7話
「もう少しで街だ。帰ってきたぁ〜」
一日も出ていないのによく言ったものである。
「ん?なんか門のあたりが騒がしいなあ」
朝から落ち着きはなかったがなんかあったのだろうか。てか、第三王女絡みだよなあ。ある人が街を訪れるのに予定の時間になっても来ていないとかなんとか言ってたやつってこの第三王女な気がしてならない。むしろ第三王女のことじゃない可能性があるだろうか、いや、ない。
「やっぱ、この子絡みだよなあ。めんどくさいことにならなきゃいいけど」
きっとめんどくさいことになるんだろうなあ。半分は自業自得だが。とりあえず知らんことにしてあいさつだけして素通りしてみるか。
「こんちは。なんか忙しそうですね。また入って大丈夫ですか?」
「お、戻ってきたか。今バタバタしていてな。一応身分証を確認だけさせてくれ」
冒険者カード見せ、確認を終える。顔を覚えてくれていたようなので、ほとんど形だけの確認だった。
「確認した。入っていいぞ」
「ありがとうございます、それでは……」
そう言って通り過ぎようとしたときに、止められた。
「……ちょ、ちょっと待て。お前、その荷台の荷物どうしたんだ?」
ちっ、気づかれたか。
「いやぁ、実は盗賊が……」
説明をしようとしたとき、荷車の少女が目を覚ました。
「……ん。ここは……」
「ッ!! あなた様は!!」
門兵が慌てた様子で声をかける。
「おい、少年。この方はどうした! どなたなのか知っているのか!」
「いやぁ、知らないです」
知ってるけどさ。
「私は……そうだ、盗賊に襲われて……」
「王女様、ご無事でなによりです。お怪我はございませんか? 少年! そこで少し待て! 事情を聞く!」
ちーん。やっぱり素通りは無理だったか。仕方ない、大人しくしてよ。
「王女様、お疲れのところ申し訳ないのですが、事情を聞かせてもらえますか?」
「え? ……えぇ、わかりました」
少し気が動転しているようだが、自分でも思い出すかのように話し始めた。
「私はボカの街に向かっておりました。旅は順調でしたが、あと1日もすれば街に着くというところで、盗賊に襲われて、騎士の皆は……」
話しながら、自分の現在の状況を思い出したようで、涙を流し始めた。
「騎士は、私を守って皆殺されてしまいました。私は人質として必要だったようで、盗賊のアジトまで連れて行かれ、捕らえられておりました」
「そうですか。こちらは第三王女様を乗せた馬車の到着が遅れていることで、念のため兵を派遣したら壊された馬車の残骸と、血痕を発見したので、慌てて捜索隊を組んでいるところだったのです」
なるほど、それであの騒がしさだったのか。やっぱり、朝言ってたある人ってのは第三王女だったわけだ。
「ですが、私がなぜここに無事でいれているのか、わかりません。盗賊のアジトから覚えが……」
そこで俺に視線を向けてきた。
王女が視線を向けたことで、兵士は俺に問いかける。
「少年、君はどうして王女といるのだ?」
「……森で薬草採取してたら、結構奥の方まで行ってしまったんです。そこからさらに奥で、なにやら人が争うような声が聞こえたので、様子を見に行ったのです。そこで盗賊らしき集団と、1人の男性が争っていました……いえ、盗賊が一方的に蹂躙されてたと言ってもいいでしょう。その様子を見ていたのですが、盗賊が1人残らず殺された後、俺が見ていたことにきづいていたらしい男性が、俺にこっちに来いと声をかけてきたのです。逃げれる訳もないので、陰から出て男性のところへ行きました。そうしたらその男性は、訳あって自分は顔を出すわけにはいかないから、この女性を近くの街まで運んでほしい。盗賊を討伐したのは俺という事にして、盗賊討伐による発生する権利はすべて俺の物として、女性を運ぶ依頼料として欲しいということだったので、承諾し、女性をつれて戻ってきたわけです」
でたらめー! すごい嘘くさい!
