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13話

 







「ん、朝か」


 ロシャスはもう起きているようだ。ベットは空になっている。


「おはようございます、タロー様。顔を洗う水をもらってきましたよ」


「お、ありがとう。さすがロシャス」


 ロシャスの持ってきてくれた水で顔を洗って今日の予定を考える。


「とりあえずいろんなところを移動することも考えるとリーシャ達3人も冒険者登録してどこでも使える身分証があったほうがいいと思う。それにパーティー登録して戦闘すればレベルも上がって自衛手段としても有効的だし」


「たしかに自衛できるに越したことはありませんね」


「あとはオレの商人ギルドへの登録と屋敷を探すことが今日の目標ってとこかな」


「では3人を起こして参ります。下で朝食を食べたら冒険者ギルドへ参りましょう」


 さっと立ち上がってすぐさま行動を始めるロシャスはイケメンである。

 俺も下の食堂へ向かうことにしよう。


「お、来た来た。こっちだよ」


 階段を降りて来たみんなに向かって手を振る。


「おはようございます、ご主人様」


「「おはようございます」」


 たまらん。

 朝からご主人様いただきました!


「よし、みんな座って。もうすぐ運ばれて来ると思うから」


 そう言うと3人はまたしても椅子の下の地べたに座ろうとした。


「こらこら、ちゃんと椅子に座りなさい」


「で、でも……」


「でもじゃありません! ロシャスを見習いなさい」


 ロシャスは平然と椅子に腰掛けていた。平然としすぎじゃないか? いや、いいんだけどね? いいんだけどなんかこうなんだ!?


「でも、ロシャス様は……」


「私も皆さんと同じ奴隷ですよ。タロー様は普通の生活をお望みなのですから皆さんもちゃんと椅子に座ってください」


「「「えっ!?」」」


 3人とも同じような反応をした。目を見開いて固まっている。


「そうそう。早く座りな」


 ようやくみんな席に着いたところでちょうど食事が運ばれて来た。


「さあ食べよう」


 3人は俺と同じ食事が運ばれてきたことでさらに驚き固まっているが、ロシャスが奴隷ということの方が驚きだったようで食事は何も言わずに食べ始めてくれた。若干心ここに在らずと言った感じには見受けられるが。


「食べ終えたところで、今日の予定を伝えます。まず、3人は冒険者登録してもらいます」


「はい、私は死んでもタロー様を守る壁になります」


「いやいや、違うから! なにかと都合がいいから登録するの」


 キョトンとされても困るが。ほんと奴隷の扱いってひどいのかもしれない。


「とにかく登録しに行きます」


 言うだけ言って立ち上がる。

 ギルドの場所はなんとなく冒険者っぽい人たちについて行ったら着くことができた。

 ボカの街の2倍はありそうな建物で、中もたくさんの人で賑わっていた。建物は2階建か3階建のようだが、一階の半分が居酒屋やバーのようになっているのはここも同じだった。


「とりあえず受付に並んで登録済ませてしまおう」


 あ、ポーションも売ってしまうか。どこに売っても同じな気がするし、ここで商売するとなるとあまり薬屋とか魔道具屋に売るのも気がひける。

 別に売らずに取っといてもいいか。でも相場がわからないなあ。いろんなところで一本ずつ売ってみるか。


「ロシャス、買取カウンターでポーション2本ずつ売って来て」


「2本ずつですか?」


「うん、相場が知りたいから。よろしく」


 ロシャスはポーションを2本ずつ持って買取カウンターへ向かう。

 俺たちは受付で3人の冒険者登録とパーティー登録を済ませたところでロシャスと合流した。


「どうだった?」


「体力回復の方が1本大銀貨1枚、魔力回復の方が1本大銀貨2枚でした」


「ちなみにそれを買うといくらなの?」


「ここの冒険者ギルドで中級の体力回復薬は1本大銀貨3枚、魔力回復薬は1本大銀貨4枚だそうです」


「中級ってどれくらいの回復?」


「通常の中級なら骨折も瞬時に治せる程度です。上級は切れた腕や足でもくっつきます。しかし、これは切れた先が残っていたらの話で、食われてしまったりした場合は治りません。エリクサーならばそれすらも回復するようですが」


