67話
いつも読んでいただきありがとうございます。更新不定期で申し訳ありません。
「あ、報告に来て戻る時に連れて行く者たちは影からの護衛だからね、見つからないように護衛してやって。」
報告がバレると移動時間とかの問題が怪しまれるし、護衛が増えていたら尚更いつの間に来たのかと怪しまれる。
さすがのシャリオン様もいきなり護衛人数が増えたら怪しむだろう。それに襲撃する側も警戒する恐れがあるので見つからないように護衛させる。
この時に役に立つのがセレブロで手に入れた隠密というスキルである。
セレブロを探索中にアサシンハミリオンというでかいカメレオンみたいなやつが持っていたスキルだ。
これは透明人間になるわけではないが、スキルレベルが高ければ相手が目の前にいても気づかないほどの隠密ぶりだ。びっくりするほどの気配遮断である。
忍者も真っ青だ。
セレブロでは俺も真っ青だった。
なんせ、いつぞやのコウモリのように相手の姿がまったく見えないのに索敵には微弱な反応があるのだ。
小さい虫か何かかと思ったがよく目を凝らしてみると、そこに何かがいる、そんな感じで警戒していると、いきなりものすごいスピードで舌を伸ばし突き出してきた。
その舌の先端は鋭く尖っていて、狙った獲物を串刺しにするのだろう。
本当に死ぬかと思った瞬間である。
そのあと目を凝らせばなんとなく相手の存在を確認できるので、そこに向けて鑑定を行う。
鑑定が成功し、相手を見極めることができたので隠密スキルを奪ったところ、ビックなカメレオンがそこに鎮座していたという状況だ。
ちなみにアサシンハミリオンの隠密レベルは8。
スキルレベルだけで考えれば、今まで遭遇した者のなかで最高であった。
セレブロに辿り着ける者がいない理由の一端がこういうところにもあると感じる出来事だった。
アサシンハミリオンの出没するようなところまでたどり着けたとしてもすぐに串刺しにされてしまうだろう。
その隠密スキルを手に入れ色々と検証した結果、スキルレベルに応じて隠密の出来栄えも変わることがわかっている。
そして、相手の索敵などのレベルより上であれば索敵にすら反応がなくなる。
目の前にいても気づくことができず、索敵にも反応が出ない……この世界で1番最強のスキルと感じざるを得ない。
その事実が判明したとき、アサシンハミリオンよりステータスも索敵スキルもレベルが上でよかったとしみじみと実感したものだ。
だが、これは高レベルでの話であり、隠密スキル自体は国の隠密として活動している者たちも身につけていたりするらしい。
これはロシャス情報である。
しかし、高レベルであれば本当に世界最強だ。
この時からこの世界の者への警戒心が少し上昇したのは言うまでもない。
ま、こんな有用なスキル利用しない手はないので、クランメンバーのみんなには当たり前のようにLv10で与えた。
世界最強軍団の出来上がりである。
「ミーシャとナタリーには作ってもらいたい物があるから俺と一緒に国境を超えてから合流ね。」
ライエが驚愕した表情をしている。
が、まぁとりあえずほっとく。
▽▽▽▽▽
そして翌日、予定通りシャリオン様と合流した。
今日は商人っぽく黒のスラックスに白のシャツ、そこにネクタイと黒のベストだ。
いつもなら旅商人っぽくラフな感じだし、はじめてシャリオン様に会ったときもラフな格好だったが、今回は一応王族ということで少しばかり気を遣いビシッとしてみた。
「おぉ、タローさん。おはようございます。」
「おはようございます、シャリオン様。この2人が今日からシャリオン様の護衛を依頼した2人ですのでお連れください。」
俺の後ろに控えるライエとトーマは既にお狐様のお面を装着し、黒の外套をフードまでかぶっている。
「そのお二方ですか……。」
「信頼も実力も保証します。ただ、事がことだけに素性の方は勘弁してください。あと、ジェフもそのまま連れて行ってもらって構いませんので。」
少し不安そうにしていたので、こっそりとシャリオン様に伝えておく。
