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48話










「僕も聞きたいことがあったのですが、よろしいですか?」


「珍しいですね。なにが聞きたいのですか?」


「実は先日とある男性と出会いまして…。」


ザンバラから聞いた話をだいたい聞いた通り王女様に話す。


「そんなことが……。」


「ザンバラから聞いただけですから、確証もなにもありませんし、たまたまその一回だけかもしれませんが……。」


「しかし、その一回が酷い。」


じぃやも苦々しい顔だ。


「サブレ子爵は色々な商売を手広くやっていることで有名だ。確かにキナ臭い噂もある。」


アンドレさんは騎士団だけあって噂程度ではあるが情報を持っているようだ。


「まぁ、実情はわかりませんので今は様子を見てるという状況ですが、少々探りを入れてみる予定です。」


「……タローがそんなことをする必要はないのでは?これは国が調査すべきことでしょう?」


「まぁ、それはそうなんですけどね。ザンバラから話を聞いてしまったわけですし、ほっとけないですから。」


それに人を食い物にするようなやつは許せない。

国が対応できるのならば既にしていそうだしな。していないということは気付いてすらいないということだ。


「……そうですか。何か手助けできるようなことがあれば言ってください。現状、私ができることなどほとんどないでしょうが……。」


「サブレ子爵は第2王子に懇意になろうと必死なのかもしれない。何度か面会を求めているのを見た。」


ふーん。アンドレの言うことが本当ならば、第2王子に取り入るために資金を集めているのか……それとも自分の贅沢のために求めているのか……地位を上げる為なのか……。

なんにしろ、己の利益にしか目がないくだらない人間だ。


「そんな貴族がこの国にいることを恥ずかしく思います……。」


「まぁ、マリア様のせいではありませんし、仕方のないことです。」


「ところで、その5人というのは今どこに?」


じぃやが気を利かせて話題を少し逸らす。


「今は廃墟の地下で隠れているようです。食事は届けているのでしばらくは大丈夫でしょう。」


「……ところでそれってラビオスでの話ですよね?」


「えぇ、そうです。」


「ここは王都ですよね?」


「……そうですね。」


「タローはいつラビオスへ?」


あ、やべ。


「少し前です。帰って来たばっかです。向こうでも店を開いて仲間に任せてあります。そうなんです、はい。」


王女様がじーっと音が聞こえそうなほど、こちらを見てくる。


い、痛い……目線が痛い。


「……まぁいいでしょう。それで聞きたいことというのはサブレ子爵についてだけですか?」


ふぅ。追及してこなくて助かった。

なんというか、信頼してるから、理解してるからといった感じで深く追及されないのはありがたい。

もしくは聞いても仕方ないと思われているのか。


「あ、もう一つ。勇者についてなんですけど。」


「勇者ですか?」


「えぇ、勇者は異世界から召喚されてこの世界へ来ると聞きまして。魔物の王の出現が近いという話も聞きますから、また召喚が行われるのかというのを聞きたくて……。」


「……勇者召喚はこの国ともう一つの国に存在する魔法陣によって行われます。」


え?ひとつの国がやってることじゃないのか。

しかもどっかの国でやってるんだろうなぁと思ってたらこの国かよ。


さっさと国を出るべきだろうか……。


「前回の勇者召喚はこの国が行ない、成功させました。もうひとつの方は何故か魔法陣に魔力を込めても反応がなく、失敗に終わっています。」


「その魔法陣は機能していなかったということですか?」


「原因は不明です。しかし、大量の魔力が必要な召喚は、魔法陣への魔力供給を何日もかけて行い、魔力が魔法陣に十分溜まったところで発動されます。それが、まったく溜まることなく失敗に終わっているのです。」


「魔力が足りなかったのか……それともそもそも機能していないのか……。」


「魔法陣は魔力が補充され始めると淡く光りますので反応がわかるのです。前回はそれもなかったということなので、機能していなかったのかもしれません。」


「それで今回は?」


「今回も勇者召喚を行う段取りとなっています。我が国では、すでに魔力の補充も始まり、準備は着々と進んでいるというのが現状です。もう一方の魔法陣も、今回は魔力補充に反応があり、成功するのではないかと思われています。」


まじかよ……勇者がすぐそこまで来てる感じじゃないか……。


「勇者ってどんな人たちなんですか?」


「勇者は人族を超えるステータスを持ち、目覚ましいスピードで成長し、魔物の王と対等に戦える存在です。黒目黒髪の人族だと聞いています。あら、そういえばタローも黒目黒髪ですわね。祖先に勇者の血が流れているのかしら?」


