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23話






「お前さんがこの屋敷を買った奴だったのか。」


馬車についての夢を膨らませていたら屋敷についた。


「えぇ、そうです。やっぱり噂になってますか?」


「なってるぞ。あんな屋敷を買った変わりもんがいるってな。まさか買っただけでなく、ちゃんと屋敷で生活してるとは思わなかったが。」


なるほど、その程度の噂なのか。


「こんな屋敷を買えるなんてお前さんどっかの貴族の倅かなんかか?」


「いえいえ、商店を始めようとしてるただの一般人です。」


「こんなばかでけぇ屋敷買う奴がただの一般人とはな!」


ガハハハと豪快に笑う親方。


「ここは問題物件で安かったですからね。」


「安かろうが住めたもんじゃねえはずなんだがな。まあいい、商店ってのはどこに建てるつもりなんだ?」


親方に商店を建てる予定の場所や大きさについて話す。


「なかなか面白いこと考えるじゃねえか。」


「ただ家の近くに店が欲しかっただけなんですがね。」


「しかし、こんな街外れに店構えても客が来ねえんじゃないか?」


「知る人ぞ知るって感じで、信頼して買いに来てくれる客ができればいいと思っていますので。」


「経営が大変になりそうだな。」


ニヤっと笑いながらの口ぶりから、そういう商売は嫌いではないと言った感じだろうか。親方とは割と気が合いそうだ。


「タロー様、そちらの方が?」


「お、ロシャス。こちらはロックウェルさん。今回商店の建設をお願いする、ロックウェル建設の代表の方だよ。」


「なんでい、執事までいやがるのか。」


「ロシャスと申します。タロー様の奴隷です。建設の間、お会いすること多々あると思いますのでよろしくお願いします。」


おいー!!そこは執事にしとこうよ!奴隷なんて言ったら色々めんどくさい!絶対わざとだ。こいつわざと奴隷って言いやがった。俺を困らせる気だ。


「奴隷だと?奴隷とは思えねえ、所作に服装だな。」


「奴隷と言っても家族のようなもんですから。」


「ふん、お前も変わった奴みたいだな。」


あまり深く追求してこなくて助かる。


「いくらくらいになりそうですか?」


「そうだなぁ、作り自体は簡単だが、塀を壊したりして一体化させるから、大金貨3枚でどうだ?」


「はい、それでお願いします!」


「おいおい、値切ったりしなくていいのか?」


「相場もよくわかりませんし、親方がそれだけの価値のある仕事してくれると信じてますよ。」


ニヤっと笑う。


「けっ、言うじゃねぇか。任せときな!さっそく明日から作業に取り掛かる。」


「それでは今の話の内容で契約書作りましたので、間違えがないか確認してお互いサインしてください。」


サリーさん仕事早すぎる。できる女だ。


内容を確認してサインする。


「それでは明日からよろしくお願いします。」


「おう、任せときな!」


親方とサリーさんは来た時と同じく馬車に乗って帰っていった。

予想以上に早く、ダンジョンは攻略してしまったし、これからはダンジョンは45階層以降で戦いながら掃除の時間を増やすことにしよう。


次の日の朝、親方が数人の従業員たちとやってきた。


「おはようございます。今日からよろしくおねがいします。」


「おう、立派なもんつくってやるよ。」


「お昼ご飯はこちらで用意しますので。」


「お?いいのか?ありがてぇが。」


「えぇ、うちのリーシャたちが作る料理は美味しいですよ。」


「ほう、その獣人たちが作るのか?こりゃまたえらい美人どころだが、獣人嫌いな奴にゃ、そんな料理食えるかって文句言ってくるやつもいるから気をつけろよ?俺はうまい飯なら誰が作ろうと大歓迎だがな!」


