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35話




その後、普通に店番をしたり、ラスタとポーションや薬品関係、石鹸を作ったりして在庫を貯めておく。小分けしたり包装したりするのは順次やっていけばいいだろう。

ある程度の在庫を確保し終えた後は、馬車のタイヤに使えそうな材料を探したり、サスペンション機構の構造を試したりした。

タイヤの材質にはやはりゴムがいいと思って王都周辺の森にある木の幹から樹液を集めてゴムになるものがないか試したが、ゴムにだいぶ近いかなあという程度の木が見つかっただけで納得いくものではなかった。しかし、この樹液を改良すればまともなゴムにはなると思うのでひとまずはそれでタイヤの改良をすることにした。


「こ、これは…。」


「なにかあったのですか?ついに探していたものを発見したのですか?」


ロシャスとゴムになる樹液を探して森を歩いていたときである。


「おぉ…神よ。」


思わず神に感謝した。


「い、いったいなにが……?」


ロシャスは困惑気味である。


「これ舐めてみて。」


樹液をロシャスに勧める。


「ほんのりと甘いですな。」


そう、メープルシロップの発見である。

正確に言えばメープルシロップになる前のメープルウォーターと呼ばれるものだろうか。

メープルシロップ大好きな俺にとっては神にも感謝したくなるほどの発見なのだ。

あ、じいちゃんも神だった。しかもわりといつも感謝してる気がする。


「これをもっと集めて丁寧に濾過して加熱凝縮すればメープルシロップができる。ぜひとも確保したい。」


「めーぷるしろっぷ?ですか。それではこの木を数本確保して地下の森で栽培しましょう。」


「ぜひ!!」


同じ木を数本確保して、マジックバックへとしまう。

魔法のおかげ木を傷つけることなく、根からまるごと持って帰れるのがすごい。

木を増やすのはフランクたちに任せることとした。

育てたり採取したりとだんだん地下の森での、仕事が増えてきたので、そろそろ担当制にして人を増やす必要があるかもしれない。

ちなみにシルクモスの繭から作られる糸やデーモンスパイダーの糸、コットンフラワーから採取される綿なども量が取れ次第、布団や服を作ってもらっている。

今ロシャスが来ている執事服もナタリーが作ったかなり高性能の新しい服である。

もし販売したらものすごい値段で売れるはずだと言われたが、ロシャスが着ることに意味がある。

今のところ販売するつもりはない。


布団もナタリーがオススメする綿だけあって素晴らしい。布団の中を心地のいい適温に保ってくれる。

羽毛なんて目じゃない。素晴らしい布団である。

シーツなどもシルクモスから作られた生糸で作られているので肌触りが最高である。もう1日中寝ていたい。


しかし、現実は寝坊しようがなにしようが起こされるのだ。リーシャかシロかクロの誰かが必ず起こしにくる。嬉しいが……なんとも言えない気持ちになる。

みんなのしっかりとした生活習慣が素敵だ。

話がそれた。メープルシロップの発見は嬉しかったのだが、ゴムのことをほったらかしにするわけにもいかないので、そちらを先に進めた。

ゴムは採取した樹液に他の樹液を混ぜたりしながら試行錯誤を繰り返し、ある程度タイヤとして使えそうな品質のゴムはできた。

サスペンションの方は鉄くずや鉄のインゴットを買って作ろうかと思ったが、メタルリザードの外被が大量に余っているのを思い出してせっかくなのでこちらを使うことにした。かなりの硬度なので耐久性も期待できるだろう。

スプリングには硬すぎるかもしれないと思ったが、思いのほかしなやかさもあったのでスプリングにもメタルリザードの外被を使っている。

生きてるときにあれだけ動いているのだから多少のしなやかさは納得いくものがある。

専門的には材質も弾性係数とかそういったことを考えなければならないのかもしれないが、そんなことはわからないので、見よう見まねでやるだけである。

こっちの世界で有利なのは魔法やスキルがあることで、想像さえできれば形にするのは地球に比べてはるかに容易である。

メタルリザードの外被でスプリングとショックアブソーバーを作りサスペンション機構をと考えていたのたが、これがさすがに難しく、難航した。

やはり、見よう見まねですぐにできるほど簡単な技術ではなかったようだ。

サスペンション機構を試行錯誤しているうちに馬車は家に届いたので、実際に馬車に合うサイズでサスペンション機構を作っていき、乗りながらショックアブソーバーの緩衝強度を調節してなんとか形にはできた。

