70話
「それでは行きますか。」
翌日、国境を越え、街道を進むシャリオン様一行から、少し先行したクロとシロがラスタのゲートで屋敷に迎えに来たのでそのゲートに入り込み皆を連れ合流地点へと向かう。
「……思ったんだけど、馬車とラナ連れてくからみんな連れていかなくてもいつでも合流できるよね。」
「……誰も何も気づかなかったことにしておくのがよろしいかと。」
おぉ、ロシャスも思いつかなかったようだ。
まぁ、このお狐様のお面の集団がいるだけで異様な威圧感あるしいいか。
「それと、マジックバックもあるし、ゲート付与のドアを持っていれば屋敷となら行き来が楽になるよね。」
「……また突飛な発想ですね。」
そうかな?ど○○もドアよりは自由のきかないドアだとは思うが。
「屋敷からそのドアを持っている人間のところに行くのはなかなか難しいかもしれないけど、逆なら簡単じゃない?」
マジックバックに入れている間はたぶん屋敷からそのドアを持つ者の方へ行くことは不可能だろう。
しかし、逆は簡単だし、マジックバックの外に置いて入れば屋敷からも行けることになる。
「まぁ、技術が物として流出し過ぎるのも危険ですから今ぐらいでいいのではないですか?」
たしかにそれはそうだな。
どこかのたぬき型……ネコ型か、ロボットが出すドアの劣化版がそこら中に出てきてしまうことになるのは危険か。
何が危険ってその技術を求める権力者に追いかけ回される俺が危険である。
「タロー様、来ましたよー!」
ジーナの声がしたのでそちらを見ると、遠くの方にシャリオン様一行の馬車が見えてきた。
「あ、あのタローくん、本当にこのまま合流するの?」
「そりゃもちろん!」
勇者装備を身に纏うシズカさんは装備は気に入ってくれたようだが、今回のシャリオン様に協力することを話すと顔を青ざめさせていた。
とは言っても、一般人が苦しんでいることを聞けば、それは助けないとと思ってくれたようだが、勇者装備で人に会うことにまだ少し抵抗が……というより恥ずかしさがあるという感じである。
すでに皆はお狐様のお面に黒い外套を被っている。
お狐様のお面に関してシズカさんが最初に見た時、「お、お稲荷様……。」と、呟いていたが、昔、このようなデザインのお面が遺跡から発掘されて、それを模倣したと適当にはぐらかしておいた。
勇者も地球から来ているこの世界、シズカさんも、それくらいの発見があったとしてもおかしくはないかと思ってくれたのか、それで納得してくれた。
「お久しぶりです、シャリオン様。」
俺はお面を取って、馬車から降りて来たシャリオン様に挨拶をする。
「あぁ、タローさん。護衛の件、本当にありがとうございました。おかげで無事に国境を越えることができました。」
「いえいえ、構いませんよ。ここからはさらに増員して、僕も一緒に行きます。」
「その格好からそうではないかと思っていましたが、やはりついてきていただけるのですね。心強い限りです。」
握手を交わし、次の目的地の話をする。
「その……ヴォルフ辺境伯のもとに向かうということでよろしいですか?」
「あぁ、ヴォルフ殿は信頼できる。そしてじいも手紙を送った後そこに向かうと言っていた。無事ならばそこで会えるだろう。」
なるほど、それならばそこへ向かうとしよう。
ここから1日程度で屋敷につけるということだから明日の昼には着くだろう。
「それで……その、あちらの女性は……?」
あ、うっかり忘れてた。
「紹介しましょう。シズカさんこっち来てー!」
シズカさんは久々に会ったリーシャたちとの会話を楽しんでいたがシャリオン様に紹介すべく、こちらへと呼ぶ。
「シズカです。よろしくお願いします。」
ペコっとシャリオン様に頭を下げるシズカさん。
「シャリオンだ。よろしく……?」
自己紹介をするもののこちらを見て首をかしげるシャリオン様。
「シズカさんはフレンテ王国で勇者として異世界から召喚された方です。今回の件でお力になればと思ってお手伝いをお願いしておきました。」
「なんと!勇者であったか!こんな国の揉め事に手を貸してくれるのか?」
「国の為……と、いうよりも民のためです。少しでもみなさんが苦しまない国を作るのであればお手伝いさせていただきます。」
前には考えられないほど、しっかりとした口調で話すシズカさん。勇者の風格のようなものが感じられるほどになっている。
そしてその表情は凛々しくも慈愛に溢れている。
綺麗な顔立ちと相まってなんとも言えない美しさを感じる。
「……そうであるか。心も姿も美しいシズカさんに認められるような国を作りたいと思っておる。その為に力を貸していただけないか?」
……何を言っちゃってんだこの王子。
とんだ軟派やろうだ。
だが、イケメンが言うとなぜかしっくり来てしまう。悔しい。
そのセリフに少し頬を染めるシズカさん。
俺に助けを求める視線を送ってくるが、ニヤっと笑うだけに留めておこう。
「……喜んでお手伝いさせていただきます。」
差し伸べられた手を握り、握手を交わす。
……え?なにこれ。プロポーズ?
