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51話






「それで、ロシャスの方は?」


「私の方の報告は、サブレ子爵の動向についてです。」


「動向?」


「サブレ子爵は子飼いの商人たちと、定期的に会合のようなものを秘密裏に行なっていることがわかりました。ラビオスで展開している商売のそれぞれの代表を集め、方針や儲けについての話し合いが行われているようです。」


「そんなことよくわかったなぁ。でも、その会合の時を叩けば一網打尽じゃないか。」


公にできない書類などもそこでやり取りされているだろうしな。


「はい、もしこちらが動くとしたらその時が1番よろしいかと。」


「それはそうだな。あとはタイミングだが……。」


「アザレ殿が接触してきたということは手に入るはずのポーションが手に入らなく、向こうもそれなりに焦ってるということでしょう。味付きポーションをそれほどまでに欲しているようです。」


「大方、作り方も仕入れ先もわからないからスミスカンパニー丸ごと傘下に収めてしまえということか。」


「そうでしょうな。」


「そして、俺はそれを拒否すると。」


「えぇ、そうすれば緊急で召集がかかるのではないかと。」


「たしかにありえない話ではない。そのタイミングをちょうどよくつかむことができるかってところか。ロシャスのことだから集まる場所はわかってるんだろ?」


「はい、もちろんでございます。タイミングに関してもお任せください。」


そこまでわかるのか……。一体どうなってるんだこの優秀すぎる魔族。


「ずっと疑問だったのだが、どうやってそんな簡単に調べて来るんだ?」


「おっと、タロー様にもわかりませんか?」


「まったくわからんね。」


「私がテイムのスキルを持っていたことはご存知でしょう?」


「あぁ。ロシャスのおかげで俺もテイム覚えれたわけだし。」


「私がテイムしているのはこいつです。」


そう言って、ロシャスは指を顔の前へと差し出す。

その指先にはテントウムシを少し小さくしたような黒い昆虫のようなものが止まっていた。


「なにこれ。魔物なの?」


「えぇ、これはステルスビートルという昆虫系の魔物です。隠密性にすぐれ、まず人に感知されることはありません。」


「……よくこんなの知ってたな。」


「こやつらを使い、視覚の共有、聴覚の共有ができます。それに短時間であれば見てきたもの聞いてきたものの記憶を読み取ることもできる、とてもすぐれた魔物なのです。」


「え、こわ。そんなの世界中にしられたら、ものすごい戦争が起こりそうなんだが。」


諜報し放題だ。


「はい。これは魔族領のある辺りの土地でしか確認されていない魔物ですし、魔族でも機密事項に該当します。これを知ってるのは私が支えた魔族の王と私の2人だけでしょう。」


「よかったよ。そんなの人族が知ったら私利私欲のためにものすごい数のステルスビートルが飛ぶことになる。」


「そもそもこのような小さい魔物ですし、黒く、隠密性に優れておりますので、なかなか見つけることができないはずです。」


そんなものをテイムしているあなたは何者。


「つまり、魔族の領がある土地でしか確認できていなのは、他では見つけられてないだけの可能性もあるのか。」


「えぇ、そういうことですね。私が見つけたのもたまたまですし。」


「それにしても、潜入調査の為に生まれたような魔物だな。」


「えぇ。しかし、この能力を十分に発揮するにはテイムスキルも高レベルでないといけませんし、私もここまで能力を引き出せるようになったのはタロー様と出会ってからです。」


「あ、そうなの?じゃぁ、危険は危険だけどロシャスみたいに使いこなせないってことか。」


「はい。それでも短時間の視覚共有などはできますので、危険なことに変わりはありませんがね。」


ロシャスの調査能力の高さの理由が判明した。

さすがは魔族の王の側近ってところか。有能すぎるだろこの男。そしてイケメンである。


「つまり、そのステルスビートルからの情報でタイミングも場所もばっちりわかるわけか。」


「えぇ。あとはその場をちゃんとした国の機関に捕縛してもらう必要があることですね。私共がそこへ飛び込んだところでなにも変化はないでしょう。」


たしかにそうだ。

しかし、誰に協力を仰ぐべきか。

警備兵か……ラビオスと周辺を治める領主か……。

警備兵はサブレ子爵の息がかかっている可能性がゼロではないし、ラビオス領主はまったく面識ないしなぁ。

王女様なら楽なんだが……王都にいるし。

ラビオスの領主宛に書簡でもしたためてもらうか。

第一候補としては王女様に手紙を書いてもらうことだが……どうしたもんか。


とりあえず明日アンドレさんに話してみよ。


「よし、アンドレさんに明日相談してみることにしよう。アンドレさんって会えるかなあ?王女様は難しいだろうけど……。」


「明日はジェフと訓練する為に来るかと思いますよ?」


ほんまかいな。タイミングがいいというかなんというか……暇なのか?


