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61話






「よくぞ、よくぞ参ってくれた勇者様方!!」


私たちにそう声をかけたのは煌びやかな服に身を包み、昔絵本で見たような王冠にマント姿の初老の男性だ。


今この現状を説明するにはもう少し時間を遡ることになる。



▽▽▽▽▽



「なぁ、静香。お前もそろそろ自分の立場ってのを理解したらどうなんだ?」


立場を理解しろと、優しく諭すような声で話しかけるのは私の通う高校の3年生。それもサッカーの特待生として入学し、プロからのスカウトも多数。誰から見てもスポーツマンといった、男子からも女子からも人気の宮田大樹という生徒だ。


「で、でも……。」


「でもじゃないよ!!あんたが芳樹に色目使ってんの知ってんだよ!」


彼女はそんな宮田くん達と常に行動共にする生徒の1人、天海梨花。

美しい容姿に、父は大企業の社長というご令嬢だ。


「そんな気持ち悪い顔して色目なんか使って意味あると思ってるの?」


彼女も彼らと常に一緒にいる生徒の1人。

学業に優れ、スポーツもできる、女子の憧れの的である橘小百合。


「それとも芳樹があんたに振り向いてくれると思ってんの?」


「おいおい、やめてくれよ。俺に対して好意を抱くのは勝手だが、付きまとわれちゃかなわないね。」


そして彼がそんな3人の中心的存在の鳳芳樹。

スポーツ万能、頭脳明晰。そして何よりどんな女も虜になると言われるほどの容姿端麗。

誰しもが認め敬うこの学校のリーダー的存在だ。


そんな彼らに私は問い詰められているということだ。

なぜかって?私にもわからない。


「わ、私はそんなつもりは……。」


「芳樹にそんな魅力がないっていうの?」


鋭い目つきで睨みつける天海さん。

付き纏っているつもりもないが、それを否定すれば鳳くんを否定しているかのように受け取られる。

彼女はきっと鳳芳樹の事が好きなのだろう。私の言葉、行動、なにからなにまで食いついてくる。

煩わしい事この上ない。

しかし、はっきりと言えない私も悪いのだろうなぁ。


私が高校1年生のとき、4人と同じクラスになった。

たまたま私が落とした消しゴムを拾ってくれたのが鳳くんだったのだが、その突然の事に私は気が動転してしまい、お礼を言う事ができなかった。


昔から、根暗、サダコ、本の虫……と言われ続けてきた私からすれば鳳くんは住む世界が違うと感じざるを得ないほど、煌びやかな存在に思え、言葉を交わすのを躊躇ってしまったことは否めない。

私の容姿は、瓶底眼鏡に長い黒髪。そして、人前ではうまく言葉が出ないと言うか、あがり症というか……そんな感じだ。

確かに暗い印象を持たれるだろう。

でも、そんな私でも鳳くんたちのような存在になりたいと思ったことはない。いや、憧れた事がないと言えば嘘になるかもしれないが、私は私で楽しい生活を送っていたと思っている。

ましてや好意を抱いたことなどこれっぽっちもなかったのだ。

そんな私はなにしてる時が楽しいのか?

それは色々とあるが、私の中で特に夢中になれるもの、それは本だ。

昔からたくさんの本を夢中になって読んできた。

本の中にはいろんな世界が広がっている。それこそ現実では味わえない様々なことを感じさせてくれる。特にファンタジー系はいい。ただの本に飽き足らず、ライトノベルからネットに投稿される物まで多くの物を読み漁ってきたほどだ。


そんな私が鳳くんを追いかける?

ありえない。

本の中の勇者の方がよっぽど勇敢で誠実な男前だ。

ただ、言いそびれた消しゴムのお礼を言いたかった、それだけなのに。

それが後をつけてるように見られたらしく、何かと因縁をつけてくるようになってきた周りの存在。

残念なものを見るかのような周囲の目。

もう2年は続いているだろか?

