88話
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お返事ができていませんが、しっかり読まさせていただいておりますのでお許しください
風呂から出て少し雑談し、ゆっくりしたところで5人は村へと戻っていった。
薬、そして喫茶としての店をいつオープンさせるかはまだ未定だ。ばっちゃんや村長にもそのことは伝えてあるので、ポーションや薬が必要となれば直接家に訪ねてくる手筈になっている。
新居にはベットなどの家具、生活に必要な主だった魔道具は揃えたが、布団などの数が揃っていない。とはいっても新居の方で寝たい人が王都の家から運んでくればいいだけだし、予備などが保管してあるので余裕はある。だが、どのみち必要になるので、ナタリーに布団などの製作を依頼した。もちろん、全く急いではないのでゆっくりでいいと伝えてある。まぁ、ナタリーの技術レベル的に、布団などであれば簡単に作ってしまうが。
「それで今日はどちらに?」
俺はロシャスを連れ、王都の街を歩いていた。
「ドマルさんのところだよ」
店も増やしてしまったので、改めて従業員を確保する為に奴隷商人であるドマルさんの店へと向かっていた。
従業員を奴隷で補う必要はないかもしれないが、秘密の多い俺を含めたスミスの仲間達のことを考えると、奴隷である方が気持ち的に楽なのだ。まぁ、ザンバラ達のようにいい人たちが働きたいと言えば雇うことはあるかもしれないが。
「こんにちは」
「あ。あなたはいつぞやの」
そんなこと言っているうちにドマルさんの店へとたどり着く。
店の前で立つ護衛兼従業員のような人に声をかけると、初めて会った時に比べて幾分か柔らかな対応が返ってきた。俺の事も覚えててくれたようだし。
「ドマルさんいますか?」
「えぇ、います。どうぞ中へ」
そう言って顔に似合わぬ丁寧な所作で俺たちを応接室へと通し、ドマルさんを呼びに行ってくれた。
「これはこれは、タロー様。お久しぶりでございます」
「お久しぶりです、ドマルさん」
ドマルさんはいつものように優しい笑みを湛え出迎えてくれる
「本日はどのようなご用件でお越しいただいたのですか?」
「また働き手を増やそうかと思いまして」
「ほう。今回もうちで買っていただけるのですね。ありがたい事です」
まぁ、ドマルさんにはいい人達ばかりを紹介してもらっているしな。
「それにしてもタロー様は多くの奴隷を抱えていますね。こちらとしてはありがたい限りですが……タロー様の商売がうまくいっているようでなによりです」
ドマルさんの頭の中では、奴隷を買ってくれる=商売がうまくいって金があるという方程式が成り立っているようだ。
「ドマルさんに紹介してもらった人達のおかげですよ。皆優秀です」
「それは……光栄な言葉をありがとうございます。奴隷商人冥利につきますね。こちらこそタロー様には無理を言ってることもありますから。これからも良い仲を保たせていただきたいところです」
一瞬の驚きから、本当に嬉しそうな笑顔へと変わる。
こちらこそ、これからも仲良くしていただきたいもんだ。
「今回はどのような奴隷をご所望でしょうか?」
「んー、特には決めていないですね。店で働いてもらいたいので商売するのが嫌でない人と料理するのが好きな人であれば」
「そうですか、ではいつも通り見に行きましょうか。その時オススメもご紹介いたしましょう。」
ドマルさんの後について、いつも通りひと通り奴隷達を見に行くことにした。
「現在ここにいる奴隷には、タロー様の探しているような元料理人や元商人のような方は残念ながらいません」
「いや、そこまで専門的でなくてもいいんです。ただ、料理や商売が嫌いでなければ」
好きであればそれに越したことはないが。
「それであれば若い女性などはいかかですか?商売としてではないですが、料理をしたことがある者はいます。商売であれば、若い男女に計算やノウハウを教えれば飲み込みは早いでしょう。あまりお勧めはしませんが、多少歳をとった者であれば、そのような計算やノウハウをすでに身につけている者も紹介できます」
うーん、どうしたもんか。結局のところ俺と馬が合うか合わないかってところが大きいしな。
「ロシャス、誰か良さそうな人いた?」
同じように、奴隷達を見ていたロシャスに聞いてみた。
「彼女はどうですか?」
ロシャスが示す方を見ると、20歳を超えるくらいの歳の女性が見えた。髪がとても長い。お尻が隠れる程度の長さがあるのではないだろうか。そしてお尻には尻尾がある。獣人族か?
