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81話










翌日、ゲートで宿に戻り、村を出る。


そしてそのまま商業都市へと飛び、小さめの家を購入。貧民街に近く、あまり人がたくさん通る場所ではない。とは言っても、ここ界隈は低所得者が住むにはちょうどいい価格の家、賃貸などが多いので、人は住んでるし店もある。ま、家は寝れればいいという考えの人も家賃の安いこの界隈の家に住む事があるようだが。


ここにも住めないような……更に生活に困窮している者達は貧民街へと流れて行くらしい。だからここら一帯……特に貧民街へ近づけば近づくほど治安は良くないとのこと。


ま、購入した家には結界も施したし、別にそこまで特別な作りの家というわけでも、裕福な印象を与える家でもない、よくあるタイプの家なので盗みに入る者もいないだろう。


「もし店やるなら他の建物を店舗として買った方がいいだろうな。」


さすがにここで商売するのは無理……ではないだろうが、店舗としての機能はあまり果たせないだろう。品物を並べるスペースもないほどの小さい家だし、部屋も1つしかない。まぁ、注文を受けてそれを売るとかならできるかもしれないが、そんな隠れた名店的な店はこの辺では需要がなさそうである。


「とりあえず今は人手が足らないからなし。」


みんな忙しそうにしているのに、仕事を増やすのは悪いので今のところはゲート用の家としてしか考えていない。

ちなみに今日も1人。いつもなら誰かついてくるが、地下の森で育てている野菜や薬草類の種類が増え続けているため、このところ少し人手不足気味。店や家、畑に、冒険者と……やることは沢山ある。誰か1人はついていけるようにと、みんな考えてくれていたようだが、とくに危険でもないしみんなに悪いので断ったのだ。


「次はセレブロだな。」


そんな働き者のみんなを傍目に、我が道を行くタロー。


購入した家に王都に繋がるゲートを設置しておき、一旦屋敷へと戻る。


「オルじいいるかーい?」


地下の森でオルじいの住む小屋へと入る。


「おや、タロー様。どうかされましたか?」


「セレブロへ行こうと思うから道案内頼もうと思って。」


今のところ、セレブロの地理ならオルじいに敵う者はいないだろう。


「そうですか、わかりました。何か目的が?」


「あぁ、木を探しに行きたいんだ。」


「木、ですか……。」


そう、セレブロへは木を探しに行きたいのだ。

前に探索途中で見かけた、檜のような香りのする木を、村で作る家に使いたい。檜風呂と岩風呂。それを完備させたいのだ。


簡単に説明をして一緒にセレブロへと向かう。

セレブロではオルじいの背中に乗せてもらい、楽々移動。檜の香りのする木もすぐに見つかった。さすがオルじい。


てか、オルじいは元気になりすぎである。死にかけてた時とはもはや別人……別馬?だ。まったく年を感じさせない動きぶりであった。


「それでこの木を家に使うのですか?」


木を切り倒し、マジックバックにしまう作業をしていると、オルじいが聞いてきた。

ちなみに木を切るの黒刀……例の漆黒の刀である。


武器の使い方を完全に無視した野郎であった。


簡易的に黒刀と呼んでいるが、なんとも甘ったるい名前だ。


……だが、嫌いではない。


「うん、その予定。ま、風呂にこれが使えればいいかなぁ。でもやっぱり木造の家がいいよねぇ。自然の中に建てるんだし、木の家が理想。」


「それでしたら千年樹がいいかと思います。」


「……千年樹?」


なんじゃそら。


「タロー様は百年樹はご存知ですか?」


「いや、知らない。」


本当にことごとく無知な男である。


「人の街では家を建てたり、家具など様々なところで重宝されている樹です。丈夫で火にも強い、優れた樹として有名ですよ。」


そうなのか。たしかに石造り?コンクリ?とかで作られた家も多いが、木造の家も多い。


「特に貴族の間ではその木を使った家や家具が人気で、高価な値で売買されているようですね。」


「ほう、そんな物があるんだ。」


オルじいも何気に博識だよね。

人族の知識にまで及ぶ博識ぶり。さすが俺が認定した森の賢者。


「ですが、このセレブロにはその百年樹の性能を遥かに凌駕する千年樹があります。それを加工し、木造の家を建てたらどうですか?」


「よし採用。」


そんな木があるなら使わない手はないだろう。

即答の採用にオルじいも驚いていたが、すぐに笑顔になり、その千年樹のあるところへと案内してくれた。


「でけぇー。」


千年樹は予想以上の大木であった。


「これは火……いえ、魔法自体に高い耐性があり、硬く丈夫です。よほど優れたか工具がないと傷一つつかないと思います。」


……まじか。


「って、どうやって加工すんのさ。」


「……あ。」


と、言って目線を逸らすオルじい。

丈夫さだけで勧めたな。そこまで考えていなかったようだ。


「ま、とりあえず試してみるか。」


やってみたほうが早いと思い、普通の木ほどある枝を黒刀で切り落としてみる。


「うん、すんなり切れるな。」


「……さすがにそのタロー様の刀なる物には敵わないですか。」


このスミスメタルは特別な物だからな。


その後、ミスリルのナイフで試してみたが、ダメだった。

その場でオリハルコンやアダマンタイトのナイフを作って試してみると、オリハルコンとアダマンタイトでなら加工できそうである。


「ミーシャにアダマンタイトで工具作ってもらおう。」


これで加工の問題もクリアだ。

仕事を増やしてごめんよ、ミーシャ。手伝うから!