 なるほど。次は薬屋で売ってみようかな。


「登録も済んだし、次へ行こう。ロシャスは薬屋の場所聞いてまた2本ずつ売ってみてくれるか?」


「はい、かしこまりました。それでは行って参ります」


「あの、私たちは……」


「みんなは今から服を買いに行きます。そのあとは宿へ戻って休んで。まだ病み上がりだからね」


「服なんて……」


「いいの。さっき受付嬢の人に良さそうな服屋の場所も聞いてきたから。行こう」


 ロシャスと別れ、3人を連れてギルドを出る。受付嬢が美人だから服屋の場所聞くのも一苦労だぜ。それよりも、俺みたいなな若造が奴隷を3人も連れてるなんて目立って仕方ないはずなのに受付嬢はそんなに気にした様子もなかったなあ。受付としての矜持なのか、それともロシャスもいるおかげで貴族疑惑がいい方向に働いたのか。まあなんでもいいが。問題にならなかっただけいい。


「おい、坊主ちょっと待てよ」


 と、思ったらこれですか。え? フラグ立てましたっけ? え?


 とりあえずシカトするのもめんどくさそうなので立ち止まり振り返ると、これでもかって程のチンピラ風の3人組がニヤニヤして近づいてきた。


「はい、なんでしょうか?」


「おまえ、なかなかいい女連れてるじゃないか。3人も連れてたら大変だろ?そこを俺たち先輩が助けてやろうと思って声かけたわけだ。この優しい先輩冒険者の俺たちに1人ずつ分けてくれよ。そしたらこれからも色々と助けてやるからよ」


 えぇー。たしかに可愛いけども。すげー可愛いけども。栄養が足りてないからまだ少し血色もよくないし、痩せ細っているが、よく食べてよく寝て健康に戻ったら今以上のかなりの美人になるだろう。


「いえ、大丈夫です。ご心配ありがとうございます。それでは」


 めんどくさいからとりあえず行こう。


「おいおい、ばかか? おまえみたいなひよっこが俺たちに逆らえると思うなよ? こいつらはちゃんと昼も夜も可愛がってやるからよ」


 そう言って肩を掴まれ振り返ると、チンピラAは右の拳を振り上げていた。

 てか、リーシャはまだしもシロとクロまで夜の相手させる気だったのか? できないことはないだろうが、地球で言ったら小6か中1くらいの年齢だと思うのだが。ロリコンなのだろうか。バカなのだろうか。バカだな。

 そんなバカなことを考えていたら振り下ろした拳がすぐ目の前まで来ていたが、なぜか止まって見えた。チートな動体視力万歳。


「ご主人様に何をしようと?」


 と、思ったのも束の間。オレの動体視力が優れているのではなく、本当に止まっていたようだ。薬屋に向かったはずのロシャスがなぜか隣でチンピラAの腕を掴んでいた。


「あれ?ロシャス。薬屋は?」


「ギルドで薬屋の場所を聞いていざ行こうと思って外に出てみればこんな状況だったのです。何をしているんですか、タロー様」


「んー……何をしていたかと聞かれると、何もしてないはず。強いて言うなら考え事かな?」


 ロシャスはまたしても呆れ顔である。


「くっ。くそ! なんだてめえ」


 掴まれた腕を振りほどこうともがくがビクともしない。


「なんだと言われましても」


「おい、おめえらやっちまえ!」


 ロシャスに腕を離せてもらえないチンピラAがチンピラBとチンピラCに向かって叫ぶ。それと同時にロシャスがチンピラAを持ち上げBとCに向かってAを投げつけ3人揃って飛んでいき、壁にぶつかり目を回した。