「彼女は鱗族の女性です」
鱗族。初めて聞いた。まぁ、名前からして蜥蜴とか爬虫類系の亜人だろうか。
「ですが、彼女は犯罪奴隷です。強制労働を強いられる程の重犯罪ではないですが……」
「なにをして奴隷に?」
「盗みです。商店から食べ物を盗んだところを衛兵に捕まり奴隷となってます。今もそうですが、かなり痩せ細っていることから飢えに耐えられずってところでしょう」
なるほど。たしかに体は痩せ細っているように見える。顔を見れば頬が痩せこけている。しかし、死んだ目はしていない。自分を律し、誇りを捨てなていない……そんな目だ。
「それで、ロシャスはなぜ彼女を?」
「鱗族はとても丈夫な体を持ちます。そして裏表のない生真面目な性格の者が多い種族です」
つまり裏切ったりしないってことか。
でもそんな彼女が盗みするのか?
「ロシャスさんの言う通りです。しかし、人族には忌み嫌われ、さらにその体の丈夫さが仇となり、ストレス発散の……八つ当たりに殴ったり、魔法の練習の的とされたり……様々な理由で奴隷として所有する方もいます」
なんとも酷い話だ。人族ってのはロクでもない。
「なんでそんなに嫌われているのですか?」
「彼らは背中や腕に鱗を持ちます。それを嫌悪する方達が多いのです。」
たったそれだけの理由で嫌われるのか。鱗だって肌触り?としてはなんとも言えない心地よさがあるのに。
彼女があそこまで髪の毛を長くしているのは背中の鱗を隠したいという気持ちの表れなのかもしれないな。
ロシャスは鱗族がそういう扱いされることをわかってて俺に勧めたな。……優しいやつだ。
「じゃあ、1人はその人にしよう」
「かしこまりました。いつものようにお話になりますよね?」
「えぇ、お願いします。」
一応話してみないとな。もしかしたら俺に買われるのを嫌がるかもしれないし。
「では、彼女は準備させておきます。まだ奴隷を見ますか?」
「えぇ。気が合いそうな人がいれば、もう数人欲しいので」
まだ見ていない方へと歩みを進め、奴隷選びを続ける。
次に目に止まったのは体の大きな青年だ。簡単に言えばポッチャリな青年。デブってほどではないがフォルムは丸みを帯びている。
愛くるしい体型に、愛くるしい瞳……そしてその顔は……
「……豚人族?」
「ほう、よくわかりましたな」
合っていたようだ。だって顔がまんまかわいい豚さんって感じである。いや、人の顔に豚の鼻をつけたような感じか。豚の耳に豚の尻尾もある。
「豚人族は獣人族の中でもあまり数の多い種族ではありません。それに彼はなんといいますか……顔が特徴的でして……」
「え?普通の豚人族はあのような顔ではないのですか?」
「えぇ、普通の獣人たちと同じように顔自体は人族とほぼ同じ、尻尾や耳に特徴が出る程度です。」
そう言われてみればうちにいるみんなも街で見かける獣人族も顔は普通か。
「彼の場合は種の特徴が強く出たのか……はたまたあのような顔になる運命だったのか」
つまりあの愛くるしい豚顔は普通ではないと。
「彼は、故郷の村が苦しいときに、親に売られ奴隷となってます」
リーシャも確かそんな感じだったよな。
「働き盛りの青年ですので、労働力としては申し分ないかと思います。ただ、少し気弱なところがありますからそこだけが少々心配ですね。話してみればとても優しい青年だとわかるのですが」
優しい青年ならいいじゃないか。そんな働き盛りの青年を売ったのか?まあ、奴隷として売る時も働き盛りとかの方が高値で買ってもらえるのは確かだが。
「しかし、顔がアレですからね……」
「あの顔はダメなんですか?」
「あまり、好んで買う方はいないでしょう。もともと彼の住んでいた村では村人にも親にも嫌われ、避けられ、いじめられ……そんな状態だったようです。顔を見ればおまえはオークの子供だと罵られていたようですね」
ひどい。オークの顔とは月とスッポンの違いがあるではないか。あんな醜悪な顔と同じにするとは……早急に目に効く薬を広める必要がありそうである。その村のみんなの目が良くなることを願おう。
「そういえば、彼は料理が好きと言ってました。体型から見てもわかるように、料理を作っては自分で食べてしまったようで、そんな事も村の皆に嫌われる原因の1つだったようですね。」
村の生活が厳しい中で食料を使われてしまったのなら村の皆も怒るだろうけど、ドマルさんが言うように優しいのであればそんなことはしないと思える。彼の表情を見た限りでもそう思うし。予測の範囲を出ないが、同じ材料を使った食事であっても、彼の作る料理が美味しいもんだから妬まれたってとこか?
