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76話



暑い日が続きますね…………










「タロー様、お客様がお見えですよ。」


「……赤い髪の王族の人とそのお付きのじいやでなければ喜ばしい。」


あれから数日経って、いつも通りの生活を送っていた。


「マリア様ではありませんよ。」


ロシャスとリーシャはお面を再び装着し、シャリオン様達を無事に王都へ送り届け、その日のうちに帰ってきていた。


ちなみに、直したとはいえ、少し前とは景色の変わった平原や、響き渡る轟音について、シャリオンの周りにいた者が説明を求めたが、それをシャリオンが止めてくれたようだ。


空気の読める男はカッコいい。


そして、俺の伝言通り、依頼の報酬を受け取ったこと、タローの接触はこれで終わると伝えた。まぁ、なんかあれば遊びに行くとは思うけど。


あとはなぜか、シャリオン様からシズカさん宛の手紙を渡されたという。まぁ、せいぜい青春しやがれってことで、それはシズカさんが来た時に渡すように言っておいた。


「よし!なら俺が出迎えよう!」


寝転がっていたソファから飛び起き、玄関へと向かう。


1つ言っておくが、決してダラけていたわけではない。おやつを食べて腹が落ち着くのを待っていただけである。


ちなみにおやつはホットケーキを作ってみた。なかなか上手くできたし、女性陣には大好評。メープルシロップも蜂蜜もあるので俺としても満足である。ま、そのあと女性陣が自分達で作り出来上がった物の方がものすごく美味しいものだったことは言うまでもない。


玄関にたどり着き、ガチャっとドアを開けると、そこには見知った2つの顔が並んでいた。


「……。」


バタン。


とりあえず、ドアを閉めてみる。


「ロシャスさん、なぜ2人がここに?」


後ろをついてきたロシャスに問うてみる。


「近所に越してきたので挨拶に伺ったと聞きましたが?」


なにか不都合がございましたか?みたいに平然と答える魔族の執事。


「いやいやいやいや、おかしいでしょ!なんでジェフとリリス様がここにいんの!」


「……。」


首を傾げるだけのロシャス。


……絶対こいつ確信犯!


しかも近所に越してきたって言ってたよな。距離と時間考えれば馬車とかできたわけではないことは明白。ゲート使ってきたってことだろ?あの日、ロシャスと一緒にラスタを置いてきたからそれで来たってことだろ?つまりあの日からこの王都ナリスにいるってことじゃないか。


「……。」


ロシャスを睨みつける。


「……。」


ニヤッと笑う執事。


はい、確定。


「……まあいいや、とりあえずリビングに案内して。」


自分でドアを開け案内することをやめ、先にリビングへと向かう。


あの時の涙を返してくれ!!!!


リビングに案内された2人は 席に着く。

ちなみにシシリーさんも来ていた。


「それで、何か御用でしたかお2人さん。」


リリス様は表情が明るく、清々しいほどの笑顔。

それに比べジェフは申し訳なさそうにその大きな体を小さく丸めている。


「まず、タロー様にお礼を。私達を救っていただき、国を救っていただきありがとうございました。」


頭を下げるリリス様。


「私達は依頼を全うしただけです。全てはシャリオン様のご決断のおかげかと。あとは個人個人の運の強さですかね。リリス様もご無事でしたわけですし。」


ジェフはドマルに買われていなければ生きていなかった。ジェフが死んでいれば俺はジェフにも出会わなかったし、ジェフの国のことなど、どうでもよかった。偶然にもシャリオン様と出会い、リリス様が生きているとわかっていなければあそこまで積極的に関与はしなかっただろう。すべては運命のいたずらだ。


「それでも感謝いたします。タロー様のお力がなければ私はここにいないのも事実ですから。」


……それはそうかもしれない。


「それと、私はもうすでに王族でもなんでもないただの一般的な平民です。様付けなどいりません。リリスとお呼びください。」


「わかりました。それでは俺のこともタローと。」


うんうん、お友達ができました。


「それで……近くに引っ越してきたと聞きましたが……?」


「はい、あのあとすぐこの街に連れてきてもらい、ロシャス様に色々とお世話になりました。」


「……。」


ロシャスの方を見ると、彼は目線を逸らし、ただ立っている。


どうお世話になったのかと詳しく聞いてみると、この街に連れてきてもらい、宿を紹介され、翌日には商業ギルドで家探しをしてくれたようだ。なんとも働き者である、我が奴隷。

