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45話

今日は2話投稿しました。2話目です。










「パーティー組めなくてもクランに入るという手段もあるのでは?」


Dランクの3人組にゴブリン討伐に誘われた後、冒険者ギルドの酒場で軽い食事をしながら話を聞いていた。


「あぁ、そうすればクランの中でいいやつと一緒にダンジョンも潜れるかもしれないし、外でパーティーを組める可能性も上がる。」


「そうね、有名どころのクランならその名前だけで入りたい人もいるだろうし。だからこそ、ちゃんとした人かの見極めは大切かもしれないけど。」


この人たちって何気にいいこと言うよな、ほんと。


「なるほど、勉強になります。でも入らないのですか?」


「入りたいところはあるんだけどなぁ〜。」


「そうねぇ〜。難しいわね。」


「難しい?試験とかがあるとか?」


「いや、一つは今ここのダンジョンで到達してる最下層を攻略したパーティーが所属するクラン、シュバリエール。そこは実力が認められないとすぐ破門になるし、入ることもできない。」


「今のところ認められてないと?」


「そういうことだな。何度かシュバリエールの人に入れてもらえないか聞いたが、功績がないからだめだと。」


「それは…なんとも。」


偏屈なクランである。


「もう一つは?」


「もうひとつは最近凄い勢いで台頭してきたクランなの。あ、ちょうど帰ってきたわ。あの人たちよ。」


解釈ちゃんが指を指す方へと視線を向けると、そこには見知った顔があった。


「あの狼の獣人の人は鋭い目つきに自分を曲げない精神の強さ、実力は現在のランクを超えるんじゃないかと言われている、沈黙の戦士トーマさん。その後ろにいるのがあんな優しい顔して実力はトーマさん並、慈顔剣士のフリックさん。2人ともすげえ人さ。フリックさんなんてお前と変わらないくらいの年だぞ?」


「そしてその後ろにいる狐の獣人。いつも言い寄る男をことごとく冷酷にあしらい、逆恨みにその男達に喧嘩を売られても負けなし、黄金の戦姫ライエさんよ。あんなに美しい獣人なんて見たことないし、それに男を近づけない強さなんて素敵だわ。」


