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100話


前回のあらすじ


魔王と共に現れたサタンとの戦いに助太刀として現れたタローとその仲間のおかげで、サタンのザビエラを無事確保することに成功。タローは、ドラちゃんを失い、泣き崩れたアメリと、四肢を失ったザビエラを連れ、屋敷へと戻った。










「勇者様ー!!」


「きゃー! こっち向いてくれたわー!!」


「すげー! さすが勇者様だ!」


「俺も将来は勇者様みたいに強くなるんだ!!」


 魔王の討伐が確認され、大軍をなしていた魔物達も討伐されるか逃げ出した。魔物の脅威が去ったことが各国に通達されてから数日……勇者を含め、魔王討伐計画に参加した者達の中でもとくに中心となった者達が、マシバ王国の王都に凱旋した。


勇者である4人は、鳳芳樹を先頭に凱旋パレードの中心となっている。

馬車の上に立ち、誇らしげな笑みをたたえながから、パレードを見物しに集まった多くの人達に手を振る鳳芳樹の傍らには、今回の魔王であったスカルドラゴンの骸が、彼らの成し遂げた偉業を証明するかのように鎮座していた。


「おまえにあんな凶悪な魔物を仕留められるかっての!」


「やってみなきゃわからないだろ! 俺は今から強くなるんだ!」


 パレードを見に集まった民衆は、王都の門をくぐり、大通りを練り歩く勇者達を、勇敢な騎士を、果敢な冒険者達を眺め、そして未だに強烈な存在感を放つスカルドラゴンの亡骸を見て歓声をあげる。特に幼い少年達は、自分の将来を夢見て彼らを尊敬の眼差しで見つめていた。


「勇者様、無事の魔王討伐、周辺国家を代表して感謝申し上げます」


「いえ、我々は自身の責務を果たしただけです」


 パレードの最終目的地であるマシバ王国王城に着いた一行は、討伐完遂の報告をするため、謁見の間へ通され、王自らの労いの言葉を賜っていた。


「ご謙遜ですわ。たとえ責務といえど、死して尚、あのような禍々しい魔力を放つスカルドラゴンの討伐を成し遂げられるのはあなたのような勇者様だけ。もっと誇ってください」


 王の隣に立つ可憐な女性……マシバ王国のお姫様は頬を軽く染め、熱のある視線を芳樹に送りながらそう述べる。年の頃は勇者たちと同じか、少し上くらいだろう。


「多大な犠牲の上、辛うじて討伐できただけ。運……それとみなの協力があってこそ成せたことです」


 事実、今回の討伐作戦にて少なくない人数の騎士や冒険者がその命を落とした。

しかし、アンドレやシズカによる支援がなければもっと多くの犠牲者が出ていたことだろう。今、その事実を知るのは命を救われた者たちだけだが……。

そして、スカルドラゴンの討伐はすっかり芳樹が成した偉業となっていた。もちろん、各国にもそう通達されている。魔王と共に出現したサタンの存在も各国へ知らされていたが、スカルドラゴンを討伐したことによって逃げ出したと思われると報告されていた。


「犠牲になった方々にも多大な感謝を。彼らを含め、今回の討伐に参加してくれた全ての人のおかげで、この国と周辺の国家、そして多くの民達は救われたのです」


「えぇ、その通りです。丁重な葬いをよろしくお願いします」


「……さすがの人徳だ」


王は、勇者の死者に対する心遣いに満足げな表情で頷く。


「勇者様はやはり優しい御心をお持ちなのですね」


王は感心し、お姫様の顔はさらに熱を帯びる。

お姫様の惚けるような顔を見れば、彼女が芳樹に好意を寄せていることは誰の目にも明らかであった。

ここマシバ王国の王城にて過ごす日々、そしてスカルドラゴンをも倒す実力と、その容姿……英雄のような存在が彼女の心を射止めていた。

そんな彼女の様子を恨めしそうに見ているのは芳樹の後ろで並ぶ3人のうちの1人、梨花である。彼女は誰が見てもわかるほど芳樹に想いを寄せていたが故、自分と芳樹との関係に邪魔になるだろう女性の存在が喜ばしくないのは当たり前だ。