勇者が日本人である可能性がかなり濃厚になった瞬間である。


「……さぁ?どうでしょうか?たまたまではないですかねぇ?ははは。」


……勇者と同じです。むしろ勇者よりもチートです……。


「まぁ、かなり昔からしばらく召喚は行われていないはずですし、この世界で生まれ育ったのですからたまたまですわね。」


「そ、それで、勇者の召喚はいつ行われるのですか?」


「それはわかりません。魔力がどれほど必要なのかがわからないので、補充し続けて魔法陣が召喚の準備が整った状態になるのを待つしか……。」


「魔物の王の出現に間に合わないということは……?」


「さすがにそれはないでしょう。すでに7割は溜まっているのではないかという見解が出ていますし、遠くないうちに召喚できるはずです。」


できてしまうのね。


「しかし、私は召喚に反対なのです…。」


「え?王女様は反対なんですか?」


「えぇ。だって、他の世界の人ですよ?私たちの世界の事情にいきなり連れて来られて巻き込むなんて酷すぎます。」


お、まともな考えだ。


「やはり、異世界人というのは突然この世界に連れてこられる感じなのですか?」


「そうです。たしかに勇者という強大な力を持つことで魔物の王への対抗力となりえます。しかし、この世界にいるたくさんの種族がお互いに認め合い、協力し合えば、この世の住人だけで十分対抗することは出来る気がするのです。」


こういう考えが世界平和の第一歩なのだろうなぁ。理想的だ。

だが、難しい。とても難しいことであろう。


「このようなことをおっしゃるので第一王子や第二王子に気が狂っているなどと言われるのです。」


「しかし、言葉にしなければ誰の耳にも届かないわ。じぃやだってそれくらいはわかるでしょ?」


「えぇ、わかっております。ですからお側に付き従っているのです。立派な考えだと思っていますよ。ただ、口にしたことで周りから疎まれるのは我慢できぬのです。」


「理想的なことだと思いますけどね。ものすごく難しいけどものすごく平和的だ。僕は賛同できますよ。」


「やっぱり!タローならわかってくれると思ったわ!」


まぁ、うちはその理想のような状態になってるしなぁ。

人族も獣人族もドワーフもさらに魔族もいる。オルじいなんてケンタウロスだ。ケンタウロスにペガサスもスライムもいる。

全員が仲良く暮らしているなんてここくらいなのかもしれないなぁ。


「それでも、じぃやさんが言ってたように、今までの慣習と大きく異なる意見というのは普通の人にはなかなか受け入れ難いものです。意志を貫くことも、声を大にして訴えることも大切ですが、もし王女様の意見が浸透し始めたとき、リーダー的存在になるのは王女様です。みなを引っ張る存在は他の多数の人たちにとって、とても重要な存在ですから、ご自分の命も大切になさってください。」


「……えぇ。わかっている。ネックレスももらったことだし、しっかりと気をつけることにするわ。」


その後もしばらく雑談をして帰っていった。

ところで王女様はいったいなにをしに来たというのだろうか……。


▽▽▽▽▽


マリアはネックレスを見つめながらニマニマとしていた。


「タロー様は一体何者なのでしょうなぁ。」


「じぃや、どうかしたの?何か気になることでもあるの?」


「いや、ただそのような高価なネックレスを簡単にくれてしまうとは…。」


「べつにいいじゃない?自分たちには必要ないといっていたのですし。」


「しかし、それは国宝級すら越えるような装備ですよ?それに必要ないとは……。」


「あまり疑り深く探ってはダメよ。特にタローはダメ。少しでも敵対するような雰囲気を出してはダメ。」


「王女様がそこまで申すとは……。好意があるとかないとかそのようなことだけで申してるわけではないのですよね?」


その言葉に王女様は少し頬を染める。


「そ、それは……その……そういう感情がないとは言い切れないことは認めます。しかし、それとはまったく別です。個人的な感情を除いても前から言っているように彼とは敵対すべきではありません。」


「承知しております。それにしても見事なネックレスですな。タロー様が最後に施してくれた隠蔽のおかげで今はただの高価なネックレスにしか見えませんが。」


「じぃやにも本当に鑑定できないの?」


「えぇ。私の能力では既にただのネックレスとしか鑑定できません。優秀な鍛治師と錬金術師がいるからちょっと待っててくださいと言われて少し待っただけでここまでの隠蔽が施せるとは…いったいどんな技術なのか…。全く同じ形の全く違う物としか思えないほどです。」