そして新たな居住として手に入れたのはこの屋敷から100メートルも離れていない距離にあるらしい。ほぼお隣さんである。近すぎだろ。


「家は古く、老朽化が進んでいたので建て直すことになりました。」


「そうなんですか。それなら自分で好きなような家を建てれるからいいですね。」


金はかかるだろうが、風呂を設置したり、好きなように部屋を作り、キッチンを作り……考え始めたら止まらない、一から作るマイホーム。いつか俺も作ろう。


作るなら田舎がいいな。うん、やっぱり山の近くの田舎の村の片隅とかその辺がいい。

そこでのんびりとスローライフ。

いやいや、これは早急にいい土地を探さねばなるまい。


「……若。」


妄想を繰り広げていたら、今まで黙っていたジェフから声があがる。


「申し訳なかった!!!」


と、思ったらソファから立ち上がり、地面に膝をつき思いっきり頭を下げる。俗に言う土下座である。


「……。」


なんて言葉をかければいいかわからない。


「……若の気持ちも考えずに、俺は目の前のことで頭に血が上ってました!若に忠誠を誓ったのに若を信じ抜くこともできなかった!許してくれ!」


俺の沈黙に言葉を続けるジェフ。


「俺が勝手にやったことだからいい。まずはソファに座ってくれよ。」


ロシャスに頼んでジェフをソファに座らせる。


「まず、俺はただの商人だ。忠誠なんざいらない。邪魔くさいだけだよ。それよりももっと対等な絆の方が嬉しいね。」


忠誠ってもはや洗脳に近い感覚がある気がするなぁというのが俺の考えである。


「それにジェフはもう俺の奴隷じゃない。好きに生きてくれれば良いさ。」


俺はジェフを信頼しているから彼に与えた力をむやみに振るったりはしないだろう。


「ま、これからは対等な友達でいいんじゃないか?嫌ならいいが、そうしてくれると俺はありがたいのだが?」


ジェフに語りかければ、彼は目から涙をこぼし、頷く。


「……ありがとうございま…す、ありがとう。」


彼のこれからの人生が明るく楽しいものであれば俺はそれでいいのだ。


それからはこの国のことや、色々な雑談の話をした。

家の建築もこれからのしばらくの生活も俺がジェフに与えた餞別があれば足りるだろうし、リリスもシャリオン様からいくらか生活費を渡されたようだ。

結局、ジェフは今まで通りクランスミスとしての活動を基本に冒険者稼業などで生活していくらしい。


……何一つ今までとの違いがない。


俺の涙はなんだったのだろうか。


「パパーーー!!!」


そんなことを考えていたら、パパレーダーを搭載しているオルガが久々のジェフの反応を感じ取ったのか、リンビングへ突入してきた。


「パパ!」


「おう、オルガ、いい子にしてたか?」


「してたよー!いっぱいお手伝いもしてる!」


「そうか!えらいなぁ。」


すっかりパパポジションに定着しているジェフの顔は緩みっぱなしである。


「……オルガ、俺はこの家を出ていかなければならないんだ。」


「……パパどっか行っちゃうの?」


緩みきった顔が真面目な物へと変わったと思ったらそんなことを話し始めた。


まぁちゃんと話しておくべきだよな。

と、言ってもいつでも会えると思うのだけど。


「……やだ!やだぁー!!!」


オルガはジェフがいなくなるということを理解した途端泣き喚く。


「すまん、オルガ…。」


まぁそれしか言えないよなぁ。


「やだよ、嫌だよぉ〜。」


ジェフの胸で泣き続けるオルガは本当に彼のこと慕っていたのだろう。


「……連れてけば?」


そんな様子をどこか冷静に見ていた俺はそう告げる。


「……え?」


ジェフは悲しみから一転、目をまん丸くして俺の方を見る。


「だから、連れてけばいいんじゃない?オルガは俺の奴隷ではないし。リリスとオルマが許可すればだけど。」


だってなんか、すげー遠くへ行ってしまう、もう2度と会えないみたいな別れ方してるけど、お隣さんだぜ?しかも仕事でここへも来ることだろうし、なんならほぼ毎日会えるだろ?

俺の予想ではオルマは許可してくれるだろうし、実質リリスの判断だけだ。


「オルガちゃん、私とジェフと一緒に暮らす?」


まだ泣き続けていたオルガにリリスが優しく問いかける。

その言葉にオルガは泣き止み、リリスを見つめ、何か考えるように少し間が空く。


「……ママ?」


そしてオルガの口から出たのはそんなセリフであった。


「……っ!!」


そんな愛らしい純朴な瞳でママ?と言われたリリスは胸を抑えるように後ろへ怯み顔を赤くする。

つまり簡単に説明をすると、今の言葉の攻撃に「グハッ!!」っとなったわけである。


「パパとママと一緒?」


「……えぇ、そうよ?どう?一緒に暮らす?」


まだ赤い顔のまま、なんとか返事を返す。


「お兄ちゃは?」


「お兄ちゃんはここで暮らすわ。でも毎日会えるわよ?いつでも会えるの。」


「……ならパパとママと一緒がいい。」


はい、オルマ完敗。

親の愛に飢えた少女は兄から卒業して父親と母親を手に入れたようだ。


そして、結局ご近所さんには4人の家族が引っ越して来ることとなった。

あ、もう1人はシシリーね。シシリーもリリスについて国を出てきているとのこと。まぁ、そうでなければ今ここにいないか。


結局、宿代が勿体無いので、家が完成するまでしばらくはこの屋敷に住むことになり、2人ほど人が増えたが、まったく今まで通りの生活が始まることになった。


ちなみに、オルガの件はオルマも簡単に承諾してくれた。


「ジェフさんがいれば安心ですしね。それにすぐ近くですし、昼間は結局ここにいるのですからあまり変化ないですから。」


実に大人な少年だ。


「ですが、ジェフさんとリリスさんの邪魔をしないかが心配ですよね。新婚生活の家庭に余計な亀裂を生まないか気がかりです。とくにオルガは2人と一緒に寝たがるでしょうし。」


