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79話










「毎回思うけど、馬車の旅ってのんびりしてていいよね。」


ただ今絶賛行商中。


馬車の旅ってやることないし、座ってるだけだから結構暇なのだろうが、俺はこんな暇な時間をのんびり過ごせるのが幸せであった。


俺って旅商人になりたかったのに、みんなの住む家が必要だからと家を買い、資金稼ぐために店を出したりって、旅商人っぽくないよねぇ。


毎度のことながらそんなことを思って旅商人タローの復活である。


グラーツ王国のことも、ひとまず落ち着いて、ジェフも結局フレンテ王国の王都ナリスに居を構えることとなり、家の建設中。店も営業再開して、石鹸切らした女性たちの怒涛の買い物シーズンもひと段落したところで、再び旅を再開することにした。それでもなんだかんだで、数ヶ月は経過しただろうか。ジェフの家も完成間近だしな。


セレブロ探索は時間かかりそうだから、結局ほったらかし。今はたまに例の洞窟に鉱石取りに行ったり、必要な素材集めに行くくらいだ。あの洞窟って鉱石取ってると魔物が邪魔してくるので、ダンジョンみたいになってる可能性もある。そこもまた探索しなければならないだろう。


あと、学園には入学しようかと思っている。先日マリア様にその話をしたら、推薦状を書いてくれると言ってもらえたので、それをもらってから再び学園都市へと出向こうかと思う。


では一体どこへ向かっているのか。


「タロー様、もう少しで目的の街ですので準備してください。」


そう御者台から声をかけてきたのはロシャスである。


俺が御者台でのんびり座っているのかと思っていただろう?


non,non.


甘いぜ?


暖かい日差しと草花の匂いを運ぶそよ風を感じながら、俺は荷台で絶賛昼寝中である。


「はいはい、かしこまりましたよ、ロシャス様。」


ダラけた体を起こして、荷台を荷台として機能させるべく、適当にマジックバックから荷物を並べて行く。

それなりに商人として見られるように荷物を並べるだけだが。

並べる物としては、薬品関係やその材料になる素材、後は適当にマジックアイテムなどだ。


「おぉ!見えてきたねー!」


俺は御者をするロシャスの背後から前方を見る。


「ですから、もうすぐ着くと。」


くぅっ!ロシャスの指摘が痛い。


「話には聞いていたけどなかなか大きそうな街だ。」


「賑わってそうですな。」


今回目的にして来たのはフレンテ王国が誇る最大の商業都市ベントレである。

隣国から……というより、ベントレの南西の方はセレブロから広がる森、そして北西はそれとは別の起伏に富む大森林が広がっているため、セレブロの森の裾野と大森林の間を通る街道から来る南の国々の商人は確実にベントレを通過する。そして、北側には海があるため、商業都市から半日北に行くと港町がある。そこには今俺のいる大陸とは違う大陸からの商人が訪れるし、海からは海の幸が取れる。そして、異大陸の商人も海の幸も商業都市に運ばれる。つまり、南の国々と別の大陸からもたらされる様々な物がその商業都市に運ばれ、賑わっているのだ。それに商人が多ければ護衛をする冒険者も多く、森も近いため魔物も多く、素材を集める冒険者を呼び寄せる。冒険者としての仕事も多いのだ。それがさらなる商売と賑わいに一役買っているらしい。


