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19話

 







「あの3人の戦いぶりはどうだった?」


 街を歩きながらロシャスにリーシャ達について聞いてみる。


「センスがありますね。タロー様のおかげでスキルレベルが高いというのはもちろんありますが、それ以上に身のこなしなどは目を見張るものがあります」


 うん、たしかに。戦いに躊躇することもなかったし、潜在的なスペックが高いと思う。


「みんな優しい性格してるし、戦闘狂のようになる心配はないだろうけど、自分の身を守れるようになるのはいいことだ」


「戦いのセンスについていえば獣人ゆえの潜在的な能力かもしれないですね」


 なるほど、種族的な関係もたしかにあるかもしれない。


 そんな話をしながら屋台などで適当に食事を買っていく。さすがに今から3人に料理を作ってもらうのも忍びないので、今夜は買った物で食事をしようと思って中心街まで出てきたのだ。


 ラスタは相変わらず頭の上でぽよぽよ機嫌が良さそうに揺れている。ここが定位置になりつつあるようだ。大きくなったら首を痛めること必至。ラスタが小さくなってくれるので軽いのがせめてもの救いである。


 中心街ではテイムされた魔物も多少見ることがあるので、最弱の魔物として認知されているスライムを連れているくらいでは驚かれることもない。ラスタはそれに加えて小さいこともあってまったく脅威に思われることはないだろう。


 しかし、「なんでスライムなんかテイムしてんだ?」みたいな感じで二度見されることはたまにあった。


「食べ物はこれくらいでいいか。リーシャたちの料理に慣れてしまったから物足りないかもしれないが」


「たしかにそうかもしれませんな」


 ロシャスも同じ気持ちのようだ。あの3人の作る料理に敵う料理にはなかなか出会うことができないだろう。


 帰宅すると風呂から上がった3人が出迎えてくれた。


「ご主人様!!」


 駆け寄ってくるところを見ると、何も言わずに出てきたので多少不安に思わせてしまったのかもしれない。


「ただいま。ご飯買ってきたから食べよう」


 その言葉を聞いてまたしてもリーシャが恐縮してしまっている。


「始めての戦闘だったし、3人とも疲れてるだろう?だから今日は買った物で済ませようと思って」


 リーシャをなだめながら食堂へ向かい、みんなで食事を準備して食べ始める。

 やはり、リーシャたちの作った料理には劣るが、屋台などの料理もこれはこれで美味しいし、楽しく食事ができた。


 食後にお茶を飲んだところで風呂に入る。


「ラスタもお風呂入るか?」


 また頭の上にいるラスタに問いかける。


「【お風呂ー?】」


 あぁ、そうか、お風呂は知らないのか。

 溶けたりしないよな? たぶん大丈夫だよな?