特に気にはしていなかったが、ここ最近では取り巻き3人に呼び出されることも増えてきた。

一体何が気に入らないのだろうか。なんと言えば解放してくれるのだろうか。

全くわからない。

私に関わったところでたいした面白みもないというのに。


いつものように言い責められ、私が言葉を言い終える前に罵倒され、口をつぐむ。いつもこの繰り返しだ。


そんなことを考えていたとき突然周囲が明るく光りだした……いや、周りじゃない。地面だ。地面に絵のような字のようなものが浮かびそれが光っていた。


「なっ!なにこれ!!」


「うお!!おい逃げるぞ!」


橘さんと宮田くんが声を上げたが、すでに時遅し。

光に包まれ、強烈な眩しさに思わず目を瞑る。



▽▽▽▽▽



光が収まったと思って目を開けたら、そこには知らない光景が広がっていた。


「みなさん、突然の事で驚きかと思いますが、まずはお話を聞いてください。」


華やかな服……中世のヨーロッパのような服かな?を着た人、甲冑を着込む人に周りを囲まれ、その中の1人が声をかけてきた。


話を聞いてくれか。どうやら悪い対応をされるわけじゃなさそうかな。


実は私はこの展開に少し心躍らせていた。伊達にライトノベルのファンタジーを読んできたわけではない。所謂、勇者召喚ではないかと、想いを馳せていた。


そのあと、周りを囲む人達の中で一番華やかな服を着ていた若い男性の話を聞くと、ここは異世界、私たちは本当に勇者召喚でここへ呼ばれたようだ。

魔王による侵略を止めるために力を貸して欲しいと、そういう事らしい。


勇者……私が勇者。

今まで本の中の世界に入り込み自分を主人公に重ねて夢見てきた世界。

でも今回は違う。本当に来てしまったのだ。異世界に。それも勇者として来てしまったのだ。


「あいつ、なに笑ってるの?信じらんない。」


天海さんに冷たい目で見られている。それはいつものことか。

あぁ、私はこの喜び、胸の高鳴りを表情に出してしまっていたようだ。


一通り話を聞いた後、王に謁見するということで、謁見の間に連れていかれた。



▽▽▽▽▽



「よくぞ、よくぞ参ってくれた勇者様方!!」


そう大仰に歓迎の言葉をかけてくれたのがこの国の王。オーガスタ・フレンテというらしい。


「だいたいの話は息子から聞いたと思う。ついては早速この世界について話したい。」


この世界についてか……。大事なことだよね。


「これから勇者様方には魔王の対抗勢力となってもらうべく、長期に渡って勉強と訓練をしてもらうことになるだろう。」


魔王のことはさっき若い男性……そうか、彼が息子ということか。

ならば彼は王子なんだ。

あ、今はそんなことじゃなくて魔王。

魔王のことを聞いていたとはいえ、私たちが戦うことが当たり前という話ぶりに少し違和感を覚える。

なんというか……突然呼び寄せたくせになにを勝手なこと言ってるんだ!みたいな感じかな?

勇者様なんて敬称つけてるくせして上からな感じがちょっと鼻に付くよね。


「ちょっと待ってほしい。さっきから話を聞いてれば、俺たちが魔王と戦うのが当たり前だと思ってるようだが、俺たちは戦わなければならないのか?」


ん、鳳くんも同じことを感じたのか。

みんな秀才なんだからそれくらいは感じるかな。


「貴様!無礼だろ!王の御前だぞ!」


王のそばに控える騎士の1人が声を上げるが、それを王が手で制する。


「よい。勇者様、大変失礼しました。突然の召喚なのに、こちらの配慮が足りませんでしたな。」


この王は胡散臭いほどに物腰が柔らかい。


「しかし、我々も魔王の脅威が迫ってるの知っているにもかかわらず何もせずに民を危機に晒すわけにはいかないのです。なにとぞご助力を。」


王が深々と頭を下げる。


その様子に周りの者は皆驚き、慌てる。


「王よ、頭をお上げください。王が頭を下げられては示しがつきませぬ。」


おぉー、あれは宰相というやつかな?

王に近づき、声をかけている。


「民を代表して、頭も下げられぬ者のなにが王だ。民を救うためならこの頭いくらでも下げてみせよう!」


声高らかに宣言する王。

立派だなぁ。

私なら恥ずかしくてあんなことできないよ。

でも、それが本心なら立派だけど、さっきから本当になんか胡散臭いんだよね。

でも、魔王の脅威に民が危機に晒されるのは事実だろうし……。

勇者として召喚されたのならそれは見過ごさないって気持ちにはなる。


「王様、よく理解できました。微力ながら我々も力を貸しましょう。しかし、我々は至って普通の学生でした。なんの力もありません。」


え?理解できたの?

