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78話










「従者になんてなんでなりたいの?」


自分がこの世界に友達が少ないことに気づかされたが、なぜ、友達ではなく、従者なのか……それは疑問であった。

もちろん、クランスミスの他にもマリア様や、ギルドの受付嬢、他にも冒険者ギルドで顔を合わせば言葉を交わすような人はいる。だが、一緒に依頼をこなしたり、休日を楽しむような人はいなかった。


とはいえそれは、彼女が今の今まで自分のレベルを上げること、強くなることに必死で休日というものを取っていなかったり、依頼ついでにタローの家からセレブロへ行くことが多かったことに由来するのだが……。


故に、今まではクランスミスのみんな以外には1人の方が都合のいいことが多かったのだ。


が、少し前タローに、


「既に過去の勇者の5倍以上は強いんじゃないか?」


と、言われたことがある。

それが事実なのかシズカにはわからなかったが、なんとなく焦っていた気持ちが落ち着き、自分が精神的に余裕が出てきたのも事実であった。


「シズカ様は勇者ですから。お一人の行動より、従者を連れていた方が体面的にもよろしいかと。」


リュトスは元貴族ということもあり、そういう世間体には敏感だ。


「あとは、助けてくれたお礼がしたいの。勇者であるシズカ様にお金や物なんて必要ないだろうし、力不足かもしれないけど、私たちできることは、この救ってもらった体でできることだけだから。」


「そ、そんなお礼なんていいのに……。」


シズカはお礼など全く必要としていなかったし、考えてもいなかった。

だが、助けられた側はそういうわけにもいかない。


「……僕には打算がある。シズカ様といれば強い魔物と戦える。僕はもっと強くなれる。」


ヤークは強い意志のある瞳でまっすぐにシズカを見つめていた。


シズカとしてはこれくらい打算的の方が信頼できる、と思い、思わず笑みがこぼれた。


「少し、考えさせて。あと、暇な時でいいからついてきてほしいところがあるの。」


そう言って、今日とにかく楽しもう!と、再び4人はジョッキをぶつけ合った。


従者にするか友達になるか、それはわからないが、とりあえず今は楽しもうと思える、シズカにとって楽しいひと時であった。




▽▽▽▽▽




「ほーーー。なるほど。」


そんな話を聞いて3人を見渡す。


「それで、なんで連れてきたの?」


「えっと〜……。」


ちょっと目線を逸らし、言いづらそうにするシズカさん。


「どうしたらいいかわからなくて……勇者としての振る舞いとかその……。」


えぇー。こういう優柔不断な感じは変わらないのな。まぁ、悪くはないか。


「つまり、従者にするか迷ってるってこと?従者が必要なのかわからないしって感じか。」


「その通りです!」


ドヤ顔を見せつけるシズカさん。グラーツ王国で見せた威厳のかけらもない。


「ん〜、従者かぁ。3人ともCランクに成り立てでしたよね?」


「そうだ!」


……こ、この貴族上がりめ。返事だけは一人前だ。

ていうか、シズカさん的には従者とかあんまり性に合わないって感じなんだよなぁ〜。

どちらかといえば友達が欲しいなって感じ。


「従者としては力不足。」


ポツリとライエがつぶやく。


「な、なんだと!?」


ほら〜。すぐ気にしちゃうんだからそういうこと言っちゃだめなんだよ〜。

まぁでも事実、従者としては実力不足だな。


「こ、こら!座って!めっ!」


めっ!って。

そんな叱り方で……


「す、すみません。」


お、おぉ?躾できてる……。


リュトスという少年はシズカさんに従順なようだ。

うーん、3人ともいい人そうではあるんだよなぁ。カラナは気が強そうだけど女子同士シズカさんとは仲良くなれそうだし、ヤークは勤勉で優しい感じ。それに13歳でCランクは伊達ではない。問題はリュトスだけど、シズカさんには逆らわない気がする。もはやシズカさんの騎士って感じだな。シズカさんが手綱を握っている限りは大丈夫そうだ。


「まぁ、従者うんぬんって対外的にそう見えてればいいし、友達になればいいんじゃない?」


その言葉にシズカの顔がパァっと明るくなる。


「そ、そうだよね!従者とかよくわからないし!」


だそうな。


結局はカラナとヤークは友達としてやってくと了承し、リュトスだけは頑なに「俺はシズカ様の従者だ!」と言い張っていた。まぁ、好きにさせとけばいい。そこには彼なりの誇りがあるのかもしれないし。


