表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/102

32話






「おい!ここの主人は誰だ!」


朝、いつも通り店を開け、営業をし始めてしばらくしたときだ。突然店内に怒鳴り声が響いた。


「おい!聞こえぬのか!」


めんどくさそうだからひとまず知らんぷりをしてみる。


「おまえか!」


「いいえ、違います。」


フランクがあっさりと答える。


「くっ、生意気な平民が!おい、そこの獣人3人!私の屋敷へ戻るぞ!」


はい?何言ってんだ?

呼びかけられたリーシャ、クロ、シロの3人は動こうとはしないが、目線で助けを求めてくる。


「おい、なにしている!」


動かない3人にさらに声を荒げる。

あ、もしかして前のリーシャたちの主人だった貴族か?


「ええい!もうよい!力ずくで連れてこい!」


周りの護衛に声をかけ、護衛たちがリーシャたちに向かってくる。


「えっと、何かご用ですか?」


リーシャたちを連れて行かれても困るので、リーシャたちと護衛の間に割って入り、声をかける。


「貴様は何者だ。」


「先ほど、あちらの方が探していらしたここの店主ですが。」


そういうと、護衛の1人が太った男の方へ向かい、何か耳打ちをする。

あいつが店主のようですみたいなことを言っているのだろう。

太った男は報告に行った護衛とともにこちらへ来た。


「お前がここの店主だな?貴様が盗んだうちの奴隷、返して貰うぞ。」


「言っている意味がまったくわかりませんが。」


「そこの3人は私の奴隷だと言っているんだ!」


「ほう、何か証拠がおありですか?」


「私が言っているのだからそうに決まっているだろう!なに、他の娘らも一緒に連れていってやる。感謝しろ。」


「さらになにを言ってるのかわかりかねますねぇ。私には理解できないその言葉はオークかなにかの言語で?」


「き、貴様!!!」


顔面を真っ赤にして怒っている。

こんなに意味のわからないことを言う奴を人間扱いする必要もないだろう。

護衛の3人も今にも剣を抜きそうな雰囲気だ。


「おっと、これは失礼。よくよく見れば人族の方でしたか!てっきりオークのオスかと思っておりました。」


深々と頭を下げる。

それを見た護衛が一気に剣を抜き俺の頭めがけて振り下ろす。


キンッ!


「物騒な物はお控えください。ここは皆様が買い物を楽しむ場所であります。」


ロシャスが脇に立ち、3本の剣を杖、それも片手1つで受け止める。てか、もう少しで頭当たるんだけど。わざとギリギリとめてんじゃないか?


「タロー様もさすがに失礼ですよ…。」


「ロシャス…笑いが堪えられてないからな。」


ロシャスは笑いを堪えようと必死になっているのがよくわる。

よく見ると、スミスカンパニーの皆も、買い物に来ていた客も必死に笑いを堪えている。

護衛たちはロシャスとのありえないほどの力量差に唖然としているようだ。


「それで、なんの御用でしたかね?」


「だ、だから奴隷を返してもらうと言っている!」


「そもそも、私の奴隷なのですが?」


「ふん、ラチがあかんな。おい!奴隷商を呼んでこい!奴隷商人にステータスのチェックをして貰えば1番確実だ!」


護衛の1人が急いで店を出て街へと向かっていく。


「たしかに奴隷に関しては奴隷商人に鑑定してもらうのが1番公平ですね。」


「お前が偉そうにしていられるのもここまでだ。」


「いやはや、しかし私の奴隷だった場合はどうするおつもりですか?名誉を毀損されましたし、仕事の邪魔にもなってますが。」


「なにが名誉だ、平民が偉そうに。どうせ私の奴隷なのだ、貴様は奴隷を盗んだ罪で牢屋行きだ!」


「では私の奴隷だと証明された時はあなたが牢屋行きですか?それともここで首をはねましょうか?」


「貴族である私にそんなことできるわけなかろう!」


なんかこんなやりとり少し前にもした気がするよ…。

貴族はこんなのばっかなのか。

ひとまず奴隷商が来るということなので、念のため、トーマとナタリー、ライエ、ジーナは屋敷へと戻っているように伝える。もしもドマルさんが来たら言い訳するのが大変そうだからね。

