11話
「すいません。おっちゃんいますか?」
鍛冶屋についたが、店は静まり返っていた。
「なんだ? お、いつぞやの少年。悪いがもう店仕舞いなんだ」
「ちょっとだけ鍛冶場貸してもらえないですか?」
「なんだって? 鍛冶場? お前さんなにするつもりだ?」
「実はこれからもちゃんと自分で手入れできるように、ナイフの研ぎ直しをやってみたくて」
うわー、咄嗟にすげぇ嘘ついた。
「おまえ……!!!」
うわー、やっぱりダメか。ナイフ研ぐのに鍛冶場借りる必要ないし、職人がそう簡単に作業場貸してくれるわけないか。
「そこまで、物を大切にしようとするとは……感動した! よし! 好きに奥の作業場使いな。炉の火はまだ落としてないから近づかないようにしろよ?」
「えっ。いいんですか?」
「ほんとは絶対ダメだがな。刃を研ぐくらいなら大丈夫だろ。他の物には触らないようにな。ちょっと用事があるから店を出るが、すぐ戻ってくる。わからないことあればそのとき聞いてくれ」
あれれ……おっちゃんこんなキャラでしたっけ? メガネかけてひょろっとしてて口調も優しかったから油断してたけど、鍛冶屋の男はやっぱり職人肌の熱い男なのかもしれない。
「わかりました。ありがとうございます」
おっちゃんには悪いけど、炉もつかわせてもらいます。ごめんなさい!
「よし、やろう!」
おっちゃんが出掛けてのを確認してから早速作業に取り掛かる。やることは頭に浮かぶからその通りに体を動かすだけだ。一応音が漏れないように風魔法のサイレントで俺の周りの音を遮断した。
「ふぅ……できた」
なかなかの出来ではないだろうか。
工程も地球では考えられないスピードだったし、ファンタジー様々である。
グレイウルフの皮で間に合わせの鞘と握りも作った。その辺にある鉄製の剣よりはよっぽどましな刀が出来上がった。
見た目はそんなにいい物には見えないし、俺の風貌にはちょうどいいのではないだろうか。
「おっちゃんが帰ってくるまでになんとか終わらせれたなあ。一応ナイフも研いでおこう」
刀はマジックバックにしまい、サイレントの魔法を解除して、売らずにとっておいたナイフの一本を研いでいたらおっちゃんが帰ってきた。
「ただいま。やってるかい?」
「はい、もう終わります」
「よし、見せてみなさい」
研ぎ終えたナイフをおっちゃんに見せるとおっちゃんが驚きの表情を作った。
「驚いたなあ、よく研げてる。言うことなしだ」
スキルのおかげです。スキル様ありがとう。
「そうですか?ありがとうございます」
「うん、これからもちゃんと手入れして使ってやってくれよ」
おっちゃんにお礼を言って宿に戻る。
宿にはなにやら神妙な顔をしたロシャスが俺が宿を出たときと変わらぬ場所に座っていた。
「ど、どうしたんだ、ロシャス」
え、なにこれ。家に帰ったら浮気がバレてた夫の気分なんだけど。
神妙な顔過ぎて声をかけることが躊躇われたが、緊張しつつ声をかけた。
「タロー様。先ほどの金属を持ってどこへ行ってらしたのですか」
「……鍛冶屋でこれを作ってきました。」
俺は土下座をしつつ刀を献上した。
こーゆーことは女の子とやりたいよー! 浮気バレたときの旦那みたいな状態なのに相手が男なんておかしいです! ケモ耳プリーズ!
