20話
「タロー様ー!! 素晴らしいです! これは素晴らしいです!!」
「「いい匂いー!」」
3人が走りながらリビングまでやって来た。
洗い終わってよっぽど興奮したのか、まだ湯船に浸かる前に飛び出して来たのだろう。
そう、3人とも真っ裸である。
「眼福」
とりあえず合掌して拝んでおく。
シロとクロは華奢な体に女性らしい成長をしつつまだまだ幼さが残る体つきをしているが、リーシャの方は素晴らしいプロポーションである。胸は大きくはないがしっかりとした主張をして、細すぎず太くはないかなりいいスタイルだ。
「3人とも落ち着きなさい。自分の格好を見て、早くお風呂に戻った方がよろしいですよ」
ロシャスが俺の様子をみて呆れながら助言する。
なんて紳士な対応をするんだこいつは。
「……っ!!」
リーシャが顔を真っ赤にして走って風呂の方へ戻っていく。
それにシロもクロも楽しげについていった。シロとクロについてはリーシャが飛び出して行ったのについて来ただけであまり恥ずかしがっていなかったのかもしれない。
「なんて幸せな日だろうか。ケモ耳の女神が現れた」
「まったくタロー様は……」
ロシャスも苦笑である。
しばらくすると、3人が風呂から上がりリビングへ戻ってきた。
「先ほどは穢らわしい物を見せてしまい、大変申し訳ございませんでした」
赤い顔をしたリーシャが頭を下げて謝ってきた。
「なにを言っているだ。あんなに美しい物を見ることができて俺は世界一幸せだ」
そんなバカなことを言ったらリーシャの顔がさらに赤くなる。
「シロ、クロ、こっちおいで」
リーシャはなぜか頭から湯気が出てる気がするので、とりあえず置いておき、シロとクロを呼び寄せる。
「お、2人ともいい匂いだ。髪の毛もサラサラになったな」
シャンプーの香りも悪くないし、くすんで少しごわついていた髪の毛もかなり綺麗になり艶もある。2人の白い髪の毛と黒い髪の毛がより一層綺麗な髪色になったと思う。使い続ければかなり質のいい髪の毛が復活しそうだ。
「ご主人様、シロいい匂いする?」
「おう、いい匂いだ」
「クロは?」
「クロもいい匂いだよ」
可愛らしい2人の頭を撫でておく。
「リーシャ、使い心地はどうだった?」
多少は復活してそうなリーシャにも感想を聞いてみる。
「はい、体を洗う石鹸も今までとは比べ物にならないほど使い心地がよくて汚れも落ちました。髪の毛の方もびっくりするほど手触りがよくなりました」
「それはよかった」
「それになによりもこの香りがとても素晴らしいです。花畑にいるような気分になりました」
うっとりしながら感想を教えてくれる。かなり気に入ってくれたようでよかった。
「気に入ってくれたならよかった。これからも色々試してみてくれ。でも肌が赤くなったり痛くなったりしたら使うのをやめて、すぐに報告してくれよ?」
「はい、ありがとうございます」
「リーシャも髪の毛がかなり綺麗になったな」
「そ、そうですか? ありがとうございます」
やばいなぁ。最近はちゃんとした食事にしっかりと睡眠をとって適度な……適度かはわからないが運動もして健康そのものである3人は出会った当初の貧相な様子とはうってかわってかなりの美人になっている。
貧相なときでも美人だとは感じていたが、健康的な状態がそれに磨きをかけ、さらに髪の毛の艶も出て、綺麗な茶色のロングヘヤーとなった今のリーシャはそんじょそこらの美人とは格が違うレベルの美しさだ。
「うん、リーシャは凄まじい美人だ。変な男に絡まれないように気をつけること」
「………!」
なぜかまたしても赤くなるリーシャ。
「ご主人様、シロは美人じゃないですか?」
「クロは美しくないですか?」
「2人ともすげー美人で美しい!」
やばい、この2人は可愛すぎる。
頭を撫でまわしながらニヤニヤしてしまう。
「タロー様、お顔がだらしなさすぎます」
ロシャスが厳しい。
それにしてもここまで美人となると、本当に変な男に絡まれた時が怖いから3人のレベルアップを急がねばなるまい。
一大事である。
明日からのダンジョン攻略に力を入れることにしよう。
その後もロシャスが風呂に入り石鹸の感想を教えてくれたり、色々雑談して俺も風呂に入った。
石鹸関連はかなりいい出来だと思う。売り物としても通用するだろう。平民が風呂へ入ることはほとんどないという事なので貴族向けの販売にはなるだろうが。
▽▽▽▽▽
次の日、朝食を済ませさっそくダンジョンへ向かった。
「今日からはダンジョンへ行くけど、みんなの実力なら早めの攻略ができると思うから行けるとこまでは行ってしまおう」
「ダンジョン楽しみ!」
「あはは、シロは楽しみか。それはいいことだけど、油断は禁物だぞ」