 入れてみるか。


「あったかいお湯に入るんだ。入ってみればわかるよ」


 ラスタを連れてお風呂に入る。体を洗い、ラスタの体も適当に流して湯船に浸かる。


「ふぅ。気持ちいい。ラスタ風呂はどうだ?」


 ふよふよと浮かびながら漂うラスタに声をかける。


「【気持ちいいー!】」


 ラスタの様子を見ると気持ち良さそうに湯船に浮いてふよふよと漂っているので本当に気持ちいいのだろう。

 今日はみんなのレベルも上がったし、ラスタも仲間になってくれたし、充実した一日になった。


「明日は掃除をしながら石鹸でも試作してみようかな」


 今日は森を歩き回りながら石鹸に使えそうな花や木の実など色々な物を拾ってきた。薬師スキルと鑑定スキルのおかげで色々な情報が手に入るので採取自体はかなり楽にできる。


 石鹸自体はサボの実というものを絞ったエキスを固めて作っているらしい。

 森の中でサボの実も少し見つけたので確保してある。サボの実は数が少なかったし、この実から搾取できるエキスだけで石鹸を作ったらたしかに高級品で希少というのも頷ける。


 しかし、サポネの実という実も石鹸になりそうな成分を含んでいたのでこちらも採取してある。こちらは簡単に見つかるし、実も大きく、数も多い。

 薬師と鑑定のスキル様様である。


 風呂から出るとリビングで3人がウトウトしながら待っていた。


「まだ寝てなかったのか?」


「3人ともタロー様が出てくるまではと言って待っていたのですよ。」


 ほとんど寝てしまって俺がリビングに入ってきたことに気づいていない3人に代わり、ロシャスが教えてくれた。

 3人とも健気なもんだ。


「そっか、悪いことしちゃった」


 3人に先に寝るように言ってから風呂に入ればよかった。

 自由にしてくれと言っても奴隷という立場からさすがにまだ慣れてない今の状況ではそこまで勝手はできないのだろう。


 3人を起こして部屋で寝るように言い、俺も自分の部屋へ行く。ロシャスは風呂に入ってから寝るだろう。



 ▽▽▽▽▽



 ベッドに横になり、石鹸やシャンプーなどのレシピを色々考えているといつのまにか寝てしまっていて気がつくと朝になっていた。


 食堂には4人とも揃っていて食事ももうすぐ準備できるという。みんなはすごい働き者である。


「俺なんかだらしないもんだよなぁ」


 そんなひとり言を呟きながら食事を運んだり手伝いをして、出来上がったところで揃って食事にする。

 やはりリーシャたちの作る料理は格別だ。ラスタも普段よりぷるぷるしている。


「おいしかったー。今日は掃除を進めよう。一気にやる必要はないからやれるところからやろう」


 しばらくは掃除とダンジョン攻略で時間をかける予定だ。

 ダンジョン攻略できたくらいには掃除も終えているだろう。その頃を目処に商店を始めたい。それから落ち着いたら旅を続けたいしな。まだダンジョン都市にも行けていない。


「まだ先の話だけど、王都を離れてダンジョン都市へ行ったり、世界を回る予定なんだけどみんなはどうする?」


「一緒に行くか、王都で生活するかってことですか?」


 ロシャスが尋ねる。


「そう。まあ、ゲートがあるから王都には毎日でも戻ってこれるけど、ゲートは行ったことある場所にしか行けないから旅は続ける予定」


「それならば一緒に行きたいです」


 リーシャが答える。


「シロも!」


「クロも!」


 シロとクロも行きたいようだ。


「私は執事ですので、行かねばなりませんな」


「いやいや、執事の服が似合うと思って着せただけで、別に執事しなくてもいいよ?」


 もはや執事みたいなもんだが。かなり優秀だし。


「いえいえ、やりたくてやっているだけですので」


「まぁ、そういうことなら構わないけどね」


 俺としても、色々と知っているロシャスが側にいるのは心強い。


「まあ、何か用事あれば王都にいればいいし、暇なら旅に同行すればいいだけだからそんなに深く考えなくてもいいか」


「そうですね。ゲートが使えればかなり行動に自由がありますので」


 ロシャスも納得したところでこの話は終える。

 商店についても門の横に塀をぶち抜いて小さい店を作ることをみなにも伝えてある。しばらくの大まかな行動指針はこんなもんだろう。


「さて、今日もがんばろう」


「「「はい!」」」


 ロシャスは頷き、3人は元気よく返事をした。 早速みんなで作業に取り掛かる。

 俺は掃除をみんなに任せてとりあえず石鹸作りをしてみることにした。


「なぁ、ラスタ。これとこれをラスタの体の中にしまって合成してみてくれないかな? できそう?」


「【うーん、わからないけどやってみる】」


 薬草と俺の魔力を込めた水を瓶に入れたもの出してお願いする。

 ラスタの体内でポーション作製計画だ。

 俺が石鹸を作っている間にラスタの方でも何かできないか試してみようと思ったのだ。

 ラスタは薬草と水をそのまま取り込んだ。


「【ご主人様ー! こんなの出来た!】」


 すると10分もしないうちにラスタから声が上がり、見てみると水を入れてた瓶に赤色の液体が入っていた。

 どうやら体力回復のポーションができたようだ。実験成功である。


「すごいぞ、ラスタ!」


「【えへへー】」


 ラスタもぷるんぷるんと嬉しそうである。

 ラスタの体内で調合ができると分かれば材料さえあれば色々と楽になるし人間が作るよりも効率的に量産が可能だ。

 その後、魔力を込めてない水を取り込んでもらい、ラスタの体内でラスタの魔力を込めることで回復薬が出来ないか試したところこれも成功した。


「ラスタはすごい子だなあ」


「【すごい? えへへー、ありがとう。】」


 本当に優秀な子だ。

 ラスタの魔力を込めた回復薬は俺の作ったものよりもすこし薄い色だ。魔力の量が違うのか、魔力の質が違うのかわからないが、何かが原因で差が生まれるようである。

 それでもラスタの魔力を込めた方も中級程度の品質はあるし十分だ。

 その後も石鹸作りをしながら、体力回復薬、魔力回復薬、毒消し、麻痺消し、催眠回復、目覚まし薬など今まで採取しておいた様々な薬の材料をラスタに取り込んでもらって調合してもらった。