「そんなことが……本当なのか? 簡単には信じられない」
「信じてもらうための証拠はなにもありませんし、その男性の存在や、その人とのやりとりは確かめようがないですからね。ですが、盗賊がいたこと、女王がその盗賊に攫われたことは事実ですし、その盗賊らが持っていたと思われる財宝や武器武具がここにあること、王女様がここに無事にいることも事実です。」
もう、無理矢理押し通るしかない。
「それは確かにそうだが……。王女様、なにか覚えていることなどありますか?」
「いいえ。攫われ、囚われてしばらくしてからは眠っていたようで記憶がありません。ですが、彼の言うように、囚われの身から救い出され、ここに無事に立てていることは事実です」
そこであることを思いついた。
「あまりオススメできませんが、盗賊の首はそこに布を被せて乗せてあります。王女様に顔を確認してもらえれば、その盗賊が王女様の一行を襲った一団かは判断できると思います。先程の男の存在は証明のしようがありませんが、盗賊が討伐されたことは事実として認識していただけるかと。それが無理なら、おそらく王女様と一緒に来た騎士が着ていたと思われるあの甲冑を見てもらって信じてもらうしかないですね」
他の武具より高級感があり、なんかめんどくさいことになりそうだと思った変な紋章のようなものがついた甲冑を指差しながら言う。
「……首の確認はさすがにやめておこう。王女様に負担になりすぎる」
そう言って、兵士と王女は甲冑へ近づき確認する。
素材などはいいものを使用しているのだろうから金になると思って、盗賊達も持ち帰ったんだろうな。
「間違いありません。これは近衛騎士の物です」
辛そうな顔をしながら、王女が言った。王女付きの近衛騎士かなにかだったのだろうか。自分を守ろうとして死んでしまったことを考えると辛いものだろう。近衛騎士もきっと強いんだろうが、アドルカスはなかなかの戦闘力ある感じだったからなぁ。
その時甲冑を確認している王女様を見ていて気がついた。王女様の手の甲に奴隷紋があることに。やばい。さらなるめんどくさい展開の予感。
「あ、あのー。その手にある紋様って奴隷紋ですよね?」
恐る恐るっといった感じで聞いてみた。
「はい、そうです。盗賊の頭は闇魔法の使い手だったようで、奴隷契約もできたようです。」
王女様はさも当たり前のように応えた。
「なっ! 王女様、すぐに奴隷商を呼びますので契約解除をしていただきましょう」
いやいやいや、待て待て、奴隷ということは盗賊から奪った俺が所有者だよな?
「待ってください、兵士さん。盗賊から奪った物は盗賊を討伐した人が一時的とはいえ所有権を有するんですよね? 今その奴隷の所有者は俺のはずですが?」
俺の言葉を聞いた兵士が顔色を変えた。悪い方でね。
「……お前なにを言っているんだ? 処刑されたいのか?」
こんなことで処刑にされてたまるかっての!
