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25話






「ここが家ですか?タロー様は貴族様だったのですか…。」


「違うよ。たまたま安く手に入っただけ。運が良かった。」


門の前で立っていても仕方ないので中へとうながす。


「とにかく、中へ入ろう。」


門をくぐり、玄関の前まで行くと、扉が開いた。


「おかえりなさいませ、タロー様。」


出た、執事モードのロシャスだ。

てか、よく帰って来るのわかったな…あ、索敵か。

とりあえずジト目でロシャスを見ると、目を逸らしやがった。


「ただいま。今日からみんなも一緒に暮らすから、頼むね。」


「はい、わかりました。お昼ご飯ができていますが、作り足さなければなりませんね。」


「あれ?リーシャたちもいるの?」


「えぇ、午前中出かけたと思ったら昼前に戻って来まして、タロー様が帰って来るかもしれないから一応ご飯を作っておくと言って今作り終えたところです。」


まじか、あの3人はいい子過ぎだ。


「ロシャスは出かけなかったの?」


「私は今日一日ラスタとゆっくりしていようかと思って家におりましたので。立ち話もなんですし、皆さんもお疲れでしょう。中へ入りましょう。」


執事服のロシャスが出て来たことで本当に貴族ではないかと思い始めたのか、4人がカチコチになっている。

ロシャスがフランクさんからトーマを受け取り、中へと案内を始める。


「とりあえず、怪我してる5人はリビングで休んでもらっておいて、フランクさんたちはご飯食べてもらおうか。」


「そうですね、そうしましょう。」


4人がご飯食べている間に怪我を治してしまって、それからみんなの紹介とかした方が一度で済むし楽だ。


「リーシャ、シロ、クロ、ただいま。」


キッチンで3人に声をかける。


「あ、タロー様。もう帰って来たのですか?」


「うん、あとは家でやることがあるだけ。」



駆け寄って来たシロとクロの頭を撫でて、リーシャに答える。


「3人はもう買い物とかいいの?」


「シロこれ買いましたー!」


「クロはこれ買いましたー!」


シロは水色の髪留め、クロは赤色の髪留めをそれぞれ買ったようだ。露店とかで売っているような安物だが、なかなかかわいい作りだ。


「はい、大丈夫です。これは余ったのでお返しします。」


「いいよ、それはとっておいて。リーシャは何も買わなかったの?」


「私はハンカチを買いました。」


みんな安物買って遠慮しているようだ。

まぁ、嬉しそうにしているし、気に入った物を買ったのならばそれでいいのだがね。


「今できてるご飯はこの人たちに食べさせてあげてくれる?俺とリーシャたちの分は悪いけど追加で頼む。一応多めに作っておいて。あと、消化の良い食べ物を5人分…もいらないかもしれないけどそれくらい作っておいてくれるとありがたい。」


「わかりました。」


「休みにしていいって言ったのに結局色々やらせて悪いな。」


「いえいえ、好きでやってますから。」


ぐはっ。なんて美しい笑顔だ。いい子達や〜。

なぜか、フランクとフリックも顔が赤くなっている。あ、フランクは今マーヤさんに足を踏まれて痛がっている。


「じゃあ、ご飯食べて少し待っていてください。」


「よ、よろしいのですか?」


「はい。リーシャ、シロ、クロあとは任せた。」


4人のことはとりあえずリーシャたちに任せて、リビングへ戻る。

リビングのソファに皆が座って、ロシャスが立って待っていた。


「なぜ、私を買ったのですか?」


俺がリビングに入るとすぐにナタリーが質問をしてくる。


「そりゃ服やバッグなど色々作ってもらいたいからさ。」


「無理よ、わかっているでしょ?腕がないの。」


「知識あるんだろ?」


「それは誰にも負けない自信があるわ。でも作れなきゃ意味がないわ。ごめんなさい。でもその知識のために買ってくれたのですよね?後進を育てるためですか?精一杯私の知り得る知識を教え込みますので裁縫に携わらせてください。」


ネガティブ入ってるけど知識があるのはいいことだ。それにやる気も感じられる。余程裁縫が好きなようだ。奴隷として売られてしまったから、もう裁縫に携わることなどないと思っていたのかもしれないな。裁縫に関われると聞いて、少しは生きる気力が戻っただろうか。


