18話
「見てこのスライム量を!!」
「ほう、これはたしかに見応えがありますね」
「すごいですね、カラフルです」
「ちょっと多すぎですー」
「色とりどりですー」
ロシャス、リーシャ、シロ、クロ、それぞれ感想を述べている。
「なぜかここはスライムしかいないし、他の魔物もあまり近寄ってこないからこの辺でお昼ご飯にしよう」
みんなで準備をして、お昼にする。
お昼はサンドイッチのようなものとスープだ。マジックバッグのおかげでスープもあたたかい。
ものすごくおいしい。
これだけおいしいものを食べられるだけで幸せだ。
「本当においしいなあ」
リーシャもシロもクロもその言葉をを聞いて嬉しそうに微笑んでいる。
本当にレストラン計画考えようかな。まあ、まだ先の話だな。
「武器はどう? みんな決まった?」
「はい」
リーシャは先の方が少し太くなるタイプのシミターっぽい剣を2本。なんか予想外の選択だ。二刀流である。
シロは長剣とバックラー、クロはダガーを両手に持つスタイルのようだ。
「しばらくはそれを使って慣れてもらって、順番に専用の武器を作っていこう」
しばらくは鋼で作るしかないかもしれないが、王都ならもっといい素材も売っているかもしれない。鍛冶屋が独占していなければだが。どこかでミスリルとかいい素材が手に入ればそれに変えていきたいところだ。
戦いぶりは問題ないので、明後日からはダンジョンで鍛えても問題ないだろう。特にシロとクロは素早く身軽な動きで凄まじく息の合ったコンビネーションを見せていた。
階層ごとに強くなっていくダンジョンは鍛える上では都合がいい。
「ん? あのちっこいスライムって他のスライムにいじめられてんのかな?」
「いじめだめですー」
クロが反応した。
ダンジョンで鍛えようかなと考えながら、ぼんやりと色とりどりのスライムを見ていたら一回りくらい小さいスライムが周りのスライムにボヨンボヨン弾かれながら目を回しているような雰囲気を醸し出している。
目があるかわからないが。
「ちょっくら拾ってくるか」
とりあえずスライムだらけの中からチビスライムを拾い上げ、皆のところへ戻る。
クラクラしてるのかプルンプルンと揺れる様子がなんとも愛おしく見えてきた。
「こいつかわいくない?」
「かわいいですー」
今度はシロが反応する。
「生まれたばかりですかね? まだ小さいですし」
「スライムは生まれたばかりでもあそこのスライム程度の大きさはあるはずですので、人間で言う未熟児か、突然変異か何かかもしれないですね」
リーシャとロシャスが言う。
「んー。なんかほっとけない感じするし、エサやってみるか」
ん、スライムって何食うんだ?
「スライムって何食べるの?」
「なんでも食べるはずです。食べると言うより吸収する感じですね」
さすがロシャス先生、博識です。
「じゃあ、とりあえずこのサンドイッチを……」
俺の食べかけのサンドイッチを近づけると、チビスライムの動きがピタッと止まりこちらに注目している。と、思う。
「ほれ」
さらに近づけると、チビスライムは体を少し伸ばしてサンドイッチを体に取り込む。取り込み終えたチビスライムはサンドイッチがよほど美味しかったのかぴょんぴょんと飛び跳ねている。よほどテンション上がったのかそのまま俺の顔面に突っ込んできた。
「ぶふっ! んーんー!」
顔面取り込まれても困るので、とりあえずチビスライムを顔から引き剥がす。これはスライム式のハグなのか。それとも窒息死させるつもりだったのか。
「なんか、すげー喜んだみたいだな」
「そのようですね」
ロシャスも同意してくれているならきっと窒息死させるつもりではなくて、ハグのつもりなのだろう。
なんか可愛いからテイムしよかなあ。癒される。
テイムできるかな?