「ははは、ありがたい!シズカさんのような美しい方が勇者とは驚いたが、勇者の力を借りれるとなれば百人力だな!」
すこし顔を赤くしながら大袈裟に言葉を発するシャリオン様。
「あはは……よろしいことですなぁ。」
こちらとしてはまさかの展開でトホホである。セリフも年寄りくさくなってしまう。ちなみに百人力どころか千人力以上あるんじゃないかなぁ。
それよりもこれってもしかしたらシャリオン様はシズカさんに惚れたんじゃないか?
だって、笑ってはいるけど、彼も少し顔赤いし。誤魔化すような大袈裟な喋り方になるし。
「タローさん、感謝する。まさかこんな助っ人まで呼んでくれるとは!」
「いえいえ、構いませんとも、えぇ。」
まだ顔赤いけどな!
そして無駄にテンション高めだけどな!
「では、向かいましょうか。」
そしてシャリオン様は馬車へと乗り込み、再び歩みを進め、ヴォルフ辺境伯の治める街へと迎う。
よく考えると、馬車2台に黒づくめのお面の集団怪しさ満点だが、大丈夫だろうか……。
「シズカさん、馬車の中に乗ってもいいんだよ?勇者だし。」
「なっ!なにを言ってるのタローくん!無理よ!!」
まさかあんなこと言われるなんて……と呟いてはいるが満更でもない様子。
ファンタジーの世界に憧れて来た少女にとって本物の王子様から言われたセリフは予想していなかったうえ、少し過激だったようだ。
▽▽▽▽▽
「ふむ、思いっきり警戒されているな。」
想像通り、かなりの警戒をされているようだ。
街へと近づくと、城壁の門にいる兵士達の動きが慌ただしくなり、たくさんの兵士達が集まってきている。
さらに近づくと、その中の隊長格のような男がこちらに近づいてきた。
「ここはヴォルフ辺境伯の治める街!怪き者達よ!何用か!」
「ねぇ、ロシャス、どうしよう。なんて言ったらいい?」
そう隣を歩くロシャスに問うと、ため息を一つ吐いて、シャリオン様の馬車へと向かっていった。
……ひどい。
すると、シャリオン様が馬車から降車し、騎士の方へと向かって行く。
その後ろをジェフとロシャスが付いていっているので、安全面は確保されている。
……っていうか、俺より主人っぽいんだけど。かなしい。
「我はグラーツ王国第2王子、シャリオンである!ヴォルフ殿に御目通り願いたい!」
その声に兵士、騎士達はどよめき、ざわめくが、隊長がいち早く行動を起こした。
すぐに駆け寄ってきて、顔を確認すると膝をつき頭を下げる。
「シャリオン殿下でございましたか。すぐに屋敷へとご案内いたしますが……その……後ろの者達は……。」
「安心してくれ。我が護衛として雇った者達だ。詳しいことは話せぬが、とりあえずヴォルフ殿の下まで頼む。」
「はっ!」
立ち上がりビシッと返事をしてから、部下を先走りとして遣わせ、自らが案内してくれるようだ。
さすがは国の王子。騎士の対応も変わるものである。
「殿下〜!!」
騎士の案内のもと、ヴォルフ辺境伯の屋敷へと近づくと、殿下と叫びながら執事服を纏った白髪のおじいさんがヨタヨタと走ってくるのが見える。
「じい!無事だったか!」
声を聞いたシャリオン様が馬車から頭を出して、おじいさんに向かって声を上げる。
「殿下!あぁ殿下、ご無事でなによりです。」
「じいも無事でよかった。心配していたのだ。」
「それはこっちのセリフですよ殿下。襲撃の情報を手に入れてから気が気ではなかったのですから!」
お互い無事な姿を確認し、興奮気味に話している。
特にじいと呼ばれているおじいさんは落ち着きがなくかなりの興奮具合だ。
「ともかく無事が確認できてよかった。ヴォルフ殿に会えるか?」
「えぇ、えぇ、もちろんです。先触れの者の話を聞いていてもたってもいられなく、このじい屋敷を飛び出してしまいましたが、ヴォルフ殿も歓迎してくれることでしょう。」
「では、向かうとしようか。」
「はい、では……、ところでこちらの方々は……?」
