30話
遅くなりました、ごめんなさい。
「ダンジョンの近くでポーションを販売してみようと思う。」
「どうしたんですか、急に。」
ロシャスが問う。
「薬品関係の売れ行きがよくないし、冒険者が買いに来ないからさあ。」
「確かに現在は親方の知り合いが切り傷に効く薬を買いに来るくらいですな。」
開店の日に買って行ってくれた傷用の軟膏の効果にものすごく満足した親方が、弟子やその家族に勧めてくれたおかげでその薬だけはよく売れる。効果がいいので評判もいい。おかげで他の薬を買って行ってくれる人も増えたがポーションや冒険者の使う薬類はまだまだ売れていない。
「昨日サリーさんのところ行って相談したら10日単位でダンジョン近くの通りで露店を出せるみたいだからその申請してきた。」
「そういうことでしたか。それは今日からですか?」
「そうなのです!」
「また急ですなあ。」
ボヤきながらもすぐに準備を始めてくれるロシャス。とてもいい奴だ。
ロシャスのおかけで、30分後には販売する物などの準備が済んだ。
「じゃあ、こっちは任せたよ。」
「かしこまりました。お気をつけて。」
屋敷の方の店はロシャスとリーシャに任せ、俺とクロ、トーマ、ライエ、ジーナでダンジョンに向かう。
「この辺だな。よし、準備しよう。」
サリーさんに言われた場所へと準備を始める。屋台みたいな物はないので、簡易的にタープのような物を設置して机を出し、そこへ品物を並べるだけだ。
「クロとジーナは売り子だ!その可愛さを売りに冒険者をここへと誘うことが役目!ライエとトーマは販売な!」
そして、俺は見るだけだ!
「「はーい!」」
2人は走って客引きに言った。
絡まれそうになったらさっさと逃げて来いよとは言っておいた。
「お?さっそく連れてきたぞ。」
「おいおい、こんなところでこんな娘に客引きさせてるやつがいると思ったらタローじゃないか。」
「なんだぁ、アンドレさんかー。」
「なんだとはなんだよ。」
お、やべ。口に出てた。
「アンドレさんこんなところでなにを?」
「ん?訓練の一環でダンジョンに行く途中だ。俺は監督役ってとこだな。」
「なるほど。よかったらポーションとかどうですか?よく効きますよ?」
「ポーションなぁ。一応隊で支給されるからいらないっちゃいらないが…。」
「まぁまぁ、そんなこと言わずに。他の同じ値段の物よりも質のいいことは保証しますよ。知らない仲ではありませんし、一本サービスしますから、品質と値段の納得がいったらまた買ってくださいよ!」
「それじゃあとりあえず一本ずつもらってくか。」
「まいど!」
体力回復用と魔力回復用、一本ずつ買ってくれたので一本ずつサービスしといた。
ここで品質が認められたら近衛騎士隊で大量注文が見込めるかもしれない。
ぐふふ……大儲けの予感。
「おい、そういえばこの前のクッキーとか言うお菓子は今持ってないのか?」
「クッキーですか?あとでみんなでおやつに食べようかと思って持ってきてますけど。」
「それはちょうどよかった!そっちを売ってくれ!」
「えー、なんでですか?もしかしてこの前本当は食べたかったんですかー?」
「そ、そうとも言う。マリア様があまりにも美味しそうに食べるもんだから気になってたんだ。」
こいつ厳つい顔して甘いもの好きなタイプか。
しかたない……。
「少しだけですよ?お代はいらないですから食べてください。」
「お、本当か!ありがたくいただくぜ!」
クッキーを一袋渡したら上機嫌で帰っていった。嵐のような男だ。
「ご主人様ー次ー!」
クロがまた違う冒険者を連れてきたようだ。2人ともなかなかやりおる。
この分なら昼には持ってきた分売れてしまいそうだ。
▽▽▽▽▽
「まいどー!またスミスカンパニーをよろしくー!」
「案外すんなり売れましたね。」
「そうだな。クロとジーナの働きが予想以上だった。トーマもお疲れ。」
「いえ、これくらいなんてことありません。」
こいつ武士みたいだな。
狼だけに犬っぽく忠誠心が高いのだろうか。
予想していた通り昼を少し過ぎた頃にはポーション類と毒消しなどの冒険者必須系の薬品は売り切れた。
他の物はここではあまり需要が無いかもしれないのでとりあえず今日は店を閉めることにする。
買ってくれた冒険者たちにはちゃんとスミスカンパニーの宣伝をしたので、気に入ってくれればまた買いに来てくれるだろう。
「意外と早く終わったし少しダンジョンにでも入って帰るか。」
「はい、そういたしましょう。」
意外とトーマが乗り気である。
店仕舞いして、ダンジョンへ行くことにする。
「おいおい、可愛い子連れてるじゃないか。俺たちにくれよ。お前じゃ宝の持ち腐れだぜ?」
うわー、またこのパターン。冒険者ってこういう奴らだけはめんどくさいよなあ。
「だまりなさい。そんな汚い体でタロー様に近づかないでください。」
おっと、ライエさんがでしゃばります。
「てめぇ…。」
「おい、もういい。行くぞ。」
おや?引き下がるのはやくないかい?
