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63話











翌日、早速シズカさんは朝のアンドレとジェフの訓練に参加していた。


「……もうシズカさんとマリア様には全部話してもいい気がしてきた。」


「そんなに急に全て教える必要は無いのではないですか?出来ることを必要な時に少しずつ開示するのがよいかと。」


庭で朝焼けを眺めながら芝生に座り、訓練してる姿を見ていると、後ろから声がかかった。


「ロシャスか。全部話すのは話すでめんどくさいのもあるけどなぁ。」


「一度に全てを知ってしまえば畏れられることも考えられます。まぁ、マリア様ならそんなことはないかもしれませんが。」


お盆に乗せ持ってきたお茶を俺に差し出してくれる。

ロシャスからすれば経験したことでもあるもんな。


「お、ありがとう。」


お茶を一口含み、飲み込む。


「ま、たしかに必要な時に話せばいいか。今は最低限にしておこう。なにか常識はずれなことしそうな時は助言してくれ。」


「お任せください。」


頼りになる男である。


そして、訓練が終わって朝食を食べたあと、予定通り作っておいたピアスを渡す。

ネックレスにしようかと思ったが、せっかく顔周りの印象が明るくなったので、それに合うようにピアスにしてみた。


ちなみに、シズカさんも一緒に食事を取ったが、料理のうまさに感動したことは言うまでも無い。

でもそろそろ和食も食べたくなってきたなぁ。


「これは?」


「これは結界を付与したピアスだから、常に身につけておいてください。」


実際は獲得経験値増加Lv10と全耐性Lv10を左右のそれぞれに、そして一回きりの結界が付与してある。

正確には左右一回ずつで2回だが。

ロシャス曰く、全耐性の入ったオーブは今まで見つかったことがなく、ここで出すのは控えた方がいいと言われたので、ピアスに付与しておいた。

ザンバラにあげた際にはスキルのオーブへとスキルを付与してアクセサリーとして使えるようにしたが、よくよく考えれば耐性系の魔法や結界魔法を宝石などに付与できるのだから、獲得経験値増加も効果として付与できるのではないかと思い作った。

結果としてはしっかりと付与できた。

効果は使ってみてからしかわからないが、付与した感覚からするとちゃんと効果を発揮してくれるはずである。

一応、アクセサリーなどを色々作るようになってから色々な金属や宝石に魔法などを付与してきた結果、宝石や金属、魔石に魔法などは付与できることがわかっている。

スキルのオーブはあまり強力な魔法を付与できない。しようとしたら、割れてしまった。

宝石や金属、魔石もその物自体のグレードによって付与できる強度が変わってくるが、うまく浸透させれば希少じゃない物を使ってもある程度は付与できる。

そこは術者の技術と魔力の緻密な操作によって差が出る。

だが、宝石の希少なものや、高ランクの魔物の魔石、ミスリルやオリハルコンのような希少な金属は付与魔法にとても馴染みがよく、すんなりと高強度の魔法が付与できる。

だからこそ、希少性も含め市場での取り引き金額も高額になるのだろう。



「あ、ありがとうございます。」


少し顔を赤らめ俯きながら受け取る。


あとはスキルの選択をしてもらった。


戦闘に関するところだと、剣術、体術、短剣術、生活魔法、火魔法、治癒魔法、無詠唱などはもともと覚えていた。

異世界召喚の勇者のいいところはこういう最初から持っている多彩なスキルにあるのではないだろうか。しかもシズカさんは勇者認定されてないのに異世界人というだけでこれだけのスキルを持っていたのだからすごい。

