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90話


いつも読んでいただきありがとうございます。



更新遅くなって申し訳ありません。


《前回のあらすじ》

鱗族のネキと豚人族のタッカムと話をしてネキに仲間がいることが発覚。奴隷5人を屋敷へ連れ帰り、治癒を施したところで、ネキに案内を頼み仲間の元へ













「ここです」


ネキに案内されたのは王都を出て森の中を少し進んだところにある小さな洞窟だった。入り口は巧妙に草木で隠され、わかりづらくなっている。


王都の中のどこかでひっそりと暮らしているのかと思っていたが、どうやら違ったみたいだ。


ネキの話によると、王都はたまに出入りする程度であまり人目につくようなところへは行かないようにしていたらしい。王都に入るのにも、スラムがある場所に、城壁が崩され、出入り可能な部分があるのでそこを利用していたようだ。


王都の警備はなんとも脆弱である。


隠された入り口を露出させ、ネキは洞窟へと入っていった。


「ネキさん!!」


中から誰かの声が上がる。本当にここで隠れて暮らしているのだな。


俺もネキに続いて中に入ってみる。


中は薄暗く、決して清潔とは言えない状況であった。


「ね、ねぇさん! 無事だったんだ。よかった」


今の声は弟くんかな。


「すまない、ちょっとしくじってしまってな」


「無事ならいいんだ。長い間帰ってこないからすげぇ心配してたんだ」


弟の声と共に他の者たちからも安堵と、無事を喜ぶ声があがる。


「……だ、だれだ!」


俺がネキのいるところへ顔を出すと、弟くんとは違う男が俺の存在を認識し、警戒の声を上げた。


「大丈夫。私のご主人様のタロー様だ」


「ご、ご主人様? ど、どういうことだよ、ねぇさん……」


草の敷かれたところで上半身を起こしている青年……たぶん怪我をして狩りができなくなった弟だろう。


「失敗したと言っただろう? 街で食事を分けて欲しいと言ったら、盗みに来たと思われて犯罪奴隷として売られてしまったんだ。命があっただけよかったさ」


おかけで、こうして再びお前たちの顔を見ることができた……と、続ける。


「ねぇさんはもうここへは帰ってこないってことなのか……?」


「ネキさんがいなくなったら俺たちはこれからどうすれば……」


弟と鼠人族の少年が顔を伏せ、言葉をこぼす。


「……ネキ、どこかへ行っちゃう?」


虎人族の少女がネキに近寄りネキを見上げてそんな言葉を投げかける。


ネキも悔しそうな、それでいて悲しそうな、そんな表情で虎人族の少女を見つめるが、言葉は出ないようだ。


「ご主人様にお願いして、今回だけだが、みんなに食事を分けてもらえることになったんだ」


あぁ、そんな約束だったっけ?


「しばらくはそれを食べて生き繋いでくれ。それから後のこともその食事がなくなる前にみんなで話し合って決めてくれ」


「そ、そんな……」


熊人族の少女が絶望の淵に立ったような表情で膝から崩れ落ちた。


「……みんな、すまない」


狩りができる鱗族の青年が怪我で狩りができないとなると、彼らの生活はもう終わりが見えたのと同義なのかもしれない。

狩りもできず、買い物もままならない彼らにとって、魔物が生息する森の中、行動を制限された上で取れる木の実や野草のようなものだけではお腹を満たすには至らない。まぁ、うまくいけば他に生きる術が見つかるかもしれないし、頑張れば他のみんなも狩りができるようになるかもしれないが。


しかし、彼らにとっては精神的な支えとなっていたネキがいなくなるということの方が、狩りができないことや食事が手に入らないくなるということよりもよっぽどこたえているように見える。


彼らは、このまま死ぬか街へ出て自分を奴隷として売り奴隷となるか、2つに1つの選択肢しか頭に浮かんでないのだろう。


街に入り、仕事を手に入れることができる可能性がゼロというわけではない。だが、人族に忌み嫌われる獣人の中でも特に嫌われている者である彼らを雇ってくれる可能性は低く、冒険者として生きていくにも周りからの蔑むような視線や態度を我慢しつつ、狩りもできない実力で生きて行くのは難しいだろう。そもそもそれができるのならばここで生活してはいないはずだ。比較的安全な街の中での仕事を冒険者ギルドに紹介してもらえる可能性も低く、仮に紹介されたとしても依頼主に拒否されるか、働きが悪いことを理由に依頼の未達成を言い渡される可能性すらある。なにより宿屋に泊まれるかどうかもわからない。