ガハハハと笑う親方は世間知らずっぽい俺に優しいアドバイスをしてくれた。いい人である。


「仕事終わりに、よかったら風呂も入って帰ってください。」


こちらも気がよくなり、風呂までサービスだ。


「そんなに気を使わなくてもいいんだぞ?風呂なんかなかなか入れねぇし、水浴びしかしてねえから入っていいならすげえありがてぇがな!」


「構いませんよ。入れるようにしておきますので。帰る前に声かけてください。」


「おう、悪りぃな。さっそくサービスのいい依頼主のために気合い入れて作業開始するぜ。」


親方は従業員に声をかけてさっそく作業を開始する。

平民は風呂に入れないことを考えると、銭湯を作るのもありだよなあ。

俺たちは掃除を進め、昼にはみんなで昼ごはんを作る。


「みなさん、お昼ご飯できましたので食べてください。」


庭にシートのようなものを敷いて、ピクニックのような昼食だ。天気がいいので気持ちがいい。


「う、うめぇー!なんだこりゃー!」


ふははは。これがリーシャたちの実力だ。


「おいしいでしょ?」


「おい、タロー。こんな料理食ったことないぞ。」


「うちの女性陣は料理とても上手なんです。」


その後も親方たちは興奮しっぱなしで食事を続け、多めに作った昼食を綺麗さっぱり食べきってしまった。


「いやぁ、想像以上のうまさだ。この仕事受けた俺を褒めてやりてぇ。」


「いや、そこはリーシャたちを褒めてくださいよ。」


「ガハハハ、ちげぇねぇ!」


親方はもちろんのこと、従業員も獣人だからと嫌うこともなく、リーシャたちにも話しかけたりしてくれたりと、愉快な人たちだ。

作業に戻る時にリーシャたちにお礼を言ってくれたりと、見ていてとても和やかな気持ちになる。


「タロー様、こんなに人族の方に親しくしていただいたことなど初めてです。ましてや、今日会ったばかりの人たちにお礼を言われことがあるなんて考えてもみませんでした。タロー様のおかげです。ありがとうございます。」


少し感極まっているのか、目を潤ませながらリーシャが頭を下げる。


「いや、リーシャたち自身の人柄や料理の腕がそうさせたんだよ。自分に誇りを持って。これからも頼りにしてる。」


そう言って、リーシャの頭をポンポンと撫でて、昼食の片付けに戻る。

少しは自分の中の自信になってくれたらいいな。

それにしても獣人差別なのか、奴隷差別なのかわからないが、想像以上に深刻なようだ。


「さて、午後も片付け頑張ろう。」


夕方になり、親方たちが作業を終えたので、風呂へ案内する。石鹸などの匂いに驚いてはいたが、やはり大雑把な男の集まりなのだろう、そこまでは気にしていないようだ。

さっぱりしたとお礼を言って親方たちは帰って行った。

明日から、朝親方たちに挨拶したら午前中にダンジョンの46〜50階層くらいを繰り返し攻略してレベル上げをして、昼からはご飯を作ったり掃除をしたりすることにした。



「タロー!助けてくれ!」


朝、食事をしてお茶を飲みながら親方たちを待っていると、外から助けを求める声が聞こえた。


「親方、おはようございます。どうしたんですか?」


外へ親方を出迎えに行くと、縮こまった親方と恰幅のいい女性が立っていた。


「おはようございます、あなたがタローさんですかい?」


「はい、そうですが。」


「私はロックウェルの妻でニーヤというんだがね、このバカ亭主が昨日、花のようないい香りをつけて帰ってきたもんだから女漁ってきたんだろ?って話をしてたのさ。」


「だから、そんなことしてねぇって言ってるだろ?タローのとこで風呂借りただけなんだって。」


「こうやって言うもんだから風呂入ったくらいでそんないい香りになるかって話さ。タローさんにも話を聞いてくれって土下座して頼むし、従業員のみんなもそう言うもんだから、関係ないのタローさんには非常に申し訳ないんだけど来たってわけなんだ。こんなバカ亭主のために時間をとらせて悪いね。」


親方はかなり尻にしかれているようだ。付いてきた従業員もビビって後ろからついてきているからきっと実権を握ってるのはニーヤさんなのだろう。

俺と話す時にこっちを向いているニーヤさんの顔は人のいい優しい顔をしてるが、親方の方を向く時は般若のお面のような恐ろしい顔だ。なかなか面白い。

まあ、風呂を勧めたオレの責任もあるし、助け舟だすか。


「ニーヤさん今日は何か予定ありますか?」


「いや?家事をするくらいだけど…」


「もうひとつ、獣人はお嫌いですか?」


「そんなことはないよ。みんな同じ人間だろ?」


優しく笑う顔を見れば本心からそう思っていることがわかる。


「だったら安心しました。今からお風呂に案内させますので、うちのリーシャと一緒に入って見てください。」


「風呂かい?私まで入らせてくれるのはありがたいが…」


「論より証拠です。入ってみたらわかりますよ。」


ニコっと笑い、リーシャを呼ぶ。


「こちらがリーシャです。風呂へ案内させますので、入り方とか色々聞きながら一緒にゆっくり入ってみてください。」


「リーシャです。よろしくお願いします。」


「おや、こりゃまたえらいべっぴんさんがいたもんだ。」


リーシャを見てもとくに嫌そうな感じもなかったし大丈夫だろう。

ニーヤさんはリーシャについて風呂へ行く。入れば親方の誤解も解けることだろう。


「親方、いつも女の尻追いかけてたんですか?」


「んなわけあるかい!…昔一度だけだ!」


ははは、過去にバレてこっぴどく絞られてからはそんなことしないようになったタイプか。


「まあ、ニーヤさんもお風呂行きましたし、入ってくれれば親方に対する誤解も解けるでしょう。」


「おう、そうだな。朝から騒がしくして悪かったな。俺たちは作業にかかるわ。」


「はい、今日もよろしくお願いします。」


親方たちは作業に向かう。今日はダンジョンはやめて、掃除に専念することにしよう。俺も屋敷に入って掃除を開始する。


しばらくすると、風呂から出たニーヤさんとリーシャがリビングへやってきた。


「タローさん、ありゃ一体なんなんだい。すごくいい香りだったよ!髪の毛もこんな綺麗になったし、リーシャちゃんがどこかの御令嬢かと思うくらい綺麗なのも納得いったよ!」


