89話
いつも読んでいただきありがとうございます。
更新遅くなって申し訳ございません。
「はじめまして。俺はタロー」
「ネキと申します。鱗族です」
「は、はじめまして。豚人族の、タ、タッカムです」
ネキは背筋をピンと伸ばし、真っ直ぐに俺を見ている。それとは対照的に、タッカムは大きな体を丸め、いかに自分を小さく見せるか頑張っているかのような姿勢での自己紹介だ。気弱な性格は相当なものかもしれない。
ひとまず、2人を鑑定し、ステータスを確認してみた。
ネキのステータスは頑丈を表したようなステータス。ラスタも身につけている硬化というスキルがあるのが特徴的だ。皮膚の表面を硬化させることができるのか、鱗の部分だけ有効なのかわからないが、そのスキルを身に付けることができ、頑丈が取り柄のようなステータスが種族の特性かもしれない。
タッカムは料理のスキルがLv3という以外は一般的なステータスだった。
「俺は2人を買おうかと思っているのだけど、俺に買われたくないとかそういう気持ちがあれば教えて欲しいんだが」
「「……」」
2人は少し困惑したような表情をしつつも沈黙を守る。
「……タロー様、そのようなこと奴隷に聞いても仕方ありませんよ。答える権利がありません」
ロシャスに突っ込まれた。
「あれ?でも俺ってロシャスにも同じこと聞かなかったっけ?」
「あの時は別です」
別なのかよ。
「とりあえず、これから2人と良好な関係を築きたいからさ、今のうちに言いたいことあれば言ってくれるとありがたい」
と、2人に向き直る。
「……ひとつだけよろしいでしょうか」
思い悩んだような顔で口を開くネキ。
「あぁ、いいよ、言ってみて」
「……私には保護……いや、匿っている仲間がいます」
ま、まじか。
「……私のような鱗族はお嫌いかもしれませんが、夜の相手でも格闘や魔法の的にでも八つ当たりの相手にでもなります。どのような扱いを受けてもかまいません。ですから、その仲間たちにほんの少しの食事を分け与えていただけないでしょうか。そしてできれば一目会わせて別れを告げさせていただきたいのです。図々しいことは百も承知です。奴隷という身分の者が言ってはいけないことだともわかっています。それでも……それでもどうか、どうかお願いします」
夜の相手って……鱗があるとはいうが、綺麗な顔立ちに細身ではあるが魅力的なスタイル。喜んで相手していただ……違う。今はその話じゃなかった。
懸命に頭を下げているネキを目の前にしながらそんな不謹慎なことを考えてしまった。
「仲間か……何人いるの?」
そう訪ねると、彼女は5人と告げる。
23歳のネキを筆頭に、鱗族の20歳の青年が1人、熊人族の15歳の女性が1人、鼠人族の17歳の男と16歳の女、虎人族の10歳の少女がネキとともに身を隠して暮らしていたようだ。
鱗族の青年はネキの弟。熊人族と鼠人族は人目を避けて暮らしていたネキと弟に出会って一緒に暮らし始めたらしい。そして虎人族の少女は、獣人を奴隷として売るために違法に捕らえ、売ることを生業とする盗賊のような者たちから逃げているところを保護したらしい。虎人族の少女の両親は、彼女を2人に託し、逃げる際の怪我が元で亡くなったそうだ。
獣人の扱いが良くない人族の国で、特に嫌われるのが力もなく働きもあまり良くない鼠人族、そして毛深いことが理由で熊人族の女性も肩身がせまいらしい。虎人族は戦闘力を買われ、戦闘奴隷となることも多いようだが、10歳の少女となればその対象は特殊な趣味を持つ貴族くらいだ。獣人を見下す傾向のある人族の国において、獣人が冒険者以外の仕事をするのは難しい。客商売に嫌われ者を雇おうとする者はいないだろうし、裏方の仕事にしても、獣人の中に得意不得意がある。力仕事が多い裏方の仕事に鼠人族などは向かない。雇う側もものすごく人手に困っていなければ獣人を正規労働者として雇うことはないのだろう。結局、村から口減らしとして追い出された3人と、もともと忌み嫌われがちな鱗族の2人は人族の国には馴染めず、仕事もなく金もなく生活がままならなくなる。そうなると、普通の獣人たちは奴隷に身を落とすか、盗賊たちに捉えられ奴隷となることが多いのが現実なようだ。
彼らにはこの世界の生活がとても厳しい。
「事情はだいたい理解した。でも、実際はどのように生活していたんだい?」
「……小型の魔物や動物を狩ったり、自生する野草や木の実を食べて生活していました。しかし、数週間前に狩りの途中で魔物に襲われ弟が怪我をして、狩りを行うことが難しくなりました」