そんな話を、先日お茶しに来たマリア様から聞いたもんだから、ちょっくら行ってみますかってことで来てみたのだ。


もちろん、途中の村々では薬売ったりしながらだ。

と言っても通過した村も多くなく、そんなに遠い場所ではなかったので、ゆっくり来ても5日で到着した。


門を問題なく通過し街へと入ると、商人たち、冒険者たち、そして住人や旅人が多く行き交う活気のある街が目の前に現れた。


露店や屋台も王都とは比べられないほど出ていて、それが活気のある街を作り上げていた。


そんな街を眺めながら歩いている。


「……んんん?」


いい匂いだ。


匂いにつられるようにやって来るとそこにはイカ焼きならぬ、ミーズ焼きという物が売っていた。


「こ、この匂い!!」


「にいちゃん、一本どうだい?うまいよ?」


「とりあえず1本!!あ、2本!」


この祭りを思い起こさせる醤油の焼ける匂い。まさかの醤油とのご対面である。


ロシャスの分と2本買って食べてみる。


うん、なんとなく味が少し違う気もするけど、大体醤油っぽい感じだ。


「おっちゃん、このタレに使ってる調味料ってこの辺で売ってる?」


「へぇ、にいちゃんいいところに目をつけるねぇ。これは南の方で取れる豆から作られる調味料なんだ。この辺では苦手な人もいるみたいだけど、にいちゃんは好きなのかい?」


なんと!原材料が豆とな!そこまで言われたらまさに醤油だ。

確かに醤油独特のくせ……というよりもこのミーズ焼きに使われてるタレはさらに独特なクセを感じさせる。それが苦手な人は少なくないかもしれない。


「この味好きなんだ!見つけたら是非買いたくて。」


「もう少し進んで大通り右に曲がったとこに調味料売ってる店があるから行ってみな!」


「ありがと!」


そう言って少し多めに金を払い、店を後にする。

醤油を見つけただけでもこの街に来た甲斐があったってもんだ。気分はウハウハだ。しかも、ここは港町から魚も届けられる。刺身に醤油。それが久々に食べれるかもしれない。まさかこんな近くで見つけられるとは思わなかった。


言われた通りに道を進み、ようやく見つけた調味料屋さん。そこで醤油のような調味料を見つけたが、やはりなんとなく味が違う。

これは大豆ならぬ原料の豆から栽培する必要がありそうだ。


「お姉さん、この原料になってる豆って売ってない?」


元美人お姉さんだっただろう店の店員に聞いてみた。


「ん?豆かい?あるにはあるけど、そんなもの欲しがるなんて物好きだねえ。数はそんなに多くないけど構わないかい?」


「えぇえぇ、構いませんとも。売ってください、お姉さん!」


お姉さんを強調しておく。


「まったく、私なんか姉さんなんて歳じゃないって。ほら、あるだけ持ってきな。この一袋で銅貨1枚で構わないよ!」


おおぉ?安くない?安くしてくれたのか?うんうん、きっとそうだろう。満面の笑み浮かべてるしな。


醤油小樽1つとズイムなる豆一袋を買って店を出る。後は砂糖に似たものもあったので買ってみた。砂糖とは少し違うしかなり高価だが同じように甘味として使えそうである。この原材料も調べて育てるべきかもしれない。