テイムをしようと念じるとスライムが一瞬動きを止め、淡く光って、光はすぐに消えた。
「これテイムできた?」
「えぇ、たしかにできています。ステータスを見れば確実にわかるかと思いますが……このスライムをテイムしたのですか?」
テイムはできたようだ。たしかに鑑定は一度もしてないな、してみよう。
名前:
性別:オス
年齢:2
種族:スライム
状態:テイム(タロー)
レベル:3
HP:700
MP:500
STR:50
VIT:50
DEX:50
AGI:70
INT:200
スキル
分裂Lv1
吸収Lv1
空間魔法Lv1
おいおい、なんで空間魔法覚えてんの? しかもステータスのバラつき半端ない。
このスライム君は空間魔法が得意なスライムかな。
ふっふっふっ……スライムの最強育成計画を始動する時がきたようだ。
とりあえず名前を考えないといかんな。
んー……スライム。すらりん、すらぼう、ぽよよん、ぽよりん、ぷるるん……
やばい、変な名前しか出てこない。
「みんな、名前を考えようと思うんだけど何かいいのないかな?」
「やはり、ヴァゴリアスギャンドリンゴビウマンティスがよろしいのではないでしょうか?」
「却下!」
なげーよ。しかも複雑過ぎて復唱すらできません! なんだその超凶悪そうな名前。魔族はペットにそんな名前つけるのが普通なのか?
「ポンタ!」
うん、嫌いじゃない。だがシロさん、どこから来たその名前。
「マリリン!」
マリリン? 丸いから鞠? 鞠からマリリン? クロさんうまい! ってちゃう! そもそもオスやしこいつ!
「うーん、タロー様がテイムしたわけですし、ラスタでどうですか? スライムを逆から読んだ時のラスとタロー様のタで」
リーシャが考えた名前が1番まともだ。チビスライムもぷるぷるしてるから気にいたのかもしれない。
「んー、じゃあラスタにしよう!」
シロとクロとついでにロシャスまでがなぜか「がーん」って顔してるがほっておく。
「ラスタ、これからよろしくな!」
「【よろしくお願いしましゅ】」
んん!?
「ラスタがしゃべった!!」
「え? なにも聞こえませんでしたよ?」
リーシャには聞こえなかったようだ。シロもクロもポカンとしてるので聞こえていないのだろう。
「名前を付けたときに信頼度の高い魔物は念話で会話できるようになるんですよ」
さすが、元祖テイマーロシャスさま。
別に元祖ではないが。
「へぇ、それは便利だ」
言葉が交わせるなんて凄い嬉しい!
よし、餌やろう! 餌付けだ! でも、リーシャたちが作ってくれた昼ごはんはもうないからなあ……
あ、マジックバックに入れたままの今まで倒した魔物の素材にならない残骸の部分食べるかな?
「ほれ、もうご飯はないけどこれも食うか?」
「【うん!】」
か、かわいい!
アイテムバッグから魔物の残骸を出して、食べてるラスタを愛でる。なくなればまた出す。そして愛でる。何回か繰り返した後に気が付いた。
「あれ? もうないぞ? 全部食わせてしまったのか?」
気が付かぬうちにマジックバックに溜めに溜め込んだ魔物全部食わせてしまったらしい。
「やべ、食わせすぎたか?」
よくよく見るとラスタがでかくなってる気がする。普通のスライムよりほんの少しでかくなったくらいだが、もともと小さかったラスタからするとかなり大きくなっただろう。
「ラスタ、体大丈夫か?」
「【大丈夫だよ。大きくなっても小さくなれるの! 上手にできないけど見てて!】」
なんだと。そんなことできるのか。てか、それができるから普通のスライムよりも小さかったのかもしれない。
そんなことを考えていたらラスタの体が徐々に小さくなり、最初に会った頃より小さくなった。
「【うーん、やっぱりうまくできない。みんなと同じ大きさになりたいのに……】」
大きさの調整がうまくできないのか。もしかしたらラスタの体内に空間魔法で亜空間作ってそこに自分の体をしまっているのかもしれない。
そうなると、空間魔法が使いこなせれば自分の体の一部を自由に出し入れできるということか。大きくなればなるほど、大小自由に体の大きさを変えれるということになる。とても凄い能力じゃないか。さっきの様子を見ると食べれば食べるだけ大きく成長しそうだし、期待が膨らむ。
「よーし、ラスタ。ちょっと待てよ」
ラスタの空間魔法のレベルを10にして返す。
「もう一度やってみて」
