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73話











ジガルが兵を率いて王都を立ち、平原へ向かっている頃、タロー達は城へと潜入していた。


「それじゃあ手筈通りに。終わったらまた宿で会おう。」


隠密スキルで姿を隠し、城に潜入したところで二手に分かれる。


「さてさて、囚われの王女様がいるのは……あの塔か?」


「……そうだと思います。」


うむ、もともとこの城で働いていたとなればジェフに案内してもらうのが早いな。


城の中をジェフに先行させその後を追う。


途中何度か使用人達とはすれ違ったが、騎士などは見かけていない。

よほど限られた人数しか残していないとみえる。


「この階段を上がれば……。」


塔の中へとたどり着き、螺旋状に上へと繋がる階段を見つけた瞬間、ジェフがスピードを一段階引き上げて階段を駆け上がる。


「待ってくれよ〜。」


タローは情けない声を出しながらその後を追う。

高レベルと高ステータスにより疲れるという感覚はあまりないのだが、最上階まで続く階段を見てタローは辟易していた。


「リリス!!」


最上階へたどり着いたジェフはドガッ!と厳重に鍵を閉められていた重厚なドアを蹴破り、部屋の中へと飛び込む。


「ッ!!何者ですか!!」


その大きな音を聞き、咄嗟にリリスの前に立つメイドの女。突然の侵入者を見極めようと構えている。


「はやいよ、ジェフ〜。あと、ドア壊すなよなぁ〜。」


と、遅れて辿り着き、呑気な声でタローも部屋へと入る。


しかし、メイドとリリスは何が起きたのかわからず、何かを探すようにキョロキョロと辺りを見渡し続けていた。


「それと、隠密スキル解除しないと見えないと思うぞ。」


と、隣で立ち尽くすジェフにとりあえず声をかける。

隠密のことをすっかり忘れていた様子のジェフは慌てて隠密スキルを解除する。


「……ジェフですか?ジェフなのですか?」


キョロキョロと辺りを探っていた視線が、目の前に現れた男に注がれる。

そして、それが自分の知った顔だとわかると、リリスはワナワナと震えるように声を発する。


「……リリス、無事で何よりだ。」


「あぁ……ジェフ!!」


リリスは自分を守るように立つメイドを突き飛ばしながら、ジェフへと駆け寄り、抱きつく。

その顔には涙が止めどなく流れているのが見て取れた。


メイドは突き飛ばされ態勢を崩してヨロヨロとしている現状に顎が外れそうなほど驚いている模様。

なんとなく、残念系女性な雰囲気が彼女から漂っていた。


「ジェフなのね?幽霊ではないのね?アンデットでもないのね?生きてたのね!あなた生きていたのね!無事だったのね!!」


もう二度と会うことが叶わないと思っていた相手に抱きつきながら、それは見事に言葉を並び連ね早口にまくし立てる。


「でもあのとき手と足が……。」


ようやく冷静さを取り戻したリリスは、ジェフが五体満足の状態であることに気づく。


「……運良く、元どおりになりました。」


「……よかった!よかった!」


失われていた手と足、それもリリスの目の前で斬られた部分をペタペタと触り、本当に戻っていることを確かめ、それが確かめ終わると再び抱きしめて泣き始める。


「もしもし、お取り込み中申し訳ないのだけども、こちらに敵兵が近づいている模様。」


2人のムードをぶち壊す気はサラサラないという建前のもと、索敵にこちらに向かう騎士達が確認されたのでそれをジェフ達に伝える。


「えぇー、原因は先程誰かがドアを蹴破った時に発生した爆音だと思われる。」


そう言いながらジェフを見ると、気まずそうにそっぽを向いて頬を指でポリポリとかいている。


「……あの、あなたは……。」


「うん、それは後回しにしよう。騎士が階段登り始めた。それではお姉さん、少し失礼。」


2人のピンクなムードから抜け出し、やっと存在を認識してもらえたのだが、予想以上に騎士が迫ってきているので、回答を後回しにしてメイドのお姉さんを抱える。

決して、今の今まで隠密を使っていたわけではない。ジェフとほぼ同じタイミングで切っていた。断じて使っていない!