「いやぁ、いい買い物ができた!」


「……怒涛の買い物でしたね。」


呆れ顔のロシャス。


「これ美味しいから!絶対!だが、改良の余地がありそうだから、豆から栽培します!フランクたちが!」


「そうでしょうな。」


苦笑いを浮かべるロシャスを尻目に、俺は再び街を歩く。


「それにしても人が多い。活気があっていろんなもの売ってるのはいいけど、全部を見るのは無理だし、ちょっと大変だな。」


俺は人混みが苦手なのだ。


「どこか店で食事にしますか?」


「うん、そうしよう。時間もいい頃だし、夕食はここで食べていくことにする。」


ロシャスの提案を受け、近くにあった店に入る。

まだ夕食には少し早い為、席はまばらに人がいる程度ですいていた。


「うまい!」


たまに食べる外のご飯もやはりおいしい。しかもここは結構人気のお店らしく、後から後から客が入ってきて、俺が頼んだ物が届く頃には店は満席になっていた。


「早めに入ってよかったですな。」


ロシャスの言った通り、店に入るのがほんの少し遅れたら席は埋まってしまっていただろう。


「ほんとほんと。この店正解だ。」


「おや、そういってくれるとありがたいね。」


2人でカウンターに腰を落ち着け、食事を楽しんでいると、カウンターの向こうで酒を注ぐ店員が声をかけてくれた。バーテンダーみたいなもんかな。

店の中は冒険者や商人で賑やかになってきて、奥の厨房も大忙しだろう。


「……はぁ。」


「ミルビ、またため息かい。席に着くなり毎回それだな。いつものか?」


「あぁ、マスター。いつものお願いします。」


どうやら、バーテンダーのダンディな男がこの店のマスターのようだ。

そのマスターが声をかけたのは騎士の格好をした女性だった。ちなみにロシャスの隣に座っている。俺、ロシャス、騎士のねぇちゃんって感じの並びだ。


「溜息は体に良くありませんぞ。どうかされたのかな、お若い騎士様。」


……なんとロシャスがナンパを始めたではないか。

こんなにすぐに声をかけることなんて今までにあっただろうか?いや、ない。


「あ、すみません。楽しく食事をしている時に。」


「いえいえ、構いません。話して楽になることなら聞きましょう。」


おぉ、本格的にこの騎士のねぇちゃんを落とすんだな。こんな積極的に関わろうとするなんて……。よし、わかった。俺はいない者になりましょう。影になります!


「なに、ただ、金がないだけなんだよ。」


と、マスター。

その手にはプレートに盛られた食事。それを彼女の前に置く。どうやら彼女のいつものというのはこのプレートらしい。


「……金欠は辛いんですよ、マスター。」


「ははは、なんで騎士がそこまで金欠になるのかね。うちはこの辺でも安くて量があるを売りにしてる。騎士なんか来るような店じゃないんだがね。パン、サービスしておいたよ。」


「マ、マスターーー。」


みっともない顔で慈悲深いマスターに頭を下げる騎士。本当に金がないのだろう。


「おや、騎士様も金欠になるのですか?」


「さあ?こんなに金欠になるのはこの真面目な騎士くらいじゃないか?普通に働いていてもこんなに金欠になるとは思えないけどな。なにに使ってることやら。」


ちょんちょんと、ロシャスの肩を叩く。


「なあ、奢ってやるって言っていいよ。」


「おや、タロー様、彼女を餌付けなさる気ですか?」


こ、こいつ。人がナンパを成就させるために言ったことを……。


「冗談です。タロー様ならそうおっしゃると思っていました。」


なんて、言いながらサッサとマスターに注文していた。


俺の存在って一体……。


「あ、あのこれは……?」


注文した肉料理が彼女の前に届けられると、彼女はマスターに疑問の声を投げかける。


「隣の紳士からさ。ありがたくいただいときな。」


そしてハッとこちら……というより、ロシャスを見つめ立ち上がり、ガバッと頭を下げる。


「あ、ありがとうございます!!」


「えぇ、構いませんとも。お好きなだけお食べください。」


……ロシャスさんが懐の深さを見せる。


「そうだ、ぶどう酒も頼みましょう。マスター、彼女にぶどう酒を。」


おいおい、さらっと追加注文まで。

なるほどなるほど、酔い落とす気ですな?お主も悪よのぉ。


彼女はダバーっと涙を流しながらペコペコと頭を下げている。


「さぁ、冷めてしまう前に召し上がってください。」


ロシャスの言葉に従い、再び席に着き食事を再開する。


空腹続きだったのか、めちゃくちゃ食っていたこの騎士様。

そして食事もひと段落つく。


「あ!も、申し遅れました、私はこの街で騎士をしてるミルビと申します!」


ちなみに、ぶどう酒は3杯目。


「これはご丁寧に。私はロシャス。そしてこちらが、我が主人タロー様です。」


お?俺の紹介した?まじ?俺紹介されると思ってなくて不意打ちなんだけど!