だが、ここは譲れない。奴隷として所有するつもりはさらさらないが、正式な手続きを踏んでもらわないと。
……まぁ、正式な手続きはよくわからないが。
「いえいえ、事実を述べたまでですが? それとも国に仕える兵士というのは、平民から所有物を奪い取るのですか?」
「お、お前!!!」
「あなたは、少し控えなさい」
王女は抜剣しようとした兵士に向かって言う。
「し、しかし!」
「しかしではありません。彼の言ってることは事実ですよね?少し黙っていてください」
兵士は苦虫を噛み潰したような顔で一歩下がる。
王女は少しは話せそうだな。ほんと嫌なんだよなあ、王族とか貴族とかよくわからないが、権力でどうにでもなると思われるのって。
「王女様にはご理解いただけたようでなによりです。」
「いえ、事実ですので。しかし、王女という立場上、このまま奴隷でいるというわけにはいきません。それにあなたも王女を奴隷としてるなんて、生きづらいのではありませんか?」
「えぇ。そもそも、あなたを奴隷のままにしておく気はありませんし、俺には王女様のような奴隷は必要ありません」
俺の言葉でまたしてもキレた兵士を王女が制止する。
「ただ、盗賊討伐で得た物は討伐したものが所有者で、奴隷も例外ではありません。それを王族、貴族だからといって討伐した物から勝手に奪ってしまっては示しがつかないと思いませんか?それは盗賊のしていることと同じことです。」
「えぇ、あなたの言う通りですね」
「王族だから、貴族だからといって平民から奪って当たり前、献上させているだけなど、あってはならないことだと思うのです。なので、勝手な奴隷解放を止めさせていただきました、すみません」
「おっしゃる通りです。この先急いだ兵士に変わって謝罪を」
王女は兵士にかわり謝罪を述べてきた。その様子に兵士は自分のせいで平民なんぞに頭を下げさせてしまったと、顔を青くして狼狽している。
「この国の王のことは知りませんが、あなたに限って言えば、独裁的な思考の持ち主でなくてよかったですよ。もともと、正規の手続きを踏んで解放はするつもりですしね」
正規の手続きとかよくわからないが。
「ありがとうございます」
「その先の確実な手続きなどについては奴隷商を呼んでからにいたしましょう」
王女はその言葉を聞いて頷き、兵士に奴隷商を呼ぶように指示を出す。
兵士が去ったところで、門兵などの駐在する小屋のようなところへ他の兵士に案内され、そこへ入り、椅子に腰掛け、テーブルを挟んで王女と向かい合う。
「申し遅れました、Fランク冒険者のタローと申します」
「フレンテ王国第三王女、マリア・フレンテです。此度はお助けいただき、ありがとうございました」
名前も知らなかったので、お互い軽く自己紹介をする。
「それにしてもタローさんは兵士に抜剣されかけてよく普通に話していられましたね」
「あはは、殺されるところでしたね」
あんなところで殺されるとかマジ勘弁。
「王族や貴族に対しても物怖じしない様子でしたし。攫われて奴隷にされているとわかっているとはいえ、王族に対して奴隷とはっきりと言える人はなかなかいませんよ」
「あ、あの時はすみません。ちょっと言いすぎでしたね。」
はっきりさせたかったとはいえ、強気に出過ぎたか……。
「でも、王族も貴族も平民も同じ人間ですからね。それに普段の生活はお互いがお互いを支え合って成り立っていると思っていますので」
「と、言いますと?」
「王族は平民がいるから税を徴収したりして生活し、国を運営できるのでしょう?平民は王族や貴族が統治することで、安心して生活でき、自分達の納める税が正当に使用されることによって、よりよい生活が送れる国になっていくと。そんな当たり前のことを思っているだけです」
「……そうですね。当たり前のことなのに、難しいことです」
王女は少し考えるような素振りをして、頷く。
「それに、俺は商人になりたいので、口くらいは上手く回らないとだめかなあって。まあ、王女様がちゃんと平民を思い、考えることのできる人で助かりましたよ。殺されずに済みましたので」
実際、簡単で単純なことではないにしろ、こういう人がトップにいれば少しは国が良くなるのだろう。この国の国王がどんな人かは知らないけど。
てか、よく考えたら国のことも、この世界のことも何も知らないんだよな。知識が不足しすぎてる。
「あら、商人になりたいのですか?それなのに冒険者を?」
