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84話











「大方これで終わりだ。明日は細かいところの作業と最終確認をしたらそれで完成だぞ。」


「いやぁ、ありがとうございました、棟梁!とても立派な家が建ちました!」


あれから何日たっただろうか。ものすごいスピードで進められた作業も大詰めを迎え、ついに家が完成する。


「ははは、儂としてもいい仕事をさせてもらったよ。とくにこの木の枠で作られた風呂と、外に作った岩で囲われた風呂。今までに見たことも聞いたこともない良いデザインだ。」


棟梁も感心するほどの出来である風呂。俺もかなり満足のいくものだ。ま、俺は地球にいた頃の温泉施設をイメージしてデザインを提供しただけだが。


「木の香りを生かした作り……今まで考えたことなかったが、なかなか良いものだな。」


「棟梁にも俺の気持ちがわかってもらえてよかったですよ。」


木のぬくもり、木の香りを感じる家。そして檜のような香りのする風呂。棟梁もその作りを気に入ったようである。


「儂もまだまだ若いのに負けらんねぇ。これからもバリバリ働こうかと思うぞ!腰もよくなったしな!」


「いやいや、そこは弟子に譲ってあげてくださいよ。」


家づくりを手伝っていて思ったが、この棟梁かなりの腕前を持つ大工だと思う。いつまでも棟梁が働いてたら弟子達の仕事がいかなくなってしまうだろう。


「明日完成させたら風呂に湯を張るところを見せてもらえねぇか?」


「もちろんですよ!食事も提供しますので、完成祝いといきましょう!お風呂も入ってみてください!」


「そいつは楽しみだ!」


棟梁も上機嫌である。

良い仕事をしてるのは気分もいいことだろう。

せっかくなのでばっちゃんとカレンさん、あとは村長も誘ってみるか。

みんなの紹介もしておいた方がいいだろうしな。


完成間際の家は結構大きくなった。その家自体は木に隠れるように少し奥に作って、家から繋がる、小さめの小屋……と言ってもある程度の大きさはあるが、その建物がここに来て一番最初に目に入るようになっている。そこで、薬師の店と森の小さな喫茶店でもやるつもりだ。一応奥の家は認識阻害の結界で囲って訪れる人に認識されないようにするつもりでいる。ここにこんな大きな家があるのは不自然だし、喫茶店にする小屋の周りは自然に溢れていた方がいい気がするからだ。

家は今のスミスカンパニーのメンバーみんなが住んでも余裕がある作りで、リビングやキッチン、食堂なども広めに作った。机や椅子、ベッドなどの家具も棟梁が家に合うように作ってくれた。そして風呂もかなり広い作りで、男湯と女湯を分けて作り、洗い場に内湯、そして外には露天風呂。露天風呂からは川を眺めることができ、せせらぎの音も聞こえる。そして上を見上げれば満点の星空。贅沢な作りだ。


地下の森に繋がるゲートの付与された扉は家の2階に作ってある。この扉を使えば地下の森へいつでも行けるので、これで王都との行き来も楽ちんだ。

もちろんこの扉は今まと同じようにスミスカンパニーのメンバーにしか使えないようになっている。魔力を認識してメンバーを判断するので微量の魔力を流しながら扉を開けるのだが、魔力を完全に流さないようにしたり、他の人が扉を開けようとすれば、扉は開くが、扉の向こうはただの壁である。


家の完成が翌日に控え、意気揚々と家へと帰宅する。


「タロー様、おかえりなさいませ。今日、タロー様に面会を求め、アンドレさんが訪ねて参りました。」


家について早々、ロシャスから報告を受ける。


「え?アンドレさんが?それに面会を求める?いつも勝手に来てるじゃないか。」


「どうやら、面会を求めているのはアンドレさん本人とマリア様のようですな。」


「……え?マリア様が面会を求める?いつも勝手に来てお茶して帰るあの人が?」


「はい。つまり……。」


「つまり……?」


「絶対に家で待ってろと言うことでは?」


やっぱりそうなるか。


「そういうことだよなぁ。まぁあの人があらかじめ連絡してから来るってことはそれなりの話だろう。」


「そのように思いますな。重要な話でなければいつものようにフラッと立ち寄ることでしょう。」


そうだろうな。フラッと立ち寄りに来る王女もどうかと思うが、あの人が連絡……しかもアンドレさんを使いに面会を求める……というか、面会を求めるような相手じゃないよね、俺。王族とか貴族とか、大商人の偉い人とかなら面会を求めるのもわかるが。それに、面会を求めるのは下の者から上の者、もしくは対等な関係にある時だけだろう。でなければ命令すれば済む話だ。と、言っても俺は命令されるの好きじゃないし、命令されると反発したくなるひねくれ者だ。マリア様はそれをわかって筋を通しているのかもしれないが。