「よし、これだけ試作ができれば十分だろう!ラスタもお疲れさん」


 ラスタにはこれからも色々な薬などを作ってもらう手助けをしてもらうことにしよう。ラスタをテイムできて本当に良かった。

 もともと知能が高かったラスタは魔物の中ではかなり優秀だったのだろう。だから最初から念話もできたし、スキルのおかげとはいえここまで色々な作業をこなせるのだと推測している。


 石鹸の試作は、花や実から取ったオイルを配合したり、香りの良い花を使って香りをつけたりしながら、石鹸とシャンプーとコンディショナーを何種類か作った。自分の手を洗ったりした段階では問題はなかったし、使い心地も悪くはなかったので、みんなで試して使っていきながら使い心地などの様子を見ることにする。

 サボの実の代用として考えていたサポネの実も問題なく石鹸として使えることがわかったので材料の心配もそれほどない。問題なく石鹸の使用ができると確認できれば、商店を始めた時の販売商品のひとつとしても十分品を揃えることができそうだ。


「みんな、そろそろ夜ご飯にしよう」


 結局、石鹸作りに夢中で丸一日掃除はみんなに任せてしまった。


「食事の準備をしますので少し休憩してお待ちください」


 リーシャが素早く食事の準備を始める。

 シロとクロもまだ成人前だが料理の腕前はかなりの物だし、3人は本当にいい嫁になるだろう。

 あれ? なんか俺の周りってすごい優秀な人材ばかりじゃないか?

 ロシャスはいいとして、あの3人が嫁に行ってしまうと考えると胸にこみ上げるものがある。娘を嫁に出す父親の気持ちとはまさにこのことだろう。


「おっと、なんかへんな妄想スイッチが入ってしまった」


 バカなことを考えるのはここまでにして、3人の邪魔にならないように手伝いをする。ロシャスは風呂の準備をしてくれている。


「今日はなんのご飯?」


「昨日倒したのオークの肉を使った料理です」


 見た目も匂いも生姜焼きのような感じだ。あとはスープやサラダのようなものなどとパンである。

 米が欲しいが未だに出会ったことはない。どこかに米があるといいが。


 豪華な料理がテーブルにならび、みんなで食事を始める。


「うまい!!」


 オークの肉はすごくおいしい。想像以上においしい。

 味は豚肉のような感じだ。適度に脂がのっているがくどくはない、かなり高級な豚肉といった感じである。味付けは生姜焼きを上品にしたような深い味わいであった。作り手の腕前もあるかもしれないが、とても美味である。


 食事を終え、リビングでお茶をしながら石鹸やシャンプーなどについて使い方などを説明していく。


 一緒に入って洗ってあげたい衝動が体を駆け巡るが、ここはそれをぐっと抑える。


「石鹸は今までと同じような使い方で大丈夫。香りをつけておいたから好きな香りのものを使ってみて。今までよりも泡立ちもいいと思う」


「本当にいい香りですね」


 石鹸の匂いを嗅いでいるリーシャの感想だ。


「こっちは髪の毛用の液体石鹸。髪の毛に垂らしてよく泡立てて洗ってしっかり洗い流す。その後、こっちの液体を髪になじませて洗い流す」


「2度目の方は何のために使うのですか?」


 リーシャが尋ねてくる。やはりこういう話題は女の子の方が興味があるようだ。


「1回目の液体石鹸で汚れを落として、2回目の液体は髪の毛の質を良くするためのものなんだ」


「……なるほど」


「試してみた方がはやい。さっそく使ってみなよ。3人で先にお風呂入っておいで」


「……いいのですか?」


「俺も感想聞きたいしさ。」


「「いってきまーす!」」


「あ、シロもクロも待ちなさい! すみません、それでは先にお風呂いただきます」


 シロもクロもそわそわしてたから石鹸の使い心地が気になっていたのだろう。先にお風呂に入るように言ったそばから走って行ってしまった。


「気に入ってくれるといいが」


「きっと気に入るでしょう。こんなにもいい香りのする石鹸は初めて見ました」


「ロシャスも使ってみて使い心地とか提案とかあれば教えてよ」


「私のような年寄りでも使用して良いのですか?」


「いくつになってもいい香りを漂わせる男の方がモテるよ」


「そういうもんですかね」


「甘い匂いに蝶が寄ってくるのと同じ。あ、蜂も寄ってくるか。刺されないように気をつけろよ?」


 ロシャスと談笑しながら3人がお風呂から上がるまでの時間を和やかに過ごした。







 



2018.9.30 編集

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