22話
次の日はまたダンジョンへ行き、相変わらず順調なペースで攻略が進んでいた。
「俺たちには50階層程度のダンジョンでは物足りないようだ。」
偉そうなこと言ってみる。
「たしかにそうかもしれませんね。しかし、このダンジョン攻略とタロー様にいただいた獲得経験値増加のスキルのおかげ私も久々にレベルが上がって嬉しい限りです。」
まさかのロシャス賛同である。
「たしかにロシャスまで高レベルになるとなかなか過酷な戦闘しないとレベル上がらなさそうだもんな。」
というか、今のロシャスは確実に勇者よりも強いのだが。
「勇者というのはロシャスより弱いだろ?」
「たしかに今の私が1対1で戦えば勝てるかもしれません。過去に召喚された勇者の最高レベルは65と伝えられています。レベルこそまだ及びませんが、なぜか負ける気はしませんな。」
え?召喚?
「え?勇者って召喚されてるの?」
「はい、どこか異世界から召喚された人間がこの世界に生まれる人族より強大な力を持つと言われています。その言い伝え通り、人族が召喚した勇者は強大な力を持っていたという話です。」
まじかよ。勇者って召喚されてきてたのか。地球からではないことを願おう。しかし、そんなことを言われてみると、微妙に発達してる部分の技術というか、工夫とか、食事の味付けとか、ところどころ全く同じではないが、地球の片鱗が見え隠れしてるような気がしてきた。
…まあ気にしないでおこう。
「それにしてはロシャスは素のままでかなり強くなかったか?」
「魔族は基本的に能力は高いのです。自分で言うのは憚れますが、私は魔族でもかなり優れた能力を有していたと思っています。歴代魔族でもトップ5には入るでしょう。」
「そんなに強かったのかよ!じゃあ、現代では最強じゃないか?」
「いえ、今代は魔族にもう1人優秀な人が存在しました。その人がこの世界で一番の能力を持つ方でしょう。私はその人に仕えていた一族だったのです…いえ、はっきり申しましょう、魔族の王に仕えておりました。もうかなり高齢になってしまい、私が魔族領から逃れる少し前にはそろそろ王位を息子に譲って隠居すると申しておりましたが。」
「そうか、ロシャスが魔族領を追われた理由はロシャスが前に話してくれた通りかもしれないが、それはきっかけの一つに過ぎなかったかもしれないな。ロシャスの力をわかっているからこそ、力で王位を奪われることを恐れ、ロシャスの息子たちと結託して追いやったという可能性もあるかもしれない。」
「その可能性は大いにあるかもしれません。」
「まあ、ロシャスにそんなつもりはなかっただろうけど、力がない者からすれば、強大な力持つ人は畏れの対象になっても仕方ないのかもしれない。」
ロシャスが神妙な顔になってしまった。
「そのおかげで、ロシャスに会えて色々助けられてるから感謝したいくらいだけどな。」
「こちらこそ感謝しております。」
穏やかな笑みを浮かべながら改まって感謝されてしまった。こっちは感謝しっぱなしだが、俺そんな感謝されるようなことはしてないと思う。
顔を見る限り魔族領から追われたことに関しては吹っ切れているというか、もう過去のこととして気持ちの整理ができているのかもしれない。
それにしても、やはりロシャスの仕えていた相手は王族だった。しかもロシャス自身の実力だけ考えれば、この世界で2番目程の実力者である。それを俺はスキルをいじってレベルアップまでさせてしまったわけだ。
ロシャスが敵にならないことを祈ろう。
「今は勇者って存在しているの?」
「いえ、今現在はいません。しかし、近々召喚されるかもしれません。」
「まじ?なんで?」
「魔物の王の出現が予知されたと言う話を1年ほど前に聞きましたので。」
「げぇー。そんな予知されてたのか。」
「2年後あたりに出現するという予知でしたので、今からですと1年以内、遅くとも2年以内には出現が確認される可能性がありますね。」
はぁ。勇者も魔王も存在すると聞いていたが、予想外の展開だ。
「ご主人様ー!ボス部屋です!」
シロが駆け寄って来る。
ロシャスと話していたらもうこんなところまで来てしまったようだ。
「はやく行きましょう!」
クロが急かす。君たちなんか好戦的になっていないか?大丈夫か?
