39話
「トーマさん、試験緊張しますね。」
「あぁ、そうだな。だが俺たちの力を考えれば失敗などありえない。」
「そうですね。タロー様のおかげです。」
「本当にタロー様のおかげだ。また自分の足で歩くことができるなんて想像もできなかったが、走ることも戦うこともできる。今ではスミスカンパニーの人たち以外には負ける気もしない。」
「あの方は一体何者なんでしょうか。」
「わからん。だが、恩人に変わりはないし、とても優しいお方だ。」
「全くその通りです。」
「タロー様にもらったこの体と実力を過信せずに、試験に挑もう。護衛は初めてだしな。」
「はい!」
「あとはタロー様は目立たないように過ごしているようだから、なるべくランク相応程度でな。」
「あはは、タロー様のやってること考えたら、隠れたくても目立ってしまうでしょうね。」
「まあ、そうなのだがな。それでも悪目立ちするよりかはいいだろう。」
「そうですね。」
たわいもない話をしながらギルドへと向かう。
「おう、来たか。こっちだ。」
ギルドへの扉を開けると待ち構えていたかのように、サガンさんが目の前にいた。
2階の小さな部屋へと連れていかれ、俺たち2人が入ったところで扉は閉められた。
部屋は会議室ように机が配置され、そこには3人の冒険者が座り、部屋の前の方にはひとりのギルド職員が立っている。
「とりあえずそこに座ってくれ。」
言われた通り、3人の冒険者と少し間隔を開けたところへと着席する。
「今回のランクアップ試験はこの5人で受けてもらう。内容はこのギルド職員と俺の護衛、目的地は隣町、道中往復4日、町に滞在1日の5日の予定だ。」
「ギルド長がいるのに護衛は必要なのですか?」
トーマさんは率直に思ったことを聞いたようだ。
「あぁ、試験も兼ねての護衛だからな。予期せぬ事態への安全性の配慮の意味もある。」
たしかにその意味もあるだろうが、ギルド長がわざわざ出張る必要はないはずだ。
トーマさんも納得はしてない様子だが、深く聞いても意味がないことを悟り沈黙する。
きっと、僕たち2人の実力をその目で見るためというのと、自分が無理矢理押し通してランクアップ試験受けさせたことに関係しているのだろう。
「では早速出発しようか。」
サガンが話を切り上げようとしたとき、3人の冒険者のうちの1人が手を上げた。
「あの、質問なんですけど。」
「ん?なんだ?」
「そこの2人と試験を合同で受けるということですよね?俺たちパーティー合格間違いないだろうけど、こんな貧弱な2人と一緒に受けて足を引っ張られると不安を覚えるんですが。」
うわ、すごい自信だ。Cランクの試験であんなに自信満々でいれるのか。
タロー様なんて未だにFランクだけど、実力はものすごい。それなのにあんなに謙虚にしているのに。人はこんなにも性格が違うんだなぁ。
自分の実力でここまでのし上がって来た自信ってやつなのかな?
