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55話

更新いつも不定期で申し訳ありません。








「ふむ。どうやら取り乱していたようだ。」


ふむじゃないだろ。取り乱してたよ。乱れまくりだったよ。


「いえいえ、気に入って頂けたらまた買いに来てください。」


「ぜひ、買いに行こう。色々と貰って悪かったな。」


「いえ、すぐに対応していただけて助かりましたので。」


「いや、元はと言えば貴族、国の問題だ。今回の助力には感謝する。」


侯爵様からの感謝してもらえるとはな。しっかりと貴族として国を豊かにする志を持っていることが伺える。いい人だ。


「今回はお世話になりました。では。」


「あぁ、また食事に招待する。依頼に行くときもよろしく頼むぞ。」


侯爵様とビルさんのフィーバータイムを終えて、冷静になった侯爵様にお礼を告げて帰路へ着く。


あ、王女様にも報告とお礼をしなくてはな。

なにかお土産になるものでも考えよう。お菓子がいいな。うん、お菓子だ。


「ライエ、付き合ってくれてありがとう。」


「いえ、タロー様のおそばにいる事が私にとっての褒美ですので。それに、人族の貴族と対等に話せたのはタロー様のおかげです。感謝しています。」


なんと…嬉しいことを言ってくれるじゃないか。


ふむ。モフモフしよう。


俺はライエの言葉を聞いて、自然とライエの頭を撫でたり、耳をモフモフしていた。


「タ、タロー様…外でそんな…はう。」


少し顔を赤らめながら抵抗するが、その抵抗は無駄に終わる。


と、そんなバカなやり取りをしながら店に向かって帰るのであった。



▽▽▽▽▽



「ここで働かせて欲しい?」


「はい、みんなで話したんです。今ここで、普通の生活が出来ることはタロー様のおかげだと。」


「だから、店で?」


「なにか恩返しがしたいのですが、タロー様がこんなに繁盛するお店の店主だとは思いませんでした。我々に出来ることはお店の手伝いくらいしかないのではと…。もちろん、お金はいりません!お手伝いさせて貰うだけで十分です。」


ね、熱がすごい。圧が…。

どうやら、廃墟の地下から出て、家に戻ったはいいが、その時やっと俺のことを名前以外になにも知らないことに気づいたそうだ。

家に戻った翌日、様子を見に来てくれたリーシャに俺のこと、そしてここのことを聞いて、家族で話し合って今日ここに来たというわけだ。


「どうしたもんか…。」


「これは我々のわがままです。恩を返すことをタロー様に押し付けているのもわかっております。ただただ、自分たちが納得するために何かさせて欲しいのです。」


ほう。ちゃんとそこまで自分の言っている事を理解しているのか。

しかも自分よりもはるかに年下の子供に頭を下げてまで。


「わかりました、その申し出を受けます。ただし条件があります。」


「条件…?」


ごくっと唾を呑み込むザンバラ。


そんなに覚悟しなくてもいいと思うのだが…。

俺ってそんなに非道な事しそうに見えるのだろうか。


「1つ目は、ここで働く事に対する給金をちゃんと出します。ザンバラさんは冒険者時代の稼ぎよりもかなり低くなるでしょうけどね。その給金はちゃんと受け取ってください。それが1つ目。」


Cランク冒険者として活動していたのならそれなりの稼ぎはあった事だろう。それに若くしてCランクとして活躍していたザンバラには冒険者としてのノウハウが期待できる。仲良くしておいて損はないだろう。


「2つ目は冒険者としても働くということです。せっかく若くしてCランクにまで登り詰めた実力を無駄にするのはもったいない。なので、店で働くのは週に2日、あとは冒険者として働くことと休息に当ててください。その稼ぎは自分の物としてくれて構いません。」


前にも説明したかもしれないが、この世界のひと月は30日。1週間は6日、5週間でひと月となる。

6日のうちの2日を店で働くとなれば今までのように冒険者としての活動はできなくなるので稼ぎも低くなる。その分は店からの給金で賄うという感じだ。


「あ、もちろん長期の依頼などがある場合はその限りではありませんので、店に言ってくれれば対応しますよ。」


今はCランクだが、ランクが上がれば上がるほど長期にわたってこなす依頼というのもあることだろう。


「そして、3つ目は子育ての優先です。奥さんは無理に働く必要はありません。まだお子さん小さいですよね?3歳でしたっけ?そんな子供をほったらかして働く必要はないと思いますので。子守しながら出来る範囲で構いません。むしろ働かなくても大丈夫です。子供を育てることが優先すべき仕事です。」