拾ったようなスカルドラゴンの討伐という結果を、さも当たり前のことように自信満々で披露する芳樹とそんな彼しか見えていない梨花たち2人の事をどこか釈然としないような気持ちで見ていた大樹と小百合である。


そんな勇者4人のこれからの動向がどうなるか……それは今は誰もわからない。


▽▽▽▽▽



「気がついたのか?」


「……今回はご迷惑をおかけしました。サタンである私を介抱していただき、更には匿ってもらい、感謝の言葉もありません」


 魔王の討伐による凱旋パレードがマシバ王国で行われるよりも数日前、サタンの2人をタローが屋敷へ連れ帰った日のこと。

夜も更け、スミスカンパニーのみんなが寝静まった頃、昼寝をしすぎた影響で寝付けないでいたタローは王都の屋敷のリビングでお茶を飲んでいると、アメリが2階から降りて来た。


「それで……気づかれないように出て行くつもりだったのかい?」


 アメリはこっそりと出て行く腹積もりだったのだろう。


「……これ以上ご迷惑をおかけするわけにはいきません。まさか起きている方がいるとは思いませんでしたが……」


「まぁ、出て行くのは勝手だが、その姿でこの辺をうろつけば、見つかった瞬間討伐対象として人族の大群に追われることになると思うよ?」


 彼女の姿は誰がどう見てもサタンなのだ。翼と角が目立って仕方ない。その姿で人族の領土を出歩けば見つかるのも時間の問題だろう。


「……」


「しかも、君の実力では高ランクの冒険者に追われたらすぐに捕まってしまうのではないかい?」


サタンと分かっていれば、討伐は高ランクの冒険者に依頼されるはずだ。そうなればアメリの実力では逃げ切れない。


「しかし、サタンである私がこれ以上ここにいてもご迷惑をかけるだけです。私には隷属の呪いがかかっています。その呪いがある限り、どこにいてもサタンからの追っ手がやって来てしまいます」


 隷属の呪いには、命令権を持つ者への絶対服従、そして、その者が逃げることもできぬよう位置すらも把握されてしまう。もはや操り人形と言っても過言ではない。


「それにザビエラ様がまだこの辺りにいるかもしれない……あの方は人族の手に負えるような方ではありません。彼が私を見つけ、ここで匿われていることを知れば、あなた達の命を危険に晒してしまいます」


 アメリは悲しそうな顔でタローを見つめながら言葉を続ける。


「私のせいで、恩人であるあなた達の命を危険に晒すわけにはいきません」


「……そうか。出て行きたいのであればそうすればいい。だが、これだけは渡しておこう」


 そう言ってタローが取り出したのは白い刃をしたナイフと白い飾り細工の土台に紅い石がはめ込まれたネックレスである。


「……これは?」


「ドラちゃんの牙から作ったナイフと、ドラちゃんの骨の一部と魔石の一部で作ったネックレスだよ。勝手に素材として使ったことは謝る。ただ、ドラちゃんの遺体を燃やしてあげることもできなかったし、連れて帰ってくることもできなかったから、せめて形見になればと思って……」