4人とも真剣な眼差しになって頷き、王を見ている。


「心配には及ばぬ。勇者として召喚されたお主らならば、すぐにこの国最強の戦士となるだろう!うむ、そうだな……まずはステータスを確認してみればわかるな。」


宰相の助言によりステータス確認を行うことになった。


やっぱ、ステータスあるんだ!

本の中の世界みたいだ。


「では、ステータスと念じてみてはくれぬか?そして、さらにそれを他人に見せる許可を念じればそのステータスは可視化する。」


そう言われ、私たち5人はステータスと念じ、他人に見せる許可も念じる。

すると、目の前にいろんな数字が並んだ物が現れた。


「わっ!」


「おぉ、こんなことできるのか!」


橘さんは驚き、宮田くんは感心している。


私も自分のステータスを見る。

これって強いのかなあ?



名前:シズカ・カミヤ

性別:女

年齢:18歳

種族:人族

職業:勇者

レベル:10

HP:900

MP:400

STR:280

VIT:300

DEX:400

AGI:300

INT:700



4人の方を見ると、確認に来た騎士の中でも立派な甲冑を着込んでいる人が数人と宰相さんが、おぉ!さすがは勇者!と、声を上げている。


次は私の番だ。


どきどきする、わくわくする。


「ふむ……お主は1人だけ至って平凡であるなぁ。」


え?


嘘でしょ?


「鍛えれば伸びるタイプなのかもしれませぬ!なにしろ勇者ですからな!」


「たしかにそうかもしれぬな。期待しておるぞ、シズカ殿!」


え?


平凡的?


勇者召喚されたのに?


宰相さんと、騎士の人がなにやら話していたが全く耳に入らなかった。


私は期待していた異世界に一般人として召喚されたの……?


……あぁ、そっか。

これは巻き込まれて召喚ってやつかな。

あははは、巻き込まれて召喚される人って本当は勇者よりも圧倒的なステータスを持つのがテンプレなのに。

私は本当に平凡的だ。


期待に胸を膨らませ輝いていた世界が、一気に暗くなる。

だってそうでしょ?

一般人ってことは、私は魔王の脅威に晒される民の人たちと同じ。

ただただ、危険な世界に来ただけじゃないの……。


でも、まだ希望はある。

鍛えて鍛えて、きっと勇者と同じところまで成長する。

勇者は往々にして他者に圧倒的な差をつける成長率を持つものだ。

まだ希望は捨ててはいけない。


そんなことを自問自答しながら、その日は各自部屋へ通され、休むこととなった。



▽▽▽▽▽



「静香、俺たちは明日から国を周りさらなる高みを目指す。」


鳳くんはこの世界に来てさらに自分に自信でもついたのだろうか?


そりゃそうだよね。

だって、勇者と囃し立てられ、それに見合う実力もある。


この世界に来て2ヶ月ほどが経つだろうか?