もともと、6人全員が戦闘向きのステータスではないので、狩りをするにもダッシュラビットのような小型の危険性の低い魔物のみを相手にしていたらしい。狩りをするのは鱗族の2人、とくに弟がメインだったようだ。その弟がたまたま出くわしたオークに怪我を負わされ、狩りが難しくなったことにより、一気に食事がままならなくなったということだ。
「つまり、ネキが盗みをしたのはみんなを食わすためなのか?」
「……そうです。ですが、盗みはしていないんです。残り物を譲ってほしいと店の人に頼み込んだだけなんです」
あぁ、あれか。店の主人が頼み込む鱗族を見て衛兵に通報。鱗族というだけ盗みに来たということにされ捕縛されたという感じか。
「そうか……わかった。その5人には食事を与えよう」
「……ありがとうございます」
深々と頭を下げるネキ。
少しでもいいから食事をと言っても動けない弟と働けない4人であれば何の解決にもならないだろう。ネキもそれをわかってはいてもどうしようもないってところか。
「タッカムは?なんかない?」
「……な、ないです。あ、でも、なんで僕を買ってもらえるのでしょうか。ぽ、僕は何もできない。それに顔もオークみたいで……」
「タッカムは料理好きなんだろ?」
「は、はい」
「だから買った。それにオークはそんな優しい顔じゃないさ」
よくわからないのか、タッカムは首を傾げたまま疑問顔である。
ま、帰ればリーシャたちの料理に興味を持つことだろう。豚のシェフって意外といいと思うんだよなぁ〜。
2人ともいい人間って感じだし、買いだな。
それにしても予定を大幅に超える人数になってしまった。
え?どこがかって?そりゃ、ネキの仲間たちも雇い入れるからだ。わかっていただろう?
今回は獣人と鱗族が7人。人族が3人。獣人がものすごく増えることになる。ま、いいか。
ドマルさんを呼び、2人を買うことを告げる。
5人の契約を手早く済ませ、5人のうち3人はタダで譲り受けるので、少し多めに金を支払う。そのままじゃ、ドマルさん赤字になっちゃうしな。これからもドマルさんには世話になる気がするし、相場よりかなり安い値段だ。これくらい安いものである。
「タロー様、今回もありがとうございました」
「こちらこそありがとうございました」
ドマルさんにお礼をつげ、店を出て、屋敷へと向かう。
ヤクダムはロシャスがおぶって、俺は足のないエリーを抱える。
もちろん下心があったわけではない。こんなにスタイルがよく美しい女性……あぁ、柔らかい女性特有の触り心地がなんとも……じゃなくて、下心など一切ないのだ。
「旦那様、なぜ私を買ってくれたの?こんな体じゃ、魅力なんて何もないでしょう?性奴隷としてだって満足に働けないかもしれないわ」
だ、旦那様だと……!?
やばい、鼻血出そう。
「……君の魅力は性的な部分だけなのかい?俺はエリーを性奴隷として買ったつもりはない。足の一本ないことなんて魅力が減る要因になんてなりやしないよ」
ふっ。キザな男タローだぜ。
「足一本って……まともに歩けもしないし、何の仕事もできないのよ?戦うこともできない、頭も良くない。娼婦としてしか生きてこなかった私は性奴隷以外にできることなんてなにもないわ」
……全然心に響いていなかった。
足を失い、人生を失った彼女は何もかもが嫌になったとかそんな感じなのかもしれない。ま、まともに会話してくれるだけまだマシか。
「そんな偏屈になるなよ〜。別に戦えとも言わないし、賢くなれとも言わない。夜の相手しろとも言わないよ」
「……私を買う必要なかったじゃないの」
「そんなことない。必要だと思ったから買ったんだ」
足は治るしな。戦えとは言わないが戦えるようになることはできる。賢くなれないかもしれないが、その辺の貴族に負けない程度の知識や計算はできるようになる。なんでもできるようになるのだ。
「ま、なんにしても家に帰ればわかるさ」
まずはエリーの魅力のひとつである、素晴らしい体を元通りにしなくてはな。
俺の言っていることは理解できないと、その後のエリーは黙ってしまった。
▽▽▽▽▽
「ただいま〜」
屋敷へと戻り、5人をリビングへ案内する。
「まずは治療からだ」
そう言って、さっさと3人を治療する。
「……え? え? ど、どういうこと? 足が……」
エリーは驚き動揺する。