「2人とも最近のお風呂での石鹸の香りが気に入ったみたいで、はやくお風呂に入りたいようで、急いでるみたいです。」
リーシャがクスクスと笑いながら教えてくれる。そういうことならよかったよ。戦いたくて仕方ないのかと思った。
41階層から50階層は魔物もさらに強くなっていくし、1階層の広さも相当広いので、ここまで来るのにさすがに時間がかかった。外は夕方に差し掛かる頃だろう。
とは言うものの、このペースは普通ではありえない。41階層からでも何日もかけて攻略していくのが普通なのだろう。
何度も言うが、みんな強くなるのはいいが強くなり過ぎではないだろうか?
「ま、行こうか。」
強くなることに越したことはないし、いいんだいいんだ。
中に入るとピリピリと覇気のようなものを感じ、視線を向けるとそこには屈強な体に凶悪な牛の顔、ミノタウルスだ。人の5倍はありそうな巨体で、巨大なオノを軽々と振り回している。
さすがに50階層となると高ランク…Aランクの魔物である。
「おー。強敵だ。」
なのに、誰もビビってもいないのはなぜだろうか。
「タロー様、誰が戦いますか?」
え?これみんなで倒しましょう!とかそう言うパターンではないの?
ロシャスの質問に驚く。みんな1対1で勝てる感じかよ。
「んー、誰がいい?誰でもいいけど。」
なんか見られてる気がする。みんなに見られてる気がする。ラスタにまで見られてる気がする。
「俺?」
「誰でも勝てると思いますが、よく考えてみましたら、私たちはタロー様がちゃんと戦っている姿を見たことがありませんので、少し興味が湧いたと言いますか、なんと言いますか。」
うんうんとリーシャ達3人も頷いている。
まじかよ、ここでそんなこと言うのかよ。俺ですら知らないよ、自分がまともに戦ってる姿。まともに戦ったことないし、今までほとんど首チョンパだったし。
「はぁ。わかったよー。でも俺ってまともに戦ったことないんだよなあ。」
しかたなく、トボトボと前に出て、刀を抜く。
ミノタウルスの方もその様子に気づいて、臨戦態勢に移行したようだ。
「それじゃぁ、頑張りますか。」
今回は少し工夫して、いつものように加速し、近づき、少しでも反応されたら念のため闇魔法のシャドウバインドで一瞬拘束して、雷を纏わせた刀を抜刀からの加速を利用して首一閃で行こう。さすがに高ランクの魔物にただの鋼の刀じゃ負けそうな気がするし。魔法纏わせて抜刀ので決めるしかない気がする。それで無理なら武器は無理だから素手だな。
抜いた刀を鞘に戻し、一度全身の力を抜き、刀と鞘に魔法を纏わせ一気に駆け寄る。
「ふっ!」
カランカランカラン
うわー。刀折れたやん。やっぱり早めにいい材質の刀作ろ。
刀は折れたがぎりぎりのところでなんとかミノタウルスの首を落とすことはできたようだ。一瞬ミノタウルスの目だけは反応していたので、シャドウバインドも念のためかけたが、さすがに避けれるスピードではなかったようで、魔法の拘束の効果を発揮する前に首を落とした。
雷を纏わせた刀での抜刀を考えなかったら戦いは長引いていたかもしれない。よかったよかった。
「終わったよー。刀折れちまったけど。」
「…全く見えませんでした。いつ何をしたのかすらわかりません。」
ロシャスが唖然としている。さすがに視認できなかったのか。
「さすがです、ご主人様。」
「「さすがですー!」」
3人は考えるのをやめたのか、これくらいできて当然だと思っていたのか。そのへんよくわからないが、なんとかご主人様の面目は保たれたようだ。
「俺は技術とかないからさ、ロシャス達の方がよっぽど強いと思うよ。」
「なにを言っているのですか。この私にも視認できなかった動きをする人が私より弱いわけありません。強いお方なのだとは思っていましたが。想像以上でした。」
「たいしたことないさ。」
「タロー様は色々なことをこなしてしまう力を持っています。それなのに奢ることがない。私があなたについていく決断をしたのは間違いではなかったようです。」
そこまで言うかー?こっぱずかしい。
「これからも今まで以上に仲良くしてくれるとありがたいよ。」
「もちろんです。」
努力して得た力ってわけでもないし、なんだか居心地が悪い気分になる。