かなり希少ではあるが、オリハルコンよりは流通量の多いアダマンタイトなら少しは周りの目を誤魔かせるだろう。

それに使うのはスミスカンパニーのメンバーと限られた人だけだし、きっと大丈夫。道具に隠蔽を施せばなお大丈夫!


千年樹を念のため2本確保してセレブロを後にした。

2本もあれば十分家を建てれると思う。足りない時はまた取りにくればいいし、取りすぎはよくない。


オルじいとは屋敷の地下で別れ、俺自身は再び元街村へと向かう。


「ところで、この村ってなんて名前なんだろうか……。」


「……ロドル村じゃよ。」


「うおっ!!」」


び、びびったー。

村を歩きながら呟けば、後ろから返事が返ってきた。


「タローじゃったか?」


返事を返し、さらに質問をしてきたのは村長であった。


「村長さん、こんにちは。」


ひとまず平常心を回復させ、挨拶をする。


「えぇ、タローです。」


「それで、お主がまだおるってことは本当にこのロドル村に住む気ということか?」


あんまり本気にしてはなかったようだ。


「はい、そのつもりです。家も建てようかと思って、今日は場所を検討しに……。」


「ふむ……どこへ住んでもらっても構わん。村人も気のいい奴らばかりじゃ、すぐに溶け込めるだろう。」


どこへ住んでもいいことは変わらないようだ。


「住む場所が決まったら報告だけしてくれ。」


「はい、わかりました。」


それだけ言うと、村長さんは立ち去っていった。なんとも寛容な村である。


ってことでたまたまではあるが、村長の許可も再び貰えたことだし、土地選びの続きをしよう。


もちろん場所は森林の中。村長もそんなところに作るとは思っていないだろうが。


「ここにしよう。」


近くに川がながれ、周りは鳥の鳴き声や木々を揺らす風の音だけ。静かで空気の澄んだ場所。そして村からも歩いて10分〜15分程。遠すぎず近すぎない好立地だ。


決まったら早速仕事である。


まずは家を建てる場所を確保するために、ある程度の広さに渡って、木々の伐採……これは村で薪として利用してもらう。

ちなみに、伐採方法は風魔法利用し、自分を中心に円を描くようエアカッターを放つ。距離と威力、そして範囲を制御すればこんな風に使えるので魔法は便利である。


木の伐採と回収が済めば次は土魔法で地面をならす。そして地盤を安定させる。


「よし、土地はだいたいこのくらいでいいとして、ここに薬師として住むわけだから、村から人が来れるように道を整備しよう。」


風魔法と土魔法をメインにして、同じように村までの木を伐採、道の整備行う。

そして、道の両端に俺特製の結界石と、魔物が嫌がる臭いを発している植物から作った魔物避けを埋め込み、道に魔物が侵入しないようにする。これで村から俺の家までの道はほぼ完全に安全が保障された。


魔法様様である。


村まで道を整備して、そのまま冒険者ギルドへと向かう。


「すみません、ペギーのばっちゃんいますか?」


さすがにババアというのは怖いので、ふんわりと控えめにしておいた。


受付にいたのは今日もあの村思いの優しい女性であった。


「あら、あなたこの前の……。」


「タローです。」


「そう、タローさんですね。この前はポーションありがとう。あ、そう!タローさんが来たらポーションのお金を支払わなければって言ってたんだったわ!」


そうだ、あのばっちゃん、金くれてねぇんだ。


「マスター呼んできますね、ちょっと待っててください。」


女性は立ち上がり、歩きかけたところで、再びこちらへ振り向いた。


「あ、わたしはカレンです。よろしくね。」


ほう、カレンさんか。これからも顔を合わすことが多そうだからしっかり覚えておきたい。

カレンさんは名前を告げ、再び歩き出し2階へと向かっていった。


「お、ばっちゃん。金請求にきたよ。」


「……あんた、2回目でやけに距離詰めてくるじゃないか。」


いや、なんとなくね、ばっちゃんならいい気がして。

階段を降りてきたばっちゃんに気軽に挨拶しておく。


「ほら、ちゃんと用意しておいたよ。」


袋に入れられた金を手渡され、俺はそれをマジックバックへ入れる。


「……確かめないのかい?」


「適正な品を適正な価格で支払って貰えていると信頼してますよ、ばっちゃん。」


「相手を信用しすぎじゃないのかい?」


「いや、あとで確かめて、適正な料金でないとわかれば、その人相手には一切こちらの商品は売らない。それだけですから。」


商人のやり方としてはどうかわからないが、相手が物をちゃんと評価してくれれば相応の対価を払おうと誠意を見せてくれるだろう。

もしそうでなく、こちらを見下し、試すように適正価格を大幅に下回るような取引をしようと金をケチればこっちだってもう売りたいとは思わない。

本来ならその場で袋の中身……金額を確かめて、「安いじゃないか、どうなってんだ」「では、これくらいではどうでしょう?」など、駆け引きを繰り返し、少しでも安く手に入れようとするもんなのかもしれないが、そんなの煩わしいし、「良いものにはそれなりの対価を」と、いうのが信条の俺からしてみればそんな風に評価されていることすら相手を信用するに値しない。