つまり、彼はジェフとリリスの夜の営みの心配までしているのである。

大人すぎるぜ、オルマさん。

できる男というのはきっとこういうイケメンなのだろう。


ま、そんな問題はあの2人に丸投げします。


リリスもシシリーもこれからはお店の手伝いや料理の手伝いをしてくれるようなので、従業員として給金を与えることにした。とくにうちの料理の美味しさに感動して積極的に学び取ろうと頑張っている。



▽▽▽▽▽



「それで、タロー。また新たに奴隷を買ったのですか?しかもあんな女性を2人も。」


あんな女性とはどんな女性か。

そしてなぜか毎回責められる俺。

お茶をしにきたと毎度のことように店に訪れる王女様を屋敷のリビングへ通した途端この質問である。


「い、いえ、奴隷ではないんです。ジェフのお嫁さんとそのお付きのメイドさんであります!」


ビシッと敬礼し報告をする。

店で働くリリスとシシリーを見かけ、それについて聞かれていることは一目瞭然である。


「……そ、そう。ってタロー、ジェフといえばあなたの奴隷でしょ?奴隷が結婚?」


「あ、奴隷は解放しましたので。」


えぇーっていう目を向けられる。


「……まぁいいわ。タローですしね。」


えぇー。


それで納得するんかい。


「それにしてもメイドがついてきてるということはそれなりの身分なのかしら……?それにあの顔どこかで……。」


あぁ、王族同士、何かの縁で会ったことがあってもおかしくはないか。


「元それなりの身分だと思いますよ、たぶん。メイドも一緒に来ましたから。」


まぁ、それについてはわざわざ教えなくてもいいだろう。マリア様が気付いた時にでも説明すればいい。

今は詳しく知らないとだけ伝え、それなりにごまかしておく。


「うちの新しいおやつ食べてください。」


ごまかす時は甘いものを出せばうまくいくはず。このタイミングで出してきたマーヤに感謝。


「これは……?」


「ホットケーキです。お好みで蜂蜜かメープルシロップをかけて食べてみてください。」


最近のじいやは出された食べ物を鑑定することもなくなった。


そして甘い匂いつられて一口食べたマリア様はとろけるよう顔をし飲み込んだ後は大興奮。おいしいとか食べたことのない味だとか、パンとは違うとか色々なことを言いながら夢中で頬張っている。


「タローよ、俺にはないのか?」


俺もお茶を飲みつつマリア様のそんな様子を眺める。


「……タローよ。」


マリア様の横にいる甘いものに目がない巨漢の男が声を発するが無視。


「……タロー様ァァーー!」


泣きそうな顔で叫ぶ男がうっとおしい。

ほんまにこの人騎士団の隊長でっしゃろか?

ダンジョン都市で、勇者の訓練を終え、魔王討伐の準備を整えるため、王都へ帰還したアンドレさんと勇者達。

ここからは必要な物資や武器武具、魔道具などを整えつつ、勇者は王都周辺で訓練を続けるそうだ。

ラビオスのダンジョンは85階層まで攻略したらしい。Sランクパーティーと近衛騎士もいる、大所帯での攻略ではあるが、短期間でそこまで攻略できたのはすごいことだろう。そしてそれが現在の最高到達階数。

セレブロでは浅いところでもAランクの魔物が普通に歩いてるし、最低でもBランクレベルの魔物しか存在していない。しかもAランクの魔物が群れになっていたりもする。

それに比べ、ダンジョンは階層進んでもランクの低いモンスターもある程度いるし、階層のボスが高ランクなだけで、高ランクの魔物がそこらじゅうに跋扈しているわけではない。

さすがに90階層を超えると、高ランクの魔物が普通の階層に増えてくるが、セレブロほどではない。

勇者を含めてのダンジョンの攻略具合からもセレブロが未開の地である理由が頷ける。


そんなことを思っていたら、焼き上がった次のホットケーキを持ってマーヤがリビングへと入ってきた。

それをアンドレさんに出すように言うと、マーヤはアンドレさんの前に皿を置く。


「……あぁ、女神。」


手を組み、神に祈るようにマーヤを崇める馬鹿男がそこにいた。


「うまい!うまいぞタロー!!」


そしてすぐさま口に運ぶアンドレさん。

そして目の前にはホットケーキに夢中で食らいつく王族と近衛騎士が出来上がる。


……この国大丈夫であろうか。


ただただ、心配になるのであった。










いつも読んでいただきありがとうございます。


次回更新は8月15日(水)の予定です。


まだまだ暑いので熱中症にはお気をつけて……

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