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57話









「……アンドレ。」


マリア様に睨まれ、冷や汗を垂らしながら、ごくんっと口に含んでいたクッキーを胃に流し込むアンドレさん。


ザマアミロである。


「それで……勇者が召喚されたということは魔王も?」


「魔王の出現確認はまだ取れておりません。兆候も出ていないです。」


「それなのに召喚を?」


「予言ではもう間も無く魔王の出現兆候が確認されるはずです。」


予言は絶対なのか?


「そして、魔王の出現兆候が確認され、出現の確認が取れる前まで半年から一年。それまでに勇者様方を戦えるように鍛えなければならないのです。」


あぁ、そっか。異世界から来た人間がいきなり戦える可能性は低いわけだ。

勇者として基礎能力も成長率も高いが、召喚されたばっかりでいきなり高いステータスを持ってるわけではないってことかな?


「召喚されてすぐの勇者は戦えないということですか?」


「はい。戦った経験がないと聞きます。ですが、ステータス的にはすでに一般兵士のレベルを遥かに超える物を持っていますし、成長率が著しい。まさに勇者と言うべき存在ではあります。」


「だから、その勇者たちに実戦経験を積ませ、レベルアップをさせると。」


「はい、魔王出現のその時までにレベルアップをして頂かなければなりません。」


ふむ。前の勇者も同じパターンだったとするならば、半年から一年かけて60レベル程度に到達したことになる。

スミスカンパニーのメンバーの異常さが際立つ。


「ところで、さっき勇者様方って言ってましたけど、1人じゃないんですか?」


「今回勇者として召喚されたのは5人。男性2人に女性が3人です。」


え?多くない?


「多くないですか?」


「……多いかどうかはわかりかねますが……召喚されて来ましたので……。」


えぇ、人数の指定とかないの?

あ、まさか魔法陣中にいた人みんな召喚的なあれ?

それとも5人が選ばれてやって来たのか……。


「それでは今の王都に5人の勇者がいるということですか……。」


はぁ。接触しないことを祈ろう。

だが、なんだかでいつかは接触してしまう予感がする。

日本人の興味を引き寄せる要素がたくさんある気がするよ、スミスカンパニー。


「魔王の対抗勢力として十分な力を持っていそうですか?」


「あいつらが訓練に耐えられりゃ大丈夫だろうな。ステータスもさすがは勇者と言うべき物だった。」


おぉ、こういう戦闘力の話になるとアンドレが入ってくるのな。


「ちなみにレベルは?」


「召喚された時点では4人がLv.20。1人だけLv10だったな。」


え?低っ!なにその1人だけ異常な低レベル。


「ステータスもLv20の4人は優秀だったが、10のやつだけがかなり平凡的でなぁ。頭を悩ませてるところなんだ。」


もしかして、それは……巻き込まれて転生したけど勇者じゃありませんってやつか?

なんとも夢のような設定だ。

だが、その設定の場合大抵は勇者じゃない方が勇者より強くて勇者のような働きをするのだが……。


「ちなみにお歳の頃は?」


「みな、18だ。」


高校三年生!先輩!!


「みんな揃いの服を着ているとかそのような……?」


「ん?あぁ、そうだ。よくわかったな。」


制服だ……。高校生の確率がぐっと上がった。

今まで聞いた勇者の話からすると、勇者召喚は地球から……それも日本人が召喚されてる確率が高い。


はぁ。関わりたくねえ〜。


「4人はいいんだがよ、レベルの低かった女だけはなんかこう……仲間として認識されてないというか、そんな気がするんだよなぁ。」


「それはどういう意味ですか……?」


「部屋は男と女で分けたんだが、2人の女がもう1人と同じ部屋は嫌だと言うんだ。だから仕方なくそいつだけ別の部屋へと案内したんだが。そしたら他の4人もあいつが1人部屋なら俺たちも1人部屋を与えられるべきだって……な。」