「俺も聞きたい。なぜ買われたのか。俺は冒険者としてしか生きてこなかった。なんの取り柄もなく、体もこうなってしまっては働くこともできはしないだろう。なぜですか?」


「んー、他の人はなんとなくなんだよなあ。労働力が必要で探しに行ったのが理由だし。でも冒険者としての知識はきっと役に立つよ。」


とくに理由があって買ったわけではなく、人手が欲しかったのだ。


「わかっているとは思うが労働力としては役に立たないだろう。申し訳ない。」


買ったのは俺だし、謝罪する必要などないのにな。


「ロシャス、1人ずつやるから手伝いよろしく。あと黒い布を3枚用意してくれ。」


ロシャスに手伝いをお願いして、1人ずつ治癒魔法をかけていくことにする。まぁ手伝いと言ってもいきなり体が戻ってバランス崩したりしないように見ていてもらうだけだが。

目が見えていない人にいきなり強い光はきつすぎるだろうから、目元を黒い布で覆って少しずつ慣れてもらおう。明日の朝には普通に見えるようにはなるだろう。


「じゃあまずナタリーから。」


ナタリーに治癒魔法をかけると、光に包まれたあとすぐに両腕が元通りに戻る。


「う、腕が…。」


「これで裁縫もやれるだろ?これからよろしく頼む。」


大粒の涙を流したあと、自分の腕で顔覆って泣き始めた。


「次はジェフさんにトーマ。トーマの右眼に布をつけてあげて。」


ロシャスが黒い布で右眼を覆ったのを確認して治癒魔法をかける。

2人ともみるみるうちに欠損部が回復する。


「「ありがとうございます。」」


「治ってよかったよかった。」


「今後何があろうとも忠誠を誓います。」


ジェフが大袈裟なことを言っている。2人とも所謂臣下の礼のように片膝をついて頭を下げる。騎士かって。


「これで何も心配しないで働けるだろう。体の調子が戻るまでは無理をしないように。」


ほっておくことにした。

奴隷になるとみんなネガティブになるのかなあ?いやまあ、気持ちは分かるが。

それよりも自分の体がまともに動かせないことをしっかり認め、買ってくれたのに役に立つこともできないとわかっていていたたまれない気持ちになっているのか。性根の曲がっていなくて、人間として立派な人たちばかりが酷い目に遭っているのかもしれない。


「次は…ジーナだな。ジーナ、目をすぐに開けてはだめだよ、徐々に光に馴らしていくんだ。」


返事をしているのだろうか、ぴょこぴょこと動く兎耳がかわいい。

兎耳に見とれるのを我慢して治癒魔法をかける。


「喋れるかい?」


「し、喋れます。喋れます。うわーん。」


…うわーんって。泣き方が可愛すぎだ。ジーナはアイドルポジションに決定しました。泣き止むまでしばらく頭を撫でておいて、後をロシャスに任せる。ウサ耳パラダイス。


「あとはライエだな。」


ライエが一番酷い状態だと思う。年頃の女子が一体なにをしたらこんな状態になるというのだろうか。

ライエの目にも布を巻いて治癒魔法をかける。

指や耳も元に戻り、綺麗な金髪に狐耳が復活した。可愛らしい顔をしている。


「聞こえるかい?」


「…聞こえます。指も…あぁ…。」


静かに涙を流していたが、次第に嗚咽混じりになっていく。

目も見えなくて音も聞こえない、指も使えないとなると外部からの情報がほぼないのと同じだ。簡単には理解できない恐怖状態だろうし、俺には想像できないほど、辛かったことだろう。

しばらくしてライエも泣き止み少し落ち着いたところで、みんなに食事を食べさせる。ジーナとライエにはシロとクロに補助を頼んだ。


「今日はゆっくり休んでもらって明日みんなで集まって紹介とかするから。」


お昼ご飯のつもりだったが、もうほとんど夕方にさしかかっているし、今夜はそのまま休んでもらおう。みんなも疲れているだろうし。夜はお腹空いたら軽くなんか食べることにした。


リーシャたちには女性陣のお風呂の手伝いを頼んで、俺はロシャスとともに男性陣たちと入る。実質補助がいるのはまだ目を布で覆ったままのライエとジーナくらいなので、大丈夫だろう。リーシャたちがなにをするにも嫌がらずに手伝ってくれるのが本当にありがたい。