そんな彼らは奴隷になるよりも死を選ぶという可能性も大きいはずだ。


「タロー様、彼らに食事をお与えください」


と、考えごとをしていたらネキがこちらを振り返り頭を下げる。


「……あ、あれ? でもタロー様食事は持ってきていない……?」


頭を下げたところで冷静になったのか、俺とライエが手ぶらで彼女の後をついてきたことにようやく気付いたようだ。


「……辛気臭いお話は終わった?」


俺のあとからついてきて、後ろで話を聞いていたライエが突如言い放つ。


「……し、辛気臭いってなんだよ!」


鼠人族の少年がたまらず声を荒げる。


「そんな絶望した顔で話す意味がわからないわ。あなたたちはこの状況を理解しているの?」


どの状況だろうか……俺も理解していないのだが。


「あなたたち5人は、多少の怪我はあってもこうして健康な体で生きているじゃない」


うむ、たしかに。

ネキの弟以外は衰弱していることは別としても五体満足で生きている。ネキの弟に関しても、ちゃんと治療さえすれば治る怪我だ。中級ポーションでもあれば一瞬で治るだろう。


「ネキ、あなたはタロー様に買われたのよ? それがどれだけ幸せなことかわかる?」


……幸せなのか?


「奴隷の何が幸せだ! お前のような温室育ちの甘ちゃんに何がわかるってんだ! 俺たちのように忌み嫌われる存在が奴隷となったらどんなに酷い仕打ちをうけるか……」


今度は弟が叫ぶ。


「……はぁ。わかっていないわね」


心底呆れたような顔をするライエ。


「ネキは見たわよね? タロー様の治癒魔法で一緒に買われた3人が完治したのを」


「え、あ、はい。見ました」


ネキのが年上だろうに。ライエはずいぶん偉そうな態度である。面白いからいいのだが。


「私もみんなと同じ獣人。それにもっと酷い状態だったのを買われて救われたのよ。いつ死んでもいいような状態だったのを買ってもらったの」


「……買われた?」


「……ん? あぁ、私も奴隷よ」


それを先に言うべきではないだろうか。

簡単に言い放つ、ライエの自分は奴隷宣言に、口を開けて驚く5人。声も出ないらしい。虎人族の少女だけは話をうまく飲み込めていないようだが。


「それにネキはもう会ったと思うけど、ロシャスさんやリーシャちゃんも奴隷よ? あのお屋敷で見かけた獣人も人も肩書きは一応みんな奴隷」


「で、でも、ライエさんもお屋敷で見かけた皆さんも、身だしなみから何から何まで奴隷とは思えない……」


「タロー様は奴隷も家族のように接してくれるの。それに加えてその辺の貴族よりもいい暮らしをさせてくれるわ」


うむ、それはそうだ。


「私はタロー様の奴隷でいられることを誇りに思っているし、見限られないように生きている。タロー様には一生かかっても返せない恩があるの。奴隷でなくても私は一生涯タロー様に忠誠を誓っているわ」


いやいや、忠誠とかいいから自分の人生を幸せに生きてくれっていつも言ってるのに。まぁ、ライエが今それで幸せなのであれば文句はないし、忠誠を受け入れることが幸せなのであれば受け入れるけども。


「いい? ネキはタロー様に買われたの。それは誰に買われるかわからない奴隷という身分で、この世でなによりもの幸運よ。そのネキの願いを聞いてわざわざここへ足を運んだタロー様が、あなたたちをほっとくわけないでしょう?」


……え?いやまあそうなんだけど、あなたが威張るところとちゃいますよね? ライエさん。


「ど、どういうことでしょうか、タロー様」


とりあえず言いたいことを言って気分を良くしたのか、ライエはムフーっと誇らしげな顔で立っている。そのライエの宣言のようなセリフを聞いたネキが、よく理解できないと言った感じで質問をしてくる。