俺は唖然とした。


ふ、二つ名が…。

笑いを堪えるのに必死である。

それにしてもライエはいったいなにをしてるんだ。


「あの3人が所属する、クランスミスが今注目してるクランだ。あそこのクランのメンバーは他の人もみんな実力者揃いなんだ。」


みんなは奴隷ということに気づいてないようだが、大丈夫だろうか。


「でもクランの情報が全くないのよねぇ。謎に包まれているの。」


謎に包まれたクラン。うん、悪くない。かっこいいではないか。


「さっき言ってた、お前が持ってる物に似た剣を持ってたのはトーマさんだぞ。」


…トーマかよ。

俺が作ったやつじゃないか。普段の仕事中に帯びてる刀をダンジョンでも使ってただけか。


「あ、あれ?なんかライエさんがこっちに向かってきてないか?」


おや、ほんとだ。これはめんどくさいことになりそうだ。


「タロー様!なぜこんなところに?」


「いやぁ、ちょっと暇つぶしに。」


簡単に見つかった。


「この方達は?」


「一緒に依頼を受けたんだ。」


そう言うと3人の方をジロッと見定める。


「一緒に依頼を?女がいる、女が…。」


「おーい、ライエ。顔!」


「ハッ!」


ハッと我に返ったように元の顔に戻るが、怖い顔してたよ、今。ちょっと殺気も漏れてましたよ、今。ライエさん。

しかも口でもハッて言ってたしね。


「それにしてもこんなところで会えるとは思いませんでした。家に帰るよりも早く会えて幸せです。」


なに言っちゃってんだこいつ。


……だが、かわいい。


「タロー様、ギルドにいらしてたのですね。」


「ちょっとね。みんなもおつかれー。」


トーマたちもこちらへと来た。


「なにかギルドに用があったのですか?言ってくれれば私がやりますが…。」


トーマの気遣い痛み入る。


「いや、特に何かしに来たわけじゃないから大丈夫、ありがとう。」


「そうですか。我々も終わりましたので帰りましょうか。」


「うん、そうだね。帰ろう。3人とも今日はありがとうございました。それでは失礼します。」


3人とも一言も発さず、唖然としていた。


▽▽▽▽▽


タローとクランスミスのみながギルドを出て帰って行くのを見送り、しばらくは口が閉じなかった3人。


「…おい。誰だったんだあれ。」


「ライエさんのあんな笑顔見たことない…でも殺されるかと思った…。あの子何者…。」


「…タロー。」


「「わかってるわ!!」」


この3人は何気に息が合っている。


「はぁ、トーマさんがあんなに優しく話すところ見たことなかったぜ。何者なんだあいつは。」


「どこかの貴族かしら?でもクランスミスってあまり貴族との関わりを持っていないって話を聞いたことあるわ。」


「だとしたらタローって呼ばれてたあいつは…クランリーダーか?まさか。そんなわけないよなぁ。」


「でもクランのみんなの態度からするとそう考えるのが一番自然な気がするわ。」


「でもFランクの冒険者がリーダーなわけないよなぁ。クランスミスってスミスカンパニーと繋がりがあるらしいから、そのスミスカンパニーの息子とかか?」


「スミスカンパニーって味付きポーションとか販売して人気の店よね?」


「そうそう。元々は味付きポーションを販売してる店として人気だったんだけど、今は他の薬類なんかの効果も評判が良いんだ。」


「確かにあそこのポーション使うと、今までのポーションはあまり使いたくなくなるものね。」


「あれだけの商品を販売する店の店主の息子となれば、クランスミスのみんなと親しく接していてもおかしくはない気がするけど…。」


「そうよ!絶対それね!」


相変わらずの解釈で話が纏まったが、リーダーくんはどこか釈然としない様子だ。しかし、結論が出るわけもなく、正解も分からぬまま時間だけが過ぎていった……。


▽▽▽▽▽


「なに!?」


「も、申し訳ございません。しかし、誰がどのように調合してもポーションの味は不味くなる一方でした。」


「では、どうやってあのポーションを作ってると言うのだ!!」


勢いよく立ち上がり、机に置いてある、先程まで自分が使っていたコップを投げつける。


「……わかりかねます……申し訳ございません。」


「……まぁよい。あの商店がどこから仕入れているのか調べ、そこから買い取れ。さっさと調べろ。」


「はっ!かしこまりました。」


報告に来た部下が部屋を出たところで、息をひとつ吐き、落ち着く。


「…まぁ、仕入れ元さえわかればこちらのもんだ。」


仕入れ元の薬師や錬金術師を囲い込めば、味付きのポーションを独占できると思い、心の中でほくそ笑むのであった。


▽▽▽▽▽


「ロシャス、俺ちょっと散歩に行ってくる。」


「構いませんが…急にどうしたのですか?」


冒険者ギルドでのみんなに二つ名ついてることに驚いたぜ事件から数日。店の手伝いをして、昼ごはんを食べたところで腹ごなしに散歩へ行こうという魂胆である。


「ここはダンジョン都市だから冒険者もたくさんいるだろ?俺ってまともに冒険者生活してないからランクの低い冒険者がどんな生活をしてるのか見てみようかと思って。」


「そうですか、かしこまりました。行ってらっしゃいませ。」


ロシャスの許可も降りたことだし、早速お出かけだ。


街へ繰り出し、商店や宿、屋台などを見ながら当てもなく歩く。


宿はかなり高級そうなところから安宿までかなりの差があるようだ。安い宿や中ランク程度の宿の周りには飲食店が多く建ち並び、賑やかで活気のある雰囲気がとても印象的だ。

ボカの街で世話になったアンナさんの宿は安宿に分類されるだろう。

安宿と言ってもボロくて環境が悪いというわけではなく、駆け出しの冒険者や、旅人想いの、気楽に安く泊まれるといった感じだ。酷くボロボロの宿などは見受けない。きっとそれほどまで行くと経営が成り立たないのだろう。野営を普通にするこの世界では宿もある程度のクオリティーが提供されなければ金を出さずに野宿の方がマシということだ。