じぃやが鑑定ができたことと、3人の反応からかなりの貴重品となっていることに気付き、ネックレスを鑑定されたらそれ自体を狙う輩も出てくるかもしれないなぁと思ったタローが、部屋から出てちょちょいとネックレスに隠蔽を施したのである。

鍛治師と錬金術師に任せると言っていたが、実際はキッチンでタロー自身が隠蔽を付与しただけだ。

本格的に国宝級を越える物を作っていることの自覚がないタローであった。


「タローがそんなことするわけないわよね。そんなことするなら最初から見せなければいいのだし。」


「えぇ、そう思われます。本当に貴重な品を頂きましたな。それもものすごく気軽に。」


「本当。これだけでひと財産だというのに。ありがたく使わせてもらうことにするわ。」


「それがよろしいでしょう。今はいつどこで危険な目に合うかわかりません。常に身につけておくとよいでしょう。」


▽▽▽▽▽


一方、そんな物を作った自覚が全くないタローは、王女様が帰ったあとも、クロとともにお茶とお菓子を食べながら、リビングでくつろいでいた。


「ご主人様、仕事はよろしいのですか?」


「あ、これうまい。メープルシロップの風味が…え?仕事?俺の仕事は一体なんなのだろうか……。」


「大丈夫?」


うなだれ、下を向いた俺の顔を覗き込むようにクロが顔を見せる。


可愛いやつである。


「大丈夫だよ。それよりクロは仕事いいの?」


「クロは店で仕事をしていたら、王女様が来て、タロー様を探すように頼まれたから大丈夫!」


……大丈夫な部分がわからないのだが。


「そうか。ま、いいか。もう少しサボろう。」


「うん、サボろう!」


「あぁ、お茶がうまい。」


「お茶がうまい!」


「クロ、美味しいって言わないとせっかくの可愛い姿がもったいないぞ。」


「えぇー、ダメですかー?」


首を傾げ、見つめてくる。


「……いいに決まっているだろう!」


「えへへへー。」


可愛いは正義である。


「あ!クロ!いつまでサボってるの!他の人が休憩に行けないでしょ!」


その時、リーシャがクロを連れ戻しに現れた。

リーシャの言葉を聞いた瞬間、クロがものすごいスピードで消えた。正確には店の方へ走っていった。


「……やぁ、おつかれリーシャ。」


「タロー様、そんなところでなにを?」


「ちょっ、ちょっとお茶を飲んでいただけなんだ、悪気はなかったんだ!」


「……そうですか。では私も。」


そう言って俺の隣に座り、クロの使っていたコップへ自分の分のお茶を注ぐ。


……あれ?


「リーシャも休憩するの?」


「はい。クロが戻りましたし、少しなら大丈夫でしょう。」


「そ、そうか。」


「最近はみんな色々と忙しく動いていますし、タロー様とお話しする時間も少なくなってしまいましたから。」


「……な、なんか、ごめん。みんな忙しすぎるかな?」


「あ、いえ。そんなことはありません。みんな仲良しですし、休みも休憩もちゃんとあって、仕事は楽しいですから。幸せです。ただ、少しタロー様とお話ししたかっただけです。」


え、なにこの可愛い生き物…。


とりあえず可愛すぎるので頭をナデナデ、耳と尻尾をモフモフしておく。


「……こんな風にしてもらうのも久々です。」


ちょっと顔を赤らめながら恥ずかしそうに俯く。


え、どうしよう。可愛すぎる。


「辛いこととかない?」


「はい、楽しいことばかりです。この前もシロとクロが………」


それから楽しそうに色んなことを話してくれるリーシャの話をしばらく聞いて、予想以上に話し込んでしまったことに気づいたリーシャは慌てて仕事へと戻っていった。


「楽しそうに生活してくれていてよかった。きっと辛いことがあっても俺には言わないんだろうな。一応ご主人様だし。」


奴隷と主人という関係上、何か嫌な事でもきっと逆らうことはしないのだろう。

それでもなんでも言ってくれるようになってくれたらうれしい。

まぁ、今はよく笑って明るく楽しく生活してくれたらそれでいいか。


みんなの笑顔を絶やさないようにすることが俺の務めだ。


頑張ろう。


「さて、俺も仕事戻るか!」


気合いを入れ直し、勢いよく立ち上がって部屋から出る。


「……あれ?今日は俺ってなにすればいいんだ?」


結局最後までしまらない男であった。







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