ちなみにジェフは今日休みだ。どこかへ出掛けるとも言っていなかったので、屋敷にはいると思うが。


しばらくすると護衛と奴隷商がやってきた。どうやら来たのはドマルさんではないようだ。


「さっさとあの3人を鑑定して私の奴隷だという証明してやれ。」


「それでは3人に鑑定をさせていただきます。」


奴隷商リーシャたち3人を鑑定し始める。


「ガウン男爵。どうやらあの3人の奴隷はタローという者の奴隷のようです。」


お!ガウン!リーシャに出会った頃そんなようなこと言ってたな。

奴隷商人はグルになって適当なことを言うかとも思ったが、どうやらちゃんと鑑定したようだ。


「タローは私です。これで正真正銘私の奴隷だと証明されたわけですね。」


「なに?なにかの間違いではないのか?」


「いえ、他の鑑定スキル持ちにも鑑定してもらえばわかることですが、本当にタローさんの奴隷です。」


男爵は苦虫を潰したかのような顔をしている。


「いったいどうやって私の奴隷を盗んだのだ!…こんなに綺麗なら新たな夜の相手にできるというのに。」


おっと、最後の方はボソっと言ったが聞こえてるからな。


「逆に聞きますが、原則、奴隷契約は奴隷商人以外にはできないのに、どうやったと思っているのですか?それに、なぜいなくなったのに今まで捜索していなかったのですか?」


ガウン男爵に近づく。


「それとも、病に倒れたからと言って森の奥へ捨てて来たのですか?」


耳元で囁く。

その言葉を聞いたガウン男爵はそれは驚いたような顔をした。


「奴隷商人さん、1つ聞きたいのですが、奴隷が病に倒れ死亡した場合って仕方ないとは思うのですが、それを森の奥深くへわざと放置するようなことをしたらどうなるのですか?」


「病に倒れ死亡した場合はそのまま死亡扱いですが、病で動けない状態に陥ったり、自分にとって必要なくなったといって、そのように放置することは殺すことと同義とみなされ、奴隷を殺すことへの違反になるでしょう。」


「なるほど、そういうことですか。ガウン男爵、そういうことのようですが。」


「くっ、わ、私はそんなことはしていない!知らぬ!」


「で、もう帰ってもらえますか?」


「貴様、偉そうに!決闘だ!その3人をかけて決闘を申し込む!これなら文句なかろう!」


は?なぜそうなる。



「こちら側にメリットがないですね。」


「貴様は奴隷3人を、私は白金貨50枚をかけようではないか。良い案だろう?」


「白金貨1000枚。」


「…は?」


なにが「…は?」だよ。そんな安っぽい値段で釣り合うわけないだろう。そもそも金には変えられない存在だっての。白金貨1000枚でも破格の激安大セールの半額の閉店セールより安い。ちょっとよくわからないけど。


「いや、白金貨1000枚でないと決闘はしませんよ。そもそも白金貨1000枚でもだいぶ安いくらいだ。」


「何を言っているのだ…そんな大金…。」


「払えないなら決闘は無しです。そもそも勝てば良い話ですしね。」


決闘ならこっちが負けることは万が一もありえないが。


「ふん、まあよい。私が勝つに決まっているしな。」


どんだけめでたい脳をしているのだ。


「では、会場は冒険者ギルドで場所を借りましょう。立会人はそこの奴隷商の方と、冒険者ギルドの職員。決闘は代理人でもよいこととする。3日後に行う。それでよろしいですか?」


