44話
更新の日がバラバラですみません。
「なに?最近売れ行きが良くないと思えば、そんなことが?」
ラビオスにある屋敷の執務室で、報告を聞いた40代ほどの男が驚きの声をあげる。
「スミスカンパニーか……聞いたこともないが。」
「ここラビオスでは小さな店を営む程度の商人です。」
「そんな小さな店に客を取られていると?」
「……はい。」
彼はラビオスを中心にフレンテ王国の各地で、子飼いの商人に商売をさせている男……サブレ子爵だ。
商売の主軸は冒険者向けの商品だが、幅広い物に手を出している。ここラビオスでは奴隷を扱う店も構えている。
「なにがスミスカンパニーへと客を惹きつけているのだ?」
「特に人気のある商品はポーションのようです。」
「なに?ポーションだと?そんなに安売りしているのか?それとも効果が絶大なのか……」
「いえ、売れているのは味のついたポーションです。」
「……なんだと?」
「今までのように苦くまずいポーションではないのです。ポーションとしての効果は他と変わりませんが、味は確かに飲みやすい味になっておりました。」
「…ふむ。買い付けをしている薬屋と錬金術師にポーションに味をつけろと伝えろ。同様以上の物ができれば客は戻るだろう。」
「かしこまりました、すぐに。」
部下が部屋を出るのを見送り、サブレ子爵は小さく笑みをこぼす。
「味付きなど考えたこともなかったが、いいアイディアをもらったもんだ。これを各地で販売すればさらなる売り上げにつながるだろう。」
彼は味付きのポーションなど、好きな味の物を混ぜるだけで簡単に作れると考えているが、実際はそんな簡単な話ではない。
リーシャやマーヤのように薬師スキルや料理スキルなどの複数のスキルのレベルが高いから簡単にできたことで、実際は混ぜるだけでは味はほとんど変わらない。むしろさらに不味くなるだろう。
そんなこととは微塵も思っていないサブレ子爵は、自分の懐に入る金を想像して気分をよくしていくのであった。
▽▽▽▽▽
一方、順調に店の経営と、ダンジョン攻略を進めるタローたちは、今日も忙しいながらものんびりと過ごしていた。
「ダンジョンって今何階層まで行ったの?俺がこの前行った時は91階層だったけど。」
「今日は95階層まで進みました。やはり、あそこまで階層が深くなると広さが一番苦労しますね。」
今日のダンジョン攻略担当はトーマとライエ、ジェフ、ジーナと、新人4人だ。
今はトーマから今日の経過を聞いている。
「広いのが苦労するけど、魔物はそんなに強くはないね。」
とはいうものの、実際通常の階層にレッドオーガやスケルトンナイト、トロール、デーモン、ワイルドウルフ、ゴーレム、王都のダンジョンで階層ボスとしての出現したスネークパンサーなどが普通に闊歩しているのを弱者として扱っているのがおかしいのだが。
「あっという間に最高到達階数を更新しましたが、本当にギルドに報告しなくてもよろしいのですか?」
「うん、しなくていい。変に目立ちたくないし。今最高到達階数を攻略してるパーティーはAランク3人にSランク3人のパーティーを筆頭に何パーティーかの混合らしいじゃないか。それをあっさり更新したなんて大騒ぎになっちゃうよ。」
俺が思っていたよりとSランクというのはレベルが低いようだ。
クランスミスのみんなが異常なのはわかるが、それでも想像していたより低レベルだし、人数も世界に10人しかいない!とかそのようなことはないらしい。
「今でも70階層くらいまでで達成できる依頼はこなしてるんだろ?」
「はい、すでに私とフリックはAランク、ジェフ、ライエはBランク、他にCランクまで数名がランクアップしています。」
こわい。クランスミスがこわい。
これってなにもしなくても注目を集めるのではないだろうか。
ちなみに俺は未だにFランク。ランクアップするような依頼はこなしておらず、ゴブリンの討伐、薬草の採取など、ギルドカードを更新するためだけに依頼をこなしている。
「…そ、そうか。うん、よくやってる。」
「タロー様、お茶をお持ちしました。」
リーシャがいいタイミングでお茶を持ってきてくれた。驚きのあまり思考停止しそうだったので、一息入れたかったところだ。
「ありがとう、ちょうど飲みたかったところだ。」
「トーマさん、ちょっとこっち来てください。」