絡んできた冒険者5人組はどこかへ歩いて行った。
「なんだったんでしょうか?」
「なんだったんだろう。」
トーマも疑問に思ったようだ。
しかし、俺の索敵にはあいつらがさらに5人と合流したのが見て取れた。
なにかしら仕掛けてくるつもりかもしれない。
気をつけておこう。
「さあ、タロー様、邪魔者は消えました。行きましょう。」
ライエに促され、ダンジョンへ向かう。
暇つぶしなので一階層から順番に降りることにして、宝箱探しをメインで地下へと下って行く。すると8階層を廻っている時に、9階層から上がってくる10人組の反応を見つけた。
「どうやら、ダンジョンで待ち伏せするパターンだったみたい。」
「先ほどの奴らですか?」
「うん、なにされるかわからないから一応気をつけておいて。」
トーマは理解が早くて助かる。
そのまま8階層の探索を進めていると、3手に別れた冒険者たちが俺たちの方へジリジリと距離を詰めているのが分かる。向こうも索敵のスキルを使いこなせるやつがいて、この階層をよく理解しているようだ。
どの方向に行っても3組のうちの1組とどこかでぶつかるようになっていた。
「んー。めんどくさい。」
「私が始末してまいりましょうか。」
ライエさんが物騒である。
「いや、通路で会うと他の冒険者に見られる可能性もあるから、こっちから追い詰められて一纏めに片付けよう。」
「では、先ほどの小部屋に戻りましょう。そこならば他の冒険者に見つかるリスクも少ないですし、15人入っても余裕があるでしょう。」
トーマさんが優秀である。
「じゃ、その案で行こう。」
そして少し戻ったところにある小部屋に行入り少し待つとぞろぞろと男達が入ってきた。
「よう、さっきぶりだな。」
リーダーっぽい男が話しかけてくる。
「どうも。こんなところでどうしたんですか?」
「なに、仲間と探索をな。それと躾のなってねぇ新人冒険者の躾だな。」
「そうなんですか。それでは失礼します。」
すっとぼけて帰ろうとしてみる。
「おいおい、お前たちのことだよ。」
道を塞がれた。
そりゃそうだよね。
わかってましたさ、そりゃ。
淡い希望は水泡のごとく消えていったというやつ。
「はぁ。それでどうしたいんですか?」
「ダンジョンでは冒険者は自己責任。死んでも魔物のせいだと思われる。な?わかるだろ?」
「えぇ、そうですね。」
「お前も逆らってなきゃダンジョンなんかで魔物に襲われて命を落とすことはなかったのにな。」
「そうなんですか?」
「あぁ、そうさ。俺たちは優しからな。なぁ?みんなもそう思うだろ。」
後ろで下っ端たちが、「そうだぞー」とか大笑いしたりしている。
「で、なにを差し出せば許してもらえるんですかね?」
「もう手遅れさ。お前はここで死ぬことになるだろう。だが、そいつらを奴隷として俺に売ってくれるっていうなら命くらい助かるかもしれねぇなあ。あ、男はいらねぇぞ?そいつはもう行方不明者確定だ。」
「まず1つ。後ろの4人はそもそも俺の奴隷です。」
男たちもさすがにこれは予想外だったようでどよめいている。
「そして2つ目。みんなをあんたに譲るくらいなら俺が死んだ方がマシだね。」
「そうかい。ならさっさと死んどき…あ、あれ?」
「もう、つまらない話は十分です。あなたのおかげでタロー様が自分の命より私たちを優先してくれるということが聞けたことだけは感謝します。しかし、そんなことを言わせたことは万死に値します。感謝の気持ちを込め、一瞬であの世に送って差し上げましょう。」
おいー!話の途中だよー!てか、もう死んでるから!聞いてないから!ライエさーん!!
