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29話






「げっ。王女様。」


「久しぶりの再会ですのに、ひどいお顔ではないですか。」


やべ、声にも顔にも出ていたようだ。


「いやいや、そんなことは無いですよ。お久しぶりです、王女様。」


「マリアですよ。」


「お久しぶりです、マリア様。」


このやり取りは絶対やらねばならぬのか?くそう。


「立派な商店を持つことができたのですね。」


「えぇ、マリア様のおかげです。」


「なにやら、大層上質な石鹸の存在を耳にしましてね。噂の品を買って来てもらい、使用したところ本当に使い心地も香りもよい石鹸でしたので、販売してる商店を調べてもらったらタロー様のお店だったので本当に驚きました。」


「あはは、石鹸が気に入ってもらえたようでなによりです。」


「なので、店まで顔を見に来たのですよ。」


ニコッと笑う王女様の顔は美しく、どこかいたずらが成功して誇らしげな顔する少女のような可愛さもある。


「これはまた王女様直々に来ていただけるとは大変光栄です。」


来なくていいのにー!と、心の中だけで叫ぶ。


「ふん、口先だけではないですか。」


おっと、バレた。

そっぽを向き拗ねた様な顔をするマリア様。


「そんなことありませんよ。とりあえず奥でお茶でもいかがですか?」


「そうですわね。いただきます。」


くそう。早く帰ってほしいのに自らお茶に誘うとはなんたる不覚。許すまじ。

王女を連れ、スタッフルームのようなところへ案内する。リビングのように寛げる作りにしてあるので大丈夫だろう。


「どうぞ、座って少々お待ちください。リーシャあれ入れてきて。」


あれとはなにか。

それはハーブティーである。最近、薬草などを使ってお茶の改良に試みているのだ。後々は商品の1つとして売れるといいなといった狙いもある。まぁ、ハーブティーの知識もないので完全に手探りだが、鑑定と薬師の力のおかげで薬草の効能などもわかるし、地球にいた頃のハーブ類に似た香りの薬草なども結構あるので、それらをリーシャたち料理スキル持ちに手伝ってもらいながら試作している。なかなかいい香りのおいしいお茶ができているので順調だ。

それを王女様にも振る舞おうということである。あとはハチミツも用意してハーブティーに少し入れればさらに美味しさアップだ。

一応、ハチミツを使ったクッキーのようなものも作れたので、それも出してもらうことにした。

これはなかなかおいしい。素朴な味だが、俺好みの仕上がりである。


「そちらの方は?随分お綺麗な方ですが…。」


マリア様がソファに腰掛けたときにライエを見ながら聞いてきた。


「えっと…ライエです。スミスカンパニーの従業員の1人です。」


「私はタロー様のライエと申します。以後お見知り置きを。」


可憐に礼をする。


ライエはマリア様が来た時から護衛のよつにオレの後ろにピタッくっつき離れない。

しかも今の自己紹介なに?タロー様のって。間違いではないが誤解が生まれるよう!

その自己紹介を聞いた時マリア様の眉がピクリと動いた気がした。きっと気のせいだ。そうだとも。そう思いたい。

その時ちょうど、リーシャがクッキーとハーブティーを持ってきた。


「とてもいい香りですね。嗅いだことのない香りのお茶です。」


「おいしいですよ、飲んでみてください。よかったら護衛の方もどうぞ。」


「いえ、私は護衛ですので。」


護衛は鍛え抜かれた体に立派な鎧を着込んでいる。この店に合わないからやめてほしい。

だが、かなりの手練れだろう。

そしてもう1人、まさに「じいや」といった感じの執事の人もついている。


「大丈夫でしょう。」


執事は一瞬とも言えるほどの時間だが、じっとお茶と菓子を見つめ、声を発した。

どうやら、執事風の人は鑑定持ちのようで、毒が入ってないかを確認したようだ。王女様はそういうことにも気をつけなければならないから大変だよなぁ。


そしてマリア様はお茶に口をつける。


「…これは今までに飲んだことのない味です。口から鼻に抜けるほのかな香り。そして口に広がるかすかな甘み。とても美味しいですわ。」


「それはよかったです。こちらも美味しいので、よかったらお召し上がりになってください。」


クッキーを勧める。


「…美味しい。これはいったいなんですか?」


「クッキーと呼んでいる焼き菓子です。」


それからしばらくマリア様は夢中になってお茶とクッキーを楽しむ。


「こほん。今まで味わったことのない美味しさに少々お恥ずかしい姿を見せてしまいました。」


少し顔を赤らめる。


「おいしいと思ってくれたなら何よりですよ。」


「ところで、後ろにいらっしゃるライエさんだったかしら?その方や、先ほどお茶を持って来てくれた方もここにいる方はみな美しいですわね。清潔な身なりに、美しい髪。貴族の令嬢よりもお綺麗ですわ。」