かなり高級の宿となれば風呂が完備されていたりするようで、貴族や大商人御用達。というよりも、ある程度地位がなければ泊まらせてももらえないのだろう。


駆け出し冒険者でもゴブリンやスライムなど低ランク魔物の討伐、薬草類の採取など常時依頼が出ているようなものをこなせば生活することはできそうだ。

しかし、宿代を払い、食事をすれば消えてしまうような稼ぎで、魔物や薬草もたくさん討伐採取ができる日とできない日とで稼ぎが違い、安定はしない。

なにより、ポーションなどの購入や、武器のメンテナンス、買い替えなどをするには稼ぎを増やしていかなければならないだろう。

そのために自らを鍛え、ランクを上げ、より強敵、より高難度の依頼をこなしていかなければならない。


過酷な世界である。


しかし、自分の力でどうにでも登りつめていくことができるのも事実で、それはそれで面白味があるのではないだろうか。


より良い武器を求め、


より良い道具を求め、


より安全に過ごすための薬品を求め、


より良い食事をして、


より良い環境で生活し、


より、自分の生活を豊かにするために。


全ては自分の力でのし上がれる。

考えれば考えるほど実力主義が表に出ている世界だ。

その分身分や権力などの障害もたくさんある。それもこの世界の難しいところではある。


どこの世界も自分の力でなんとでも生活を変えていけることに変わりはないだろう。


しかし、この世界はものすごく実力が生活に直結している。


新人冒険者を甘やかすわけではないが、なにかいい方法で生存率を上げることができたらもうすこし色々なところで活躍する人が増えてくるかもしれない。


例えば生まれた村を出て冒険者なり、経験を積んで村へと戻る。

そうすればその村には魔物や盗賊に対抗するための力がほんの少しだが加わることになり、より村全体の生活も安定に近づく。

商人の護衛が増えれば村へと行く商人も増え、物流も良くなる。

冒険者が増えればそのように生まれ育った村へ戻り生活する人や村へと物を運ぶ商人もきっと増えてくるだろう。

早くに命を落とす冒険者を少しでも減らすことができれば、たとえ高ランクになれなかったとしても、世界全体として魔物などへの対抗力になりえるはずだ。


これは街を歩きながら考えたことの一部だが、色んなことがぐるぐるぐるぐると頭を巡っている。


「ふぅ。ここは一体どこなのだろうか。」


迷った。


街の景色、人の喧騒を眺めながら、考えごとをしていたら今の自分の場所がわからなくなった。


まぁ、索敵使えばマップのような機能を果たしてくれるので帰れるだろうからそこまで心配はしていないが……。


「さてさて、この雰囲気はどこかアンダーグラウンドな感じがする。」


どうやら、人混みから外れ、人気のないところへと迷い込んだようだ。


しかし、よく聞く貧民街やスラムといった雰囲気はあるものの、人気はなく、ただの廃虚街といった感じである。


「こんな場所に孤児なんかいたらどうしたもんかなぁ。」


きっとなにか手を出すだろう。

しかし、運がいいのか、なにか政策を行なっているのか…本当にそのような人々の影はなく、少しホッとしている。


「と、思ったら反応ありか…。」


ホッとしたと思ったところで物陰に1人の反応があることに気がつく。しかもこちらを監視しているような感じだ。


「ちょっと挨拶だけでもしてみようかな。」


通路を曲がりその先へ行かずに、ジャンプして建物の上へと降り立つ。


少しすると、先程から監視をしていただろう男が通路を曲がり、俺の存在が消えたことに驚きの表情を浮かべながらも建物沿いに早足で歩いて行く。


「やぁ、こんにちは。俺に何か用?」


「なっ!?」


その男の後ろへと降り立ち、声をかける。


「後ろつけられるのはあまり嬉しくないんだけども…まぁそういう趣味なら止めはしないが。」


「そんなわけねぇだろ!くそっ!」


男は剣を抜き切りかかってくる。


「ちょっ!いきなりそれは酷い!なにもしてないじゃないか!」


それを避け非難する。


「お前もあいつに雇われたんだろ!俺が死んでもお前を行かせるわけにはいかない!」


再びこちらへ向かって攻撃を繰り返してくるが、ヒラヒラと避け続ける。


「えぇー、なんの話だよそれ。」


その言葉を発した時、男の動きが止まる。


「…違うのか?」


「違う違わないで言えば、なんとも言えない。なんせなんの話かもわからない。」


「サブレ子爵に雇われたんじゃないのか?」


「…誰それ。うまそうな名前だけど。」


ハ○サブレは好物である。


「…違ったのか。すまない。」


どうやら人違いだったらしい。

男は剣を納めてくれた。


「ところがどっこい!そうなんだよな!っていうこともあるから信用しすぎなんじゃないかい?」


警戒を解いてくれるのはありがたいが、何か追い詰められているような雰囲気だし、完全に信用するまでは警戒を怠るのはどうかと思う。


「ははは、確かにそうかもしれねえ。もう、疲れてんのかもな。」


……本気で追い詰められているようだ。


「……少し話を聞きましょうか?」


あまり面倒ごとには口を挟みたくないが、あまりにもギリギリな精神状態だということがわかり、つい口を出してしまった。


「………そうか?誰にも話せないことだが、誰かに聞いてほしいと思ってるのかもしれないな。こんな見ず知らずのやつに話そうなんて思ってる俺がいる。話すことで自分達の身が危険になるかもしれないと言うのに……。」


「まぁまぁ、そんなに追い詰められた状態ではいつか力尽きてしまいますよ。話すことで楽になることもあります。」


きっと心の中で誰かに助けを求めているのだろう。誰を信用していいかもわからなく、誰も頼れないそんな状態だ。


「ここではなんですし、お茶でもできる店に入りましょう。」


あまりにも汚れた格好の男は目立つこと必至なので、クリーンアップをかけ、再び賑やかな街へと戻るのであった。










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