41話
「お。おかえり。どうだった?」
「タロー様!もう戻られてたのですか?」
「うん、今日はトーマとフリックが帰ってくる頃かと思って少し早めに帰ってきた。まぁ、昼前にダンジョン都市に着いて早めに宿を取れたってのもあるけどね。」
「そうだったのですか。俺たちのためにご足労おかけして申し訳ございません。」
トーマは律儀というか真面目というか…。
「気にしない気にしない。それで結果は?」
「はい、無事ランクアップできました。指名依頼の件は、たまたまギルド長に呼び出されたので、お話を聞いていた通り、スミスカンパニー経由で受けることを伝えておきました。」
「あ、そうなの?それは手間が省けた。ありがとう。」
無事ランクアップできたらギルド長に話そうと思ってたからよかった。
なるべく会いたくないしな、あのギルド長に。ランクアップ試験めんどくさいし。
これからは冒険者ギルドへスミスクランや、トーマたちを指名して依頼が出されたとき、直接スミスカンパニーに来てもらい、話を聞き、依頼を受けるか断るかの判断をすることにしてある。
めんどくさい依頼は受けたくないしな。
断ったところで、他の冒険者へと依頼が出されるだけのことだろう。たぶん。
「それじゃぁ、夕食にしよう。」
みんな揃ったところで夕食にする。
「そういえば、最近アンドレさんとか来る?」
「えぇ、よく来ますよ。ジェフと手合わせしに。」
相変わらずだなあの人。
「戦ってみてどう、ジェフ。」
「さすが近衛騎士隊長の1人ですね。かなりの腕前です。俺の実力が今のようになっていなかったら一瞬で斬り伏せられるでしょう。若のおかげで子供扱いできてしまいますが、俺が学ぶこともたくさんあって楽しくさせてもらってます。」
おう、さすがだなぁアンドレ。そしてさすがジェフ。
「ずーっと戦っててサボるからダメ!」
ジーナがプンスカ音が聞こえそうなほど、頬を膨らませながら怒っている。
「お、おまえ、それは言わない約束だろ?」
ジェフが慌てふためく。
「戦闘狂が2人揃うとそーなるんだなあ。ほどほどにしとけよー。」
まったく呆れる話だ。面白いけど。
「タロー様、味がついたポーションと蜂蜜の飴の試作ができましたので、お時間がある時に試してみてください。」
「お、もうできたの?早いなぁ。」
マーヤに頼んでいたものが既にできたようだ。仕事が早い。
「リーシャちゃんのアイディアはすごく参考になりますし、調合も味の調節もすごくうまくいくんです!作っているだけで楽しいですし、私も勉強させてもらってます。」
おぉ、さすがリーシャだ。やはりアイディアというのは料理スキルだけでは補填できない部分だろう。そこに料理スキルが加わるのだから料理が美味しいのもわかるってもんだ。
食後にポーションと飴の味見をしてみたが、ポーションは果物のジュースのような味で、とても飲みやすくなっていたし、飴は言うまでもなくおいしかった。
新商品として販売することにしよう。
飴は少しずつ販売すればいいとして、ポーションは今ある在庫分はそのまま販売、味付きは在庫確保しつつ、少しずつ販売していき、普通のポーションは在庫がなくなり次第販売終了して、味付きのみの販売に移行することとした。
▽▽▽▽▽
「さて、無事にダンジョン都市にもついたことだし、ラビオスにも拠点を構えて商売をしようと思う。」
ロシャスに提案してみる。
冒険者をメインターゲットにした商売だ。
「よろしいかと思います。拠点があった方がゲートなども利用しやすいですしね。」
その通りである。
「で、ダンジョンの攻略もしてしまいたいね。」
「ダンジョンは何階層まであるのでしょうか。」
「どうだろうねぇ。一応俺が聞いた時には最高到達階数78階層だったかな?10階層のボスを倒して、下の階層のセーブエリアへギルド職員をワープで連れて行き、その前の階層が攻略されたことが証明されれば国からの報奨金も出るらしいから、力のあるパーティーやクランはダンジョン攻略に力を注いでるんじゃないかな?」
「ということは、もしかしたらもう少し下の階層まで攻略してる可能性もあるということですか。」
「うん、そう。でもさすがに時間かかると思うし、かなりの時間かけてやっと78階層ってことだろうから、そう簡単には最高到達階数が更新されないとは思うけどね。」
「では、タロー様もダンジョン攻略した際に報告を?」
「いや、うちはしないよ。注目されるのめんどくさいし。トーマとフリックには80階層突破くらいの報告はしてもらうかもしれないけど、まだ考え中。」