夜、男6人で風呂に入る。よく考えたらロシャスと一緒に入るのも初めてだ。


「旦那!本当に貴族じゃないんですか?」


ジェフが旦那呼ばわりしてくる。


「旦那って誰だよ。そんな柄じゃないんだが。」


「では若旦那!」


こいつ…。


「…もう呼び名はなんでもいいや。さっきも言ったけど貴族じゃないよ。ジェフは騎士だったんじゃない?」


「…バレましたか?」


「うん、なんか忠誠を誓うとか、大袈裟だし、所作が堂に入ってる感じだった。トーマはジェフの真似をしたって雰囲気だったしな。」


「そうでしたか。流石にあの怪我が治るとは思いもしなかったので、少し気が動転していたのかもしれません。」


「まあ、ジェフさんたちの出自は気にしてないんだけどね。」


「そうですか。まあ、この国の騎士ではありませんし若旦那が厄介なことに巻き込まれる心配はほとんどないと思います。若旦那もさん付けなんてしないで、ジェフと呼んでください。」


「私もフランクと呼んでください。」


おっと、フランクさんまで乗っかってきた。


「わかったよ。」


「それにしてもこんな大豪邸を持っていて、料理は超一流。風呂も広々としているのに貴族ではないとは若旦那は一体なにものなんですか?」


「んー、今から商売しようとしている商売人?かな。」


ジェフの質問に答える。


「たしかに、プライドの高い貴族であれば奴隷に風呂なんて使わせないし、ましてや主人が一緒に入るなんてことはないでしょう。しかし商人ですか…ですが、治癒魔法のレベルが逸脱してますね…。」


今度はフランクさんも疑問に思ったようだ。


「その辺のこともまた明日話すよ。」


明日みんないるときに話した方がいいだろう。


「トーマは冒険者だったの?」


「はい。ですが俺…私の事を嫌っていた冒険者に嵌められてしまったようです。気付いたときには体はあの状態で、奴隷となっていました。」


ふむ。獣人嫌いのやつと敵対でもしてたのか。詳しいことはトーマにもわからないかもしれないな。


「フリックは俺と同じ15歳だ。これからよろしく。」


「「「「えっ?」」」」


「えっ?」


「若旦那は15歳ですか?」


「そうだけど?」


「見えない…というか感じられないというか、たしかに外見だけで判断すればそれくらいかもしれませんが。」


フランクまでそんな事を言う。


「つまり態度がでかいってことだな、よくわかりました。」


「そんなことは断じて言っておりません!!」


さすが元騎士のジェフは謝罪が早いし的確だ。

ロシャスはずっと下を向いて笑いを堪えている。


「そんなことより、フリックは成人したてだから、なんか仕事しようとは思わなかったの?」


「僕は冒険者に憧れていたので、親父とも話して農家を継ぐのは冒険者として活動してからでもいいってことにしてもらっていたのです。」


「ふむふむ。」


「しかし、冒険者になるため、ギルドのある大きな街まで連れていってもらうのを商人の人に頼んだんです…。」


あれ?この話の流れってやばくない?地雷踏んだ?


「その商人が銅貨一枚で王都まで運んでやるから、銅貨1枚払ってこの契約書にサインしてくれって言われた契約書にサインしたのですが、その契約書に細工されていたようで違う契約書にサインしたことになっていました。それが商人の借金の肩代わりをする契約書だったみたいでその人の借金全てを背負ってしまいました。一家が奴隷落ちしたのは俺のせいなんです。」


おぅっ。ピンポイントで地雷を踏んでしまったようだ。

フリックは悔しそうな表情を浮かべている。


「もう気にするなっていっただろ?」


「親父…でも…。」


フランクはいい親父のようだ。


「ま、過ぎちゃったもんは仕方ないさ。冒険者だけでやっていくわけにはいかないかもしれないけど、フリックが夢見た冒険者よりも立派な冒険者にはなれるから安心してくれ。そのうち畑も少しやりたいと思ってるからその時はフランクたちの協力が不可欠だ。よろしく頼む。」


俺の言葉にフリックと少しは表情に余裕が戻っただろうか。

それはそうと、みんなの冒険者登録するとなるとクランの設立した方がいいだろうな。奴隷という身分の保証も一応あるし、みんながみんな冒険者登録する必要はないかもしれないけど。


なんだかんだと風呂で長々と色々話した。親睦はだいぶ深まったように感じる。


風呂から出て、その日は早めに寝ることにした。









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