「わかりました、タローさんを信用しましょう。お二方も今日からよろしく頼みます。」
2人にも軽く頭を下げるシャリオン様。王族というのに、腰が低く温和な人である。
国王になるような人がこのような態度をしていいのか悪いのか、それは俺には判断しかねるところではあるが、好感が持てるのは間違いない。
「あと、これを肌身離さずお持ちください。死に至るような不意打ちの攻撃を受けたとき一度だけ結界が作動する魔道具です。」
結界付与したネックレスを渡しておく。
「こんな貴重な物よいのか?」
「えぇ、構いません。万が一があっては困ります。これも依頼の一部と思って頂ければ良いかと。」
「……出会ったばかりだというのに何から何まで済まぬ。」
ジェフが騎士としてシャリオン様を慕っていたのだからそれなりの人柄だとは思うし、死んでもらっては寝覚めが悪い。
それに受けた依頼は完璧にこなしたいし、シャリオン様はジェフの想い人の弟だしな。
後ろで騎士達が、「こんな素性の分からぬ者たちは危険です」とか、「我々だけで十分です」とか騒いでいたが、シャリオン様がただ一言、「我が決めたことだ文句を言うな」と口にしただけでおさまってしまった。
さすがである。
ジェフにもお狐様のお面を渡して、シャリオン様一行は自国への道を歩み始めた。
それを見届けたあと、俺は屋敷へと引き返す。
▽▽▽▽▽
店は休みにしたので、他の皆は食事作りや、地下の森の畑の世話などやることをやり、勇者であるシズカさんの特訓にも付き合っている。
ちなみに、俺が学園都市へと向かって旅をしている間に、シズカさんもかなりのレベルアップをしている。
学園都市への道のりはなかなか遠く、時間がかかったとはいえ、その間の彼女はかなり努力していたようで、レベルアップのスピードも予想よりも早かった。
休みの日には自ら冒険者ギルドの依頼を受けて訓練しているほど、頑張っていたのだから感心する。
とは言っても、獲得経験値増加に加え、クランスミスの者とパーティーを組んでの高レベル魔物の討伐をしていればレベルもステータスもうなぎ登りなのは間違いことだが。
「ナタリーとミーシャはいるかな?」
屋敷に入ってすぐ、俺の帰宅に気づいたロシャスが近づいてきたので聞いてみた。
「ナタリーはキッチン、ミーシャは鍛治室にいると思いますので、呼んで参りますね。」
すぐさま対応してくれる。さすがだ。
リビングで待つと、すぐに2人がやってきた。
ついでにロシャスもお茶を入れて持って来てくれた。
なんとも気の利くナイスガイだ。
「早速だけど、2人にはシズカさんの装備の製作をお願いしたい。」
「どのような物を作るのですか?」
「勇者っぽいやつ!」
と、ナタリーの質問に、かなり抽象的な返答をする。
「……あはは、わかりました!」
一瞬、何を言ってるの?みたいな反応で2人ともフリーズしたが、すぐに笑顔になって了承してくれた。
こんな適当な仕事を任せているのに、請け負ってくれるのだから、なんとも有能な人材だ。
「タロー様も無茶を申しますねえ。」
ロシャスは呆れ顔である。
「いやだって、防具とかその中に着るものとか、詳しくないからさ、2人に任せた方が断然かっこいい物できそうじゃないか!」
2人ともその道のプロだよ?
任せることが1番だろう。
適材適所。
いい言葉である。
「材料とかは何使ってもよろしいのですか?」
今度はミーシャの質問だ。
「何使ってもいいけど、あまり貴重すぎるのはなしね。出回ってもおかしくはないけど、そこそこ貴重で、そんな貴重な材料をこんなにふんだんに使っているのか!みたいなぐらいのイメージで。さすが勇者!装備も一級品だ!って感じで、目立って勇者っぽいけど、派手ではなくて、煌びやかさも兼ね備えるみたいな物が理想かなぁ。」
また難しいことを……とロシャスがため息混じりに呟く。
うん、かなりの無茶言ってる自覚はあるからそこまで高望みはしていないが、イメージはちゃんと伝えないとね!