じいちゃん、感謝してる、ありがとう。
でも自重しなさすぎだよー。
「さあ、帰ろう。」
さすがですー!ビュンっていなくなったですー!すごいですー!と興奮気味のシロとクロをなだめミノタウルスの死体と宝箱の中身を頂いて帰路につく。
部屋の奥にはダンジョンのコアが台座に鎮座していた。これに触れないで帰ればいいわけだな。
それにしてもよく考えたらダンジョンって死体を剥ぎ取りしたりして持って帰っても復活するし、放置して帰ったとしてもダンジョンに吸収されて消えるがまた復活する。ダンジョンっていったいどんな仕組みになっているのだろうか。
摩訶不思議である。
ミノタウルスは高ランクの魔物だから、上級回復薬や他の高品質の魔法薬に使えるだろう。俺特製のマジックバックに入れておけば血液は血液で保管されるので便利だ。
エリクサーとか、他の特別な魔法薬にはドラゴンの血液とか、特定の魔物の血液や臓器が必要な物もある。後々は手に入れたいものだ。
帰り際にはさっきの戦いに何をしたのかなど、ロシャスに質問責めにあった。いつも以上に興奮しているロシャスが珍しくてなんか笑えた。楽しいひと時である。
それにしてもロシャスたちが俺の力を目にしても恐怖したりしないでくれてよかった。
あ、そういえばキラープラントから取れた枝とかで鞘作るの忘れてたなあ。刀も折れちゃったから今度刀作るときはちゃんと鞘も作ろう。
こんな魔物の皮で作った鞘でも一応鞘走りっぽいことができたことに今更ながら驚きだ。いろんなスキルのおかげだろうな。
本来はダンジョン攻略を冒険者ギルドに報告すべきなのだろうがめんどくさいことになるのが目に見えているので、放置している。
魔物の素材なども売らなくても使い道が多いし、食材としても確保しておきたい。いらないものはラスタが吸収してくれるし。必要のない魔道具は売ってしまうか、価値があれば使う、もしくは商店を開いたときに商品の一つとして販売すればいいだろう。
ますます冒険者ギルドへの用が減っていく。
その日も美味しいご飯を食べて、風呂に浸かり、ぐっすりと眠る。
食事の時聞いた話によれば、ランクが上がれば魔物の素材自体の味も良くなるようだ。食材になる物はという限定付きだが。それに加えてリーシャたちによる調理だ。もはや世界一なのではないだろうか。
次の日また掃除をしつつ、昼頃に商人ギルドへ向かう。
「すみません、建築の依頼を出していたタローと申しますけど…。」
「あ、はい、タロー様ですね。建築の受注をしたロックウェル建設のロックウェルさんがお待ちですのでご案内いたします。」
案内された応接室のようなところへはいると、いかにもガテン系といった感じの親方っぽい人が座っていた。
「こんにちは、今回は依頼受けていただいてありがとうございます。よろしくお願いします。」
「なんでい、えらいガキ臭い坊主じゃねえか。本当にお前が商店を建てるのか?」
喋り方まで期待を裏切らない。
「はい、そうなんです。」
「タロー様すみません。ロックウェルさんの話し方はこんな感じなんですが、悪い人ではありませんし、腕は確かですので。」
「嬢ちゃん、ひでぇこと言うじゃねえか。」
「あはは、大丈夫ですよ。不思議と悪い気分にはなりませんし。」
「それじゃあさっそく、現場行こうじゃねえか。そこで話を詰めようや。」
「ロックウェルさん、本当にせっかちですね。すみません、タロー様。ギルド職員の担当として私も一緒に行きますので、来てすぐで申し訳ありませんが、ご自宅へ案内お願いできますか?」
「はい、わかりました。行きましょう。」
「あ、申し遅れました、私は商人ギルド職員のサリーと申します。よろしくお願いします。」
ギルドを出てロックウェルさんとサリーさんと共に屋敷へ向かう。馬車に乗って。馬車である。馬車。
いつも馬車見ていたがよく考えたら乗るのは初めてのような気がする。
これから旅を続けることを考えると馬車が必要かもしれない。今度考えよう。
街の中を移動するのにも便利だし。
幌馬車のようなもので中にゲートを設置すればいつでも屋敷と行き来できる。移動式の拠点となる。幌の中も見えないようにして、空間を広げれば普通の部屋としても使える。夢が広がって来た。