「そんな頻繁に来るの?」


「頻繁というより、ここ最近は毎日朝早くジェフとともに訓練しておりますね。本当に短時間だけですが。朝の日課のトレーニングをここでのジェフとの手合わせに変更したようです。」


「どんだけ〜。」


おっと、思わず口をついて出てしまった。


「……まぁ都合がいいし、その時アンドレさんに話してみよう。」




▽▽▽▽▽




そして翌日、ものすごい早朝に起こされた……。ねむい。


「お、タロー。なんか話があるんだって?」


「……ものすごくおはようございます。朝から元気ですね。話があります、あるんですが、思い出せな……い。」


「サブレ子爵のことですよ、タロー様。」


あぁ、そんな話だったっけ。


「そうそう、サブレ子爵のことです。重大な現場を抑えられそうなのですが……私たちでは権力がありませんので、なんとかならないかと。」


「……なるほど。たしかに貴族相手なら権力のある者が必要だな。だがしかし、どうしたもんか。」


俺が単独で乗り込まなくてよかったー。


「具体的にはラビオスの領主へ手紙を書いてもらって、騎士を動かすとかそんな感じのことができないかと思っているのですが。」


「ふむ、それならなんとかなるかもしれんな。王女様に書いていただければ一番手っ取り早いが…問題はお前たちのことを向こうは何も知らぬということだ。」


「向こうというのは領主のことですか?」


「あぁ、そうだ。その情報元がどこなのか、どのタイミングでサブレ子爵を抑えに行くのか、全てを握っているのはタローたちだろ?考えの浅い頭の悪いやつなら情報を得て暴走するだけだろうし。」


「そこが問題なのです。ですから王女様などの信用できるという証があればと思ったのですが……。」


「幸い、ラビオスの領主は第一王子にも第二王子にも組みしてない方で、王女様を何かと気にかけてくれているから手紙を出せば協力はしてくれるだろうが。どこまでタロー達が信用してもらえているか……だな。」


「大丈夫かなぁ〜。」


不安だ。


「ま、大丈夫だろ。王女様にうまく書いてもらえればな!」


がはははと笑っているが、笑い事ではない。子爵が死ぬか生きるかがかかっているのだ。あ、俺にはどちらにしてもあんまり関係ないか。


「すぐにいるのか?」


「えぇ、できるだけ早く欲しいですが……。」


「王女様の公務は今のところ忙しくはないから時間のあるときに話して書いてもらえば今日の夕方には持ってこれるだろう。」


暇なのか?あの人もやはり暇なのか?