この世界に存在する、ステータスやスキル、魔法、魔物などについての勉強、そして訓練。

慌しく毎日が過ぎていく中、4人の勇者はメキメキと力をつけていった。

それに比べて私はあまり変化がない。

訓練も必死に頑張っている。でもいまだに一般兵と変わらない強さだ。

うん、平凡的な女子が一般兵レベルで戦えるのだからすごいかと思ったら、そういうこともない。

普通に兵士の中には女の子もいる。


「足手まといのあんたは明日から別行動でしょ?」


天海さんの言う通り、明日から国を周り魔物との実践的な戦いの経験を積む4人とは違い、私はこの都市に残ることになっている。

これはこの国の第三王女、マリア様のご助言によるものだ。

マリア様はこんな私にも何かと目をかけてくれて、顔を合わせれば声をかけてくれる。

名ばかりの勇者として周りから冷たい目で見られる今、私を1人の人間として接してくれる数少ない人の1人だ。


「せいぜい、勇者の名を汚さないように、隠れてなさい。」


天海さんはなぜこんなにも強く当たるのだろう。

パレードの準備へと向かった4人の背中を見ながら、なぜ私がこの世界にいるのか、考えずにはいられない。


「……今日も訓練か。」


はぁ。もう訓練もやめて、街でひっそり商人として働こうかな。

黒い瞳も髪も、多くないとはいえ、この世界には普通に存在する。

特に目立つこともないだろうし、勇者とバレることもないだろう。


「シズカさん?元気ないですね。」


「あ……マ、マリア様。お、おはようごさまいます。」


かぁ、恥ずかしい。

独り言を聞かれてたかなあ。

こんなところでマリア様に会うなんて。


「おはようございます。なにか、嫌なことでも?」


「い、いえ、特には……。」


「そうですか。この世界に来てもう2ヶ月ほど経ちますが、毎日休む暇もなくお疲れでしょう?」


「い、いえいえ、だ、大丈夫です。」


はぁ〜、マリア様っていい匂いがする。

なんていうか、フローラルな感じ?

この世界にもお風呂ってあるけど、正直石鹸とかの品質は良くなかった。

天海さんとかすごい怒ってたし。

それなのにマリア様の髪の毛はツヤツヤだし、いつもいい香りがする。

なにか違うもの使ってるのかなぁ?


「そうだ!今日私は特にやることがないので街に出ようかと思っているのですが、ご一緒にどうですか?」


パンっと胸の前で両手を合わせ、いいこと思いついたといった無邪気な表情見せる王女様はとても可愛らしい方だ。

たしか、年齢もそんなに変わらないのに、綺麗でそれに加えて可愛らしい。

こういう人なら憧れるなぁ〜。


「ね、シズカさん、どうですか?」


「え?え、あ、はい。」


あ、話聞いてなかった。

たしか、一緒に街に行きましょうって話だったっけ?

……?え?街に一緒に?


「えぇーーーー!!!?」


「あら、そんな大きな声も出るのですね。」


ニコッと笑うマリア様。

驚き過ぎて、今までで1番大きな声を出してしまったかもしれない。


「し、しかし、マリア様。私は……。」


「いいじゃないですか。たまには息抜きも必要ですよ。」


じいやさんも後ろで頷いている。

本当に良いのだろうか……。


「それでは準備してまいりますので、後ほど。」


そう言ってさっさと行ってしまった。

数秒その場で固まり、どうすればいいか悩むが、どうすることもできるわけもなく、とにかく、私も準備をしないとと、部屋へ戻る。


その後、本当に一緒に街へ行くらしく、共に馬車に乗り街へと繰り出した。


馬車から外を流れる景色を見る。

中世のヨーロッパに来たかのような街並みに、明るく元気に働く人たち。まぁ中世ヨーロッパなんて行ったことはないので、テレビとかで見るような映像からの想像だが。そんな街並みと人々。

私はこの人たちを守る力を持つはずだったのに……そんなことが頭をよぎらないではない。

人間以外にも、獣の耳を生やした人や、背の小さなヒゲモジャな人、耳の尖った人、本の世界で想像に想像を膨らませて夢にまで見た人たちが目の前にいる。

こんな素晴らしい世界に来ているのに、私は私のことばかり考えて、周りがなにも見えていなかったのだなあと思った。

魔王討伐、民を守る……言葉では簡単に言えるけど、守る対象をちゃんと見てもいなかった自分が、どれだけ自分の中の世界に閉じこもっていたか、街の賑わいを眺めながら感じた。

ここは本の中でない、現実なのだ。

街の人も今目の前にいる王女様もみんな生きている。

やっぱり、勇者として召喚されたのなら生きてるみんなを守りたい。一般兵でもやれることはあるはずだ。

少しでもこの世界の力になろう。


そんなことを考えながら眺める街も、寄る店も素敵に思えた。

こんなにゆっくりと街を見るのは初めてかもしれない。

やっぱり精神的に追い込まれていたのかなあ。


「ここが今日の一番の目的地です。」


そうマリア様が言ったのは、大きなお屋敷に、塀の前に商店がある、そんな場所だった。


「貴族様かなにかのお友達でしょうか?」


「いえ、ただの商人ですよ。ちょっと変わり者ですけどね。」


ニコニコ楽しそうに話しながら、店の中へと入っていく。


そして、私は今さっき決意したこの世界での生き方をガラッと変える、運命的な出会いをここでするのだった。













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