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8話

 








「白金貨100枚!? 王女様さすがにそれは高すぎでは?」


「マリアですよ、タローさん。金額について言えば、とても安いくらいだと思っています。まだ足りませんか?」


「いえいえ、十分すぎます。というか、高すぎます。値段は別にいくらでもよくて、正規の方法をとることが重要だっただけですので、王女様の……


「マリアです」


「……マリア様の価値に値段をとかそういうつもりはなかったので」


 金はあれば欲しいけど、さすがに一気に手に入りすぎるのも怖い。


「正規の手続きを取るということは、値段もそれなりに相場に近いものがよろしいかと思いまして。実際、王女という立場の相場はわかりませんが、この値段は本来の相場よりもかなり低くなっていると思いますよ?」


「ですが、値段は主人が決めてもいいようですので、そこまで出さなくても大丈夫ですよ?」


「いえ、王族が格安で売買されてしまえば、それは王族の価値が低いと言っているのと同様です。謝礼というか意味合いもあるわけですし、やはりそれなりの値段は必要ですよ、タローさん」


 くっ……反論できねぇ。すげえいい笑顔で言ってきやがる。王女ってこんなやつだったのか?


「はぁ、わかりました。それでは白金貨100枚で。あとは騎士の甲冑や、騎士、兵士の形見になるようなものが盗賊から奪った物の中にあればそれはその値段に込みということで、必要であれば持って行ってください。」


「ありがとうございます。甲冑などもあとで交渉しようと思っていたので、その提案はありがたく受けさせていただきます」


 マリア様にはかなわんなあ。さっきまであんまり気にならんかったけど、やっぱりすごい美人だし、品もあって、威厳もある。さすがだね。


「王都へ早馬にて、王女様襲撃の報せを向かわせていますので、追ってもう一度早馬を出し、王女様の無事と騎士達の再派遣を頼む予定です。王女様はそれまでこの街に滞在していただくことになりますがよろしいでしょうか」


 交渉がひと段落ついたとみて、兵士が声をかける。


「はい、そうさせていただけると助かります。あと、金銭についても手紙を書くのでその早馬にて持たせてください。あとはここの領主に白金貨100枚を借りて先にタローさんに渡してください」


「かしこまりました。では、私はこの件について領主に報せてまいりますので、これにて失礼します」


「と、いうことで先に領主から借りるお金で奴隷解放していただき、この件については終わりということで大丈夫ですか?」


「えぇ、俺はとくに問題ないですし、長引くよりはありがたいです」


「では、そういうことで」


 ふぅ。これでやっと王女様と離れて厄介ごとから解放されるぜ。


「それでは、俺はこれで……


「さて、お腹もすきましたし、お食事でも一緒にどうですか?私はまだあなたの奴隷ですしね」


 ニコッと無邪気な笑顔で言ってきた。

 主人ではないはずなのだが……。


 ちなみに奴隷解放と主人の変更はそれなりの熟練闇魔法使いにしかできないらしい。


「……はぁ。そうですね、食べましょうか」


「ふふふ、こんなこと本当は奴隷から言うのはダメなのでしょうね」


「そんなもんなんですかね、奴隷の扱いってのは。俺だったら奴隷でも仲間や家族のように接して欲しいですがね。しかし、マリア様がこの辺をうろつくわけにもいかないですし、何かそのへんで買ってきましょうか?」


「素敵な考えですね……」


 ボソッと王女がなんか言ったがよく聞こえなかった。


「え?なんか言いましたか?」


「……いえ、なんでもありません。たしかに私がこんな格好でこの辺をうろつくわけにもいきませんし、何か買ってきてもらいましょう。でもタローさんに行ってもらうのは申し訳ありませんので、この辺に詳しい兵士の方に頼みましょう」


 王女はドアの向こうで待機していた兵士に声をかけ、食事を頼んでいた。命令するような感じではなく、あくまでも申し訳なさそうに頼む姿に好感が持てた。こんな王族もいるんだなあ。マリアさんしか王族のこと知らないけど、俺のイメージが先行してるだけで、この世界の王族というのはみんなこんな風なのかもしれない。