魔法は火魔法と治癒魔法に適性があるようだが、水魔法、風魔法、土魔法も覚えてもらう。火魔法メインで他は念のため程度だ。

火魔法使って火事になったら大変だからな!水魔法で消火だ!なんていうことも考えての念のためである。

治癒魔法は出来て損はないと思うので、なるべくスキルレベルを上げて欲しいところではある。


「こ、こんなにオーブ頂いてよろしいのですか?物によってはものすごく高いと聞きましたが……。」


「大丈夫ですよ。これでも商人ですから、ある程度は手に入れる事はできるので。」


適当な事を言ってはぐらかしておく。


「さて、それではそろそろ行きましょうか。」


「どこへ行くのですか?」


「え?そりゃパレードを見に行くのさ!」


今日は勇者出立のパレードが大通りで行われる。

やっぱりそれくらいは見ておきたい。



▽▽▽▽▽



店はみんなに任せて、俺とロシャス、オルマ、シズカさんでパレードを見に行くことになった。


「うわー、やっぱりすごい人だなあ。」


いつも多くの人で賑わっている場所だが、今日はさらにすごい数の人が集まっている。


「タロー様見えてきましたよ。」


ロシャスに言われ、王城につながる方の通りを見ると、派手に飾られ、少し高く舞台のようになった馬車が2台見えてきた。


その後ろにも何台か豪華な馬車が続く。


「前の馬車にいる4人が勇者かな?」


イケメン2人に美女2人だ。

地球にいた時からあの顔で産んでもらえるのか……。


……顔面格差である。


「……はい。」


4人の姿が目に入ると、少し暗いときのシズカさんの印象に戻ってしまった。


「仲良くなかったんですか?」


「……良くなかったです。」


良くなかったというよりはむしろ悪かった感じだなぁ。


「ところで、敬語じゃなくていいですよ?シズカさんの方が年上ですし、勇者ですから。」


勇者の話から話題を変えようと、趣旨の違った話をしてみる。


「……え?年上?」


一瞬こちらを見て固まり、拍子抜けた声を上げる。

いやん、そんなに見つめないで。


見つめてはいない。勘違いである。


「はい、そのはずです。」


そのはずだよな?

シズカさんは確か18歳だったし。

俺は15歳。ん?もう16歳になったのか?

こちらに来てから誕生日の感覚がなくなったので、ステータスを見なければ年齢があまりよくわからなくなっていた。


「……しっかりしているので年上の方かと思っていました。」


うん、こっち来てから、年相応に見られたことないな。


「……年齢はあまり気にしない方針でいきましょう。でもとりあえず、敬語はなくても構いませんよ。」


「わかりまし……わかった。お言葉に甘えさせてもらいます。」


ニコッと笑う表情は、4人の勇者を見た時のような暗い印象を感じさせない。


「シズカさんもすぐに勇者に相応しい強さを手に入れることができますから。そんなに心配しないでください。」


「うん、私、頑張る。」


やることさえやれば、じいちゃんからもらった能力のおかげで力を得ることは容易いだろう。


「でも、力を持ってからが大切だと思いますから。過信せず、慢心せず、驕らずです。」


「うん、わかっているわ。タローくんに恩を仇で返すようなことしない。」


真剣な表情のシズカさんを見て少し安心する。

それにしてもタローくんか。

一気に距離感詰められ、ちょっとドキッとしてしまったはここだけの話。


「ねぇ、タローくんも敬語やめて欲しいな。」


さらなる、追撃にまたしてもドキッとしたのはここだけの話。


だってずるくない?

こんな風に言われたらそりゃドキッとするでしょ。


だから、俺は答える。


「はい、喜んで!」


ロシャスは呆れて、オルマは笑いを堪えるのに必死だ。


なんだってんだい!


「ん?後ろの馬車にいるのは誰?」


とりあえず話題を変える。


「後ろにいるのは第一王子と、現国王の弟にあたる公爵様ですよ。」


へぇ、あれがマリア様のお兄さんと叔父さんってことか。


「……お、お父さん……。」


え?なんだって?

今ものすごく聞いてはいけないことが後ろの馬車を見つめるオルマから聞こえた気がする。

うん、聞こえてない。


「え、お父さんなの?」


ぐーーー!シズカさん!それは突っ込んじゃだめなんだ!