「…え?なぜ…いっ、痛い!イテテテテ、ちょっ、行きます行きますから!やめて、尻尾を引っ張るのだけは勘弁してくださいー」
…トーマがリーシャに連れ去られた。
なんか、トーマが情けない。
「トーマさん、少しやりすぎです!」
「で、でも、タロー様のために…。」
「それはわかってます。でもタロー様は下手に目立ちたくないのです。ランクアップなどももう少し自然に…違和感なく、注目度も低く抑えられたはずです。」
「そ、それはそうですが…。」
「タロー様のためを思うならもう少し自重してください。」
話を終えたのか、リーシャはキッチンに向かった去って行った。
そして、トーマはシュンとしてこちらへ戻ってくる。耳も尻尾もへこたれている。
「…ま、元気出せよ。」
なにを言われたかわからないが、元気を取り戻して欲しいところである。
「はい、大丈夫です。申し訳ございませんでした。」
「え?なにが?」
「今、リーシャさんにやり過ぎだと.少しは自重しろと言われまして…。」
はは、なるほどそういうことか。てか、リーシャよく聞いてたな。
地獄耳である。迂闊なことは言えない。
「まあほんの少し予定よりはやくランクアップしただけだ。そのうちSランクにもなってもらおうかなって考えてたから、そこまで気にしなくていいさ。」
「…はい、ありがとうございます。」
多少は元気を取り戻したようだ。耳と尻尾に気合が戻っている。
トーマも悪気があったわけではないし、さほど困るようなことでもないので、気にするほどのことでもない。多少スピードに驚いただけのことだ。
それにしても、たしかリーシャの方がトーマより年下だったよなぁ?それなのにあんなに尻に敷かれるとは…女性恐るべし。
それからも順調にダンジョン攻略と店の経営をしてる中、少し手が空いたので、久しぶりに冒険者ギルドへと訪れてみた。
「おい、おまえ!」
ギルドへ入って依頼ボードの方へ向かうとなぜか声をかけられた。
「…はい、何か御用でしょうか。」
声の主へと目を向けると、俺よりも1つか2つ上かなというほどの少年2人と、少女1人だった。
「お前、登録に来たのか?登録ならあっちだぞ?」
「いえ、登録はしているのですが、ちょっと依頼を見ようかと…。」
「そうか、新人だったんだな!見るからに新人っぽい格好してるもんな!」
「ばか!新人は緊張してるんだからそんなこと言ったら怖がるでしょ!」
…失礼なやつらだ。しかし、否定できない。
「それでなにか用でしょうか。」
「なんか依頼受けるなら一緒に受けてやるぞ!こう見えても俺はDランクだからな!新人の面倒を見るのも俺たち先輩冒険者の役目だ!」
おぉ、Dランクか!この若さでDランクは優秀なのではないだろうか。
「いやぁ、でも今日は見に来ただけですし…。」
「わかった!あんたまだ討伐依頼受ける勇気がないんだね?薬草集めてるだけじゃ冒険者として生き残れないわよ?」
なぜか、勝手に解釈されるやつ。
「よし、なら一緒にゴブリンの討伐でも受けよう!それでいいだろ?」
いや、よくないのだが。
「うん、そうだね!ゴブリンやスライムなら危険はないわ!」
いや、危険だろう。数の暴力は侮れないぞ。
「じゃぁ、依頼受けてくるから少し待っててくれ!」
そう言って声をかけた少年は受付へと駆けていく。常時依頼なのだから受付に行く必要はないのでないのだろうか。
「じゃなくて!!」
「ど、どうしたの?」
「依頼受けるつもりなかったんですけども!」
「まぁ、何事経験よ。大丈夫、私たち3人がついてるから。」
だめだこりゃ。まぁいいか、少しくらい付き合おう。
こうして、終始話を勝手に進めるリーダーっぽい少年と勝手な解釈が得意な少女、一言も喋らなかった寡黙で一番体の大きい少年の3人と新人っぽい少年の冒険譚の幕が切って落とされた。
「…予想外です。」
なんで、ゴブリンの討伐をしなくてはならないのかわからないが、そろそろ更新のための依頼も受けようと思っていたので仕方なく討伐することにする。
「いいか、相手よりも先に存在を認識することが大切だ。常に優位な体勢で攻撃できるのが一番いい!」
何気にいいこと言うよ、このリーダー。
「あとは無理しないことね。実力を過信してはだめよ!撤退する勇気は戦う勇気よりも大切よ!」
こいつもいいこと言いやがる。勝手に俺の思考を解釈さえしなければ!