相手をちゃんと評価した上での交渉なら話す価値があるが、最初から価値を下げようとするものには2度と商売しない。それが俺のやり方だ。

その一度のチャンスを物にするかしないかは相手次第。こちらを試すような奴に用はない。

信頼できるかできないか、話すに足るか足らないか、それを判断するのはこちらである。1度目の商売、それが俺にとっても相手にとっても一度きりのチャンスなのだ。


「……商人殺しな奴さねぇ。」


本当に商売の上手い人ならこんなこと当たり前にしてくると思うがなぁ〜。


「とりあえずお金は受け取りました。それで、建築のわかる人を紹介してほしいんですが……。」


「本当にここに住むんだねぇ。場所は決めたのかい?」


「それさっき村長にも言われましたよ……。」


あはは。村長とばっちゃんは絶対仲良しだ。似たもん同士的な。


「場所はもう決めたので新しく家を建てようと思いまして。」


「わかった。大工の爺さんを紹介してやるよ。ついでに私もあんたの家の立つ場所を見てこようかね。」


これからもポーションや薬品関係を買いに来ることを考えればばっちゃんの言うように家の場所は知っておいて貰った方がいいだろう。


「カレン、ちょっと空けるよ。なんかあったら村長のとこ行きな。」


はーい、と返事をするカレンさんに見送られながら、大工の爺さんの元へと向かう。




▽▽▽▽▽




「棟梁〜、お客連れてきたよ!」


大工の爺さんが住むらしい家について、ドアを開けるなり、そう大声で声をかける。


「ペギーか。俺にはもうでけぇ仕事はできねぇぞ?」


奥の部屋からボヤきつつ顔を出したのは、年に似合わぬしっかりとした体をした老人であった。けして巨漢な訳ではない、一般的な男性より少し線が細いくらいの年寄りではあるのだが、体は冒険者にも負けぬほど、筋肉質であると伺える。


それよりも、棟梁という言葉はここにも存在したのか。


「お前さんが依頼主か?悪いが、最近腰が痛くて仕事ができねぇんだ。弟子がベントレで仕事してるからそいつに依頼してくんな。」


腰か……。


「これ腰に貼ってみてください。それで痛みがまったく引かなければ諦めます。」


俺がマジックバックから取り出したのは湿布のような物だ。


即効性の鎮痛効果のある薬が染み込んでいて、回復魔法が付与されているので、患部の治癒を促す効果がある。


「……これを腰に貼るのか?」


「はい。痛みが良くならなくても力仕事は僕達がやりますのでやり方や指示を出してくれるとありがたいですが……。」



たぶん、すぐに痛みは引くし、腰の炎症も3日も貼ってれば良くなるだろう。

最悪、回復魔法かければ治る。

建築の知識はないので、専門家の人が建ててくれるとありがたいが、無理なら無理でやり方さえ指示してくれればなんとかできるとは思う。


俺はなんとしてでもあそこに木造の家を建てたいのだ!


湿布を貼るため、棟梁は奥さんを呼びながら、一旦奥へと下がる。


「うぉぉおぉおおおぉ??」


なにやら叫び声が聞こえた……湿布の作り方ミスったかな。


実際、薬は効果があるかないのかが俺にはわからない。出来上がった薬を鑑定で確認すると、効果なとが説明されているので、ちゃんと効果はあるはずだが、その効果が人体に悪影響がないのか、期待する効果が発揮されるのか、それらは未知の領域であった。

なんせ、自分を含めスミスカンパニーのみんなは異常なステータスのおかげで日常生活において怪我を負うこと確率的は低いし、異常状態になることはない。

それに人体に影響がないのか調べるには普通の人に試してみる必要があるわけで、人体の許容する範囲を大幅に超えているスミスカンパニーのみんなでは、実際の人間に使った時の影響などは分からないのだ。


「やっぱり治験すべきか……。」


どれほど効果があり、人体には悪影響がないか、それを調べるための最終試験として人間に実際に使ってもらう試験。盗賊などを数々の人の命を手にかけてきたタローが、その人たちを殺さずに利用する、有効的な活用法を考え始めていた。


奥から聞こえる悲鳴にも似た叫び声を聞きながらそんな風にぼんやり思うのであった。






いつも読んでいただきありがとうございます。



次回更新は9月2日(日)の予定です。

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