タイヤにもゴムを取り付け、幌の中も生活しやすいような作りにした。

ソファや、出し入れしやすいような机の取り付けがしてある。

後ろ半分は荷台として使うので、なにもしていないが、荷物を乗せていない間はフリースペースとして活用できるだろう。

幌の中の真ん中に簡単な仕切りのようなカーテンのようなものを取り付けて、簡単に仕切りもできるようにしてある。

前面には、御者の座る椅子が取り付けてあり、その後ろに布で中を見えないようにしたり、開け放つことができたりできるような物が取り付けてある。

御者用の椅子も硬いただの木のベンチのようなつくりだったので、座り心地がよくなるようなものに変えた。

その椅子の後ろにある布の半分を取り払い、そこへ、一見ただの板にしか見えないようなドアを取り付ける。

つまり御者の椅子がある前面と、幌の中へ出入りできる部分を半分にして、残りの半分が板で閉め切られた状態だ。

幌の中からその板に見える扉を開けると屋敷の地下の森にある長屋の一室へと出る仕組みにした。

この扉があればスミスカンパニーのメンバーは誰でも行き来できる。

セキュリティー的に誰でも使えるのはまずいと思い、魔力の認証ができないか試したところそれも可能だったので、今のところこの扉を利用できるのはスミスカンパニーのメンバーだけである。