後ろの2人とくすくすと笑っている。
「お前は…グレイオングルのリーダーか。あの2人も実力的には問題無いはずだ。それに協力するのも冒険者の実力だろ?」
「あいつらのせいで不合格になったらどうするんですか?」
「どうもしないな。それに全員合格か全員不合格ということではない。受かるやつは受かる、それだけだ。」
「落ちたらフラムロワのみんなになんて報告すりゃいいんだよー。あ、まあ、あいつらのせいってことで痛めつけて貰えばいっか。」
はははと、3人で豪快に笑っている。
「そうか、お前らはクラン・フラムロワに所属してるんだったな。その言葉、俺が聞いてるということも理解しておけよ?」
サガンはそれだけ言うと部屋を出て行った。
その後を職員もついて出て行ったので、僕達も付いていく。
「トーマさん、俺のせいでごめん。」
「ん?さっきのことか?実力もわからんやつのことなどほっておけばいいさ。それにあいつらはお前の体型のことも俺の体型のこと、そして獣人であることすら侮っている。そんなもので実力など決まらないというのに馬鹿な話だ。なんにしても、お前だけのせいじゃない。気にせずいこう。」
トーマさんはいい人だ。
馬車へ向かう道すがら、職員の人に話を聞くと、今回の隣町への用というのは、備品の補充と、隣町ギルドの資金補充のようだ。
つまり、金も運ぶことになる。責任重大だなぁ。
「ランクアップ試験でCランクの実力があるのか不確かな冒険者を護衛としてるのに、資金なんて重大な物運んで大丈夫なんですか?」
一緒に馬車へと向かっているギルド職員に尋ねる。
「本来はこんなことしないんですがね。今回はギルド長もいるのでついでということでしょう。なにかトラブルが起きてもギルド内だけで済むことですし。」
そうか、ヘタに商人なんかの護衛をして失敗した方が損失も大きいし、冒険者ギルドの信頼も失うわけだ。
その点今回はちゃんと安全マージンを取ってるってことにはなるか。
「やっと来たか、さっさと出発するぞ。」
馬車の前ではサガンが待ちわびていたかのように仁王立ちで立っていた。
サガンさんとギルド職員の男性が馬車の中へと乗り込むのを確認して、御者が馬を歩かせ始める。
「おい、お前ら。邪魔だけはしてくれるなよ?」
なんとかとかいうパーティーリーダーの男がそう言って馬車の前方へと向かって歩き始めた。
「結局自己紹介すらしてないですね。」
「ま、気にすることもないだろう。あいつらが前方を歩くようだから俺たちは後方をついていこう。」
今回の護衛は馬車の前と前方寄りの側面に先ほどのパーティー3人が位置して、僕たち2人で後方の警戒ということになりそうだ。
▽▽▽▽▽
みんな仲良くというわけにはいかないが、何事もなく1日目の護衛を無事終え、2日目も昼にさしかかろうという時だった。
「ん?」
「どうやら敵だ。」
僕が異変に気付いたと同時にトーマさんも気付いたようだ。
「左側面に12、前方に5だな。」
「これは人ですね。盗賊でしょうか?」
「この人数で街道沿いの森に潜んでいるだからきっとそうだろう。」
「ギルド長に報告して来ます。」
僕は前方を進む馬車へと向かい、ギルド長へと声をかける。
「なに?盗賊?俺の索敵には反応がないが…。」
「ちょうど左側面に12人、前方に5人です。5人が馬車の足を止めている間に通り過ぎた12人が後ろから挟み討ちするのが狙いではないでしょうか。」
「ふむ。本当にいるのか?」
「はい。」
「…なぜ狙われているのかわからないが…。資金を運ぶという情報がどこかから漏れたか?」
「左側面の12人は僕とトーマさんでなんとかしますので、前方5人の相手するのが苦戦してたら助けをお願いします。他の敵影は今の所ないですが、周囲の警戒もお願いします。」
今は前方の5人に悟られることなく、手早く盗賊の動きを阻害したい。
伝えることだけ伝え、トーマさんの元へと戻る。
「なっ…お、おい!!……行っちまった。2人で12人を相手にするって本気か?」
ギルド長に呼ばれた気もしたが、今は持ち場へ戻ることを優先だ。
「トーマさん、こちらで12人に対処すると伝えてきました。」
「うん、それが手っ取り早いな。早速いこうか。」
トーマさんと合流して側面にいる盗賊の元へと気づかれぬように向かう。
「あれですね。」
「あれだな。」
「見た目はまんま盗賊ですけど、一応確認と…。」