いや、色々しがらみがあって動くに動けないのだろうなぁ。

外での公務があれば命を狙う者も現れるか、その公務自体がその者達の差し金かもしれない。


「ところで、こんな事王女様に頼んでも大丈夫なんですかね?」


「まぁ、大丈夫だろう。貴族の悪巧みを暴こうってんだからな。王女様の手柄になることはあっても迷惑にはならないはずだ。失敗しなければだが。」


お前次第だというような目線を向けるアンドレさん。


「それはそうでしょうね。しかし、情報がありますから権力者の協力が得られれば万が一にも失敗はありえません。」


「そうか。それなら安心だ。問題は領主がサブレ子爵と繋がっていないかだが……。」


たしかにそこで手を組んでいればこの計画は水の泡だ。

その辺はどうなのかとロシャスの方を見ると、ロシャスは首を横に振る。


「どうやら、繋がりはないようですね。その心配も大丈夫でしょう。」


「ほんとか?そこまで調べてあるのか?」


「えぇ、優秀な仲間がいますので。」


ロシャスも心なしか誇らしげな顔をしている気がする。


「そうか。では俺は早速王女様のところへと行ってくる。また顔を出すよ。」


アンドレさんは足早に去って行った。

朝から元気だなぁ。もう一眠りしたい。


それからなんだかんだ働いて、結局もう一眠りすることなく、昼過ぎになり、昼食をしている。


「……うまい。うまいよ。食べたら今度こそ昼寝を……。」


昼寝をしたい一心で昼食を済ませて部屋へと戻ろうと思ったその時だ。


「タロー様、アザレさんが。」


oh,no……


「……わかった。店の裏の部屋に通しておいて。」


マーヤは早速店へと戻っていった。

俺の昼寝の夢はたった今水泡へと化した。


「どうも、お待たせしました。」


俺が部屋に入ると、アザレさんはサッと立ち上がり深く頭を下げた。


「この度は貴重なお時間を頂戴しまして、誠にありがとうございます。」


下手に出すぎではないだろうか?貴族だよね?一応。


「まぁまぁ、どうぞお掛けください。」


アザレが座るのを見てから俺も座る。


「私はこのスミスカンパニーの代表をしております、タローと申します。それで今日のご用件というのは?」


「ご丁寧にありがとうございます。私はサブレ子爵の使いで参りました、アザレと申します。それで話というのは、実は父であるサブレ子爵が面会を希望しておりまして……。」


「その理由は?」


「ひとつは最近急成長のスミスカンパニーの代表の方と友好を深めたいということ。もうひとつは販売や商品に関しての情報交換がしたいということと、聞いております。」


「ほう、そうですか。ですが、私のような若輩者が子爵と対等に話せますかね?」


「実は私も驚いたのです。このような人気の商店の代表がタロー様のようなお若い方だとは思っておりませんでしたので。」


「それは仕方のないことでしょう。よく従業員が店長と間違われますから。」


あはは、これは事実である。特にロシャスとフランク。


「いや、しかし、店に合うしっかりとされた方だ。」


「そんなことありませんよ。仲間のみんながしっかりとしているだけで、支えられてばかりてますから。」


これもまた事実である。俺はサボってばかりだし、みんな優秀だから俺の存在価値が薄くなる一方である。ま、いいことだ。


「そうですか。立派なお考えです。」


「それはそうと、見た目がこんな感じなので、子爵がちゃんと話してくれるか心配なのですがどうですかね?」


「それは……きっと大丈夫です!なんとかしてみせます。」


なんとかならないだろそれ。てか、父親であるサブレ子爵は目下の者をバカにしてますって言ってるようなもんだ。

素直というか隠し事できないやつというか。


「それでは単刀直入に伺いますが、此度の面会の目的は、味付きポーションの仕入れ先か製造法の開示、またはスミスカンパニーまるごと傘下に加えるためのものではないですか?」


ギクって音がなりそうなほどの反応である。わかりやすすぎ。


「い、いや、その、なんと言いますか……。あははは。」


「まぁ、それはあなたの責任ではないでしょうからいいです。しかし、こちらとしてもそのような話に頷くことはありませんよ。アザレ殿ならわかっているでしょう?」


「……えぇ、わかっております。しかし父にはそれがわからないのです。」


苦々しい表情だ。父親と意見が合わなく、いやいや従っているだけなのか?


「ですが、従わなくてはならないと?」


「はい、貴族に逆らうことができるのは同等以上の権力を持つものだけです。いくら血の繋がりがあろうと、逆らえば不敬罪で処刑ですから。」


ふーん。めんどくさい世界だ。


「それが違法なことをしていたとしてもですか?」


「……なにを?父が何かしていると?」


おっと、この反応は心底驚いてる感じだ。まさかなにも知らないのか?

それは後で話すとして、まずは疑問の解消からだ。


「ところで、アザレ殿はサブレ子爵の息子なのですよね?家を継ぐときにはアザレ・サブレ子爵となるのですか?」


疑問がこれである。

かなりどうでもよいのではないのだろうか。


「…え?あ、いや。違います。父は私のことを出来損ないと言って毛嫌いしておりますので。家名も名乗らせてもらえないのです。その代わり親戚の家と同じ家名のアザレを名乗れと。」


これってみんな知ってたのかな?俺だけが知らなかったとか?

ありえそうだなぁ。


「ほう、なるほど。そのようなことでしたか。つまり、家を継ぐときにサブレを名乗るようになると。」


「家を継がせてもらえるかわかりませんが、継ぐことになればそうなるでしょう。」


ふむ。つまりサブレ子爵がいなくなってもこの息子が継げばいいと。むしろさっさと代替わりした方が良いだろう。


「ところで、お父さんのお名前とアザレ殿のお名前は?」


「父はバッド・サブレ子爵。私はメッツ・アザレと申します。」


うん、サブレ子爵はさっさと引退してもらおう。

名前がダメだ。


あとはアザレがどこまで知ってるかだな……。












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