ちなみになぜ時空魔法を与えないのかと思うかもしれないが、与えようとするとなぜかスキルが跳ね返ってくるのである。

今のところ時空魔法のスキルを習得できたのはラスタだけであり、空間魔法も同様だ。

空間魔法も時空魔法と同じようにスキルを与えようとすると跳ね返ってくるので、なにが理由なのかわからない。

そんな理由で今のところゲートが使用できるのはオレとラスタのみという状態だ。

オレかラスタがいればゲートで馬車ごと屋敷へ戻ってきたりもできるが、みんなからの連絡が取れないのも不便なのでゲート機能付きの扉を設置したのである。


「ふぅ。やっと完成だ。」


なんだかんだ、馬車が来てからさらに1週間はかかってしまったが、なんとか完成した。


「やっと完成したのですね。」


近くにいたリーシャが声をかけてくる。


「あぁ、完成した。試しに乗ってみる?」


「よろしいのですか?」


「うん、やっぱり試乗体験は大切だからね。」


今まではオレかロシャスが乗りながら調整などをしていたので、みんなはまだ一度もこの馬車に乗っていないのだ。


「じゃぁ、シロとクロも一緒に乗せようか。」


「はい、呼んできますね。」


リーシャがシロとクロを呼んでくる間にラナを馬車へとつなぎ準備を整えておく。

ラナはなにもしなくても人の言葉を理解して指示通りに動いてくれるので手綱や、言ってしまえば御者さえいらない。

しかし対外的にそんな馬車はおかしいと思うので形だけはある状態だ。

ラナが引けないときに他の馬を繋ぐこともあるかもしれないしな。


3人が戻ってきて馬車に乗り込む。


「じゃ、ラナ軽く庭を回ってみて。」


3人を乗せた馬車が庭を数周回って、俺の前で止まる。


「「すごーい!」」


シロとクロが同じことを言いながら馬車から降りてくる。


「馬車の乗り心地とは思えませんでした!」


リーシャも気に入ってくれたようだ。


そのあとも、シロとクロが興奮気味に走っていったかと思ったら順番にみんなを連れてくるので、結局みんな馬車の試乗をすることになった。

問題の乗り心地もみんな満足いくできだったので大丈夫だろう。

何か問題があれば少しずつ改善していこうと思う。


「ラナお疲れさん。」


「【いえ、主人様。微塵も疲れておりませんのでお気になさらず。むしろ楽しかったくらいです。】」


そう言ってくれるとありがたい。


それから店のことをみんなに任せて旅へ出る話をして、在庫の確認などをもう一度してから1週間ほどかけて色々と準備を行った。

道中の村や町では薬品関係をメインで販売していく予定だ。

材料さえあればその場で色々と薬も作れるだろうし、その時々で必要な物を売るのもありだ。

かなり特殊な薬は材料が問題になるが、必要としている人は滅多にいないだろう。一般的に使う薬ならば材料の問題はない。

珍しい材料を探すのも旅の目的のひとつである。


「さて、明日から旅に出るからよろしく頼むよ。」


「タロー様、誰かお連れしないのですか?」


そう、それが一番の問題なのだ。

ロシャスに尋ねられなければなにもなかったかのように一人で行くのもありだと思っていたが。


「是非とも私を連れて行ってください。お役に立ちます。」


ライエが一番に声を上げる。


「ここは私が代表して行った方がよろしいかと思います。タロー様との付き合いは長い方ですから。」


次はリーシャだ。


「シロも旅したいなぁー。」


「クロもしたいなー。」


意外にもシロとクロも旅に行きたいようだ。


「ジーナがいれば安心だと思います!」


ジーナが主張するが、なにが安心なのかまったくわからない。


「でも馬車に乗れる人数考えると多くても2人までしか連れて行けないからなあ。」


「若、俺は戦うときだけ呼んでくれたらいいぜ!」


こいつは戦うことしか考えてないようだ。まぁ、ジェフらしいが。


「いつでも行ったり来たりできるのですから、日替わりで同行する人が変わってもいいのでは?」


トーマがいちばん堅実な案を出す。


「まぁそうなんだよね。周りの目を気にしなければ同行者が変わっても問題ないからそれがいちばんアリだな。」


どこかの商隊と一緒になってしまったり、旅に他の同行者ができない限りはその案で大丈夫だろう。


「私の一家は基本的に地下の森の管理と店の手伝いをやらしていただきます。なにか冒険者として仕事をしたりする時があればフリックも連れて行っていただければありがたいですが。」


フランクが一家を代表して述べる。


「そうだな、フリックは冒険者としての経験を積めるように行動してくれたらいいよ。家の仕事に縛られることなく、やりたいようになってくれればいい。人手が足りないなら補充すれば済むからね。」


「はい!」


この一家もみんな笑顔で家族仲もよい、いい家族だ。

地下の森での栽培も今まで通り頑張って欲しい。とくにメープルシロップを得るために。


「私も基本的には家の仕事と裁縫の仕事をやらせてもらいます。」


うん、ナタリーはそれがいいだろう。こちらとしてもありがたい。


「まぁ、その日に休みの人とか空いてる人が同行するって感じにしよう。」


ん?誰か屋敷に来たようだ。


「私が行ってきます。」


ライエが訪問に気づき、門へと向かう。


「ご主人様、冒険者ギルドの使者からの言伝です。ギルド長が呼んでいるからこれからギルドに顔を出して欲しいとのことですが……。」


うわー……めんどくさい予感。


「なんて答えたの?」


「確認してくるとだけ。」


よし、これならまだ逃げれる。


「じゃ、オレは今日の昼から旅に出たことにしよう。」


バックれることにする。


「では、要件は代わりに私が聞いてきましょう。」


ロシャスが提案してくれた。


「え?いいの?」


「聞いてからなら思慮することもできましょう。まあ、私が言って話してくれるかはわかりませんが。」


たしかにそうだ。

でもなんとなく予想がつくんだよなあ。

決闘の時にギルド長いたからそれ関連な気がする。

商人としていたから冒険者登録してること知らなかったのかもしれないが、ひょんなことから登録してることを知って接触を図ってきたのだろう。


「じゃあ、悪いけどお願いする。」


「はい、では行ってまいります。」


そう言ってロシャスは外へと向かっていった。









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