「そう言っていただけると…」


「当たり前です。タロー様の奴隷はタロー様にふさわしい様に美しくあるべきなのです。」


ライエが口を挟んで来た。


「え?奴隷ですか?」


「え、えぇ。実はスミスカンパニーの構成員はみな私の奴隷なのです。」


マリア様だけではなく後ろの2人も目を見開き、かなり驚いた様子だ。


「先ほど見かけた男性はかなり手練れに見えたが、あれも奴隷か?」


護衛の男性が聞いてくる。


「えぇ、そうですよ。」


手練れに見えたのならきっとジェフのことだろう。


「ひと勝負させていただけないだろうか?」


はい?こいつ戦闘狂か?


「アンドレ、さすがに失礼ですよ。」


「はっ。これは失礼いたしました。」


「すみません。アンドレは近衛騎士隊の2番隊隊長なのですが、強そうな人を見るとすぐ手合わせしようとする悪い癖があるのです。」


おいおい、隊長さんかよ。幕末に活躍したどこぞの志士たちのように何番隊とかある感じか。隊長で、それも2番隊となればかなりの手練れだろう。


「ははは、さすがに隊長さんと戦えるほどではないと思いますよ。」


「悪気はないので許してやってください。今日も護衛はいらないと言っているのに無理矢理ついてくるような優しい人なんです。一応。」


一応ってつけてるけどな!


「えぇ、構いませんよ。またチャンスがあれば手合わせできたらいいですね。」


アンドレの目が輝き始めた。とりあえず無視する。これ以上は本当にひと勝負させなきゃならなくなりそうだ。


「ところで、全員が奴隷という話ですが、みんな生き生きとしてとても幸せそうですね。」


「幸せと感じて…」


「幸せです!」


また被せて来た。


らいえー!


「幸せと感じていてくれてたら俺も嬉しいです。」


「ここにいる人たちの様にのびのびと生活できている奴隷はなかなかいませんよ。こんなことなら私もタローの奴隷のままでもよかったかもしれませんね。」


からかうよな笑みで不穏なことを言いやがった。

ライエの耳と尻尾がピンと反応している。


「いやいや、それは勘弁してください。それにそうならなかったおかげで今の商店を持つことができたのですから。」


まじで勘弁してくれよー。


「マリア様はタロー様の奴隷だったのですか?」


珍しくリーシャが話に入ってきた。


「えぇ、ちょっと訳ありですが。」


「ですが、すでに奴隷ではないのですよね?でしたら、わたしがタロー様の1番奴隷ということですね。そういうことですね。タロー様の1番。」


ちょいちょい、どうしたリーシャ。一番奴隷とかそんなのあるの?ないよね?順番でいくならそもそも1番はロシャスじゃないのか?あれ?あれれ?

しかも最後の言葉は切るところがおかしい!


ライエがうしろですごい悔しそうな顔している。なにをしてるんだこの2人は。


「タロー様のことを信頼しきっている様ですね。」


「あははは、そうだといいのですが。俺もみんなにすごく助けられていますので。」


じいやが、マリア様の耳元で「王女様、そろそろ」って言っている。


「タロー、私そろそろ失礼させていただきますね。」


「そうですか。」


「今日は楽しい時間をありがとうございました。」


「いえいえ、こちらこそ。マリア様は髪の毛用の石鹸はお使いになりましたか?」


「いいえ。その様なものまであるのですか?」


「えぇ、シャンプーという物を販売しています。よかったら1セット差し上げますので使ってみてください。」


「え?よろしいのですか?」


「えぇ、マリア様のおかげで店を持てた様なものですので。」


「それではありがたく。」


シャンプーとコンディショナー、そしてハーブティーとクッキーを少々包んで持たせる。

嬉しそうに受け取り、また来ますと言って馬車へと乗り込んで言った。

もう来なくていいのだが。そもそも王女はそんなにホイホイと買い物しに来るもんなのか?