「…。」
言わんのかーい!一番体でかい少年は本当に寡黙だ。
「…油断大敵。」
って言うのかーい!しかも大切なことだよ、それ!うん、大切なこと!
「…べ、勉強になります。」
「よし、お前もやってみろ!ちょうど1匹残ってるし!」
やりずれぇ。
しかたないので、残ったゴブリンに向かって走り、袈裟懸けに斬りつける。
「あっ…。」
しまったー。この刀の性能を忘れてた。
袈裟懸けにしたゴブリンは右肩から左脇にかけて斜めに真っ二つだ。
「…お、おまえ。その剣は…。」
「あ、あはははは。良い武器なんです。」
「良い武器過ぎだろ。見た目からはそんな風には見えないが…。」
「そんな武器持ってるなんて金持ちなの?でもボロそうに見えるし貰い物とかかな!きっとそうだね!」
また勝手に解釈してくれたが、今回ばかりは助かる。
焦ったなぁ。危ない危ない。
「良い時間だし、帰るか!」
俺が倒したゴブリンから魔石だけ回収したところで、街へと戻り、ギルドへ向かう。
「俺は報告してくるから、酒場で待っててくれ!」
リーダー少年が受付へと向かい、俺たち3人はギルド併設の酒場へと向かう。
「何頼む?今日はお姉さんが奢ってあげるわよ。」
お、おう。お姉さん。
「じゃ、じゃぁ、オレンジジュースで。」
「あんたお子ちゃまねぇ。まぁいいわ、私エールにオークの串焼きにするわ。あんたも串焼き食べる?」
「いただきます!」
解釈ちゃんが料理と飲み物を頼むとき、寡黙君も同じ物でいいわよね?と言われ頷く寡黙君。彼の将来が心配である。
料理が来る前にリーダー君も席へと駆けつけ、同じように注文して席に着く。
「お、飲み物が来たな。それじゃぁ、今日はお疲れ!」
その掛け声に合わせ乾杯をする。
…なんかいい。
こういうのが冒険者の一日って感じがする。
仲間ってのはいいもんだな。
「それで、お前ランクは?」
「Fよね?」
解釈ちゃん!俺より先に答えるなよー!
「Fです。」
「そうだよなぁー!それであの武器は本当に恵まれてるぞ!大切にしろよ?」
「はい、大切にします。」
「それにしても見たことない形の剣だったわね。」
「俺は一度見たことがある。」
「え?あるんですか?」
まさか、刀が存在するのか?
「あぁ、たまたまだが、ある高ランク冒険者の人が持っているのを見たことがある。」
冒険者が持ってたのか?
「その人のメイン武器はその剣ではないんだが、お前のより少し短かったし、使い回しがいいのか、ダンジョンの低層で魔物を狩ってるときにそれを使っていた。弱い魔物だしな。」
それが本当に刀で、もしかしたら刀をちゃんと作れる鍛治師に出会えるかもしれない。いい情報を得た。
「皆さんはこの街で知り合ったのですか?」
「あぁ、俺たちはこの街で育ちこの街で活躍する冒険者に憧れていた。」
「この街はダンジョン都市。しかもダンジョンも深くて未だに最下層に到達されていないの。だからここへ来る冒険者は高ランクで有名な人も多いのよ。」
「高ランクの冒険者は他にも依頼を受けないといけないから、長く滞在する人はなかなかいないけど、ここのダンジョン攻略をメインに活動するパーティーやクランもある。」
「ダンジョンに篭って素材を集めれば収入もかなりの物だしね、とくに下層に行けば行くほど。」
「皆さんもいつもはダンジョンに?」
「そうだな、基本的にはダンジョンに入ってる。」
「ダンジョンに3人で潜るのは大変じゃないですか?」
「えぇ、大変ね。最初の頃は大丈夫なのよ?でも少しずつ大変になってくる。私たちもそろそろ新しいメンバーが欲しいなあと思ってるところなの。」
「なるほど、それで新人を見つけては良さそうな人がいないか見てるわけですね?」
「まぁそれもあるな。同じ冒険者として良い冒険者になって欲しいし、成長したときに顔見知りだったらパーティーに誘いやすいだろ?」
Dランクでこんなことを考えるなんてなかなか優秀なようだ。