「これはっ……」
「それが刀って武器なんだ」
「これをタロー様がお作りになったというのですか?ただの鉄ではないようですし」
「うん、それがさっき作った鋼って金属なんだけど、鉄よりも強度があると思う。それで刀作ってみました」
「はぁ……ほんとうになんでもできてしまうのですね。今日だけで何度驚かされたことか」
「ま、あんまり深く考えずにさ。俺もひっそりと生活していきたいから」
「それだけの力を持ってひっそりと暮らすのもなかなか苦労しそうですね」
「そのために色々協力してくれよ? 頼りにしてるぜ、ロシャス」
「はぁ。かしこまりました」
なんとも気の抜けた了承だったが悪い印象はなさそうだ。よかったよかった。
「それでは私は明日に備えて寝ることにいたします」
そう言ってロシャスは自分の部屋に戻って行った。
俺もさっさと寝ることにしよう。明日からはしばらくベットで寝れないからな。
などと考えていたらあっという間に夢の中である。
次の日の朝、朝食を済ませ、宿を出た。先払いした分はアニーの小遣いにでもしてくださいと言ってあげておいた。
ギルドに到着して、ロシャスの登録をしていると奴隷は登録してもいいがパーティーを組んでいないといけないらしいことが判明。もしくはパーティーの上位互換であるクランに所属させるのが決まりらしい。
「つまり、主人の監視下であるという証明がないといけないわけですね」
「そういうことになります。クランに所属しているメンバーの奴隷もそのクランに所属していることになるので、奴隷が何か問題を起こした際にはクランの責任になることもあります」
奴隷の責任は主人の責任でその主人の所属しているクランの責任になるってことね。
奴隷の所有をはっきりさせて身元をわかるようにしてないとギルドもさすがに登録させられないよな。まぁ奴隷とわかっていて身元もわかっていればあとは普通の冒険者と同じように対応してくれるというのだからありがたい。それに目につくところに奴隷紋があったり奴隷の首輪をしていない限り、他の冒険者たちにも奴隷であることはわからないので、いたって普通の冒険者としてやっていけるようだ。
パーティーは最小2人からで最大6人、クランの設立は自由だが、メンバーは最小2人、ギルドに年間登録料を払う。
クランの評判がよければクラン指名の依頼があったりクランに直接依頼がくることもあると。大きいクランに新人冒険者がはいれば、冒険者としての経験も積みやすいってことか。
そのあたりはまた後々考えればいいか。
「パーティー組むことでなにか利点ってのはあるんですか?」
「はい、まずパーティーを組まなければ受注できない依頼がありますのでそれを受けることができます。あとは戦闘における経験値がパーティー全員が獲得できることが確認されてます」
メンバー全員が経験値を獲得できるとかありえるのか。
「なるほど、わかりました」
「それでは、こちらがロシャスさんのギルドカードです。タローさんとパーティー登録をしてあります」
「ありがとうございました」
ふぅ。登録も終わったしハンナさんに挨拶して街を出よう。
「ハンナさん、おはようございます」
「おや、タロー。朝から依頼かい?」
「いえ、実は旅に出ようかと思いまして、その挨拶に」
「なんだい、もう街を出るのかい?はやいねぇ。期待の新人だと思ってたから力をつけたらいつかは旅立つと思っていたけど、寂しくなるよ」
「また街に来た時には挨拶しに来ます。本当に色々お世話になりました」
ハンナさんには本当にお世話になった。感謝。
ハンナさんに別れを告げ門へ向かう。
門で兵士に返し忘れていた仮身分証と銀貨を返して街を出た。
これから何日かかるかわからないが王都へ向けた旅が今始まる。
タローは意気揚々と歩き始めた!
「タロー様、こちらの方角です。」
「……」
タローは回れ右をして意気揚々と歩き始めた。
「なあ、ロシャス。もう少し……歩き始める前に言って欲しかったんだが」
「迷いもなく歩いていかれるのでご存知なのかと思いまして」
絶対バカにしてるよこいつ! くそう!