子育てを仕事と思ってるわけではないが、母として子を育てること…とくに小さい子供を側で見守ることは産んだからにはしなければならない責務だと思う。


「だから、ザンバラさんも冒険者として無茶をして死ぬことも許されませんので心に留めておいてください。」


父親も子育ての責務がある。それを放置することは許されるべきではない。

子育ては父と母2人が協力して成り立つべきものだ。

やんごとなき理由がない限り、どちらかが極端な負担を強いるのはあってはならないだろう。


「4つ目は一番守って欲しいことですが、店で働くことで感じる疑問をなるべく無視してください。店のこと、店のみんなのことは絶対に他に話してはなりません。これを守らない場合は然るべき対応を取らざるを得なくなりますので、しっかりと他の皆にも守らせてください。」


脅しを込めて、少し威圧感を込めて話す。

今までは身内が皆奴隷だったのでそこまで強調する必要もないし、みんなもバラす気は無いのでそこまで強制をしてこなかったが、今回の場合、ザンバラたちは奴隷ではないのでしっかりと守ってもらわなければ困る。このラビオスの店で働くだけでも疑問がいくつも湧いてくることだろう。そこを気にしてしまうと、こちらとしても誤魔化すか話すしかないわけだが、誤魔化すにも限界があるだろうし、事実を話せばそれを外に漏らしてしまう可能性も異常な存在として拒絶される可能性も出てくる。

俺たちのことを外に出て話されるのはめんどくさいことになるから嫌なのだ。


「と、だいたいこのくらいですかね。ザンバラさんの妹分の2人…えっと。」


「マナとヤナイだ。」


「そうそう、マナさんとヤナイさん。その2人の装備も最初の分はこちらで用意します。ザンバラさんも必要なものがあれば用意しますよ。なので、2人の指導しっかりとお願いします。」