 その後たわいもない話をしながら少し待つと、兵士が食事を持ってきた。どうやら、屋台の串料理やスープ、パン屋のパンなど庶民的な物を頼んだようだ。普段の生活ではあまり食べられない物を頼んだのかもしれない。


「それでは食べましょう」


 王女は楽しそうに言って食べ始めた。

 俺も食べ始める。存在を忘れ去られかけてた奴隷商人のドムルさんも一緒に食べ始める。


 食べ終わり、少し話しながら過ごしていると、領主のもとに向かった兵士が帰ってきた。


「王女様、大変お待たせいたしました。館の方の準備と馬車の準備が整いましたので、領主の館へお越しください。タローにはこれを。中身を確認してくれ」


 そう言って渡された袋には白金貨がたくさん入っていた。こんなのすぐ数えらんないし。


「……たしかに頂戴しました」


 適当にそんなこと言っといた。

 金を受け取ったのを確認してドムルがマリアさんの奴隷解放を行う。見ただけ奴隷解放の魔法、それになぜか契約の魔法もわかった。俺は奴隷商人もできそうである。


 そんなことを考えていると、マリアさんの手の甲にあった奴隷紋はキレイに消えていった。


「それでは我々は王女様をお連れする。王女様に盗賊から奪った物の中から騎士のもの確認してもらい、馬車に積むので荷車を確認させてもらうぞ。その時盗賊の確認と、報酬を確認して手紙を書いておくから、それをもらって冒険者ギルドで確認してもらい、報酬を受け取ってくれ」


「わかりました」


「あと、お前に言っても無駄かもしれんが、盗賊はなるべく生きて捕らえてくれ。更生する余地もあるし、強制労働させる奴隷としても働き手となる。」


 それはそうか。生きて捕らえることができれば今度からは生きて捕らえることにしよう。だが、能力差が段違いであれば別だが、命懸けの真剣勝負をしている最中にそんな余裕があるのだろうか……?まあいいか。


「タローさん、救っていただきありがとうございました。また近いうちに会えることを願っております。王都に来た際は必ず声をかけてください」


 王女はそう言い残して兵士とともに部屋を出て行った。

 また会うほどなにか気に入られるようなことしただろうか。なるべく会わないようにしよう。王都もなるべく行かないようにしよう。うんうん、きっと面倒ごとに巻き込まれる。

 荷車の確認が終わるまで少し待つのに暇だったのでもらった白金貨を数えてみたら、100枚しっかりとあった。スーパー巾着にしまっておけば、誰も大金持ってるとは思わないことだろう。ちなみにスーパー巾着とはタローのカスタマイズによってマジックバッグ化した巾着のことである。


「ふぅ……。思わぬところで大金を手にしてしまった。兵士からのあたりも強くなってしまった気がするし、早めにこの街出て次のどっか違う町向かうか」


 その前に地図とか手に入れなきゃだな。あとなんか色々買っておいた方がいいか。そもそもこの世界の常識がない……奴隷買うか。一人旅も寂しいし、この世界の常識的なことを教えてもらえるだろうし、金も手に入ったし。うん、そうしよ。明日にでもドムルさんとこ行こう。


「よし、遅くなってしまったしギルド行って、宿に帰ろう」


 兵士から手紙を受け取り荷車を引いて、ギルドへ向かう。

 ギルドで討伐証明部位と薬草などを渡す、ついでに兵士から受け取った手紙も渡す。


「こ、これは……。本当にタローさんが盗賊討伐をしたのですか?」


 受付嬢がさもありえないと言ったような驚愕した表情で尋ねて来た。


「いや、正確には違う人ですが、ある依頼を受ける代わりに討伐したあとに得られる権利をすべて譲ってもらったのです。なんか変なことしちゃいましたか?」


「い、いえ、タローさんはまだ冒険者登録したばかりの駆け出しFランクですし、本当に討伐したならかなりの実力者なのかと、びっくりしただけです。実はこの盗賊団は レッドファング といって、頭のアドルカスの討伐はAランクでも難しいかもしれないと言われてたほどの実力者だったのです」