「はあ。順調な滑り出しだぜ……」
そんな順調にスタートした旅は街道に沿って歩いたり、森に入って鑑定しながら歩いて薬の材料になる草やキノコなどを見つけたり、魔物を倒したりしながら7日歩き、あと1日半も歩けば王都に着くだろうというところまできて、今夜は森の中で夜営することにした。
「なぜ、今夜は森の中で夜営するのですか?弱いといっても魔物もいますし街道の方が安全ですよ?」
「ちょっとやってみたいことがあるんだ」
「……今度は何を」
またかこいつみたいな顔したロシャスを横目にさっさと準備を始める。
HP回復薬とMP回復薬を作ろうと思っているのである。
回復薬はギルドでも魔道具屋でもどこでも売っていた。リサーチ結果によると、どうやら回復薬は品質によって値段に違いがあるらしい。その品質の違いはポーションの色の濃さでわかるようである。
「薬草と水があればポーションはできるんだよね?」
「はい、腕のいい薬師ならば中級程度の品質までならそれだけでポーションはできます。水に魔力を込めるか魔石を粉にして水に混ぜて一日置いたものと薬草があれば作れます。まさかポーションを作る気ですか?」
「はい、作る気です」
「……やはりですか。薬師のスキルを持ってる人が作ったポーションでないとほとんど回復しない物しかできませんよ。それにスキル持ちでもレベルが低ければ品質は低くなります」
やはりそうなのか。つまり同じ材料でもスキルレベルで品質に差ができるってことだな。魔石を使えば金がかかり、魔力を使うなら魔力もかなりの量がないと量産はできないわけだ。
「体力の回復薬は赤色のポーションで魔力は青色のポーションだよね?」
「はい、そうです。上級以上の物になると高ランクの魔物の血液が必要になります。それに高ランクの魔物の内臓などは他の薬の材料にもなったりするので高値で取引されています」
「エリクサーってのもあるって聞いたんだけど作り方はわかる?」
「エリクサーはダンジョンから稀に見つかるものがオークションで取引されてるくらいだと聞いています。作り方など聞いたこともありませんし、希少です。どんな病も治すと言われていますのでかなり高価なはずです」
回復薬について話を聞いていた時にエリクサーのことを聞いて、なぜかつくり方がなんとなくわかっちゃったんだよなあ。材料が揃えば作れると思う。今はまだ材料に出会えてもいないけど。これも薬師スキルとじいちゃんの加護のおかげなんだろうな。
「毒や麻痺、石化に効く薬もギルドでも魔道具屋でも売ってたけど薬屋は大丈夫なのかなあ?」
「冒険者が立ち寄るところには冒険者に必須の薬が売っているのは至極当然だと思います。しかし、品質の安定性や品揃えを考えるとやはり薬屋の方が優れていますし、同じ毒消しでもギルドで売っているものは品質にバラつきがありますが、薬屋で買えばそこの薬屋の安定した品質のものを手に入れることができるわけです。なので、薬屋は評判が良ければ客が増えます。同じ毒を受けたとしても、ここの毒消しは2つないと完全に毒が消えないが違う薬屋のものならば1つで足りたなど薬師の腕によって違いがあるわけです。ギルドでは少しだけ安価に薬類が手に入りますが、薬屋で買えば安定性のある薬が手に入ると言うことです。値段もほとんど変わらないですしね。体力、魔力の回復薬だけで考えても品揃えは圧倒的に薬屋が上です」
なるほど。人族のことを知りすぎやしないかい、ロシャスくん。
おかげでよくわかったけども。たしかに安定した効果が発揮される薬の方が安心感も信頼もあるから売れるわけだ。効果があるとわかれば噂が客を呼ぶってことね。
「そんなこんな言ってる間に作ってみたんだけど、これどう?」
川で汲んで魔力を込めた水と薬草を入れて火にかけながら混ぜていたら回復薬っぽくなっていたのでロシャスに見せてみた。
「はぁ……。中級程度は確実にありますし、中級でもかなり品質の良いものだと思います」
もはや呆れちゃってるよ。
「よし。回復薬もできることが判明しました。魔力回復薬も作るから買っておいた小瓶に分けるの手伝って」
呆れながらもちゃんと小瓶に入れる作業をしてくれるロシャスはいい魔族。
「うん、20本ずつくらいできたし、回復薬を売ることで商人としての第一歩を踏み出せそうだ!」
「え、商人ですか?」
「あれ? 知らなかったっけ? 俺の職業は商人だよ。まだ見習いだけど」
「てっきり冒険者として生きている方なのかと思っておりました」
「とりあえずの生活費として冒険者してたし、冒険者も色々便利そうだったからね。本来は商人として生きていきます。よろしくお願いします」
「私はどんなことでも精一杯お力になれるよう努力します」