興奮して気にしていなかったのか、俺たちのことを初めて意識したかのように屋敷へと向かおうと踏み出した足を止め、振り返りながらじいはシャリオン様に尋ねた。
「ここまで護衛をしてくれた者達だ。信用出来る者達だから心配はいらぬ。」
「そうですかそうですか、それはありがとうございました。」
それでは向かいましょう、と、再び屋敷へと向かって歩みを進める。
自分で言うのもなんだが、かなり怪しい格好の集団だというのに、シャリオン様の言葉を丸々信じ、全く疑うことなく、お礼を述べてくれた。
なんとも信頼関係のできていることだ。
そんなことを感心していたらすぐに屋敷へとついた。
屋敷の前で止められるが、馬車から降りたじいが話を通してくれ、全員中へと入ることができた。
「お久しぶりです殿下。」
「ヴォルフ殿も元気そうでなによりだ。」
「いえいえ、私などもう歳ですからね、そろそろ隠居をと思っているところですよ。」
「冗談はよしてくれ。我はそなたの力が借りたくてここに来たのだ。」
今は応接室のようなところでヴォルフ殿とシャリオン様が面会し始めたところだ。
皆は流石に入れないので、客間へと案内され、今ここにいるのはシャリオン様、じい、俺、ジェフ、ヴォルフ、そしてヴォルフの後ろに男が2人である。
ヴォルフ卿は鋭い眼光に聡明な顔の初老の男性だ。
「……殿下はこの国を再生するために戻ってきたと、そう捉えてよろしいのですか?」
始まって早々核心に迫る話題となる。
「そうだ。兄から国を取り戻し、平和な国を蘇らす。」
「ふむ、殿下の気持ちはわかりました。では一旦この話は置いておいて、そちらのお二人の紹介をしていただけますかな?さすがに姿の分からぬ者がいてできる話ではないでしょう?」
ヴォルフ卿はこちらをチラリと見ながら話を向けてきた。
たしかにヴォルフ卿の言う通りだな。
「タローさん、紹介しても大丈夫ですか?もしダメならなんとか説得しますが……。」
シャリオン様は俺に気を使いコソッと話しかけてくれたが、シャリオン様の描く幸せなこの国の未来の為にもここは隠し立てすべきではないだろう。
「お初にお目にかかります、ヴォルフ卿。私は商人をしておりますタローと申します。」
俺はお面を外し、フードを下ろし自ら紹介をする。
「そして、こちらがジェフです。」
ジェフも俺に合わせ、お面とフードを外して頭を下げる。
「なっ!ジェフだと?そなたこの国の騎士であったジェフか?」
「はい、お久しぶりです、ヴォルフ様。」
ジェフは一度ヴォルフ卿の顔を見てからもう一度頭を下げる。
こう言う姿を見ると本当に騎士だったのだなあとしみじみ思う。
「しかし、ジェフは重傷のまま奴隷に落とされたと聞いたが……。」
そして驚くべきは意外にもジェフが有名だと言うこと。
「ヴォルフ様、それはまたの機会に。」
「……うむ、そうであるな。して、そのお二方は殿下の護衛……しかしタロー殿は商人と言っていたような……。」
そしてジェフが華麗に会話の方向修正をする。
……できる男だったのか。
驚愕した表情でジェフを見てしまう。
「ヴォルフ殿、タローさんは商人として我に有能な護衛を紹介してくれ、ジェフと他の者達を遣わしてくれたのだ。タローさんとジェフとたまたま学園都市で出会えたからこそ、ここまで無事にたどり着けた。」
「……そうでしたか。それは感謝しなければなりませぬな。」
「いえ、依頼として受けておりますので。当然のことをしたまでです。」
とりあえず俺もできる男風に頭を下げておこう。
「して、殿下は国を取り戻すまでこの方々に護衛してもらうという依頼をしたと?」
「そういうことになるな。」
「わかりました。それではこのまま話を進めることとしましょう。」
そしてヴォルフ卿の口から語られた国の現状は、じいから届いた手紙にかかれていたことが現実だと認めるには十分なものであった。
いつも読んでいただきありがとうござきます。
次回更新は7月25日(水)の予定です。