2人ともまだCランクだ。そのランクでの80階層突破は皆の目に奇妙に映る可能性もある。まぁ、依頼しないでダンジョンこもってばっかだったからとか言い訳は色々考えられるが。
それに、もう少しランクが上がってから報告するという手もある。
「どのみち、ダンジョンはみんなで交代で攻略していこうと思う。経験値を稼げるだろうし。」
「そうですね、みなのレベルアップには効率がいいでしょう。」
セレブロの探索すればもっと効率はいいが、そっちはまた後日ということにしているし、1人ずつ順番で探索に連れていってはいたからレベルアップもしている。
「じゃあそういうことでとりあえず明日からは拠点探しから始めよう。」
「トーマたちはラピートのテイムに行くと言っておりましたので、ダンジョンの攻略についてはもう少し後になさいますか?」
「うん、急ぐ必要もないし、拠点が落ち着いてからでいいよ。」
「少し人員を増やした方がいいと思いますが、どうしましょうか。」
たしかにそうだ。やることが増えてきて拠点で商売もするとなればさすがに人が足りなくなってきた。
「うーん。やっぱり足りなくなってきたよなぁ。今のところ回ってるけど、店をもう一つ増やすとなったらさすがに人手が足りない。誰か雇うかぁ。」
「雇うのもいいかもしれませんが、やはり奴隷がよろしいかと思います。秘密が多いので。」
「…多いよね。」
「はい。膨大です。」
「奴隷を買っても管理ができそうにないからなぁ。」
「1人リーダーのような奴隷を作り、その下に何人か奴隷をつければよろしいのでは?」
「ほう、なるほど。それはアリかもしれない。」
仕方ない、明日王都のドマルさんのところに買いに行くとするか。
「拠点探しを任せてもいいかなあ?」
「えぇ、かしこまりました。」
翌日、店舗兼住居になるような大きすぎない拠点を探していると、ラビオスの商人ギルドに伝え、後のことはロシャスに任せてあると言ってロシャスに任せて自分は王都へと向かう。
王都じゃなくて、ラビオスにも奴隷商はあるだろうが、やはり店自体は王都の方が大きいし、ドマルさんは信用できるのでドマルさんの商会で買うことにした。
「こんにちは。タローと言いますけど、ドマルさんいますか?」
ドマルさんの商会に着き、店に入ると、受付をしている女性がいたので声をかける。
受付の女性はすぐにドマルさんを呼びに行ってくれた。
「タロー様、お久しぶりです。」
「お久しぶりです、ドマルさん。また奴隷が数人欲しいから買いにきました。」
「これはこれは、贔屓にしていただきありがとうございます。今回はどのような奴隷をお求めですか?」
うーん、特に決めてなかったなぁ。どうしたもんか。
「悩んでいらっしゃるようですね。でしたら見ていただきたい、奴隷がおるのですが。」
悩んでいたらドマルの方から紹介したい奴隷がいると声をかけられた。
「そうなんですか?」
「えぇ、非常に申し上げにくいのですが、毒に侵されあと数日の命といった者です。」
なんと。
「そんな人を勧めるのですか?」
「大変恐縮で、申し訳ないと思っております。ですが、あの奴隷を買って救っていただけるのはタロー様だけだと思って引き取ったのです。命が尽きる前にタロー様が訪れればあの子の勝ち、そのまま命を落とせばそのような運命だったのだろうと。」
「なるほど、そういうことですか。」
「タロー様のスミスカンパニーはとても優れた薬を取り扱っていると聞いています。先日買っていただいた奴隷もそのような薬を与えることで生きながらえさせてもらっているのではないかと推測したわけです。勝手な事を申しているとは重々承知しております。」
情報網はさすがか。
「それにしてもドマルさんがそんな事を言ってくるとはなぁ。」
「私も焼きが回ったのかもしれませんなぁ。あの子を見たときにタロー様なら救っていただけるかもしれないと思ってしまったのです。もし、引き取っていただけなくてもそのまま命を落とすだけですし、埋葬はこちらできちんと行いますので、見てから判断していただいて構いません。」
「ドマルさんがそこまで言うなら見てみようかな。」
「えぇ、是非ともお願いします。引き取っていただけるならばお金はいただきません。もちろんちゃんと労働力となる他の奴隷も1人おつけいたします。それ以降に購入していただく者も今日は半額にさせて頂きます。」
ドマルさんがそこまで言うのか。
「なぜそこまで?」