「なんにしてもわざわざ連絡を入れて、話があると言われれば家にいないとだなぁ。」


あぁ、せっかく明日家が完成すると言うのに……。


「朝早くに来ると言ってましたから、長くても昼には終わるでしょう。」


俺がなにを考えているのかすべてお見通しかのような発言である。


「とりあえず朝はマリア様達が来るってことはわかった。村の方はトーマ達に任せて後から合流することにしよう。」


なんとか完成する頃には村に帰りたい。トーマやジーナ、シロとクロがいれば作業はできるだろうし、棟梁も安心するだろう。


「それと、明日は新しい家で完成祝いをやるつもりだけど、どうかな?」


「何か特別な事をするのですか?」


「いや、新しい家の内覧をして、食事をして風呂に入ってってだけかな。」


家を見てもらうのが目的というより、場所を覚えてもらって、そこで薬師としての店を開くことを伝えておきたいことがメインの目的だ。

だから特別に何かやるというのとはない。食事を食べてもらって、風呂を自慢したらそれで終わりだ。石鹸の良さをわかってくれたら買ってくれるかもしれないし。あとは村長に魔物避けと結界の話をしなければならないな。


「それならば、問題ないでしょう。皆に伝えておきます。」


家を建てている事は言ってあったが、まだ手伝いに来ている者以外のクランのメンバーのみんなは家を見たことがない。明日初公開することになる。


「夜ご飯は向こうで祝いを兼ねてすることになるけど、特に豪勢にする必要はないからね。いつものような食事でいい。量は少し多めにしておいて。」


ジェフたちも呼ぶし、村のばっちゃんたちも呼ぶからいつもと同じような料理をいつもより少し多いくらいでいいだろう。豪勢にする必要はない。といってもリーシャたちの作る食事はその辺の貴族たちの見た目だけ豪勢な食事よりもよっぽど豪勢だ。材料は未到達のダンジョン深部や、セレブロで手に入る、王族でも手に入らないような良い物つかっているし、調味料だって独自の物を作って使っている。魔物の肉などは高ランクであればそれだけで高級な肉として評価がある。実際、魔力を多く蓄えている高ランクの魔物の肉はおいしい。そしてなにより作るのはリーシャをはじめとした料理スキルLv10の者たちだ。しかもリーシャたちはスキルに加えて独自のアイデアや工夫、そして薬師などのスキルを組み合わせて様々な材料を上手く使いこなし、加工し、最高のものを作り上げる。素材の味を最大限に引き出すこともでき、独自の調味料まで作れる。加えて、料理を極めんとする気持ちもあるのだ。その辺の料理人が敵うわけがない。ま、まだ手に入らない物は買うしかないのでそれは仕方ないのだが、この前訪れたベントレで買い物をすればさらに料理の幅も広がることだろう。


あ、デザートにフルーツ以外にもなにか作るか。

なにがいいか……プリンあたりにしておこうか……。フルーツゼリーがいいか……。


「かしこまりました。明日は皆が仕事を終えてからあちらに向かえばよろしいですか?」


「あー、んー。どうしよう。リーシャたちには料理を作った物を持って来てもらうことにしようと思うから夕方合流……いや、それだと料理いつ作ったってなるか……。」


調理器具など、キッチンの使い勝手は今の屋敷の方が慣れているだろうから作って持っていった方が今は早いだろう。でも作ってるフリくらいしないと誤魔化せないよな。さすがにマジックバックに時間停止の機能が付いていることまでバラすつもりはないし。


「オルマはもう執事として働ける?」


「えぇ、立派に執事として働けるかと。」


「じゃぁ、第一陣としてリーシャたちにはオルマと一緒に村に行ってもらって、俺が急用で村を出た代わりということにしよう。」


「タロー様の代わりにオルマを行かせると?」


「そういうこと。マリア様の話がどんなことかわからないから、ロシャスには一緒にいてもらいたいし、オルマなら大丈夫だろ。」


この世界の一般的な常識が欠如している俺だけでは判断できないことがあるかもしれないからわざわざ事前に連絡してまで面会を求めるような話の内容がどんなものなのか不安なので、ロシャスにはマリア様に会っている時にそばにいてもらいたい。