「…本当にいいのか?こんな条件で…。」


「えぇ、構いません。4つ目だけ守ってもらえればこちらとしてはとくに問題ありませんので。他はフレキシブルに対応してくれたらいいと思います。」


「…ありがとう。ありがとうございます。」


「いえいえ、これも何かの縁ですから。これからもよろしくお願いします。」


話がまとまったところでザンバラさんは帰っていった。

またの後日みんなでここへ挨拶に来るとのことだ。

その時に装備なども準備すればいいだろう。

ダンジョンから拾ってきた装備もたくさんあるし、ミーシャもいるので大抵の装備は準備できるはずだ。ましてや新人となれば良すぎる装備はよくないだろうしな。


「よし、やっと暇ができた!」


本来は王都の店や、ラビオスの店、セレブロの探索など、皆がやっていることを手伝うべきなのだろうが、そんなことはお構い無しなのがタローである。


暇と称してタローがやりたかったアクセサリー作りを始める。


「これは…混ざるのか?」


セレブロで3日も飲まず食わずで採掘した鉱石を試行錯誤して混ぜ合わせたりして、より堅くそしてより柔らかく、壊れない金属を作り出そうと奮闘する。


「セレブロのあの洞窟は悪魔の洞窟に違いない。あんなに人を夢中にさせるというのは恐ろしいトラップだ。」


と、バカな独り言を言いながら頑張ること数時間。


「お、おおおおおお。なんじゃこれ。」


吸い込まれそうなほどの黒…漆黒の輝きを持つ金属ができてしまった。


「鑑定レベル10でも鑑定できない。一体なんだろ、これ。」


それからその鉱石の性能を確かめるために、ミスリルのナイフで切りつけたり、オリハルコンで潰してみたり色々と試してみたものの、傷1つつかない。


「やばめの性能であることが判明しましたが、外部に漏らすことはできません、所長!」


所長とは一体誰なのか。


「一応加工することはできるなぁ。錬金術と鍛治術のスキルがLv10であればだが。でも他の鉱石や金属とは比べ物にならないほど時間かかる…。」


スキルがあるからこそなんとか加工できるが、金属単体をスキルなしで加工しようとしても加工するための道具の方がダメになるパターンだ。


「ま、スミスカンパニーの皆が使う分にはいっか。」


どこまでも楽天的であった。


「名前はスミスメタルってことにしとこ。俺が作ったからタローメタルでもいいけど、なんかダサい。」


その後、スミスメタルと命名したその漆黒の金属を加工し、スミスカンパニーのメンバー分の漆黒の細い指輪を作った。

リングの内側に英語の筆記体でスミスと銘を入れておく。


「あとは結界魔法の付与だな。」


みんなのステータスはすでに人外なので、戦いで負けることはまずないだろうし、毒物などはみな全耐性スキルがあるので大丈夫だが、不意打ちによる即死というのは避けられない。

そこで、俺はその不意打ちなどの対策として意識外からの攻撃に対する結界を付与したかったのである。

マリア様にあげたネックレスには一度の使い切り結界しか付与できなかったが、今回は何度でも作用する結界を付与できた。


「過保護が過ぎるだろうか…。まぁ、身内くらいいいよね。」


守りたい者はなにをしても守りたいタローである。


「なんか必要なことがあればその都度付与してけばいいし、とりあえずはこれで完成だ。」


これを身につけていればスミスカンパニーやクランスミスの一員だと見分けがつく。

証の役目にもなるし、一石二鳥だ。


「ついでに俺の刀も新調しよ。」


そして、刀身まで漆黒の輝きを放つ刀を完成させた。


「憧れの漆黒の刀だ。イケメンだ…。」


ただ単に漆黒の刀に憧れがあっただけだが、それを製作可能にしてしまうのは流石としか言えないだろう。

おじいちゃんのおかげだが。


そのあともスミスメタル以外のありふれた鉱物や金属をつかったアクセサリーをいくつか試作して過ごしていたら、ロシャスが呼びにきた。


「タロー様、夕食のじ…か…タロー様その金属は…?」


「ん?あ、ロシャス。これか?これは謎の金属だ。名前はスミスメタル。」


「スミスメタル?まさか…!?」


「いや、ちょっとした出来心ってやつ?なんか色々混ぜて合金作ってたらできちゃった。」


てへって可愛らしくおどけてみせる。


「そんな吸い込まれるような黒、みたことありませんよ…あなたってお方はなにをしでかすかわかったもんじゃありませんね。」


ひどい評価である。


「まぁまぁ、いいじゃないの、ロシャス君。さ、夕食へ行こう。」


ロシャスの肩をポンポンと叩き、さっさと鍛冶場から出て行く。


「はぁ。まだまともな理性の持ち主であることが救いですなぁ。」


ロシャスは嬉しい半面、大変なお方に仕えてしまったと肩を竦めるのであった。


しかし、ロシャスもこのような未知との遭遇が楽しいのである。

呆れながらも、タローに仕えたことが人生を大きく変え、今まで以上に楽しく過ごせる毎日に自分が若返っている気さえしていた。



▽▽▽▽▽



「と、言うわけでみんなにはこれを装備してほしいのだが、嫌な人いる?嫌ならなんか違うアクセサリーも考えるけど…」


と、言ってるそばからみんな装着していた。


「え?大丈夫なの?」


みんな、うんうんと頷く。


つけているのは俺と同じ左手の小指である。


「そうか、ならそれでいいか。効果はさっき言った通りだからなるべく肌身離さないようにしてくれるといいなぁ。」


願望めいたこと口にしながらみんなを見渡すが、皆嫌がる様子はないので着けていてくれることだろう。

若干一名、指輪をうっとりと見つめ、顔がにやけすぎてやばい奴もいるがほっとく。


「それで、近いうちにザンバラたちがこの店に働くことになったからフォローをよろしく頼むよ。あと、ラビオスの店はアラン、タニヤ、サリナの3人を中心に経営していくことにします!」


突然の宣言である。

目を見開き口をポカーンと開けて固まる3人。


「…え?えぇ?えぇぇぇえぇぇええーーーーー!?」


その夜、アランの絶叫は王都中に響いたとか響かなかったとか。






いつも読んでくださる皆様ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。

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