あとは村のみんなで1人を標的にすることによる一体感を得るため、彼の体型から村の食料を勝手に食べてるとか、1人だけ美味しいもの食べてるとか様々な悪評を立て、最終的には奴隷というオチかな。人間というのは誰かを悪く言っていなければ生きていけないのだろうか。
まぁ、村からすれば働いてたかどうかは別として、働き盛りである青年という年頃の食い扶持が1人分減って、お金が手に入るという利点もあったのだろう。
「よし、彼も買います。一度話してみてからですが」
ぽっちゃり体型で愛くるしい顔、身長もアンドレさんやジェフくらい大きいので戦士として実力をつければ動ける優しいぽっちゃりさんのできあがりだ。
「わかりました、彼の準備もさせておきましょう」
んー……もうあと数人欲しいがとくに目につく者はいない。
「他はどう思う?」
ロシャスに訪ねてみた。
「無理に購入する必要はないのではないですか?気に入った者がいればそれに越したことはありません」
そうだよなぁ。
「ここの部屋で今いる奴隷は最後です」
悩んでいるうちに最後の部屋についてしまった。
「タロー様、ここにいる奴隷は引き取っていただけるのであれば代金は結構です」
あぁ、この部屋はトーマたちがいた部屋か。ということは怪我などで奴隷として価値がないのにもかかわらず、いつものようにドマルさんが引き取った者たちだな。
「見てから決めます。」
「はい、構いません」
中へ入ると、3人の人影がある。
片手がない男、片足が無い女、そして寝たきりで動かない男。
ライエやジェフ、ジーナたちを見たときに比べればかなり軽症だ。
あの5人はひどかった。
今元気で生活してくれているのがせめてもの救いだが、彼らの過去は彼らの中で深い傷となっているはずである。
「ドマルさんから見て彼らの人柄というのはどうですか?」
「左腕が肩先からない男性はもともと小さな村で農家として生活していたそうです。ですが、村の近くに魔物が現れ、それを撃退するために、片腕と右手の指を4本失いました。それではもう働けないからと、自ら奴隷となり村へ金を残す決断をした男性です」
ほう、男気がある。
「でも、あの体じゃ買ってくれる人いないのではないですか?」
奴隷商人としても売り物にならない人を高値で買うことはないだろう。
「えぇ、いません。買ってもらえたとしてもタダ同然の価格でしょう」
「そこでたまたまドマルさんに出会ったと」
「……ハハ、タロー様にはかないませんな」
つまり奴隷の仕入れをしているときにドマルさんが彼を見つけそれなりの大金……一般的な労働力となり得る男性程度の金額で買い取ったのだろう。
彼は優しい男だからな。
男性はスタッズ。32歳だ。ステータス的には一般男性の平均より少し上といったところだろう。
「片足のない女性はもともと娼館で働いていた女性です」
通りで妖艶な雰囲気を感じさせるわけだ。
「娼館のオーナーと揉めたようで片足を落とされた上で奴隷落ちです。」
「揉めた要因というのは聞いてますか?」
「……その娼館の女性が教えてくれた話によると、入りたてのまだ若い娼婦が無理な労働と、高圧的なやり方に苦しんでいたのをほっとけずに、彼女がオーナーに直接話に行ったのが原因のようですね。それがオーナーの気に障ったのでしょう。彼女自身は何も語らないので、その娼館の従業員に聞いた話でしかありませんが」
ドマルさんは何故こうも理不尽な目に遭っている善人ばかりを見つけてくるのだろうか。