「……はい。お父さんだと思います。」


オルマは答える。


「ちなみにどっち?」


一応ね、一応聞いておかないと。

第一王子の方は年齢的にありえないと思うが。

それに一緒に乗ってる護衛の騎士とかかもしれないしな。


そして、結論は公爵様だった。

こんなところでまさかまさかのオルマの出自の判明である。

経済的に余裕のある人だとは考えていたが予想の遥か斜め上をいってしまった。


「なぁ、オルマ。お父さんのところ戻りたいか?」


あそこであんな暮らしをしていたのだからオルマの存在がなにか不都合なのかもしれないが、戻りたいと言えばお父さんと生活できるようになんとかしてあげたいとは思う。


「いいえ、今はタロー様のところが僕の帰るべき家ですから。タロー様の許しがある限り、末永くいさせてください。」


オルマはいい笑顔で即答する。

いや結婚とかしないのか?とも思わなくもないが、その言葉は俺にとっては嬉しい限りだ。


「そうか、ならよかったよ。それなら好きなだけうちにいてくれ。」


そう答えて、4人でパレードの賑わいを後にする。



▽▽▽▽▽



翌日から再び、旅を再開することにした。

シズカさんはその日の冒険者として働くメンバーと共に動くことになっている。

シズカさんに合わせ、セレブロではなく、ダンジョンから段階を踏むのは言うまでもない。

シズカさんも他の勇者が帰ってくるまでには他の勇者に負けぬ実力を得ていることだろう。


ダンジョン都市の店にゲートで行って、そこからまた馬車の旅である。


「行ってらっしゃいませ。」


朝、店を開店させるために屋敷から一緒にゲートを付与した扉から来たサリナに見送られ出発だ。


「あぁ、今日もいい天気だ〜。」


「【そうですねぇ。】」


御者台で揺られ、風景を眺めながら心地いい風に頬を緩める。

温かな陽射しに、爽やかな風。旅日和とはこの事だろう。


「ラナはいつも地下の森にいるもんなぁ、久々の外だろ?」


「【えぇ、そうですね。地下の森はとても心地がいいので、快適ですよ。】」


ラナは普通の馬の姿で過ごせるので、庭や庭に設置してある厩舎で過ごしてもいいと言ってあるが、好んで地下の森で過ごすことが多い。


「それを聞けて少しは安心だ。窮屈な思いさせているかなあとも思ってたからさ。」


ラナが好きで地下の森にいるのであればそれでいい。

まぁ、地下といっても地上の森とほとんど変わらないが。


「パパ、遠くに行くの?」


「ん?そうだな、隣の国まで行くぞ。」


「……ぷぷっ。」


「……若、そろそろ笑うのは勘弁してください。」


オルガは最近、ジェフのことをパパと呼ぶ。

きっかけは単純だ。

オルマが冒険者としての護衛依頼のため、1日屋敷を開けることがあったのだが、そのとき、いつも一緒に寝ている兄がいなくなった寂しさからか、寝付けず泣きべそをかいていたオルガをジェフがなだめ、一緒に寝たことがあった。

その翌日からオルガはジェフのことをパパと呼ぶようになったのだ。

まだ8歳程度の幼い少女が今まで数年、兄だけを頼りに生きてきたのだ。

もともと明るい性格のオルガではあるが、幼い彼女の人生の中で唯一信頼し、頼ってきた兄がいなかったことは余程の寂しさだったのだろう。

そんなオルガにたくさんの新たな家族ができたわけだが、その中でもやはり兄の存在は1番である。

その兄がいない夜に自分に温もりをあたえてくれたのが俺の隣でさわやかな風を感じながら膝にオルガを乗せているジェフである。

そんなオルガからすれば、頼りになる男認定され、年齢的に30手前のジェフをパパと呼ぶのはわからないでもない。


「いや、慣れてるつもりなんだけど、やっぱり慣れないというか。」


それでもジェフがパパと呼ばれるのをこの目で見ると笑みがこぼれてしまうのは仕方のないことだと思う。


「パパはパパだもんね!」


出会った当時は栄養の足りていない痩せ細った体であったが、今はこの年頃の少女にふさわしいふっくらとした頬を持った可愛らしい彼女に、ニコッと太陽のような笑顔を向けられてしまえば、パパと認めざるを得ないだろう。


「柄じゃないんですけどね。」


口ではそんなこと言ってはいるが、恥ずかしそうに頭をかくジェフも、満更でもない様子だ。

ジェフは顔に似合わず、面倒見がいい。とくに小さい子とはすぐに打ち解けている気がする。

クロもシロもジェフにぃって呼んでるしな。


「今回の旅の同行もオルガのためだろ?」


「……若には分かっちまいますか。」


いや、俺だけでなくみんな分かっていたことだろう。

いつもならリーシャやシロ、クロ、ライエが率先してついてこようとする。あとはジーナも来たがるし、トーマも俺の身を心配してついて来たがるが。

だが、馬車の大きさ的にも2人、多くても3人くらいがベストということで、日替わりで誰かが付いてくるという形になっている。

そして、今回は珍しくジェフがオルガを連れて立候補してきたのだ。

それを聞いた瞬間、みんなしてニヤっとしてからジェフに旅の同行を譲った。


「オルガはまだ幼いですから、いろんな場所を見せてやるのも悪いことではないですからね。」


「それはそうだ。こうして、道中ゆっくりのんびりするのも悪くないし、いろんな景色を眺めたり、いろんな人と出会うのはオルガの為になるだろうよ。」


ちなみに今回はダンジョン都市から出発して隣国ガラへと向かう予定だ。

そして目的地はその国の首都、学園都市ガベサである。

マリア様が言うには、フレンテ王国の王都にも学園はあるが、ガベサの学園は規模が違うらしい。


学園都市であるからオルガを連れて行くのには大いに賛成した。

途中で見る、村や町も王都との違いを見るのにいい勉強になるし、学園都市はオルガにとって刺激となることも多いだろう。

だから今回は基本的に用がない限りはジェフとオルガが同行するということになっている。

帰ろうと思えばいつでも馬車から屋敷へと戻れるしな。

それに学園都市となれば、将来、オルガを通わせるのもありかもしれない。



そんなことを考えながらのんびりと旅を楽しむのであった。









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