王族とかなるべく関わりたくないのに。


「ご主人様、先ほどの王女様とはどういう関係ですか?」


そしてライエに追い詰められる俺。


「どういう関係もなにも、盗賊に捕まっていたところを助けただけだよ。」


「それだけですか?」


「それだけ…じゃないな。その盗賊に奴隷にされていたから一時的に俺が主人となった。それから街に戻ってすぐに解放したんだけどね。」


まあなんて人なの!みたいな顔してるよライエさん。


「他には?」


「その解放するときの解放金としてお金もらったくらい。そもそも助け出したのは他の人ってことにしてあるし、俺は盗賊のアジトから運んできただけなんだけどなあ。」


「ははは、あのお嬢さんは勘が鋭そうでしたからね、もしかしたらなんとなく助けてくれたのは若だって気づいてるんじゃないですか?」


まじかよー。たしかに勘は鋭いよなマリア様。


「それはあるかもしれないなあ。」


「本当にそれだけなのですか?」


「それだけ。ほんとうに。」


ライエはまだ納得いかなそうであるが、そうですかと言って一応は納得してくれた。表面上だけは。


「あの護衛もなかなかの手練れって感じでしたね。手合わせしてみたいもんです。」


ジェフ、お前もか。


「近衛騎士2番隊隊長って言ってたよ。それなりに強いんじゃないか?」


「やっぱりですか!いやあ、隊長クラスなら戦ってみたい!」


どんだけ〜。


「今のジェフが戦ってもジェフが圧倒しちゃって戦いにすらならないだろ?」


「なにを言ってるんですか、若!熟練の戦士の体の捌き方、駆け引き、そういうもんは参考になるんですよ!」


たしかにそれは言えるだろう。


「わかったわかった。そのうちチャンスがあればいっぺん手合わせしたらいいよ。一応アンドレさんにも同じこと言われたからチャンスがあればって言っておいたし。」


「さすが若っ!わかってるー!」


それだけ言って上機嫌で仕事へ戻っていった。戦闘狂の思考はわからん。


「ライエ、いつまで後ろに控えているんだい?」


「ずっとです。」


「ずっとかよ!」


思わず声に出てしまった。


「私はタロー様に救っていただいて、一生かかっても返せないほどの恩を感じています。タロー様に会うまでは1秒でも早く死にたくて仕方なかった。でも今は体も元に戻り…いえ、前よりもずっと素晴らしい状態です。お風呂にも入れて髪の毛もこんなにサラサラツヤツヤだったことはありません。生きるための力も貰い、とても恵まれた生活ができています。だからこれからなにがあってもタロー様をお守りしてタロー様のために死にたいのです。」


重い…重いですぜ、ライエさん。


「そんなことしなくてもいいんだよ。死んでしまったら治した意味ないじゃないか。俺は簡単に死なないからもっと肩の力を抜いて自由にしてくれ。」


「いえ、好きで付いているのです。変な女がついたら困ります。変な女は私が追い払います。」


そっちかよ!


「と、とにかく、俺のために死ぬなんて思わないでくれ。どうせなら俺のために生きてくれ。」


「……はい。」



あ、やばい。今の言葉はチョイスミスった気がする。

……まぁ、いいか。嬉しそうに微笑んでるし。

ライエの綺麗な狐耳はピコピコ、尻尾はブンブンと振っている。

頑張って女騎士っぽい態度とってるけど、素が残念系の可愛いやつだ。容姿もとても綺麗な金髪にとても美しい顔立ち。髪は肩にかからない程度のボブカットに前髪はデコが見えるほどのぱっつん。眉は細く整っている。可愛いくて綺麗な顔である。頑張ってキリっと勇ましい顔を作るがすぐふにゃっとダラけるところが面白い。こんな可愛い子はどこへ行っても幸せになれると思うんだけどなあ。


幸せになってくれれば嬉しい。


「恩を感じているのなら、好きなように幸せに自由に生きてくれることが俺への恩返しだと思ってくれ。」


そんなことを言いながらライエの髪をモフモフして仕事へ戻る。







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