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24/102

24話



書き溜めていた分が無くなりましたので更新頻度が落ちると思いますが、更新し続けていきますのでよろしくお願いします。










「じゃあ、今日は自由に過ごしてくれ。お金も渡すし、買い物したり好きに使って。」


朝食後にお茶を飲みながら適当にお金を渡す。いつもリーシャは、お金を渡しても食材など本当に必要なものしか買わない真面目さんだ。


「お金まで頂いてほんとによろしいのですか?」


「リーシャもたまには自由に買い物したりしたいだろ?いつも手伝ってもらってばっかりだからいいんだよ。まぁ、家で一日中ゴロゴロしてるのもありだしな。」


俺はゴロゴロしたい。元来ぐうたらな性質なのだ。

今日、奴隷商に行くことにした自分を恨みたい。



片付けを済ませ、家を出る。

そろそろロシャスの服とかちゃんと仕立てたいから、裁縫できる人がいるといいなあ。買うよりも自由に作れるし、材質にもこだわれる。


店番とか商品作る手伝い、あとは俺やロシャスがいない時の護衛のような人員。そう考えると10人くらいは必要か?いい人材が見つかればいいが。護衛役は全員がある程度強くなればいらない話だけど。


「あれ?この辺のはずなんだが。」


聞いていた場所あたりについたが店が見当たらない。と、思って周りを探すと少し道を戻ったところに店があった。考え事していて通り過ぎていたようだ。

気を取り直して店に入る。ドムルさんの店よりも大きい。さすが王都だ。


「いらっしゃいませ。本日はどのような奴隷をお探しですか?」


おぉ、門前払いもされないし、普通に対応してくれた。


「んー、何人かいい人いないかなあと思って来たんだけど…とりあえず裁縫ができる人いたら紹介して欲しいです。」


「裁縫ですか…裁縫スキルを持った女性がいることにはいるのですが…。」


裁縫スキルなんてあるのか!でもあまり芳しくない反応だ。


「なにか問題があるのですか?」


「以前、貴族に雇われていたようなんですが、その貴族の気にいる物を作れなかったのか作らなかったのか、その貴族の奥様を怒らせてしまったようで、両腕を落とされたうえで奴隷として売られてきたのです。」


「そんなことが…両腕がなければ裁縫もできない。」


「そうです。スキルを持っているので、通常ならば奴隷としても高く売れます。しかし、両腕がなければ労働力としても価値がない。つまり彼女が買われるのはほぼ絶望的なのです。彼女も自分の好きなことができなくなったショックで塞ぎ込んで食事もろくにとりませんし、こちらとしても売れない商品を長く置いとくことはできないので…。」


「なるほど。」


まぁ、俺になら欠損くらい治癒魔法で治せるからその点は問題ない。腕が元に戻ればまた裁縫に打ち込んでくれるだろう。


「申し訳ございませんが、今は他に裁縫スキル持ちはおりません。」


本当に申し訳なさそうに頭を下げる。こんな俺にもちゃんと商売をするこの人は立派な人だ。


「ところで、お名前をお伺いしてもよろしいですか?私はタローと申します。」


「これは失礼しました。私はこの奴隷商の代表をしております、ドマルと申します。」


ん?ドマル?


「ドマルさんってドムルさん知ってますか?」


「おや、ドムルをご存知で?ドムルは私の弟でございます。」


兄弟かよ!ふたりとも人の良さそうなところは似てるけども!


「そうだったのですか!以前ドムルさんから奴隷を購入しまして、色々お世話になったんです。」


「それは偶然ですね。私の商館もご贔屓によろしくお願いいたします。」


ドムルさんのお兄さんなら信頼できるだろう。


「とりあえず、さっきの裁縫スキル持ってる女性に会わせていただけますか?」


「よろしいのですか?」


「えぇ、お願いします。他にも紹介してほしいので、僕が見に行ってもいいですか?」


「えぇ、構いませんよ。それでは行きましょう。」


ドマルさんに連れられて奥へと入って行く。

それにしても、ドマルさんにドムルさん。名前がややこしい。


「まずはこちらの奥の部屋です。ここには腕の欠損、足の欠損など、身体的に障害を持ち、売れる希望がほぼない者が集められております。こちらも商売ですから、利益の見込めない者は大部屋での生活になっておりますので差別しているように感じ、タロー様には不快な思いをさせてしまうかもしれませんが、その点はご容赦ください。」


ドマルさんも商売をしているのだ。それはしかたないだろう。


「食事などは他と同じ物を与えておりますので、その点はご安心ください。しかし、先ほど申し上げたように、生きる気力を失った者が多数です。自ら食事に手をつけないこともしばしばありますのでその点もご勘弁を。」