「…なぜでしょうか。私も歳なのかもしれませんね。今までたくさんの奴隷を扱ってきましたが、理不尽な目にあって奴隷にされた者もたくさんいます。売れるはずもないほど酷い状態で奴隷となって売れる前に死んでいく者もたくさん見てきました。一縷の望みにかけ、引き取ってはみたものの買い手がつくことなくここで死んでいくの者をたくさん見届けてきました。それをタロー様だけが買っていただけたのです。タロー様の元でどのような扱いをされているのかわかりませんが、あの5人を買ったときのタロー様の表情や扱いから決して酷い扱いはされてないのだろうと思ったのです。それからはそのような酷い状態の奴隷を見るとなぜかタロー様に救っていただけないものかと考えてしまう自分がいました。自分勝手なことはわかっています。それでも希望があるのであればと…。奴隷商には向いてないのでしょうなぁ。」
はははと力のない笑いをするドマルさん。
奴隷商として、商人として、その辺がどうかは置いといて、彼は心の優しい人だということはよくわかる。
「わかりました。とりあえずその奴隷を見てみましょう。」
ドマルさんは、ありがとうございますと頭を下げ、その奴隷のいる部屋へと案内してくれた。
オレもお人好しと言われても仕方ない。そこに付け込まれても仕方ない。
「彼女ですか?まだ幼いようですね。」
「いえ、彼女はドワーフ族です。あれでも20歳です。」
え、ドワーフってあのヒゲモジャマッチョのズングリさん?えぇー、イメージと違いすぎるんだけど。
「ドワーフですか。」
「ドワーフの女性は男性と違い、体の成長は幼い頃に止まるのです。体つきは人間で言うと大体10歳前後でしょうか。しかし、立派な大人の女性です。」
そーだったのか。勉強になった。
「あのドワーフはなぜ奴隷に?」
「お父様は優秀な鍛冶師だったようですが、冒険者が武器が折れたことで魔物に殺されかけたと、なんともどうしようもない逆恨みで酷く責められたらしく、その家の井戸の水に毒を入れられ、死んでしまったようです。あの娘はたまたま毒耐性を低レベルですが持っていたので今まで命を繋いでいたというところでしょう。」
どうしようもないなぁ。それって捕まったりしないのか?まぁ、やった証拠がないとかなんとかそんなところかなあ?小さい町だったら亜人差別とかで、なんでも亜人が悪いとかになってしまいそうだし。
魔法があるのに、そんなことも証明できないとはもどかしいところだ。
しかし、ドワーフかあ。ありだなぁ。ありですよ、うん。
「よし、引き取る。」
「本当ですか!?」
「うん、引き取るよ、ドマルさん。」
「よかった、本当によかった、ありがとうございます。」
「他にも何人か欲しいから少し見せてもらいたいですけど。」
「えぇ、わかりました。それでは案内します。」
そのあと、若い男と1人と女2人を購入する。
「じゃあ、今日はありがとうございました。また来ます。」
「こちらこそ本当にありがとうございました。奴隷をご所望のときは是非またいらしてください。」
ドマルさんは半額にしてくれようとしたが、金に困ってるわけでもないし、若い男女なんて高く売れる奴隷を半額にしてもらうのは忍びなかったので、ドワーフの女性だけタダで引き取り、3人分は正規の値段で購入した。
ドワーフの女性はミーシャ20歳。ガリガリに痩せ細り、すでに呼吸も浅くなっている。家に着いたら急いで治療しなければならないだろう。
他の3人はとある街で孤児として同じ孤児院で一緒に育ったが、孤児院の経営が苦しくなり、そこの領主により孤児院を取り潰すことが決定。取り潰す直前に孤児院の経営を任されていた男が、金欲しさのために3人を売り、奴隷になったようだ。
もともと、その男のせいでひどい孤児院だったようで、ろくに食事も与えられず、孤児たちは次々に倒れていったようだ。売られた後、商会で過ごしている間のほうがいい生活ができていたと、話していた。
大概その経営者の浪費が問題だったのだろう。大人の都合で辛い思いをするのは子供だ。そんな大人を許せない。
ちなみに、3人とも15歳になったばかり。孤児院を出るのが15歳になった時ということだからその直前の3人を孤児院から出て行ったことにして売り払ったのだろう。
フリックとほぼ同い年だと思うし、仲良くしてくれるといいと思う。
ん?俺も同年代か。まあ細かいことは気にしないでおこう。
名前はアラン、タニヤ、サリナだ。
ミーシャを背負い、3人とともに、家へと向かう。
「さぁ、ここが家だ。中へ入ろう。」
まだ昼を少し過ぎたところだ。
店の方にも客が来てるし、みんな忙しくしているはずだ。
ご飯は夕食まで待ってもらって、先に風呂を済ませてもらおうかな。
そんなことを考えながら、おずおずといった感じで緊張しつつ着いてくる3人を先導して、商店を横目に、門をくぐる。