「話を聞いた限りじゃネキの仲間の5人はこれからの生活に困るだろうと思ったから、家で雇おうかと思っていたんだ」


まだ話が飲み込めないのか、信じられないのか、ネキの顔から困惑しているのが伝わる。


「でも、うちは秘密も多いし、奴隷って形で雇われることに抵抗がなければだけど」


人族などの奴隷であれば別だが、彼らのように忌み嫌われる傾向のある種族であれば、むしろ奴隷として身分をしっかりと確立した方が周りの者たちからのちょっかいなどを防ぐことにもなり得るだろう。


「無論、ライエの言うように生活の保障はする」


「どうかここにいるみんなも雇ってもらえないでしょうか」


俺の言葉を聞いて、間を置かず、真っ先に反応したのはネキであった。

膝をつき、頭を下げている。


「ねぇさん……」


困惑する弟。


「みんなもお願いして。タロー様とライエさんの言ってることを信じるしかない。今の私たち……いえ、あなたたちには他に生きる術がない」


ネキの言う通りだろうな。ネキは奴隷として生きることは決まった。あとは他の5人がどう生きるか、それだけだ。


「ネキ、頭を上げて立ち上がって。決めるのは彼らだ。彼らの意思を聞くことが重要なんだ」


これはネキが決めることではない。彼らが自ら奴隷となることを選択してくれなければ俺としても雇いづらい。他の生き方をしたいのであれば俺はその選択を妨げる事をしたくはない。


どんな理由をつけようが、奴隷は奴隷。ライエが言う奴隷も幸せの形の1つだが、奴隷という身分に落ちる事に変わりわないのだ。


ネキは立ち上がり、みんなの様子を伺う。


「私も奴隷にしてください」


熊人族の少女が一歩前に出て頭を下げた。


「……ネキと一緒に行く」


虎人族の少女は奴隷がなにとか、生活がどんなものか、そんな事よりもネキのそばにいることを優先したようだ。


それに続くように鼠人族の兄妹も前に出て頭を下げる。

さっきまで反抗的な態度を見せていた鼠人族の少年も案外すんなり奴隷となることを受け入れたようだ。

もしかしたら妹がいることが関係しているのかもしれない。これ以上過酷な生活に妹を置いておきたくない……そんな気持ちを優先させたのかもしれないな。


「……奴隷がそんなに幸せなんて信じられない」


鱗族の弟くんだけはまだ奴隷となることを受け入れられないようだ。


「信じる信じないは貴方次第です」


自分の目で見たわけではないし、ライエの口から述べられたこと以外には情報もない。そんなことを信じろというのも酷なのかもしれないが。


「……口ではどうとでも言える。俺のような鱗族の奴隷は訓練と称した肉体的な制裁を受けて死ぬまで攻撃の的とされるのがオチだ」


鱗族の奴隷はそういう扱いとは聞いたが、他にももっとうまく利用する方法なんていくらでも考えられるのに。少なくない金を払ってわざわざ買う奴隷をただ痛め付けるためだけに使うなんて、金持ちの考えることはよくわからない。


「その制裁のような仕打ちを、俺が貴方にするのかそれともしないのか。それは今の時点で何を言ってもラチがあかないでしょう」


ライエや俺の言葉を鵜呑みにするではないにしても、多少の希望を見出せれば他の4人のように奴隷となる選択をするだろう。

でもそれをしない……いや、できない。鱗族を含め、人族に忌み嫌われる亜人たちにとって、人族の奴隷になることはそれだけ恐ろしいことなのだろう。根深い問題である。


「しかし、見たところ貴方の怪我はそれなりに重症だ。治さない限りその怪我では1人で生活をすることもままならない。そもそも治療にかかる費用を稼ぐことができない。それに、おそらく近いうちに餓死ではなく、その傷口からの感染症であなたは命を落とすでしょう」


彼の足には大きな裂傷と骨折が見受けられる。今はまだ症状が出ていないのかもしれないが、すでにその傷から感染症を引き起こしている。


「……感染症?それは……よくわからないが、このままでは命が長くないことは俺もわかるさ。今はみんなに世話をしてもらってなんとか生きている。それくらいの自覚はある」


あぁ、感染症とか、そういう言葉はないのだな。詳しいことはもう少し近くで鑑定してみないとわからないが、この不潔な環境のせいで細菌が侵入したことで感染症を引き起こしたのだろう。