すると今度は他のスライムと同じような大きさになる。
「【できた! ご主人様ありがとう!】」
ぴょんぴょん跳ねて嬉しそうだ。
「タロー様、ラスタが大きくなったり小さくなったりしてましたが……」
あ、ラスタに構っていてみんなにまったく説明してなかった。
「みんなも鑑定するとわかると思うけど、ラスタは他のスライムと違った空間魔法のスキルを持っていたんだ。どうやらその空間魔法をつかって、体内に亜空間を作ってそこへ体の一部を出し入れすることで大きさの調整が可能なスライムみたい」
「そんなスライムが存在したなんて……」
さすがのロシャスも驚きのようだ。
「ラスタはすごいですね」
リーシャはにこやかに微笑む。
「やりますね、ポンタ」
「負けません、マリリン」
いや、君たち、名前違うからね。
「今まではスキルレベルが低くてうまく使いこなせてなかったから大きさの調整がうまくできなくて、見つけた時の小ささだったみたいだよ」
「そこでタロー様がスキルのレベルを上げたということですか、私たちのように」
さすがのロシャス、鋭い。
「そういうこと」
あ、ついでだからみんなの武器スキルをつけるついでにラスタにも魔法スキルつけまくろうかな。
リーシャ達に剣術などのスキルをつけて、ついでにラスタにも色々なスキルをつけておく。
名前:ラスタ
性別:オス
年齢:2
種族:スライム
状態:テイム(タロー)
レベル:3
HP:720
MP:520
STR:60
VIT:60
DEX:60
AGI:80
INT:210
スキル
分裂Lv1(Lv10)
吸収Lv1(Lv10)
(火魔法Lv10)
(水魔法Lv10)
(風魔法Lv10)
(土魔法Lv10)
(雷魔法Lv10)
(光魔法Lv10)
(闇魔法Lv10)
(治癒魔法Lv10)
(空間魔法Lv10)
(時空魔法Lv10)
(生活魔法Lv10)
(無詠唱Lv10)
(索敵Lv10)
(鍛治Lv10)
(錬金術Lv10)
(薬師Lv10)
(全耐性Lv10)
(隠蔽Lv10)
(獲得経験値増加Lv10)
……くっ。やり過ぎたかもしれない。魔法スキル全てつけてしまった。
あと、鍛冶と錬金、薬師をつけたのはもしかしたらラスタの中で精錬したりポーション作ったりできないかなあ? と思ってつけてみた。時間があるときに試してみることにする。
ん?よく見たらステータスが若干上昇してないか?レベルが上がってないのになぜステータスだけ上昇してるのだろうか。
もしかして魔物食べたせいか? そうだとしたらとてつもない朗報だ。最強スライム計画が順調に始動し始めた。
これから剥ぎ取りした後の魔物はラスタに食べさせていくことにしよう。
「よし、食事も終えたことだしそろそろもう少し奥の方まで進んでみようか。剣術のスキルとかもつけてあるから武器は扱いやすくなっているはずだけど、無理はしないようにね」
ただカラフルなスライム達を見に来ただけだったから思わぬ仲間もできて気分がいい。
ラスタは小さくなって俺の頭の上でくつろいでいる。こいつにもこれから色々とがんばってもらいながら成長していってくれるといいな。
森の奥へと歩みを進めるとオークなども多く出現するようになってきた。
しかし、レベルの上がった3人には相手にならない。
ラスタも魔法をうまく使い3人の援護をしていた。なかなかいいパーティのようになっている。
最終的にゲートを使い家に帰る直前にはブルーオーガ数体に遭遇したが、終始4人が圧倒する形で勝利を収めていた。
1日でここまでの成長は流石に予想外だったが、強くなることはいいことだろう。強くなったと言ってもブルーオーガは1体でランクDパーティー程度の強さである。
これからもみんなには自分や自分の大切な何かを守れるように強くなってもらいたい。
「お疲れ様。さすがに疲れただろうから3人は先にお風呂に入っておいで」
家に着いたところで3人には風呂を勧める。索敵で見つかる魔物を片っ端から戦い、それを一日中続けたとなればさすがに疲れただろう。
「タロー様より先に入るのは恐れ多いです」
「いいのいいの、汗もかいてるしサッパリしてきなよ」
「……ありがとうございます。それではお言葉に甘えさせて頂きます」
出会った頃よりは幾分か素直になったのではないだろうか。いいことだ。
3人が風呂に向かうのを見送り、俺はロシャスとラスタと中心街へと向かう。
2018.9.30 編集