「ひゃっ!なにするの!」


メイドさんを抱えると、少し抵抗されたが今は逃げが先決。

階段を下るには通路が狭すぎるのでいくら隠密で隠れていてもすれ違いざまに触れたりして気づかれる可能性がある。交戦するという手もあるが、リリス様たちがいる以上面倒事はなるべく避けたい。


それを考慮し、違う方法を取ることにした。


俺は漆黒の刀を抜き、外につながる壁を切る。

先程、ジェフにドアを壊すなと言った男とは思えない行動である。


「ね、ねぇ、あなたなに考えてるの……?」


メイドさんはこれから俺が行うことに予想がついたのか、少し引き気味に言葉を発する。


斬られた壁が下へ落ち、そこは外につながる大きな窓へと早変わり。


そしてメイドを抱えた俺はそのままその大空へと飛び立つ。


「ジェフ、また外で合流な。フライ!」


「いや!いやーー!やめてー!!たすけてーー!!」


隠密スキルを展開し、風魔法のフライで空を飛ぶ。

隠密スキルは触れている者も一緒に隠してくれるので、今空を飛んでいる俺とメイドは誰にも見えてはいない。


ただ、声を隠すことはできないので、このメイドの絶叫は王都に響き渡ったことだろう。


「……あの方はいったい……。」


「……リリス、とりあえず俺たちも行こう」


ジェフはリリスを抱え、タローと同じように隠密を展開してフライで空を飛ぶ。

大柄なジェフが空を飛んでいる姿が、なんとなくタローには笑えているのだが、囚われた姫様をお姫様抱っこして抱え、空を飛んでいるとなれば、その姿は誰もが憧れるヒーローの姿であろう。