「しかし、それを治癒してもらったところで、俺を痛めつけ、治し、そしてまた痛めつける。その連鎖が始まるだけとしか思えない」


あぁ、弟くんには人族に対する憎悪や嫌悪が根深く染み付いているのだな。


「さっきも言いましたが、あなたが奴隷になることを望むか望まないか、それはあなたの自由だ。でも、俺はなるべく目の前の命を見捨てたくはない」


悪であれば別だが、救われるべき命は救っていきたい。


「だから、提案なのだが……俺は今この場でネキを奴隷から解放しよう」


「「え?」」


その言葉に鱗族兄弟は拍子抜けな声を上げた。


「ネキを奴隷から解放し、弟くんと2人で生きていけばいい。ちゃんと怪我も治す」


「タロー様、そのようなこと……。私はあなた様に買ってもらったのです。それに約束通り仲間たちの元へ訪れ、雇うとまで言っていただいた。それなのに私がなにもせぬまま奴隷から解放され契約も約束も反故にするなど、そんなマネできません」


やはり、ネキは真面目で恩には必ず報いる……そんな性格だ。生真面目なやつである。


「いや、いいんだ。ネキはきっと俺に不利益になるようなことをすることはないだろう。だから奴隷ではなく、ただのネキとしてうちで働きたいのであれば働けばいい。他の4人は約束通りちゃんと雇うし、ネキがうちで働くのであれば一緒に働ける」


ここまでは理解してくれているかな。


「しかし、ネキにはしばらく弟くんとともにいて欲しい。つまりネキがうちに来るのであれば弟もうちで面倒を見る。弟くんは働きたくないのであれば働かなくていい。それに加えて、奴隷ではないのだから、制裁の様な暴力を俺は加えられないし、もし俺がそんな人間であったとしても奴隷契約で縛られていないのだから逃げ出すこともできる。行動に制限はないよ」


つまり、2人の判断次第で、俺の元を去ろうが、留まろうが自由というわけだ。


「まぁ、奴隷という身分はないから、あまり街中をうろちょろするのはお勧めしないが」


鱗族が嫌われていることはかわりない。奴隷でもない鱗族が街をうろつけば、嫌がらせをする者もでてくるだろう。


「し、しかし、それではあまりにも優しすぎる……」


最後まで話を聞いたネキが心底困ったような表情で、そう言葉をもらす。

単純に喜べばいいものを。


「判断するのは君達2人だ。1人だけで選ぶのだけはやめて欲しいが、あとは自由だよ」


ネキは奴隷でなくても誠心誠意働いてくれる、そんな気がするし、嫌で去るのであればそれはそれで俺の責任である。


「その上でもう一度聞くよ。君はどうする?弟くん」


「……わかった。ねぇさんについて行く」


「すみません、タロー様! こんな弟でほんとうに!!」


「いいんだ、そういう考えをするしかない風潮を作ったのはこの世界だ。弟くんが悪いわけではない」


では、さっそく……と、弟くんの治療と奴隷契約、奴隷解放を行う。


「「「「「「……。」」」」」」


「さ、帰ろうか」


「ちょ、ちょっと待ってください!」


なにか慌てた様子のネキ。


「え? なに?」


「タ、タロー様は治癒だけでなく、奴隷契約も解放も行えるのですか?」


「ん? んー、できるね。できてるでしょ?」


「できてますけど……こんなこと……」


「でも内緒にしてね。バレるとややこしいからさ」


いずれ色々なことを話すことになるから、今は帰ろう。と、再び声をかけ、ゲートを出す。ゲートを開いたらライエはピョンっとさっさと潜っていった。


「……あ、あのそれはなんですか?」


戸惑う様な声で質問して来たのは熊人族の少女。


「ゲートだよ。ライエも潜ったの見ただろう? 安全だから安心して」


「……ゲートってなんだ。聞いたことないんだけど」


と、呟くのは鼠人族の少年。


知らなくてもしかたないか。


「まぁいいからいいから」


俺は、未知の体験をする恐ろしさに動きを止める6人を、押し出す様にゲートへと突っ込み、自らも屋敷へと戻るのであった。










更新が不定期になって申し訳ありません。


次回も未定ですが、なるべく早く更新できるように頑張りますので、よろしくお願いします。

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