鑑定で12人のことを観察すると皆職業が盗賊になっていた。
「盗賊確定。」
「あいつらには申し訳ないが、実力を話されるわけにもいかないし、皆死んでもらおう。」
トーマさんの言う通り、実力を片鱗でも見られるのはタロー様に迷惑がかかる。口封じも含めて死んでもらうしかないだろう。
「行こう。」
僕は頷きトーマさんと一緒にかけていく。
12人は僕たちに気付いた瞬間にはもう命を落としている。そんな早業で声を上げさせることもなく全てを斬りふせる。
「盗賊の死体は一応持って帰ろう。盗賊討伐の証拠を出す必要性が出た時のために。」
マジックバックへと全員の死体をしまい馬車の方へと戻る。
「マジックバックって便利ですねぇ。しかも容量が無制限で解体機能付きなんてどこにも売ってないですよ。」
どれだけ入れてもバックの中には余裕を感じる。
「この中は時間も止まっている。こんな高機能なマジックバックを全員に配るなんてさすがだ。これが知られたら大変なことになるから気をつけなければな。」
「タロー様も普通のマジックバックを使う分には問題ないのだから、無闇矢鱈と使わなければ大丈夫と。何か言われたらクランスミスの支給品ってことにして奪われたり無くしたりしなければいいって言ってましたし。」
でも、こんな高級品…性能がバレてなくてもマジックバックというだけで、もらえるならクランに所属したいと言う冒険者はたくさん出て来そうだよなあ。
バレないに越したことはないな。
トーマさんと話しながら馬車へと向かっていると、何か言い争うような声が馬車の方から聞こえた。
「急いで戻ろうか。」
馬車の元へとたどり着くと、盗賊5人となんとかというパーティー3人組が向き合っていた。
「だから、大人しく馬車置いてけば生きて返してやるって言ってるだろ?さっさとお母さんのところへ帰りな、坊主。」
「そ、そんなことできるわけないだろ!!」
どうやら、3人組は盗賊のリーダーっぽい男の迫力に縮こまってしまってるようだ。
まぁ、逃げ出さないだけ立派か。
「なら、死んでもらうしかねぇな。ちなみに5人にならなんとかなるかもなんて淡い期待はやめとけよ?わざわざ時間かけて話してることをよーく考えるんだな。」
「そうそう、後ろから12人来るはずなんだぞー!」
トーマさんが壊れた。
「そうだぞ、12人…ってお前なんで知ってんだ。」
「なんで知ってんだ?」
トーマさん僕の方に顔を向けて同じ質問をしてくる。
もう一度言う。トーマさんが壊れた。しかも急に。
「なんで知ってるんですか?」
とりあえずギルド長に向かって同じ質問をしてみる。
「…おまえら。遊びやがって。しかも本当に12人いたんだな。」
「いるって言ったじゃないですか。」
「信じてなかったわけではないが、信じられなかったと言うか…。」
「それを信じてなかったと言うのです。」
トーマさんとギルド長のやりとりが平和すぎる。
目の前に盗賊がいる状況とは思えない。
「それでどうするんですか?」
「とっ捕まえるか。5人ならなんとかなるだろ。盗賊の頭は俺がやる。捕縛が無理なら仕方ないから殺せ。」
トーマさんとギルド長の話が現実味を帯びてきた。というより、ちゃんとした話になった。
「12人来るってわかってて随分余裕じゃねえか。」
ガハハハと盗賊たちは笑い、なんちゃらパーティーの3人は顔が青ざめている。
「それにして12人は来るの遅いな。どこか行っちまったんじゃねえのか?」
「…そんなバカなことがあるかってんだ。おう、おめぇら、あいつらが来る前にこいつらやっちまうぞ。」
ギルド長の挑発に乗り、盗賊側攻撃を仕掛けることにしたらしい。
「おい、スミスの2人。」
どうやら呼ばれたようだ。
「悪いが俺が盗賊の頭を捕縛するまで、他の4人の相手を頼む。足止め程度でも構わん。あいつら3人組がまともに動けそうならあいつらにも2人ほど対処させてやってくれ。いい経験になるはずだ。」
なにやら難しい注文をされた。
2人で4人対応した方がよっぽど楽なんだけどなぁ。
「トーマさん、どうしますか?」
「まぁ、言われた通りにやるしかない。」
こちらに向かって来る盗賊に対処するため、3人組の前と出る。
真ん中に盗賊の頭とギルド長、両横に盗賊の下っ端が2人ずつ分かれているので、それに合わせて僕とトーマさんもギルド長の両横へと、並び立った。