「えぇー……」


「それでは私は薬屋へ行って参ります」


 うわー。本当にゴミを片付けただけみたいな感じで手をパンパンってやって歩いて行っちゃったよ。ロシャスさんまじパネェ。


「まあ、とりあえず俺たちも行こうか」


 後ろで唖然としていた3人に声をかけて歩き出す。


「ロシャス様はお強いのですね……。そんな方が奴隷をしているなんて……」


「あはは、ロシャスは本当に強いと思うよ」


 そういえば3人ともステータスの確認してないな。忘れなかったら今夜させてもらおう。


 何度か道に迷ったが無事教えてもらった服屋に到着した。


「さあ、好きな服を選んでいいよ。何着か買っておこう」


「で、ですが……」


 まだ躊躇いがあるらしいリーシャ、シロ、クロだが、やはり可愛い子には可愛い服を着てもらわなければならないだろう。

 これは世の摂理である。


 リーシャは申し訳なさが先に立ってなかなか選び出しそうになかったので、とりあえずシロとクロに好きな服を聞いてみた。


「シロ、クロ、どの服が着たい?」


「……私はあれが」


「……私はこっちのが」


 遠慮がちに指差した物を見てみるとどうやら2人の選んだ物は色違いの同じ形の服のようだ。

 シロは白生地にレースをあしらったシンプルだが可愛いデザインのワンピース。

 クロはそれを黒くしたバージョン。

 この2人はなぜか見た目と名前と全てを統一してくる。だが可愛い! パーティドレスとしても使えそうなほど美しい!


「可愛い。よし、これ買おう」


「あとはリーシャだな。リーシャのはどれがいいと思う?」


「「これ!」」


 シロが指差したのは白のシャツ。クロが指差したのは黒のタイトロングスカート。スリットが入っていてセクシーだ。

 それよりも、こいつら黒と白しか選ばんのか!!

 だが、この選択はナイスだと思う。落ち着いた印象で大人の女性を演出できる。リーシャに似合いそうである。


「ん、よし。じゃあリーシャはこれな!」


「で、ですがご主人様」


「俺が着て欲しいんだからいいんだよ。それとも着たくないの?」


「い、いえ。ありがとうございます」


 うん、よし。

 あとは替えの服と下着類、靴などを何着か選びレジへと向かう。

 その時だ。俺は部屋の隅にある服に目を奪われた。


「こ、これは……!」


 黒のワンピースに白いエプロンのエプロンドレス。そしてホワイトブリム。まさしくメイド服だ。

 買います。買わないという選択肢があるだろうか?


「すいませーん! このスカート短い方をこの2人に。ロングスカートの方をこっちの子に合わせてもらえますか?」


「はーい、かしこまりました」


「それでこの服とかも合わせて会計お願いします」


 3人が目を見開いてこっちを見ている。

 ケモ耳メイドは男のロマン。これ譲れない。


「屋敷買ったらメイドとして働いてもらうかもしれないしな!」


 とりあえず言い訳っぽいことを口にしておく。

 会計を済ました頃にはちょうどお昼時だった。

 そして外へ出ると、ロシャスがドアの側に控えていた。


「どあっ!!」


 ドアと「どあっ!」を掛けたわけではない。


「びっくりした。よくここがわかったな」


「執事ですから」


 え?執事ってそんな能力あんの?


「……まあいいか。とりあえずお昼ご飯食べたら一度宿へ戻ろう」


「評判のいい定食屋を聞いておきましたので参りましょう」


 え、なにこれ。デキる男やん。執事感やばくない?ロシャスってこんな感じでしたっけ?助かるけども。

 ロシャスに連れられ定食屋に行き、昼食を取る。たしかに評判が良いだけあってとてもおいしい。


「うまいな。そういえば、薬屋はどうだった?」


「2軒の薬屋へ行ってきましたが、一軒はギルドと同じ買い値で売値はギルドより少し高くなるようです。もう一軒は体力回復薬が1本大銀貨2枚、魔力回復の方が1本大銀貨3枚で、売値が体力回復薬は1本大銀貨4枚、魔力回復薬は1本大銀貨5枚だそうです。こちらの方が薬師の腕も商売人としても信頼できそうですね」