スタッズに関しては目を見開き、完治した両手を見ながら、声も出せないと言った様子だ。ただ寡黙なだけかもしれないが。
ヤクダムは呼吸が安定し、病も完治していることが確認できたので、ロシャスにベッドへと運んでもらい、休ませてあげることにした。
「エリー、綺麗な足が元通りになってよかったね」
そう言葉をかけると、スラッとした綺麗な足が元通りになったことが事実だと認識したのか、涙を流しだした。
「あ、あじが〜足が治っだぁ〜。旦那ざま〜」
子供のように泣き噦るエリー。妖艶な大人の印象ではあるが、その中身は年相応の可愛らしい女性だ。そして治ったばかりの足で立ち上がり、歩いて俺に抱きつく。俺はエリーの豊かな胸の感触を感じながらニヤけそうになる顔を必死に制御する。
心を鎮めるのだ。
明鏡止水。
「ヒッ!?」
と、心を鎮めていたら、突然エリーが泣き止み変な声をあげた。
その目線の先は俺の後ろへと向かっている。
エリーが見る方へと俺も目を向けると、そこには背後に鬼を宿したかのようなライエが立っていた。
その圧倒的な存在感と殺気とも思える威圧感に、4人は顔を青ざめさせる。
とくにタッカムは今にも漏らしそうである。あれは絶対すでにちびってる。
「タロー様、そちらの女性はどちら様でしょうか」
真顔で尋ねるライエ。
……こわー。
「今日から新しく加わった5人だよ。1人は上のベッドで休ませてるけど」
「……奴隷ということでしょうか?」
「そうそう。みんなと仲良くしてやってくれ」
「えぇ、わかりました。仲良くします。ですが、その前にこの家のルールというものをきっちりと教えなくてはならないと思いますので、そちらの女性をちょっと裏までお借りしても?」
いやいや、家のルールってなんだ。あったっけそんなの?
秘密を守ることと自由に生活することくらいだと思うのだが……。
それに裏ってどこだ。この世界にも体育館裏とか呼び出しの定番が存在するのか?しかも呼び出しされてるのはエリーだけである。ほんと謎。
そんなことを考えていたらライエはエリーを連れどこかへ消えていった。
「……ま、いっか」
「タ、タロー様」
「……ん? どうしたの?」
今まで寡黙を通していたスタッズが声をかけてきた。
「あ、あの腕……」
「あぁ、ちゃんと治ってると思うけど動く?違和感とかない?」
「……え? えぇ、大丈夫です。元通りです……じゃなくて! タロー様は高名な治癒師様なのでしょうか……?」
「ん? 違うよ? ただの商人だよ」
「……え? ほ、ほんとうですか?」
「あぁ、本当さ。スタッズたちにはその店の手伝いとか畑仕事とかそういうのをやってもらいたくて家に来てもらいました!」
「そうなのですか……。あ、腕ありがとうございました。これから精一杯働かせてもらいます」
うんうん、働いてくれるのであればこちらこそありがたい。しかも意外とすんなり納得してくれるし、あまり細かいことを気にしない男のようだ。
その時、タイミングよくリーシャがリビングへとやってきた。そしてソファに座る俺の横へピッタリとくっつくように座る。
「……どうしたの?」
「……どうもしません」
いやいや、どうしたというのか。
そして今度はライエがエリーを引き連れリビングへと戻ってきた。
「……あっ! リーシャちゃん! なんでそんなところに!」
「1番奴隷ですから」
澄まし顔で放ったその言葉に、悔しそうな顔をするライエとなぜかエリー。
謎である。
それに前も言ったが1番とかない。あるとしても1番は順番的にロシャスになるはずだ。
まぁ、リーシャとライエ、そしてエリーの中では俺にはわからないなにかやりとりがあるということにしておこう。
「とりあえず、リーシャとロシャスは4人のこと頼む。俺はネキと一緒に少し出かけるから」
あ、5人もいるから1人くらい手伝いで連れて行くか。
「ライエ、悪いけど一緒に来てくれる?」
「はい! 喜んで!!」
俺の言葉に食い気味で返事をするライエ。花が咲いたような満面の笑みである。
「ロシャス、ネキのところの5人の迎えに行ってくるからその準備もお願いしていいかな?」
「かしこまりました。食事はみんなが揃ってからにしましょう」
うん、そうだな。その方がいいだろう。
「……? あ、あの迎えとは……?」
ネキが何か言いたそうにしていたが、まぁいいだろう。とりあえず案内してもらってさっさと連れて帰ってこよう。
「ネキ、案内してくれ 」
再び屋敷を出て、ライエと共にネキの案内についていく。
すみません、次回更新も未定です。