 わお。かなりの実力者でしたわ。すげ強いとは思っていたけど、そこまでだったのか。


「そ、そうだったのですか。いやはや、俺が戦うことにならなくてよかったです」


「本当は事情を聞きたいところですけど、その感じだと盗賊については何も知らないですよね?」


「えぇ、ある人に街へ運んで事後処理を頼まれただけですので」


「その方の名前や特徴などはわかりますか?」


「いやぁ、顔はほとんど隠してて見えなかったですねぇ。背は高くてガタイがいい男ってことくらいしか……すみません」


「いえ、大丈夫ですよ。わかりました。それでは色々と事情を聞くことは省略させていただいて、あとで兵士の方にも話を聞いてみます。それと、アドルカスには大金貨7枚の懸賞金がかかっていましたので、盗賊団討伐と合わせて白金貨1枚が報酬です。準備するので少しお待ちください」


 なんとかごまかせたか。アドルカスは優秀だったんだなあ。なんとか改心して友達になってくれたら心強かったが。その前に殺してしまったけど。

 そんなことを考えていたら受付嬢が戻ってきた。


「お待たせしました。こちらが今回の盗賊団討伐報酬と、常時依頼の報酬です。確認しておいてください」


「はい、ありがとうございます」


 報酬を受け取る。またしても大金を手にしてしまった。ありがたいが駆け出し冒険者が手に入れる金額じゃないよなあ。

 そんなことを考えながら買い取りカウンターに向かう。


「ハンナさん、買い取りお願いします」


「おや、タロー。依頼帰りかい?お疲れさん!元気がないねえ?依頼大変だったのかい?」


「いやぁ、元気なんですけどね、少し疲れたといえば疲れましたね」


 毛皮や魔石などを出しながら、ハハハと乾いた笑いが出てしまった。


「まあ、そういうときはさっさと寝るに限るよ!」


「そうですね、そうします!」


 ハンナさんええ人やぁ。


「ほれ、買い取り終わったよ。荷車は戻しといてあげるから今日はゆっくり休みな。」


「ありがとう、ハンナさん。それじゃまた来ます。」


 そんなに疲れてるわけでもないけど、ハンナさんの優しさに甘えることにした。

 買い取り金額を受け取り、宿に向かう。途中、鍛冶屋で盗賊から奪った武器などを売っておいた。ゴブリンから拝借した剣は一緒に売って、盗賊から奪った物の中で良さそうなやつを数本巾着にしまっておいて、手に合いそうな物を使うことにする。アドルカスの使っていたバトルアックスも使うかわからないが、マジックアイテムだったのでもらっておいた。これで一通りやることは終わっただろう。やっと休める。

 魔道具のような物もいくつかあったが、いらないものは明日魔道具屋にでも行って売ってしまおう。まあ、麻痺耐性の付与された指輪や、敏捷性が少し上がる腕輪などばかりだったので、あまり役に立ちそうな物はなかったが。

 スキルのオーブも一つあって、中のスキルは鍛冶だったので使うことはないが、スキルのオーブがどんなものかわかっただけでも儲け物だ。これからは空のオーブがあればスキルを貯めておけるなあ。

 今日の盗賊から奪ったスキルは斧術、弓術、投擲術、夜目以外は持ってるスキルだったからポイントにしてしまった。ポイントだけで保存できるのは助かった。スキルオペレーター様様である。まぁ、そのへんはまた日を改めて整理して検証したいところだ。


 宿についてからは軽くアニーと話して、今日の夕食はいらないことを伝えてお湯の入った桶だけ貰い部屋へ戻った。


「ふぅ。なんだかんだ大変だった。とりあえず今日は寝て明日ドムルさんのとこ行ってみるか。」


 体を軽く拭いて、クリーンアップをかけてからベッドに横になる。


「明日は魔道具屋にも行ってみて、それから旅に必要そうなものも買い揃えよう。あとは……」


 明日からのことを色々考えていたらいつの間にか眠ってしまった。











2018.9.29 編集

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