「そ、それで、ヤークの弓が折れてしまったから、弓を買いたいんだけど……。」


「んー、弓かぁ。弓使う奴いないしなぁ〜。」


弓を使うくらいなら、魔法を使えば事足りるってのが俺の考えだし、なんだかんだ弓を使いたがる奴いないからミーシャも作ってなかったよなぁ〜……。


「シズカ様、ここで買うのですか?というかこれほどのお屋敷……彼は貴族様でしょうか?」


カラナが疑問を口にする。


「あれ?表の店見なかった?ここはタローくんの家だけど、タローくんは商人だよ?」


「え?そ、そーなんですか。こんな大きなお屋敷に住むなんて立派な商会なんですねぇ……。」


勝手に納得してくれたが、そんなことはない。

ていうか、冒険者なのに知らないのかな?


「味付きのポーション知らない?」


「え?あ、知ってます。でも使ったことはないですね。高いから手が出ないかなあと思って。」


おいおい、カラナさん。値段も調べずに思い込みで判断するのはよろしくないなぁ。


「値段はそんなに変わらないよ。その味付きポーション売ってるのが俺の商店です!今後ともご贔屓に!」


それを知らなかった3人は驚いたようだ。有名なポーションを売る店の店主がこんな若いとは思っていなかったのだろう。


「……あ。」


弓あるわ。それも何種類かあるな。


「……あ?」


シズカさんが首を傾けながら復唱する。


「ダンジョンで出てきたやつとかでいいならあるよ。」


倉庫にほったらかしにしたままの奴がある。誰も使わないし、店でも売ってないはずだから、どっかに埋もれてるはず。


「なんか、適当に見繕っとくからまた後日来て。いつでもいいから。」


「わかったわ!ありがとう!」


そう言って帰っていくシズカさんと3人を見送り、俺は早速倉庫へと向かった。




▽▽▽▽▽





「ん〜。山のようだ。」


倉庫にはダンジョンで出てきた武器やら魔道具が所狭しと並んでいた。

マジックバックに入れとくよりも、誰でも見て選んで使えるようにと倉庫にしまって置いてもらったがここまで色々と増えてるとは思わなかった。


「とりあえず弓……あった。」


弓は弓で纏めて置いてある。

この倉庫を管理してくれているみんなにマジ感謝。


「結構あるな……。」


とりあえず良さそうなものを3種類ほど選んでマジックバックへ放り込む。


「あとは防具に剣に杖……あ、あとローブだな。」


ミーシャやナタリーに頼んでもいいのだが、作るとなると時間もかかるし、3人に不釣り合いな物になってしまう。

まぁ、隠蔽してそれなりのものに見せればいいのだが。

それでもとりあえず、実力がつくまではここにあるもので十分な性能だろう。


3人には獲得経験値増加スキルを付与したネックレスを渡すつもりでいるし、すぐに実力も付いてくるはずだ。その時シズカさんの装備と並んで見劣りしないくらいの装備を揃えればいい。

シズカさんの勇者装備も基本的に冒険者としての依頼する時や魔物討伐する時とかは着ていないようだし、勇者として表に立つ時くらいで十分だしな。


まぁ、実戦で使うにも申し分なさ過ぎる性能だし。


ちなみに3人に獲得経験値増加スキルの付与したネックレスを渡すのは期間限定にする。

シズカさんに関わるからシズカさんと並んでいてもおかしくない程度……勇者を超える程度の強さまではレベルもステータスも伸ばしてもらうが、そのあとは自力でなんとかしてもらいたいところである。そこまで自分の仲間でない者を信用できないし、何かあった時に対処できない。他の勇者を超える程度なら勇者と一緒にいることでなんとかごまかせるだろうし、多少は強くなってもらわないと逆に違和感ある。それにシズカさんも周りに信頼できる強い仲間がいれば安心できるだろう。