女性の名前はエリー。年齢22歳。この女性もステータス的には一般的な女性の平均程度だろう。
「最後にあの寝たきりの男性です。原因不明の病に侵され、余命はあと僅かといったところでしょう」
病気か。リーシャたちの患っていた不治の病とは違うみたいだが、原因も治療法もわからぬまま動けなくなったのか。
「彼はもともと小さな村で小さな商店を持っていたようですね。彼自身、少しの治癒魔法の心得があったようで、村の人からは何かあれば頼られるような人だったようです。まぁ、商店兼、簡素な治癒院といったところでしょうか」
ほう。スミスカンパニーにぴったりな人材ではないだろうか。
「ですが、彼自身が治癒できるのは簡単な怪我や病気のみ。いつからか本人が病に侵され、その治療法もわからぬままということです」
高レベルの治癒魔法を使える人がいるという教会へ行けば治せたかもしれないが、かなり高額って話だしな。村に住む人がそんな大金もっているわけない。
「村人たちも彼が病にかかっているとわかった途端に手のひらを返したような態度になり、彼から病が感染るのを恐れ、彼を奴隷商人へと売り払ったようです」
ひでぇ村もあったもんだ。彼が行ってきた行為をすべて無にするような態度だ。
小さいコミニティーだとそんなもんなのかなぁ。
「まぁ、彼自身も自分の病が何かわからない状態で感染しては迷惑がかかると思ったのか、素直にそれを受け入れたようですがね」
いやいや、優しすぎるだろ。普通なら村人たちを恨んでも仕方ない状況だろう。彼は人がよすぎる。
そんな彼はヤクダム28歳。治癒魔法のスキルがLv4という以外はいたって普通のステータスだ。魔力は一般人よりも多いかもしれないな。
「わかりました、3人とも引き取ります」
「……毎度毎度タロー様には押し付けるような形になって申し訳ありません」
ドマルさんは心苦しそうな顔をして頭を下げる。
「いや、引き取る判断をしてるのは僕ですから。それにドマルさんのこと少しは理解してるつもりですし」
ドマルさんの人の良さは理解してるつもりだ。それに俺には彼らを治癒する術がある。そんな俺とドマルさんが出会ったのはたまたまだが、たまたま出会ったことで助けられる人がいるのなら可能な範囲で救いたい。奴隷たちもドマルさんに救われなければここにいない。ドマルさんも俺と出会わなければ、彼らを買ったところで自ら処分するしかない。俺もドマルさんと出会わなければ彼らと出会っていない。すべてがたまたま。運命のいたずらなのだ。
俺は労働力を手に入れることができて、ドマルさんは心が多少なりとも救われる。それに、ドマルさんが引き取ってくる者たちはみんな理不尽な目に遭った善人ばかりだ。彼の目を俺は信用している。
「ありがとうございます、タロー様」
仏のような優しい笑みだ。
彼らの準備をドマルさんの部下たちに任せ、俺とロシャスは鱗族の女性と豚人族の青年と話をすべく応接室へと向かった。
「2人同時に連れてきますか?それとも1人ずつにしましょうか?」
「2人同時で構いませんよ」
「かしこまりました」
そう言ってドマルさんは多少身綺麗になった2人を応接室に招き入れ、自分は部屋を出て行った。
次回更新は未定です
すみません
なるべく早めに更新できるようにします
あと、この回と次回あたりでメンバーがもう少し増えます。そのあとメンバーの紹介をまとめたものが投稿できたらしたいと思います……きっとします……たぶんしますのでよろしくお願いします