その数秒後、階段を登り切ったグラーツ王国の騎士が、部屋の扉と壁が破壊され、囚われていた女2人がいなくなっていることに青ざめるのであった。



▽▽▽▽▽



タローたちは王都の少し外れの森の中へと降りたち、ジェフと合流を果たす。


「……シシリーは気を失っているのですか?」


俺の背中に背負われ脱力しているメイドの様子を見てリリスが心配そうに問いかける。

ちなみに少々粗相をした模様であったが、きっちりクリーンアップで汚れは落としている。

しかし、濡れた下着はそのままであるからして、気がついたときにこのシシリーと呼ばれる少女は恥ずかしさに顔を赤らめることになるだろう。


「……目を回しているだけではないでしょうかね?」


結局は同じことである。


空を飛び始めて割とすぐに目を回し、気を失った彼女はタローに背負われここまできた。


「リリス様は王都の人たちには顔がよく知られているよね?」


ジェフに問いかける。


「はい、よく知られていると思います。とりあえずはこの森の辺りに匿うのが……。」


「いやいや、屋敷へ連れて行こう。そこが一番安全だ。」


「……!!ですが、それでは若のことが……。」


「いや、それは構わない。もう色々暴れたしな。それに……いや、とりあえず今は屋敷へと向かおう。ゲート。」


それに、後々はジェフと幸せになってほしいんだから、近くにいればバレることだろう。

そう言おうと思ったが思いとどまった。

これはジェフとリリスが2人で考え決めていく未来だ。俺が今の段階でなにか言ってはいけない。


ゲートを開いて屋敷へと向かう。


「こ、ここは?今のは魔法…?」


「ここは俺の家。そしてジェフの家。他にもいっぱい住んでるけど。」


本当に今は結構な人数住んでるよな。


「とりあえず、用が終わるまではここでゆっくりしていて。何かあれば呼びに来るし。マーヤ!マーヤいるー?」


ゲートで繋いだのは屋敷のリビングだ。そこからマーヤを呼ぶ。


「はーい!!」


返事が聞こえ、リビングに向かう足音が近づいて来る。そして、その足音の主がリビングへと顔を出す。


「ってなんでやねん!」


部屋に顔を出したのはメイであった。


「えへへ〜。」


イタズラが成功したかのように満面の笑みである。

最近はマーヤの声真似が彼女の中での流行りらしい。まぁ、娘であるメイの声はもともとマーヤと似ているが。

きっと、成長したメイはマーヤのような美人になることだろう。


「可愛いから許す!!それでマーヤたちは?みんないるなら呼んできてくれる?」


はーい!返事をしてまた廊下へと飛び出していった。


しばらくするとフランクとマーヤ、そしてオルガを加えた4人がリビングへ顔を出した。


「しばらくの間この2人の面倒を頼みたい。」


グラーツ王国で囚われていたリリス様とその専属メイドのシシリーということと、今の状況を軽く説明して、4人に任せる。


「あと、このメイドさんは目を覚ましたらお風呂入れてやって。この場所についてはリリス様が説明してあげてください。」


「わかりました。何から何までありがとうございます……えっと。」


「あ、タローです。しばらくの間よろしくお願いします。」


部屋は使ってない部屋を使ってもらうとして、食事などはマーヤたちに任せる。

まぁここにいれば不自由はしないだろう。


「詳しい話はまた後日します。仲間が待っているので、今日はこれで。」


簡単に挨拶をして、ジェフと共にグラーツ王国の王都へと戻る。



▽▽▽▽▽



宿へと戻ると、すでにロシャスとオルマが戻っていた。


「おつかれ、首尾はどう?」


「滞りなく。怪我をしているものにはポーションを与えておきましたがよろしかったでしょうか?」


「怪我してる人もいたのか。ポーション与えておいたならそれでいいね。」


へたに治癒魔法を使うよりはポーションの方がシャリオン様からの援助のように思える。いい判断だろう。


「食事も十分置いてきました。」


「取り合いになったりしないかな?」


地下に閉じ込められた者同士で殺しあうことになったりでもしたら寝覚めが悪い。


「リーダーを決め、必ず均等に分け与えるよう言いつけておきましたので、大丈夫かと。それに死ぬほどの飢餓を感じているわけでもなさそうでしたので。」


「そうか、なら大丈夫かな。」


「あとは、監視をつけている、ズルをすればわかると脅しもしておきましたので。」


「あ、お、う、うん。」


さ、さすがロシャス。抜かりない。

平和と調和、秩序と平等を愛する戦士だ。


「なら、今日やることは終わりかなぁ。明日くらいには王都を出た兵も平原に着くだろうし、夕方には決着ついてるかな。」


「そうでしょうな。リーシャたちもいることですし、長引きはしないでしょう。」


だよね。スミスのみんなが先陣切ったら一瞬だろうし。


タローは何の気なしに思っているが、翌日この想像は平原での争いで実際に起こる事であった。


「……ジェフ屋敷戻る?」


せっかくリリス様もいることだし、久々に話すのもいいのではと、提案してみる。


「……いえ。今は重要な局面ですから。」


と、至って真面目な顔で返答してきた。


「いや、これから外にご飯食べに行くだけだし、たいして重要な局面でもないのだが。」


その言葉にロシャスとオルマは笑いを堪えるように斜め下を向き、肩を震わす。


「わ、若!そういうことではなくてですね……。」


ジェフは焦るような顔で必死に言い繕う言葉を探すが、上手いこと言葉が出ないようだ。


「ま、特にやることないし、宿引き払ってみんなで屋敷に戻ろう。マーヤの作ったご飯の方がおいしいし。」


言ったが早いか、すぐさまロシャスとオルマの2人は帰宅の準備を始め、ロシャスは下へと向かい、宿の店主に出ることを話しに言った。


それを追うようにオロオロとしながらも準備をし始めるジェフ。

しかし、顔には隠しきれない笑みがこぼれているのを3人とも見て見ぬ振りをする。


宿を出て、適当な路地裏へと進み、そこから家へとゲートをつなぐ。


リリス様には明日シャリオン様と会ってもらう予定だ。その前に色々と説明しておくのも悪くないだろう。


この時間なら、屋敷ではちょうど夕食を食べている頃だろうか。


「とーちゃく!」


シュタッとジャンプで屋敷の庭へと出た。

リビングは誰かがくつろいでいる可能性もあるし、今回は庭へと出ることにしたのだ。


「ただいまー!」


玄関の扉を開け、家に入る。

俺の声を聞いたオルガがこちらへと駆け寄ってくる。


「おにいちゃん!パパ!!」


と、思ったが、目的はオルマとジェフのようである。


決して、悲しくなんかない。ないったらない。


オルガには兄センサーとパパセンサーでも搭載されているのだろうか。


「……。」


無言のロシャスに「えぇえぇ、分かりますよ、その気持ち。」みたいな顔で肩に手を置かれたが、これはロシャスの勘違いであると言わざるを得ないのではないだろうか?うん。


俺は目に溜まる汗を零さぬよう上を向き、オルガを抱きかかえたジェフとその横を楽しそうに歩くオルマの後ろを追うように、馥郁たる香り漂う我が家の食堂へ向かうのであった。









いつも読んでいただきありがとうございます。


次回更新は8月5日(日)の予定です。


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