オルマには、執事としてロシャスに、騎士としてジェフに、色々と教えるように頼んでいた。ロシャスが執事として申し分ないというのなら立派に執事としての仕事をこなせるだろう。

執事として働く必要はないが、オルマが将来、どこかへ勤めることになれば、その知識や作法は役に立つし、俺が商人として働いてるときには、執事としての体面ができるとなにかと便利だろうというだけだ。


「トーマたちはいつも通り棟梁の手伝い。オルマは俺の代わりとしてばっちゃんたちに完成祝いのお誘い。オルマと一緒にリーシャたち料理を担当する者も村へ入り、新しい家から王都の屋敷へ戻り、料理をする。フランクは俺の代わりに棟梁の手伝い人員としてトーマたちと一緒に棟梁の手伝いをしてもらおう。」


たぶん、もうそこまで人手はいらないが念のためだ。


「新しい家で料理をしていないとバレませんか?」


「んー、たぶん大丈夫だと思う。家の方はすでにほぼ完成しているから、明日は新しい店の方の調整を少しするくらいだと思うし、そこはフランクになんとか誤魔化してもらおう。」


フランクは社交的で空気の読める男である。その対人スキルに委ねよう。


「そうですか。では残りの者たちは夕方頃ですね。」


そうだなぁ。それしかないよね。仕事もあるし。アランたちが店を閉めて帰ってきたら向かうことにしようかな。


「アランたちにいつもより少し早めに店を閉めてもらって、帰ってきたらみんなで向かうことにしよう。俺と一緒に村へ向かえば、都合がいいだろう。」


急用で村を出た俺がみんなを連れて戻ってくる。仲間を呼びに行ったとでも思ってくれれば納得するだろう。

それにみんなが集まれば、ばっちゃんや村長にみんなのことを紹介できる。丁度いいな。


「かしこまりました。そのように伝えておきましょう。」


「うん、頼む。あと、店をまた増やすことになっちゃったから流石に人員増やそうと思う。そのつもりでいてくれ。」


ちょっとみんなに負担かけすぎな気もするしな。もう少し休みの日が多くてもいいと思うし、こういう時王都の店を休業にしなくてもいいようにしておいた方がいいだろう。

近いうちに奴隷を買いにドマルさんのところへ行くことにして、あとはベントレで色々な物を買いに行きたい。まぁ、これは急いでいるわけではないので少しずつ店を回れればいいだろう。



▽▽▽▽▽



翌日の朝、マリア様は予定通り屋敷を訪れた。


オルマたちも屋敷を出て、朝早くから村へと入ってるはずだ。もうトーマたちとも合流してそろそろリーシャたちは屋敷に戻って来る頃だろう。


「おはよう、タロー。」


「おはようございます、マリア様。マリア様から面会を求める連絡が来たと聞いて驚きましたよ。」


「タローの耳には入れておいた方がいいと思ったのよ。突然来ていないと言われたら、ここのみんなに探し回ってもらわなくてはならないから迷惑をかけるしね。」


……俺じゃなくて、みんなに迷惑をかけるから連絡したのか。


「それにまた店が休業してると聞いていたからどこか行ってるんじゃないかと思って。」


「あぁ、すみません。もう少ししたらまた開ける予定ですので。」


店は結局1週間に一回は開けていた。理由としては買い物したがる客が多かったこと。棟梁も毎日働くのは大変だから休みの日を設定したこと。その棟梁の仕事を休みにした日を店の開店日にしていた。おかげでみんなにはいつもより少し負担をかけてしまったので申し訳なかった。


「そう。ならよかったわ。あと、石鹸とお茶くださいな。」


……ついでに買ってくのか。


「わかりました。帰りまでに用意しておきます。」


この王女様、お茶と石鹸を買うためにわざわざ面会を求めたわけじゃないだろうな……。


「それで話というのは……。」


「……魔王の出現が確認されたわ。」


……oh。ついに現れたか。









いつも読んでいただきありがとうございます。


次回更新は9月12日(水)の予定です。

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