「ははは……とりあえず生活費が必要でして。商人になるにも元手は必要ですし」
苦笑しながら答える。
実際商人ギルドという物もある。そこで働くことも考えたが、商人志望の者がそこで仕事を探せば、どこかの大きな商店などで下働きをしつつノウハウを学び、いずれ暖簾分けか自立となるようだ。それでは時間がかかり過ぎるし、せっかくじいちゃんにもらった能力を生かせない。だから、冒険者として手っ取り早くまとまった金を稼ぎ、少しずつでも商人っぽいことをしたいと考えたのだ。
「ところで、王女様の荷物は壊された馬車から回収できていないのですかね? 服が結構汚れていますので、もし回収できているのであれば、奴隷商を待つ間に、着替えてきてはいかがですか? もし回収できていなくても、王女様が平気であれば、街で売っている服を買って来ますが……」
「いえ、このままで大丈夫です。荷物は無事かわかりませんが、そこまで迷惑かけるわけにもいきませんから」
そう言って、首を横に振る。
服の話が終わる頃ちょうど奴隷商と兵士がやってきた。兵士は奴隷商に事情を伝えてあるようで、さっそく本題に入る。
「奴隷商人にドムルと申します。今回は奴隷の解放条件などについて聞きたいと伺っておりますが、よろしいですか?」
「はい、よろしくお願いします」
「奴隷の解放は主に奴隷の主人が奴隷を解放すると申請したとき、奴隷が自らを主人から自分を買う時の2通りです。1つ目の解放を申請するのはなかなか条件が厳しくて、その奴隷と結婚するときや、家族に迎え入れるときなどでないと許可されることほとんどありません。そうでないと、奴隷を解放し放題になってしまうので。あとはあまり現実的ではないですが、奴隷が自ら稼いだお金で自分自身を買い取ることで、解放されます。この時の相場が奴隷を買った時の5倍ですので、この条件で解放されることはほとんどないですね。他には、解放とはいいませんが、奴隷の主人が他人に売ることで奴隷の主人の変更などを行うことはあります」
「と、いうことは今回の場合は自分自身を買い取る方法になるということですかね?」
「はい、そうなると思います。ですが、今回は盗賊に奪われた奴隷、国に登録されていない者による非正規奴隷の解放となりますので少し違います。」
非正規奴隷。詳しく話を聞くとこによると、奴隷商人は国に自らの奴隷紋を登録して商売しているらしい。闇魔法による奴隷紋はその人の魔力の波長によって変わるようだ。
そもそも闇魔法の使い手が珍しいらしく、ほとんどが奴隷商人とその家系に現れるらしい。
アドルカスは希少な人材だったのかもしれない。
鑑定によるステータスの確認か奴隷商人が闇魔法で確認することでその奴隷の主人となっているのが誰なのかもわかる。
つまり盗賊に奪われた奴隷であればそれが誰の奴隷だったのかもわかるということになる。
非正規奴隷の場合は本人もしくは親族たちと、元々誰かの奴隷だった者達は元の主人と、盗賊から取り戻してくれた人と交渉という形になるらしい。
「盗賊から取り戻した奴隷を元の主人に返還、もしくは非正規奴隷の解放となる場合の相場はその者が奴隷として販売される場合の価格の半額です。騎士と国に登録されている奴隷商人の立会いの元行われる交渉ですので、それ以上の値段で取引されることはありません。謝礼という名目ですので、相手次第ではタダ同然での解放もあり得ますし、上限である半額程度の値段で交渉成立することもあります」
基本的に奴隷の場合は所有権を有するといっても奴隷の主人になれるわけではないので、実質、謝礼としてのお金が手に入るだけである。たまに、奴隷商人が盗賊に奪われた奴隷の交渉において、謝礼としてお金ではなくその奴隷そのものを差し出すこともあるらしいが。
「しかし、今回は王女様ということで、その相場がなかなか……」
やっぱりさすがの奴隷商人でも悩むようなことなんだな。
さて、どうしたもんか。適当にこっちで値段決めてしまうか。一応、俺が決めた金額で解放できるようだし。
「ちなみに普通の奴隷だったらいくらくらいで売られているのですか?」
「安い者でしたら金貨10枚で売られている者もいますし、高ければ白金貨1枚以上値段がついたこともあります」
ってことは適当に大金貨10枚くらいでいっか。
俺の生活も楽になるし。
「では、今回は大き……」
「白金貨100枚でお願いします」
王女が自ら値段を告げ、その場が凍りついた。
2018.9.29 編集