「え、あ、タローです。どうもー。」


「え?主人?」


「はい、主人でございます。」


その疑問はごもっとも。今のロシャスは執事服ではないとはいえ、それなりの服装だ。それに比べて俺はただの平民の少年にしか見えないような服装だ。あ、もちろん素材はウルトラな物なので、丈夫ではある。旅の時はこの格好に外套だけだからな、旅商人見習いくらいにしかみえないだろう。


「そ、そうなんですかぁ〜。」


あー、これ絶対納得してない。

主従が逆ならすんなり納得しただろうに。


まさかロシャスのナンパ中に紹介されるとは思っていなかった。


とりあえず、そのまま食事をしつつ、ロシャスとミルビは会話を楽しんでいた。騎士の仕事のあれこれや、日頃の不満をぶちまけていた。ミルビの酒も進む進む。進みすぎて、もはや呂律が回らなくなってきて、ついには机に突っ伏した。


「あぁ〜あ。さすがに飲ませすぎだよ、ロシャス。これじゃナンパも失敗だ。」


「ナンパ?ナンパなど、する予定はございませんが……。」


え?あ、そうなの?なーんだ。


「しかし、さすがに飲ませすぎましたかね。でもまさか5杯でこうなるとは思いませんでしたが。」


あれれ、まだ5杯か。3杯までは結構普通だったけど、一気に酔いが回ったのか?まぁ、金がないって言ってたし、久々の酒に酔ったのかもしれない。


「マスター、彼女このまま寝てしまいそうなのですが……。」


ロシャスが近くに来たマスターに声をかける。


「こんななるミルビは久々だな。うちの従業員がこいつの家に運ぶから大丈夫だ。心配いらないよ。」


「それはまた、余計なご迷惑をお掛けしてしまったようですな。少々飲ませすぎてしまった。」


「構わないよ、これも仕事のうちさ。」


おぉ、マスターもイケメンだ。


と、思っていたらなにやら後ろが騒がしい。


「あぁ?お前が荷物落としたから今日の稼ぎ減ったんだろうが!!それなのに分け前をくれたぁいい度胸じゃねぇか!」


と、冒険者らしき男。


「に、荷物が多すぎなんだ!あんなの抱えて魔物から逃げるなんて無理に決まってるだろ!」


それに対抗するように訴えてるのはまだ幼さを残した少年である。


「落としはしたけど、荷物は運んだんだ!報酬くれよ!でないとみんなにパンが買えない!」


うむ、一理ある。


「落としたんだから契約は無効だ!依頼に失敗したら違約金を払うのが常識。それを報酬なしとするだけで勘弁してやってるんだから諦めろ。」


こちらもこちらで一理ある。


ま、契約の内容を正確にしないどっちもどっちって感じだな。


「なぁ!頼むよ!」


そうすがる少年を蹴り飛ばす男。


「しつけぇんだよ。」


それでも怯まずすがる少年を男は殴り、踏み潰し、少年はただのサンドバッグになり始めた。


「あんまり、やりすぎたら死んじゃうよ?」


俺はサンドバッグになりかけた少年と男の間に入り、男の拳を止める。

拳を止められたことに疑問を持たないところを見るとかなり酒が入っているのか、それともそれはそれと納得しているのか。


「あぁ?なんだおめぇは?」


「……な、なんだと言われても食事をしてただけの者なんだが。」


そんなこと聞かれても、それ以外なんと言えばいいのか。


「ここは食事を楽しむ場です、殴り合いは他でやってください。」


せっかく美味しい食事と、酔いつぶれた騎士を楽しんでいたのに、とんだ迷惑である。よそでやって欲しいものだ。


「邪魔だ、そこをどけ。」


「やるなら外でとお願いしているのです。」


「なんだ、代わりにお前がやるってか?あぁ?」


えぇ、なんでそーなんの。あたまの構造どうなってるの。


「よし、ならお望み通りお前をボコボコにしてやるよ。ちゃんと外でな。今から広場に来い。」


そう言って仲間を連れて店を出る冒険者集団。


なんか勝手に決めて勝手に出てったのだけど。

そもそも広場っていったいどこなのだろうか。この街に来たばかりの人間に不親切な奴らである。


俺はとりあえずうずくまる少年にポーションを飲ませて回復させ、銀貨を握らせて帰らせる。あれだけあれば今日の稼ぎである報酬程度にはなるだろう。


そして俺は外へ出て、頭を下げ走って行く少年の背中を見送った。












いつも読んでいただきありがとうございます。



次回更新は8月25日(土)の予定ですが、間に合わなかったら日曜日に更新します。

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