「「はーい!」」
シロとクロは今日も元気だ。
「タロー様、ダンジョンは危険ではないですか?」
「んー、俺もよく知らないからなんとも言えないけど、危険じゃないことはないはずだ。慎重に行こう」
リーシャは少し不安そうにしている。
実力的にはそんなに心配はないだろうが、なにがあるかはわからない。油断は禁物だ。
まあ、ロシャスがいるからよっぽど大丈夫だと思うが。
ダンジョンの入り口近くに着くと、周辺は今日も朝から賑わっていた。
「クローおいてくぞー!」
クロが屋台の匂いにつられてフラフラ歩いて行ってしまいそうだった。
そのとき、クロと巨体な男がぶつかった。
「クロ! 大丈夫か?」
「いてーな。小僧、お前の獣人か?」
「クロ、大丈夫か? 痛いとこないか?」
「うん、大丈夫です」
「おい!! 無視してんじゃねえ! あー、右腕折れたかもしれねえー、どうしてくれんだ! あん?」
うわー。典型的なチンピラみたいな絡み方だ。
「あ、すいませんでした。大丈夫ですか?ほらクロもごめんなさいして」
「……ごめんなさい」
ぺこっと申し訳なさそうに俺と一緒に頭を下げるクロ。
「あぁ? 右腕折れたかもしれねぇって言ってんだろ? どうしてくれんだ?」
「そうですか。どうしましょうね。」
クロに軽くぶつかっただけでどうやって骨が折れるというのか……。
「どうしましょうねじゃねえーだろうが!」
うわー、怒っていらっしゃるー。
「なんだその顔は? なめてんのか? 責任どう取るのか聞いてんだよ」
やべ。ひくわーって顔してんのバレた。
「治しましょうか?」
「治しましょうかじゃねえーだろ。責任どうやってとんのかって聞いてんだよ。その獣人なかなか美人だし、一晩貸してくれりゃチャラにしてやるぞ?」
え? こいつなにいってるの? バカなの?
はぁ、こういうやつって金か女が手に入ればいいってやつだよなあ。
ちゃんと謝っただろうに。クロがフラフラしてたのも悪いけど、そっちも前見てなかったからぶつかったんだろ? ぶつかるのが嫌なら避ければいいじゃないか。それともわざとぶつかって金をせしめようって魂胆? まぁ、そっちだよね。言いがかりをつけて金も女も寄越せってやつだ。よっぽどタチが悪い。うちのクロちゃんに穢らわしい体で触れておいていつまでもグダグダと。
しかも一晩貸せだと? 言っていいことと悪いことがあることがわかっていないようだ。はてさて、こっちがどう責任取らしてやろうか。
「はいはい、わかりました。これで勘弁してください」
そう言って大銀貨を1枚握らせる。
「お!? ま、わかりゃいいんだよ。」
一瞬驚いた顔をして、握らせた大銀貨を確認すると上機嫌で去っていく。
小僧呼ばわりした俺が、まさか大銀貨を出すとは思っていなかったのだろう。
しかし、その代償は大きいぞ。
「ごめんなさい」
クロがしょぼんとして謝る。
「クロが無事ならそれでいいんだよ。金なんて所詮金属の塊だ。でも、周りに人がいるんだから気をつけなきゃだな」
クロの頭を撫で、みんなのところへ戻る。
金なんて未だに使いきれないほど持っているし、いくらでも手に入る。
金は誰かが作った物やその人自体の価値や信用を測るためのただの物差しであり、それ自体には大した価値はない。
「かなり穏便に済ませたのですね」
ロシャスがこっそりと話しかけてくる。
「そうでもないさ。クロに向かってあんなことを言った報いは受けてもらったよ」
さっきの男にお金を渡す際、わざわざ男の両手を引き寄せ、大銀貨1枚を両手で受け取るように渡した。実はこの時男の両手にかなり小さな針を刺してある。それも毒を染み込ませた針だ。
昨日石鹸作りをしている時に、香り付けに使おうと思った花の茎に小さな針がいくつもついているのを見つけた。触ってもチクっとするかしないかくらいの大したことない針なのだが、何かに使えないかと遊び半分で、毒消しに使う葉の根に含まれていた毒素成分を凝縮したエキスを染み込ませておいてみたのだ。どれくらいの効果があるか今日のダンジョンで魔物に試そうと思っていたのに、思わぬところで使ってしまった。
男の手を引く隙に刺しておいたので、手を引く勢いもあり、気づかれるこなく皮膚に刺さりこんだだろう。毒自体も凝縮して結構強力にしてあるので、あの男は1時間もしないうちに両手が使えなくなるはずだ。南無。
オレの言葉にロシャスはどこか納得したような表情を作った。
「ここが入り口だよ」
「緊張してきました」
リーシャは初めてのダンジョンに緊張気味のようだ。よく考えれば3人は俺と出会わなければダンジョンに来ることなんて一生なかったかもしれない。