「よし、こんなもんでいいな。」


とりあえず、良さそうな物を一通り倉庫からマジックバックへ入れた。あとは3人が選べばいいだろう。




▽▽▽▽▽




「……さっそく来たのかい。」


「……ぶ、武器がないと仕事できないじゃない?」


そんなこといって誤魔化してはいるが、なんだかんだ仲間ができて嬉しいのだろう。ワクワクしているのが顔に出ている。

ま、ヤークは弓がメイン武器みたいだし、依頼をこなすなら早く手に入れた方がいいのは確かだ。


「ま、準備はできてるからいいけどね。」


そう言って庭へ連れ出し、弓や剣などを並べていく。


「「「……。」」」


並べられた一級品の武具たちに言葉を失う3人。


「さ、好きなの選んで。金はシズカさんから貰うから気にしないでくれ!」


「え、ええぇーー!?」


「えぇって言われても3人にはまだ払えないだろうし、シズカさんが払うしかないじゃないか。あ、使ってみて調整とか必要なら言って。大体ならなんとかなると思うから。」


絶望の表情を浮かべるシズカさんを知ってるのか知らないのか、3人は夢中になって自分の欲する物を選んでいた。


しばらくたち、選び終えてみれば、3人とも全身の装備がフルチェンジしていた。


リュトスはミスリルの長剣に小型の盾、それにドラゴンの骨を使ったと思われる防具。長剣は言うまでもないが、ドラゴンの骨を使った防具はなかなかワイルドでカッコいい。それに何ドラゴンなのかわからないがかなりの衝撃と斬撃に耐えられる仕様になっているようだ。


カラナはエルダートレントから作られ、そのエルダートレントの魔石が組み込まれている杖。魔力の消費を抑え、威力向上できる優れ物。それにデーモンスパイダーの糸とアースリザードの皮膚を使った赤いローブ。これは魔法耐性に加え防刃もあるので良いものだろう。

ヤークはワイバーンの皮鎧に、風魔法の付与された弓、それとミスリルのナイフだ。ワイバーンの皮鎧はとても軽いが魔法や斬撃に耐性が高い。風魔法の弓は弓の飛距離を伸ばし、命中率を上げる。それに矢に風魔法を纏わすことができ、スピードと貫通力を上げてくれるらしい。なかなかに凶悪だ。


3人とも装備はSランク冒険者クラスになってしまった。

そしてまったく遠慮しないところが逞しい。


「うん、決まったね。あとはこれ。」


3人にミスリルのプレートを使ったシンプルなネックレスを与える。


「結界魔法と各種耐性を付与してあるネックレス。効果は半年。半年したら返しに来て。その時シズカさんに見合う仲間になっていたらまた新しいのを進呈しよう!」


ま、加えて獲得経験値増加も付与してあるけど。


「こ、こんな高級品を……。」


ネックレスを受け取ったリュトスの手が震える。

よく見ると3人ともだ。


「武具の時にはそんなことなかったのに……。」


あんだけ超級な武具を遠慮なく装備したのに今更何を言っているのだろうか。


「ぶ、武器は一流の武具屋に行けば一流の武器を見ることができる。で、でもこれほどのマジックアイテムはなかなか手に入らない……。」


そんなもんなのか。まぁたしかに結界に全耐性だもんな。希少かも。

でも死んでもらっちゃあこまっちゃうわけですからよ!


「ま、あるから使ってよ。半年後までに同じような物を探しておくから。」


あくまでも、商人として手に入れたことにしておく。


「さーて、シズカさん。お時間ですよ。」


「……ひっ!」


「お会計はこちらでございます。」


「……いやぁぁぁぁあーーー!」


ま、値段わからないから適当に決めたし、だいぶ安く済んでいることだろう。


あとはあの3人に稼いで返してもらってください。


「……ぶ、分割で。」


「かしこまりました。」


ちゃんと払おうとするからえらいよね。

形だけであって貰う気は最初からなかった。このやりとりをしていることを3人が理解していればいいさ。


「び、貧乏勇者……ぷぷぷ。」


ま、面白いからとりあえず笑っとくけど。


あー、あとは一応マリア様にも報告しとこ。シズカさんの後ろ盾になってるわけだしね。

いつか3人がマリア様と顔合わせをする日もくることだろう。


ダンジョンで見つかるマジックバックのいいやつを3人にも与えて、シズカさんが金欠ショックから復活するまでお茶して過ごした。


シズカさんを中心に頑張って3人に強くなってもらって魔王の討伐してもらわなきゃ!


俺は動きたくないし。


俺の次の行動は安住の地を探すと決めているのだ。


もしくは学園に入学を!


あー、あと全然進んでないセレブロ探索もしたい。


さーて、魔王のことは勇者と愉快な仲間たちに任せて俺は目指せスローライフ!












いつも読んでいただきありがとうございます。



次回更新は8月22日(水)の予定です。

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