そう言って扉を開け中へ入るように促す。

中は非常に酷い状態だった。


最初に話を聞いていた、両腕を失い裁縫スキルを持った25歳の女性。名前はナタリー。


右足の膝から下、右腕の肘から先、左肩から先がない28歳の男性。戦闘の経験があるのだろう、この中では1番高レベルの36、剣術や体術のスキル持ちだ。名前はジェフ。


両足を膝から少し上から失い、顔の右半分が潰れて機能していない狼の獣人の青年。元冒険者だからなのか狼の獣人だからかわからないが、少しだけ戦闘寄りのステータスの20歳。名前はトーマ。


両目が焼かれたように潰され、両耳、両手の指先10本を失い、髪の毛もほとんどなく、爛れたような頭皮が見えている狐の獣人の女の子。ステータスはいたって平凡的な17歳。名前はライエ。


喉と目に切り傷が残る12歳の兎の獣人の少女。ステータスは平凡的。声も出ず、目も見えない状態なのだろう。名前はジーナ。


空を見つめたまま動かない者もいるし、中にはトイレにすら行くことなく、垂れ流しになっている者もいた。

酷い状態ではあるが、この程度で済んでいることを考えると、ドマルさんの店の従業員が定期的に掃除をしていることがわかる。利益が出ないとわかっている奴隷に対する対応から、この商館の質の良さを感じた。


そんな中、ジェフという男性だけは俺が入って来た時に鋭い視線を向けて来た。かなり優秀な冒険者だったかもしれない。


「今この部屋にはこの5名です。さあ、次へ参りましょう。」


その場を後にして他の奴隷を見て回る。今回はロシャスのように特別力を持ったような奴隷はいなかった。やたらと美人の奴隷などは着ている服や部屋も小綺麗にしてあったし、奴隷自身からも活力を感じた。奴隷でも、いい貴族などに買われて妾のようになればいい生活ができるのだろう。そのためにいかに自分の良さを見せるかが重要なのだ。


「どうでしたか?お気に召した者がおりましたら申してください。」


「最初に見た5人はそれぞれいくらですか?」


「…まさか、買う気ですか?」


心底驚いてますといった顔になった。


「えぇ、見てしまったらなんかほっとけないので。」


と、言うのも事実だが、治せるのだから治してあげたいと思う。悪人というような人はいなかったし、実は極悪人でしたとなれば俺の見る目がなかったということだ。


「そうですか、購入されるのであればこちらもありがたいですし、断る理由もありませんが、タロー様にかかる負担もよく考えてご決断ください。」


まだ渋い顔をして、ちゃんと俺の心配をしてくれる。優しい人だ。


「お値段は1人金貨1枚で構いません。5人合わせて購入されるのでしたら金貨4枚にしましょう。」


「5人全員買いますが、安すぎませんか?」


「売れるだけで利益ですので。それに買ってくださる方がいて嬉しいので、感謝の気持ちも込めて。」


安いに越したことはないのでありがたい。


他にも、もう数人買いたいところだ。


「そう言えば、家族で売られていた奴隷いましたよね?」


「えぇ、います。一家全員が一緒に買われると嬉しいですが、なかなかそういうわけにもいきませんからね。」


「その家族はまだ誰も売れていませんか?」


「はい、4人でひと家族ですので、まだ誰も買われていません。」


「じゃあ、その家族全員も買います。」


「4人全員でいいのですか?」


「はい、大丈夫です。」


「では、全部で9人。一家の方は4人で白金貨1枚と大金貨7枚でどうでしょうか?」


「えぇ、それでお願いします。」


「それでは準備してまいりますので、しばしお待ちください。」


最初に家族が連れてこられた。

お父さんがフランク37歳、お母さんがマーヤ35歳、長男がフリック15歳、長女がメイ11歳の4人家族だ。


「この度は一家揃って買っていただき本当にありがとうございます!精一杯働きますのでどうかどうか一家揃ってよろしくお願いします。」


フランクさんがいきなり土下座してお礼を述べてきた。実直でいい人そうだ。それに合わせてみんな頭を下げているし、この家族はいい人たちかもしれない。

購入して正解だったと判断するには早いが、いい買い物をしたと思う。みんな顔が素直で優しそうな顔しているし。


「タローと言います。これからよろしくお願いします。」


俺の言葉にまた地面に頭をつけてよろしくお願いしますと言っている。それをなだめ、立ってもらう。子供の前でいつまでもそんな格好をさせてしまったらお父さんとしての尊厳がなくなってしまう。なりふり構っていられない時は気にする必要はないが、これからも一緒に生活していくなら子供たちに尊敬されるお父さんでいて欲しい。頭を下げる時はきちっと下げることも子供にはいい教えになるだろうが、もう十分下げたのだからいつまでもへり下る必要はないだろう。