「なんとわがままな。」


横暴もいいところだろ。

自分たちが勇者として召喚されたと聞いて調子乗ってるのだろうか。


「国にとっては人族の命運がかかってる大切な勇者様だからな。無碍には扱えないのだよ。」


「なんだか、幸先悪いですね。その4人が、訓練に耐えられるような気がしない。というよりまともに訓練するようには思えない。」


いや、だが力があるということを自分たちで理解してしまえば、その力を振るうために魔物を殺して優越感に浸る。ありえそうだ。それでもレベルアップするための経験値を得て、さらに力をつけて、もっと横暴になっていく…………ありえそうだ。


「タローもそう思うか?俺もな、あまり気が進まんのだ。」


あのアンドレさんにここまで言わしめるとは……相当頭を悩ませているようだ。


それにしても早い段階で勇者召喚が起きてしまった。

こんな早く勇者という存在が近くに現れるとは思ってもみなかった。


「で、なぜそんな話を俺に?」


「ん?ただ、愚痴を言って美味しいお茶とお菓子を食べに来ただけな。」


喫茶店かて!!


「そんなことでこんな辺鄙なところへ外出してもよろしいのですか?」


「問題ないでしょう。ねぇ、じいや。」


「はい、問題ありません。公務もありませんし、最強の護衛もいますので。」


アンドレさんは最強の護衛と言われて苦笑いである。


「それで、タロー。勇者は近々王都の見学へ出ます。くれぐれも揉め事を起こさないようにお願いします。」


「え?マリア様は俺が揉め事を起こすと?そうおっしゃっているのですか?」


ひどい評価ではないか。

マリア様。盗賊から救い、リーシャたちを拾ってガウン男爵に睨まれ、バナル男爵夫人と揉めて、サブレ子爵と大喧嘩……


……あれ?


「タローが揉めてるつもりも、揉めたくなくても、なぜか厄介ごとを引き寄せてる気がするんです。」


ぐ、ぐぐぐっ。


「ごもっとも。」


頭を下げる他ない。


「しかし、マリア様、こちらとしても理不尽を受け入れるわけにはいきませんので、揉めてしまったその時は……。」


「……その時は?」


「みんなで一生懸命国から逃げることにいたします!」


マリア様の国に迷惑かけるわけにもいかないしね。


「……あはは、あはははは!タロー、さすがね!」


ポカンと一瞬口を開け、空気が固まったかと思ったら、次の瞬間、笑い始めた王女様。

屈託のない本心からの笑い。少し、涙まで浮かべている。


……え?変なこと言った?


「立ち向かわずに逃げるとはなぁ。そこまではっきり宣言までして。」


アンドレさんまで呆れるように笑う。


「いや、だって大事にしないでくれと言われたらそれしかないでしょう?」


逃げるが勝ちではないだろうか?