「ライエ。少しは我慢しろよな。」
「す、すみません。ついカッとなってしまいました。」
「まぁいいや。逃すわけにもいかないし、さっさと終わらそう。」
ライエの頭にポンと手を乗せ、少し撫でておく。シュンとなってた尻尾も小刻みに振られているのだから正直なやつだ。絶対反省してない、こいつ。
まだなにが起きたかわかっていない男たちが動き出す前にこちらから動き出す。
1人で2人始末すればいいのだからあっという間だ。
「う、うわー!」
また1人また1人と命が散って行く中、正気に戻り声をあげ逃げ出そうとする者もいたが、声をあげるだけで、逃げ出す前に命の炎は消えている。
「スキルの回収もしたし、死体はマジックバックに入れておこう。」
男たちの始末も済ませて部屋を出る。
この世界では命が軽い。
俺も徹底的に害のあると思ったやつを殺すことに躊躇いを覚えたことがない。
初めて盗賊を殺した時もそうだ。なんの抵抗もなかった。
まぁ地球にいたころからそんなに深く命について考えきたわけではないが……。
地球にいた頃は逆に、死が遠くのことに感じ、そこまでちゃんと考えれていなかった。
今回、トーマたちも盗賊を殺すことになんの躊躇いを持った様子がなかった。
この世界では命のやり取りがとても身近にある。簡単に消えてしまう。だからこそ大切にしないといけないのかもしれない。
魔法や魔法薬のあるこの世界では、大怪我をしようが重病になろうが救う方法はあるし、可能なことは簡単に可能になる。
しかし、本来その救う力を手に入れるのは大変なことだ。それに比べて命はいともたやすく消えていく。
怪我や病気は治せても、無くした命は治らないのだ。
簡単に消えてしまうからこそ真摯に向き合わなければならないのかもしれない。
排除しなければこちらが殺されると言う状況でそのようなことを考えるのは難しいことではある。
しかし、死が身近過ぎて悠長に考えていればこちらの命がなくなるかもしれない。
だからこそ命のやり取りに躊躇うわけにはいかない。
その点、地球にいた頃は考える時間がたくさんあっただろう。
だが、どちらの世界でも命の儚さは同じだ。突然命が奪われるというのはどちらでも起こり得る。
だからこそ、常に向き合い、考え続けなければならないのことなのだろう。
……とても、とても難しいことだ。
「なんか、めんどくさいやつに絡まれちまったし、そろそろダンジョン出ようか。」
ジーナのような幼いといえる少女にも人を殺させた自分が少し嫌になる。
探索の気も削がれてしまったので、11階層まで降りて外に出ることにした。
「おーい、タロー!」
「あれ?アンドレさんどうしたんですか?」
ダンジョンから出るとまたしてもアンドレさんに出くわした。
「実は、ダンジョンにきな臭い奴らが入ったって情報があってな。最近、冒険者の行方不明が少し多くて、その調査も兼ねてダンジョン篭りの訓練についてきてたんだが、どうやらそのきな臭い奴らが関わってそうなんで、一応注意してたんだ。ダンジョンで死ぬのは不思議なことじゃないがいつもより多いとなると少し不自然だからな。」
「なるほど。それで?」
「さっきクッキーもらって浮かれて言うの忘れてたんだが、そいつらが店にも来るかもしれねぇから気をつけろよって言っておこうと思ってな。」
「クッキーで忘れないでくださいよ。」
大丈夫か、こんな隊長で。
「悪い悪い。そういうことで気をつけろよ。10人くらいのメンバーらしいからよ。さっきダンジョンに入ったみたいだから今日は大丈夫だと思うが。」
ぎくっ。
「そ、それって証拠とかはないんですか?」
「証拠がありゃしょっぴけるんだけどなぁ。ダンジョンの中だし、なかなか上手いこと尻尾をつかませねぇ。だから今のところはグレーってとこだな。俺の勘がほぼクロって言ってるが。」
黒でしたよ。はい。
それさっき始末しちまった奴らだろ?そういうオチだろ?言うの遅いよアンドレー!
「それにしても、お前らダンジョンにも入るんだな。」
「えぇ、一応旅商人を続けたいので多少は自分の身は守れないとと思って。」
「そりゃそうだな。騎士隊の訓練参加するか?」
「全力で断らせて頂きます。」
「おいおい、つれねぇなあ。まあいい、また気が向いたら声かけてくれりゃダンジョン篭りの訓練なら参加させてやるからよ。」
本当に遠慮願いたい。ジェフは喜びそうだが。
「気が向くことがあれば声かけます。」
「ははは、おもしれぇやつだなぁ。とにかく、気をつけろよ?額に傷のある男がリーダーのようだからな。特にそいつには気をつけろ。じゃあ、またな。」
なんもおもしれぇこと言ってねぇよ!
額に傷か。さっきの男の額にも傷があった気がする。ライエが首をスってやったやつ。うん、気のせいだな。よし。
「ご主人様、言わなくてよかったのですか?」
「大丈夫だろ。ダンジョンで死んだとでも思ってくれるよきっと。」
クロの問いに答える。
「これで不幸に殺される人はいなくなるからよかったですね!」
ジーナの笑顔が眩しい。
報告しなくても行方不明になる人は元の人数程度に戻るだろうし、さっきの男たちも見かけなくなればそのうちこの話題も消えていくことだろう。
それにしてもアンドレさんに気に入られたっぽい。これからもなにかあると絡まれそうである。とくにクッキー関連で。
まあ、悪い人ではないし、差別もしない。マリア様についてるだけある。てか、2番隊なのに、第一王子とかについてなくていいのだろうか。
まあ、あまり気にしないでおこう。
「帰ろうか。」
ゲート使ってもいいが、なんとなく夕暮れの街を歩きたくて、家までのんびり歩きながら帰った。
こんな夕暮れの空は綺麗で好きだ。
街も明かりが灯り始め、仕事を終えた人たちの晩酌が始まる喧騒に包まれながら歩くのは悪くない。