「そうですか……では材料はミスリルをベースとして……」
ミーシャはすでに構想を練り始めているようだ。
さすがは仕事モードのドワーフ。
かなりの職人っぽさが伝わる。
「とりあえず、シズカさんがその装備を使うのはまだ先のことだから。お面が出来てから作業始めてくれ。」
シズカさんは毎日必ずこの家に顔を出すので、採寸とかは問題ないだろう。
シズカさんはシャリオン様たちが自国に入ってから一緒に合流する予定なので、時間の余裕はあると思われる。
「シズカさんの装備を揃えるということは、グラーツ王国での行動に彼女も勇者として同行させるのですね?」
さすがはロシャス。
読みが鋭い。
「そういうこと。勇者がいればシャリオン様に傾く人たちも多いかと思ってね。」
「一理ありますな。」
ミーシャとナタリーに装備の概要を伝えてから、俺はお面作りの手伝いを始める。
今回の任務にはオルガを連れて行くことはできないので、フランクとマーヤ、そしてメイは家に残ってもらうことにしてある。
俺が合流するときにはスミスカンパニー特製馬車も持って行くことにしてあるので、屋敷からも俺のところからもゲートでの行き来もできるし、何かあっても3人がいればなんとかなるだろう。
とりあえず明日はリーシャを護衛に追加して、影からの護衛にクロとシロを追加する。
リーシャがいれば食事の心配もないし、シロとクロがいれば魔物が姿を見せる前に撃退してくれるだろう。
……ライエも食事を作ることはできるが、いかんせんたまに発揮するポンコツがあるので、リーシャを同行させることにしたわけだ。
食事は作ったものをそのままマジックバックから出すとマジックバックの性能がバレるので、材料だけ持って行きその場で調理する形にしてある。
▽▽▽▽▽
翌日、リーシャたちが護衛に向かって、しばらくするとシズカさんがやってきた。
「こんにちはー。」
「こんにちは、シズカさん。」
「あ、タローくん。昨日から店は休みって言ってたけどなにかあったの?」
「ちょっと野暮用でね。シズカさんもちょうどいい時に来てくれたよ。」
「そっか、だからライエちゃんとリーシャちゃんの姿が見えないんだね……。ところでちょうどいい?」
と、シズカさんが聞き返したところで、シズカが来たことを察知したミーシャとナタリーがものすごい勢いでこちらに向かってくる。まさに獲物を見つけた狩人だ。
「え?えっ?えぇぇぇ〜たろーくーーーんどーゆーこと〜ぉぉぉ〜。」
2人はシズカさんの腕を問答無用で引っ張って連れ去っていった。
訳がわからないといった表情と雄叫びが遠ざかって行くのを眺めながら、一つ息をつく。
「ふぅ、採寸したくて昨日から2人ともウズウズしてたもんな。」
健闘を祈って、敬礼をしながら、俺はリビングへと向かう。
「さてと、昼寝しよ。」
とんでもない、主人である。
「……タロー様。」
「っていうのは冗談であってだな。」
すかさずリビングに姿を現したロシャス。相変わらず俺を呆れた顔で見てくるのだ。主人悲しい。
この男の察知能力はもはや異常としか言えないのではないだろうか。
俺にもステルスビートルが常につきまとっているのではないかと思えるほどである。
そんなことをロシャスに言ってみたところ、「そんなわけありません。ただ、なるべくタロー様の近くには控えるつもりで行動していますし、なぜかタロー様がサボろうとするとビビッと来るのです。」とのことだ。
まったくなんとも恐ろしい能力をもっている魔族である。
「ところで、シズカさんってリーシャとライエと仲良いの?」
「どうやら、一緒に活動する中で特に仲良くなったようですね。同じ女性で年も近いですから。」
「あぁ、なるほど。」
たしかに年齢はあの2人とシズカさんはほぼ同じだったな。
心許せる友達ができることはいいことだ。
しっかり者のリーシャとポンコツなライエ。こんなことを考えるのは失礼かもしれないし、捻くれているかもしれないが、友達のバランスとしてもなんか良いように感じてしまった。
兎にも角にも、仲良くなることはいいことだ。
見た目が変わって、自分の能力も変わっていくことが自覚できているのか、最近のシズカさんの表情は明るく、出会った時には考えられないほど、笑顔が増えた。
彼女の人生が明るくなるのであればそれはとてもいいことだ。
しみじみそんな想いに耽ながら、目を閉じ……。
「タロー様。」
「……寝てないからね?」
やっぱり厳しい男である。