「あぁ、かまわん。貴様の方はその執事のような男はダメだからな。」


はぁ?別にかまわんけども。俺が戦う予定だし。



「はあ。なぜそのような指図を受けなければならないのかわかりませんね。まあいいでしょう。彼以外にしますよ。」


「ふん、精々無様な姿を見せんように気をつけるのだな。」


それだけ言い残して偉そうな態度で帰っていった。

ほんとめんどくい相手である。


「しまった…。」


「どうされたのですか?」


「公平性を保ちつつ、確実に反抗が出来ないような人に見てもらうために、ギルドを選んだけど、実力がバレる…。」


「なるほど…どういたしますか?」


「まぁいいか、その時考えよ。」


とくに策が浮かぶわけでもなく、3日が過ぎ、決闘の当日になる。


「結局誰が決闘で戦うことにしたのですか?」


朝、ロシャスに尋ねられた。


「若!俺にやらせてください!」


ジェフがやりたがるが、ジェフが目立って、ドマルさんが噂を聞いたらめんどくさいからなし。


「ジェフはなし!ややこしいことになりそうだから。」


「そんな〜。」


肩を落としてうなだれる。


「それでは私があの豚をバラ肉にして差し上げましょう。」


今後はライエだ。


「ライエもなしだよ。」


まさか断られるとは!みたいな顔で驚かれても困るのだが。


「そもそも、最初から俺が戦う予定だったし。俺の奴隷なんだから俺が守らないとね。」


一応カッコつけておく。


そんなこんなで今は冒険者ギルドへ向かっている。


「なんかこの5人…とラスタとで動くのも久々だな。」


「たしかにそうですなぁ。」


「「久々ー!」」


シロとクロは今日も元気だ。自分たちを賭けた決闘だというのに微塵の心配もしていない様子である。


「ご主人様、ご迷惑かけて申し訳ありません。」


リーシャは迷惑かけていると思って少し俯いている。


「いやいや、いずれはこんなこともあるだろうと思ってたし、それを覚悟して3人を助けたんだから気にすんな。ガウン男爵のところに戻りたいというならそれも考慮するが。」


「いえ、まったく微塵も砂つぶ程もそんなことは思っておりません。それに決闘に負けることなどは想像もしていません。ご迷惑でなければこのままお仕えさせてください。」


ありがたい信頼である。


「もちろん。それじゃさっさと終わらせよ…」


「よう!」


アンドレさんだ。


「アンドレさんどうしたんですか?こんなところで。」


「ちょうどお前のところに向かってたところなんだ。この前もらったポーションのことで話がしたくて。」


「あー、すいません。これから少し野暮用が。その後なら空いてるのですが。」


「なんだ、そうなのか?その後でもいいが…その用はすぐ終わるか?」


「「けっとーう!」」


「なに?決闘だと?」


シロとクロが余計なことを言う。

アンドレさんは俄然興味しんしんである。


「えぇ、ちょっと。すぐ終わりますので、店で待っててください。」


「なに、お前がいればいいんだ。このまま決闘場所へ行こうじゃないか!」


ほらやっぱりこうなったー。なんてタイミングだよ。

まあ、ジェフに戦わせないでよかったということにしとこ。


「はぁ…わかりました。行きましょう。」


そのままアンドレさんもともにギルドへ向かう。


「おい!遅いぞ。早くしろ。」


お、男爵はすでに到着していたようだ。意外にも時間厳守。

まぁ、時計が普及してるわけでもないので結構曖昧なことは曖昧なのだが。


「タロー、相手はガウン男爵か?またやっかいな男に目をつけられたもんだな。」


「えぇ、非常に迷惑ですよ。」


ことの経緯を簡単に説明すると、アンドレさんから驚きの提案が出た。


「俺が立会人してやろう。俺の地位であればそうそう文句をつけられぬだろう。」


「そうですか?それはありがたいですが、大丈夫ですか?」


「あぁ、なにも問題なかろう。」


「それではお願いします。」


ギルドへはあらかじめ話をしてあったので、訓練所の1つを部外者立ち入り禁止で借りてある。


「待ちくたびれたぞ。さっさと始めようではないか。」


ガウン男爵の側には護衛の他に護衛よりも一回り体が大きいガラの悪そうな男が立っている。おそらくあいつが代理人というところだろう。


「あいつが相手なのか?参ったなぁ。タロー大丈夫か?」


どうやらアンドレは見知った顔らしい。


「知り合いですか?」


「あんな悪人面の男が知り合いなわけないだろ!あいつはヌガーといって人を殺して牢にいたんだが…。」


「あそこにいるんですけど?」


「あぁ、どこぞの貴族が身元引受け人になって保釈金を払うことで牢を出たと聞いていたがあんなところにいるとはな。」


「えぇー…そんな簡単に出しちゃっていいんですか?」


「かなりの大金を出したようだからな、金に目が眩んだのだろう。それに確定していた殺人は1人だけだったからな。」


金に目が眩まないでくれよ、国家機関。


「確定していたのはということは?」


「あぁ、他の5件の人殺しも奴の仕業だと思われるものがある。それに、遺体が見つかってないだけで他にも多数の殺人をしてると思うんだ。俺の直感だがな。」


凶悪犯ではないか!保釈すんなよ!


「今からでも遅くない。この決闘降りたらどうだ?」


「そういうわけにもいきませんよ。まあ、大丈夫です。」


そうか、とそれだけ呟き俺とガウン伯爵の間へと進む。


「これより決闘を行う。ここでの決着にお互い遺恨は残さぬように。ここ以外での争いがあった場合は国が出張る。心せよ。決闘においての怪我、命の保証はない。決闘する本人はしっかりと覚悟をして臨みたまえ。」


おぉ!騎士っぽい!あ、騎士だった。


「それでは決闘を行う者は前へ。」


こちらは俺が。向こうは予想通りヌガーという大男が出る。


「今回の決闘、立会人にギルド長のサガン、奴隷商人のマトバ、そして、近衛騎士2番隊隊長アンドレが見届ける。両者準備は良いか?」


互いに頷く。

ちなみにガウン男爵はすでに勝ち誇った顔をしている。


「それでは始め!!」








評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