「みんなの実力的には10階層までは準備運動にもならないから11階層から行こう」
「すでに11階層までは行ったことがあるのですか?」
そっか、ロシャスも俺がダンジョンに入ったことまでは知らなかったかも。
「うん、この前スライムの泉を見つけた日についでにダンジョンの様子も見に来たからその時11階層までは行った」
入り口のギルド職員に冒険者カードを見せ、ワープするための小部屋へと向かう。
「みんな魔法陣に乗ってるね。じゃあワープするよ」
みんなが魔法陣に乗っていることを確認してワープする。
「え?」
リーシャがなんとも間抜けな声を出した。ワープは一瞬なので何が起きたかわからなかったのだろう。
「もうここは11階層だ。小部屋から出て探索を始めよう」
さっそく探索を開始する。はじめは緊張していたリーシャも、探索を開始してからはそんなことを微塵も感じさせない動きをしていた。
基本的にステータスもスキルレベルも高いこのパーティーでは苦戦することもなく探索が進む。
とくに索敵スキルは敵のみでなく15階層くらいから出てくるようになった罠の発見まですることができた。
出てくる魔物も種類はほぼ変わらずに下へ進むにつれてレベルが上がっている感じだ。
そんなこんなで、すでに30階のボス部屋の前にいる。
「みんな戦いも慣れてきたね」
「はい、体がよく動きます」
リーシャが言うように3人の動きはとてもいい。リーシャの二刀流捌きなんかは踊っているかのような美しさまである。
ラスタは俺の頭の上に乗ったまま魔法を放つ時があるのでびっくりする。
「さて、30階のボスに挑もうか」
4人が頷くのを確認して扉を開ける。
扉の中にはリーザドマンが3体、真ん中の1匹は体が一回り大きく装備も豪華に見える。
リザードマンナイトというようだ。風格がある。
「かっこいいです!」
どうやらシロにはリザードマンナイトがかっこよく見えるみたいだ。俺もかっこいいと思う。
「敵同士で会ったことが悔やまれるが、戦おう」
シロとクロが走り出したのを見て2匹のリザードマンたちも応戦するための体勢を取ろうとするが、スピードを上げたシロとクロを見失う。ラスタが2匹に向かってファイヤーボールを放ち、それを避けよう体をズラしたところにシロとクロが現れ、シロはリザードマンの心臓をひと突き、クロはダガーをクロスした状態から両手を広げ引き切る感じで首を落とした。一瞬のうちにリザードマン2匹を倒してしまった。
リザードマンナイトはリーシャが1対1で相手をする。リザードマンナイトは長剣と盾でリーシャの踊るような剣技を器用に防いではいるが、防ぐので精一杯だ。それに比べてリーシャはまだまだ様子見といった感じである。
「順調にレベルもステータスも上がってるとはいえ3人とも強過ぎないか?」
「個人の技量もさることながら、コンビネーションも素晴らしいですね」
ロシャスのお墨付きだ。もはや俺が最弱なのではないだろうか。今はステータス差があるからいいが、なかったら誰にも勝てる気がしない。そもそもこのペースでのレベルアップとステータスアップは異常にも程があるのだろう。
「お、リーシャの勝ちだな」
リーシャがギアを一つ上げ、リザードマンナイトを攻め切った。
リーザドマンナイトは戦いのセンスもあるし、強い魔物なのだろう。ランクで言えばCの上位にも入り込みそうなレベルだ。言葉を交わしたわけではないが、いい奴って気がする。
「みんなお疲れ様、下に降りて休憩にしよう」
31階層に降りて、セーフエリアで休憩にする。
ちなみに20階層のボスはロックゴーレム。想像した通りのゴーレムといった風貌だった。硬いが、魔法も使える3人とラスタには大した敵ではなかった。
そして30階層のボスがリザードマンナイト。こいつはなかなかいい敵だった。
通常の階層でもオークやカッターマンティスなど、少しずつ出現する魔物のランクもレベルも上がっている。
ファンタジーでいうドロップアイテムというものはないが、宝箱や魔物が持っていた道具などを拾うことはある。
ボスモンスターは倒すと得られる特別仕様っぽい宝箱があり、それには普通に見つかる宝箱よりも良いものが入っていることが多いようだ。俺たちには必要ないが、見た目の3倍ほど入りそうな微妙なスペックのマジックバッグや、スキルのオーブ、上級回復薬など、様々のものをひろったがめぼしいものはさっきのリザードマンナイトのあとに出た宝箱の中にあったミスリルのナイフくらいだ。いらないなあと思った物も、本来なら売れば金になったり冒険者には嬉しい道具なのだろう。
とりあえず、今は休憩をしっかりとすることとしよう。
2018.9.30 編集