「それでは手続きをはじめますね。」


ドマルさんが順番に奴隷紋を付与していく。その間に話を聞くと、もともとは農家を営んでいたようだが、知り合いの商人に騙され借金を抱え、払えるような額ではなかったため畑を借金の形として抑えられてしまい税金も納められなくなって奴隷に落とされたということだ。優しさに付け込まれたのか。どう騙されたのか詳しくは聞かなかったので、その辺はわからないが。


「さて、では次の5人も契約を済ましてしまいましょう。連れてまいりますので、少し時間を頂いてもよろしいですか?」


「いや、僕があの部屋に行きますよ。行きましょう。4人も付いてきてくれるかな?」


「はい!もちろんです!」


「…よろしいのですか?一番下の娘さんには刺激が強いかもしれませんよ?」


うむ、たしかにそれは言えている。どうしようか…。


「まぁ、大丈夫でしょう。いずれ会うことになるのですし。」


一応フランクさんに今から行く部屋について話して、家族に伝えてもらい覚悟をしてもらう。

無理そうなら言ってくれと言ったが、一応来ることで意見が一致したようだ。

世の中の事実を早めに知るのもありだし、偏見をなくしてもらうため、奴隷になったとはいえ自分が恵まれていたことも考えてもらうためにも。

なにより、他人に同じようなことをしない人になってもらうためにも小さいうちに見ておくのは悪くないかもしれない。ここは地球にいた頃のようになにかに守られていてもいないし、安全でもない。命がとても軽視された世界なのだ。


「それもそうかもしれませんね。それでは行きましょう。」


4人も連れて、最初に行った部屋に行く。どのみち歩けない人たちも運ばなくてはならないので手伝ってもらいたいのだ。ゲートをここで使うわけにもいかないしな。


「それでは入りましょう。」


ドマルを先頭にして部屋に入る。


「うっ。」


さすがに刺激的だったのか、メイが目を逸らして声を詰まらせる。


「それでは順番に契約を始めます。」


ドマルに奴隷契約を頼み、俺はフランクさんたちに5人を運ぶ手伝いをお願いすることにする。


「タロー様、本当に5人を買ったのですか?」


「うん、買ったよ。奴隷になっていきなり辛いこと頼むけど、家に連れて行くのに協力してくれないかな?」


「それはもちろん手伝わせていただきます!家に着いてからもしっかりお世話させてもらいます。」


フランクさんとマーヤさんは5人のことを蔑むことなく、対応してくれる。家に着いてから5人の身の回りの世話までやっくれるというのだ、優しい人である。

フリックとメイも部屋に入ってすぐは辛そうだったが今は何か思うことがあるのか目を背けることなく、真剣な表情をしている。


「それじゃぁ、契約が終わったら、フランクさんはトーマを抱えてもらって、フリックとマーヤさんでジェフさんを支えて、メイにはナタリーの服を引いて連れてきてもらいたい。」


俺はライエを抱えて、ジーナの手を引いて歩けばいいだろう。

べ、べつに女の子だからってわけじゃない。トーマは下半身がないから少し軽くなってるし、ライエが一番酷い状態だったからフランクに抱かせるのは申し訳ないと思っただけだ。男より女のほうがよかったとか、7割しか思ってない!


「はい、わかりました。」


みんな真剣に頷いてくれた。


「タロー様、すべて終わりましたよ。契約以外の手続きもお金の支払いも先ほど済ませていただきましたので、いつでも連れて帰っていただいてかまいません。従業員に手伝わせましょうか?」


「いえ、4人が手伝ってくれると言っていますのでなんとかなりそうです。あと、もしあればでいいのですが、5人の身を隠せる外套かなにかを譲っていただけませんか?人目の少ない所を歩くつもりですが、多少は人の目に触れてしまうと思うので。」


「はい、もちろんございます。安物ですので代金は結構です、お譲りしますよ。」


外套もあるようだ。よかった。

お礼を言って外套を受け取り、皆に着せて外に出る。


「タロー様、本日は誠にありがとうございました。またのお越しお待ちしております。」


ドマルは深々と頭を下げて見送ってくれる。


「こちらこそありがとうございました。また必要な時に来ます。」


売りには来ないという意思も込めて挨拶して歩き始める。

歩き始めて少しすると、抱きかかえていたライエが声を発した。


「私はあなた様に買われたのでしょうか…。こんな体で何の役にも立ちませんので、どのように扱われても構いません。買っていただいたことに感謝します。申し訳ございません。」


掠れた弱々しい声で感謝と謝罪伝える。なぜこんなにいい子がこのような仕打ちを受けなければならなかったのだろうか。


「大丈夫、ちゃんと役に立つさ。」


耳もほぼ機能していないだろうから聴こえていないと思うが、小さく声をかけ、抱き抱える手に少し力を込める。


行きよりもかなりゆっくりしたペースだが、着実に家に向かって歩く。5人を連れて歩くのは大変かと思ったが、なんとか大丈夫そうだ。







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