「確かに、そうですね。しかし、まさかそこまで潔く逃げを宣言するとは思いませんでした。」


まだ先ほどの大笑いから復活しきれていない王女が、浮かべた涙を拭い、少しだけ息を上げながら俺の言葉に対する感想を述べる。


「こちらとしてもなるべく面倒事は避けたいですしね。一層のこと勇者様が街へ出るときは休業しようかなあ。そしたら出会うこともないでしょうし。」


やることはたくさんあるから休んでもいいんだが、どうしたものか。

ま、街はずれもいいとこだ。きっと会わないだろう。


「それもひとつの手かもしれませんね。しかし、ここまであなたと勇者が揉め事起こす前提で話しているのに怒らないのですね。」


怒りたくても怒れないのだ……。ありえる気がするから。


「なんとなくですけど、俺も接触があれば何かある気がするんですよね。」


本当に苦笑いを浮かべるしかない。


「ふふふ、そうなのね。では、そろそろ戻りますね。じいや行きましょう。」


「はい、お嬢様。」


そう言って優雅に立ち上がりじいやとアンドレさんを伴い部屋を出て行こうとする。


「いつも気にかけてくれてありがとうございます、マリア様。」


俺はなんだかんだでいつも気にかけて、声をかけてくれることに感謝して、お礼を述べる。

心からの笑顔で感謝だ。


「か、かまわないのでしゅ。」


それを見てマリア様はなぜか一瞬呆気にとられ、しまいには顔を少しだけ赤くしながら、そっぽを向いて放った言葉を噛み、さらに顔を赤くしながら部屋を出て行った。


「あ、やべやべ、忘れるところだった。」


俺は急いでマリア様を追いかけ、マリア様が馬車に乗るところで追いつく。


「マリア様、これお礼で渡そうと思ってたものです。よかったらどうぞ。」


「これは?」


「いつも通りお菓子ですけど、新しい物も入れてあります。まだ販売する予定のないものですけど、よかったら食べてみてください。」


中に、メープルシロップを使ったクッキーも入れておいた。量が確保できないのでまだ販売する予定のないものだ。


「……ありがたくいただきます。」


マリア様はそれを受け取った後、馬車へと乗り込みそれに続いてじいやも乗り込む。そしてアンドレさんは馬車の横について歩くようだ。


「どうしたんですか?その手。」


「……。」


無言で手を差し出してくるアンドレさん。


握手にしては手のひらが上を向いているので違うだろう。


「はぁ、わかってますよ。今回はアンドレさんにもお世話になりましたしね。」


俺はクッキーをもう一袋取りだし、アンドレさんへと手渡す。


「さすがタローだ、ありがたく頂こう。」


……要求してきたじゃないか。


受け取って満足したのか、アンドレさんの合図で馬車はすぐに発車して王城へ向かっていった。


「はぁ、勇者かぁ……。」


「勇者がどうかしたのですか?」


「お、ロシャスいつの間に後ろに!どうやら、召喚されたみたいだよ。」


「そうですか。たしかに魔王出現の予知から考えれば妥当なタイミングではありますね。」


たしかにそうだろうな。

しかし、予知とは一体どんな仕組みなのだろうか。巫女とかいるのか?


「もう一国の方も召喚が成功すれば近いうちに召喚されるんだろうな。」


王女様を乗せた馬車が俺の屋敷の門をくぐるところまでロシャスとともに見送り、家の中へと入る。


「勇者は5人召喚されたらしいよ?」


中へ入り扉を閉めるロシャスに向かって話しかける。


「今回は多いですな。前回の時は2人だったという話ですが……。」


えぇ、多くなりすぎだろ。

それに加えてもう一国も召喚するとなると、勇者の飽和状態ではないだろうか。

勇者の希少価値がだだ下がりである。


「しかも、1人はステータスが平凡らしいんだ。」


「それはまた……奇妙なことも起こるのですね。魔王の討伐は大丈夫でしょうか。」


「他の4人はさすが勇者って感じのステータスみたいだし、大丈夫なんじゃないか?」


なるべく真面目に勤勉に魔王討伐をしていただきたいものだ。

しかし、1人だけ劣等ステータスというのは少々気になるところではある。


だが、俺は忙しい!

セレブロの探索はほぼ毎日交代制でやってくれているが、あまり進んでいないし俺は近頃行けていない。他の都市にも行ってみたいのにまだラビオス止まりだ。

やることはたくさんある、つまり勇者に関わってる暇はない!

ないったらない!ないのだ!


あ、勇者といえば、圧倒的なステータス。それで、最近自分のステータスを確認してないと思ったんだった。

久々に見てみるか。


名前:タロー

性別:男

年齢:15

種族:人族

職業:商人

レベル:20(54)

HP:1300(115000)

MP:500(115000)

STR:400(26000)

VIT:550(26000)

DEX:500(26000)

AGI:500(26000)

INT:700(26000)

スキル

体術Lv2(Lv10)

剣術Lv2(Lv10)

(短剣術Lv10)

(斧術Lv10)

火魔法Lv1(Lv10)

(水魔法Lv10)

(風魔法Lv10)

(土魔法Lv10)

(雷魔法Lv10)

(光魔法Lv10)

(闇魔法Lv10)

治癒魔法Lv1(Lv10)

(空間魔法Lv10)

(時空魔法Lv10)

(結界魔法Lv10)

生活魔法Lv5(Lv10)

(無詠唱Lv10)

(索敵Lv10)

(鍛治Lv10)

(錬金術Lv10)

(薬師Lv10)

(全耐性Lv10)

鑑定Lv2(Lv10)

(隠蔽Lv10)

(スキルオペレーターLv10)

解体Lv2(Lv10)

(夜目Lv10)

テイマーLv1(Lv10)

加護

(全能神の加護)



うん、こんなもんか。うん、うん。



……よし、見なかったことにしよう。






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