ながら物件を探すのだが、いかんせん高い。いや、本来はこれくらいするものなのかもしれないが、なにせ王都のあのでっかい屋敷が大金貨1枚で買えてしまったもんだから、随分と高く感じる。
「この大金貨20枚の方は、一部屋だけで、キッチンは一応あるのか……」
「えぇ、暮らす分には問題ないかと。しかし、場所も治安がいいとは言えませんし、家自体がその……」
「……ボロい?」
「……えぇ、はっきり申し上げて人が住めるような状態ではないかと」
そんなもん売るなよ!
「その点この大金貨100枚の方でしたら立地条件的に治安も良く、買い物に行くにも便がいいかと」
「治安が良くても、さっきの20枚の方と大きさは同じですよね?」
「そうですね、家の大きさ自体は同じくらいです」
「これは?」
俺は大金貨40枚の家を指差しながら説明を求める。
「こちらの家は治安が最悪です」
だから売るなよそんなの。
「この街でも治安が最も悪いと言われる場所に近く、中心街などへも少し距離があります」
「大きさ的には……これは2階建?」
「はい、広さで言えば十分な物件かと思います。1階には広くはありませんが、一応リビングとキッチン、他にもう一部屋。2階はふた部屋です。建物も新しくはありませんけど、綺麗に管理されている方だと思います」
うん、小さい家のようだが、作りは悪くなさそうだ。
「どう思うロシャス」
「治安自体は大した問題ではないでしょう。部屋もそれくらいであれば十分だと思います」
ロシャスがそう判断するなら問題ないかな。
「じゃあここ買います」
「お支払いは何回払い……で……え?」
俺はギルド職員が支払いの話をしてる最中金貨をカウンターに並べる。
「足りる?」
「……か、確認させていただきます」
急に出された大金貨に職員の男性は驚きはしたものの、さすがは商人ギルドの職員。すぐに切り替え、大金貨を数え始めた。
「ちょうどいただきました。こちらが、権利書と鍵です」
差し出された鍵と権利書を受け取り、早速新たな拠点へと向かう。
「……これはスラムとかいうやつに近いのではないだろうか?」
「というよりほぼスラムでしょうな」
治安が悪いとは言っていたがスラム街の側とは……。
ボロボロの服を着た人が道端に寝ていたり、ガラの悪い男達が彷徨いている。
それに先程から監視されている気もする。
「ここだな。思ったほどボロくはないようだ」
「住むだけならすぐにでも生活できますな」
前にもベントレには家を買ったが、それはさすがに小さすぎる……というか、なんとなくみすぼらしい見た目だったため、今回新たに購入することにしたわけだが、今回の家ならば誰かがここで生活したいと言ってもできるくらいの家だ。
前の家はこの家を買うときにちゃんと売却済である。
「とりあえずゲートだけ設置しておこうか」
中へ入り、ゲートの設置、結界を施す。
今回の家は、前回の家よりさらに貧民街……スラムに近い。というよりも、もうスラムの一部だろう。
前の家はどちらかと言えば低所得者の住宅街、それをターゲットにして商店や、飲食店が立ち並ぶようなところだったが、ここまでスラムに入り込むと、裏稼業っぽい人達や家を借りたり買ったりできないような人たちの住む街となるようである。店もあることにはあるが、怪しい商店や、お腹壊しそうな食事が出てきそうな店ばかりである。
「一応屋根裏部屋もあるんだね」
「安い買い物ではなかったですが、悪くはなかったのではないですか?」
たしかに。
屋根裏部屋があるからなんかに利用するかといえば、今は特に利用法を思いついているわけではないが、部屋数も少なくないしそれなりの広さがある家。そして古いが汚くはない。立地のわりにはいい家だ。
結界を施し終えたところで、少し家の周辺を探索することにした。
「やっぱり誰かに見られているね」
「まぁ、さしあたって脅威ではないでしょう。それよりもあれはいつかの騎士さんではないですか?」
監視されている事をほんとうに気にしていない様子のロシャス。彼にとっては全くと言っていいほど脅威にはなり得ないのだろう。むしろ、すでに相手の情報を集めに動いているのかもしれない。
……ありえる。
ロシャスならやりかねない。
ステルスビートルたちを駆使して監視している者たちを逆に監視している可能性もある。
「本当だ。なんでこんなところにいるんだろ?それにあそこは……教会か?」
いつぞやの女騎士が入っていったのは、建物は傾き、草は生い茂り、蔦は絡まり、壁はボロボロ。そんな教会のような建物だ。
「こんなスラム街に教会?」
もはや教会としての役目を果たしていないような建造物である。それにこんなところに神に祈りを捧げに来る人がいるのだろうか?
「教会のようではありますが、今は使われていない……というわけではないようですな」
ロシャスが言いかけたところで、女騎士を出迎えにシスターのような格好の女性が出てきたので、教会であることは間違いないだろう。
「とりあえず行ってみようか」
あまり教会とかそういうのと関わりたくはないが、あそこの教会は神を信仰して狂った人達が集まるような教会ではないだろう。むしろ、本当に教会かすら怪しい。あの様子だと、あの教会が崇め敬う神は、教会で働きたい続けるシスターを助けることはしていないようだ。それとも、彼女の信心が足りないのか。
まぁ、ロシャスも気になるようなので、とりあえず教会へ向かってみることにした。
次回更新は未定ですが2週間以内には更新します。
スミスカンパニーのメンバー一覧についてはまだ完成していません。出来次第投稿します。
感想レビューの返信できていなくてすみません。しっかり読ませていただいていますのでお許しください。