ありがたい。ロシャスいいやつ。
「ところで、俺の索敵の隅の方に3人くらいの人の反応がずっと動かずにあるんだけどなにかな?」
「……私の感知できる範囲にはありませんが、かなり森の奥の方ですか?」
「うん、結構奥だね。どう思う?」
「3人程度なら盗賊ということもないでしょうし、全く動かないというのもおかしいですね。冒険者が怪我して動けないとかそういう状況ですかね?」
なんだって!? そのパターンは思いつかなかった。一大事じゃないか。
「動けないとなるとかなり重症なんじゃないか? 助けた方がよくないかな」
「タロー様のしたいようにするのがよろしいかと」
うーん。どうしよう。面倒ごとに巻き込まれるのは勘弁だけど知らんぷりするのもなぁ。
「とりあえずどんな感じか様子を見に行ってみようか。相手の状況を見て判断しよう」
荷物をまとめて反応がある森の奥へと向かうと、洞窟のようなところへたどり着いた。
「また洞窟かよ。盗賊じゃありませんように」
手をすり合わせながら洞窟へと入ると、洞窟は広くなくただの穴蔵のような感じだった。その奥に3人の少女が横たわっていた。
「なんでこんなところに」
生活魔法のライトで明かりを灯して少女たちを見ると、かなり衰弱した様子でぐったりと倒れている。よく見ると肌はほとんど紫色に変色していた。
「タロー様離れてください。この3人病に侵されています。魔族にはうつりませんが、他の種族にとっては不治の病と言われているものです。ここまで進行しているとなると数時間後には息引き取るでしょう」
「治す方法はないのか?」
「人族の教会の最高権力者と言われている教皇の治癒魔法なら治るという噂です。感染の方法も判明していないようです」
ふむ、つまり治癒魔法で治るのか。
3人に近づいて様子を観察すると3人とも浅いが呼吸もしている。
「タロー様、感染の方法がわかっていないので近づくのは危険です。それに3人の奴隷紋が無理矢理焼き消されて奴隷であったことを誤魔化そうとしていますが、元奴隷のようです。奴隷を殺すことは禁じられていますので、病に侵されたのがわかった時点で捨てられたのでしょう」
なんだと。病が治らない奴隷はいらないから捨てるのか。治すのにも高額な治療費を請求されるなら新しい奴隷を買った方がいいってことか? 理屈はわかるが許せることではないな。3人も買い換えることができるとなれば貴族だろうか。
「ロシャス、俺がケモ耳を見捨てると思うか?」
「け、けもみみ?」
そう、この3人は獣人なのだ。1番年上は17、18歳くらいの犬の獣人だろう。長い茶髪にタレ耳の女性。残りの2人は12、13歳程度の少女で2人とも猫のような形の耳と尻尾を持っている。1人は真っ白な耳と尻尾、もう1人は真っ黒な耳と尻尾だ。髪も白と黒で肩の上で切り揃えられたボブカットのようなヘアースタイルだ。
1番年上の女性はまだ少しだけ意識があるようなので声をかけてみる。
「君たちは病が治れば生きたいかい?」
「……は、離れてください。病がうつってしまうかもしれません」
懇願するような顔で答えたことは自分が生きることよりも俺の心配だった。死ぬ間際まで見ず知らずの人の心配をできるのは本当に心根の優しい証拠ではないだろうか。
「よし、助けよう。ロシャスなにか消化のいい食事でも作っといてくれ」
「いや、助けると言いましても……」
「大丈夫大丈夫。なんとかなる」
「はあ……わかりました」
治癒魔法もなんとなくどうすればいいかわかるので頭に浮かんだ通りに治癒を行う。
するとみるみるうちに肌の色も顔色も良くなっていったが衰弱はしたままだし、かなりガリガリに痩せてしまっている。それは徐々に回復していくしかないだろう。
今は3人とも先ほどよりも落ち着いた表情で眠ってしまっている。
「はぁ。ほんとに治してしまうとは」
ロシャスがまたしても呆れている。呆れすぎではないだろうか。
それにしても色々疑問が残る。不治の病と言われてはいるが治るし、魔族はかからないし、感染ルートはわからないけど、3人同時にかかっているのに、そんなに爆発的に広がっているわけでもない。死ぬまで隔離すれば大丈夫なようだし、早く発見されて隔離されれば広まらないとか、たまたま3人同時に発現しただけなのか。感染は人から人なのか?疑問は多いが治ることもわかったし、今はそんなに深く考えなくてもいいか。
「うん、とにかく治ってよかった」
「そうですね、朝には目を覚ますことでしょう。今夜はここで夜営してこの子達の食事は朝作ることにしましょう」
ロシャスの提案を受け入れ、ロシャスが準備してくれた夕食を食べ、その日はそのままそこで夜営した。
2018.9.30 編集