「ロシャス的にはそれぐらいの価値があるってこと?」


「はい、中級でもかなり品質がいいと思われますので」


 なるほど。じゃあ売るときにはそっちの薬屋の値段を参考にしよう。

 食事を終え、屋台で果物やドライナッツ、ドライフルーツなど買って宿へと戻る。


「タロー様のカバンはマジックバッグですよね? だから旅の荷物も少なかったのですね」


 旅の途中でもう一つ作っておいたトートバッグ型のマジックバッグを見ながらリーシャが納得したかのような素振りを見せる。


「買い物に便利だろ?」


「買い物にマジックバッグを使うのは貴族くらいですが……」


 まじか。

 たしかにリーシャの言う通り、稼ぎがあって、魔物などの荷物が多い冒険者や、多くの荷物を運ぶ商人などが使うのがメインだろう。

 安くはないから平民などが買ってバッグ代わりに使うわけにもいかないか。


 宿について3人を部屋へ戻し、服や果物などを出して休むように伝える。


「このトートバッグ置いていくから果物以外にも中に入ってるもの食べたかったら食べていいよ。金も少し入れておくからなんかあったら使って。それじゃあ俺とロシャスはもう少し用事済ませてくるから」


「あ、え……」


 まだなにか言いかけていたが、さっさと部屋を出て、次の目的地商人ギルドへ向かう。


 商人ギルドは冒険ギルドよりも綺麗な建物だった。大きさは同じくらいだろう。中に居酒屋のようなところはないが小さい部屋が何個か並んでいる一角がある。商談などで使うのかもしれない。


「いらっしゃいませ。本日などのようなご用件でしょうか」


「ギルドへの登録お願いします」


「はい、かしこまりました。この用紙に必要事項を記入してください」


 渡された紙に記入して、受付嬢に返す。

 受付はやはり美人揃いだ。


「それではカードを発行しますので後ろの席でおかけになってお待ちください」


 用紙を確認して後ろにいた男性職員に渡した受付嬢に席で待つように言われた。


「あ、すいません。家が買いたいんですけどどこかで紹介とかしてないですか?」


 申請待ちの間に聞きたいこと聞いておく。


「家ですか?不動産関係は商人ギルドが管理しておりますので、ここで紹介することができますよ。どのような物件をお探しですか?」


 おっと。ここで紹介してくれるのか。んー、どんな物件がいいか……。


「えーっと、少し広めがいいですね。あとは中心街から離れて王都のはずれでもいいくらいです。できたら店舗兼住宅みたいな感じで風呂付……それから……」


「すいません。そこまでの物件になるとなかなか……」


 さすがに注文が多すぎただろうか。


「あっ……」


「……あっ?」


「あ、いや、実はひとつその条件にだいたい合うお屋敷があるのですが……そこ、訳あり物件でして」


 なんてことでしょう。ここでよくある訳あり物件ですか。


 しかし、俄然興味がある。


「その物件見ることできますか?」


「はい、見ることはできますが中へは入れないと思います」


「……それってどういう状況なんですか?」


「実はそこにはある貴族の方が住んでいたのですが、突然行方不明になってしまったのです」


 続きの話を纏めると、行方不明が判明してから騎士が捜索に入ったが、最初に入った騎士は戻ってこなかった。2回目に捜査に入った騎士のうち1人が満身創痍の状態で出てきて、何者かに襲われたと証言。それからは屋敷がかなり街はずれにあることや、中へ入らなければ被害がないことから立ち入りは禁止され、放置されたと。そしてなぜか屋敷は草や蔓で覆われてしまったということらしい。


 再びのなんてことでしょう。


 想像以上の事態ではないですかい?


「とりあえず見てみたいので、案内お願いできますか?」


「わかりました。案内係の者に伝えておきます」


 ちょうどギルドカードもできたようだ。このギルドカードも血を一滴垂らして登録が完了した。商人ギルドにはランクはないようだが、有力商人になるとシルバーのギルドカードからゴールドのカードに変わるらしい。そのカードである程度の身分の証明と信頼の証になるようだ。


「それでは案内の者があちらにおりますので声をかけてください」


 指示された通り向かうと、案内係だろう男性が待っていた。


「タロー様でいらっしゃいますか?」


「はい、そうです」


「ただいまからお屋敷へ案内させていただきますが、お時間はよろしいでしょうか?」


「はい、大丈夫です。よろしくおねがいします」


 案内の男性についていき、王都の東のはずれの方へ向かうことになった。










2018.9.29 編集

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