なかなか興奮している。初めて特製石鹸を使う女性はみな同じ感想になりそうだ。さすがに親方たちと違ってこういうことには敏感なようだ。


「あんたは本当に貴族じゃないのかい?」


「違いますよ。ロシャスもリーシャたちも執事やメイドというわけではありませんしね。家で作業するときの服装は執事とメイドですが。」


苦笑しながら話す。実際やってることは執事やメイドのようなことをしてもらっているから同じようなもんかもしれないが。


「旦那にゃ悪いことしちまったねぇ。まさかこんなにいい香りがして使い心地のいい石鹸があるなんて思いもしなかった。」


そうだろうとも。そのために作った石鹸だからな。


「それにしてもいいのかい?あんなむさ苦しい男衆にこんな高級な石鹸使わしちまって。」


「いいんですよ。親方たちが作ってくれている商店が完成したら販売しようと思ってたものですから。いろんな人の感想聞けた方が販売する側としてもオススメしやすいですしね。」


「なるほど、そういうもんかねぇ。」


「もう少ししたらお昼の準備しますから、よかったら食べていってください。」


「悪いね。どうせなら、ごちそうになるよ。せっかくだし、私にも手伝わせておくれ!」


ニーヤさんもやる気になってるようなので、昼食の支度はリーシャたちとニーヤさんに任せることにして、掃除を進めることにした。

倉庫のようなところに剣や盾などが少し置いてあったが、使い道がなさそうなので、リサイクルして俺の刀を作っておいた。今回は鞘も拵えた。


「さて、そろそろお昼の支度できたかな。」


庭へと向かうと、ちょうど作業を中断した親方たちも昼食を食べるためにこちらへ向かっているところだった。

昼食の準備はほぼ終わっていたのでちょうどよかっただろう。


「準備お疲れ様。」


リーシャに声をかけて座る。


「タ、タローさん。この子達は一体なんだってんだい。こんなに若いのにあんな料理が作れるなんて。味見したけど、今まで食べたことのないおいしさだったよ。」


「昨日親方も同じこと言ってましたよ。」


クスクスと笑いが込み上げてくる。夫婦似た者同士のようだ。


「私がすることなんてせいぜい出来たものからここに運ぶくらいなもんさ。立派な娘さんたちだね。」


うんうん、ニーヤさんよくわかっていらっしゃる。立派な娘たちです。リーシャの方が年上だが。


そんな感じで、無事親方の誤解も解け、和やかなムードで過ごせた。昼食後、それぞれ作業にもどり、ニーヤさんは家に帰って行った。


その後、ダンジョンと掃除を行いながら、2週間もすると商店の建物ができ上がった。


「おぉー!ついにできたか!」


「おう、これで完成だ!一応中とかも確認しといてくれ。」


1階の店となる部分は塀の外に少し出るように位置して中はスタッフルームのような感じで奥が仕切られている。2階はどのようにも使えるように広い部屋を確保してある。この同じ作りの建物が2棟

繋がって、スタッフは奥のスタッフルームの方から行き来できる仕組みになっている。そのまま裏へ出れば庭に出ることも出来る。


「完璧です!ありがとうございます。」


しばらくは一棟だけ使えればいいし、スタッフが住むこともできる。店を拡張することも、片方をレストランにすることもできる。将来なにをするかによって自由にアレンジできてとても使いやすい。


「おう!うまい飯に風呂まで、タローには色々世話になったしな。」


「それでは商人ギルドで完成の報告とか諸々済ませてしまいましょうか。」


「そうだな、行くとしよう。」


やっと建物が完成した。あとは商品の量産をして、店番などの教育もしなくてはならない。


商人ギルドへ着き、サリーさん立ち会いのもと、契約完了の報告や、支払いを済ませて家に帰る。これであの商店は正真正銘俺の所有物となった。


王都の奴隷商の場所をサリーさんに聞いたので明日見に行くことにした。

色々忙しく働いたから明日はみんな休みにして自由にしてもらおう。


その日の夜、明日は休息の日とすることを告げて寝ることにした。








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