タローがマシバ王国から帰ってから、アメリの寝ている間に作り上げたドラちゃんの素材を使ったナイフとネックレスであった。


「……」


 受け取ったアメリはそれを胸に抱くようにして、顔を伏せる。


「……ありがとうござます。大切に……大切にします」


 顔を上げ、お礼を言うアメリの顔は、どこか吹っ切れたように晴れやかな笑顔。だが、その頬には一筋の涙が流れていた。


「うん、大切にしてあげて」


「はい。……それでは私はこれで。サタンである私にここまでしていただき、本当にありがとうございました」


 頭を下げ、玄関の方へと足を向け歩き出そうとするアメリ。


「それと……」


 その背中へ声をかけるタロー。


「……?」


その声に反応し、足を止めるアメリ。そして彼女は首を傾げながら後ろを振り向く。


「呪い……解呪してあるから。あと、ザビエラもここで拘束してる」


「……は?え?い、一体なにをおっしゃってるのですか?」


「え?だから呪いは解いたし、ザビエラはここに拘束を……」


 そう答えるが早いか、アメリは自分のステータスを確認し、本当に呪いが解けていることを知る。何度もステータスオープンを唱え、それが見間違いでないことを確信した。


「そ、そんな……信じられない……」


「まぁ、なんだ……念のためザビエラも確認していく?」


 何でもないようにそう問いかけるタローの姿にアメリは底知れぬ恐怖を抱いた。


タローの言っていることが信じられないというわけではなかったが、ザビエラが捕まっているということが信じられなくて、タローに言われるがままザビエラを確認しに行くことにした。


タローの後をついて歩くアメリはさらに驚愕の光景を目の当たりにする。


タローが案内したのは屋敷の地下……しかしそこには広大な森が広がり、畑、そして小屋も存在した。地下への扉が他の土地へと繋がっているのか?と、アメリはタローへ尋ねたが、その返答は予想だにしないものであった。


「ここは屋敷の地下……それは間違いないんだ。この空間はその屋敷の地下に俺が作った」


 そう答えたのだ。


 そしてそのまま森に建てられた小屋の1つへと向かう。

その小屋にはさらに地下へと続く階段が設けられていて、その地下にはさらなる空間が広がっていた。薄暗くよく見えないが、階段のすぐそばにいくつかの部屋があり、その奥には牢屋のような作りの小部屋が奥が見えないほど続いていた。


「こ、これは……?」


「ここは治験するための部屋と、その治験に協力してもらう人が住む予定の場所」


 一体どれだけの人をここへ入れるというのだろうか……そんな疑問がアメリの頭に浮かぶ。


「とは言っても今日作ったばかりだから、まだザビエラしかいないし、治験もやってないんだけどね」


 そんなタローの一言にアメリは言葉を失う。


この地下は、マシバ王国から連れ帰ったザビエラをどこに拘束しておくか、タローとロシャスが相談した際、監獄のような場所を作ってしまった方が早いという結果になり、あっという間にタローが作ってしまった空間であった。後々、治験を行いたいという事は考えていたので、それ用の部屋も設け、治験に利用する人を拘束しておく監獄のような形となった。未だ、それを行える目処は立っていないが、人族の他に獣人族、魔族、ドワーフ、エルフなど、多種多様な種族が存在するこの世界において、薬の効果、副作用などを治験にて検証することが薬をメインで商売して行くつもりのタローは、効果の安定性や、スミスカンパニーの信頼という点で重要だと考えていた。


 これほどの規模の地下室を1日で作り上げたというのだからアメリが驚くのも無理はない。そして金属やその他素材に詳しくないアメリでもわかるほど強固な……見たこともない素材でできていて、魔法的な結界も仕組まれていると思われる牢屋。そこに入れられたら一生出てくることが叶わないと思わせるものであった。


「ここだよ。ほら、そこにいるのザビエラだろ?」


タローの示す方へ視線を向けると、そこには四肢を失い、生気のない顔つきで、力なく横たわるザビエラの姿があった。


「なっ……」


サタンという同じ種族であるアメリに今のザビエラの状態を見せることは、人族との亀裂を深める事になるかもしれないと、今更になって気づくタロー。


「こ、これは人族の方がやったのですか……?」


「そうだよ、俺の指示で俺の仲間が確保した」


「ザビエラ様のような方がこんな……お姿に……」


 格子を掴みながら唖然と見つめるアメリを見て、やはり見せるべきではなかったか……同族のこのような姿を見て喜ぶ者はいないかもしれないと、軽率な行動を悔やむ。


「……すまん」


「……あ、いえ、大丈夫です。私はこの人達に蔑まれ、こき使われ、小さい時から一緒に育ったドラちゃんも殺されてしまったのです。恨みこそありますが、あなた達を責めるような気持ちはありません」


 タローの胸中を悟ったような言葉にタローもいくらか気持ちが軽くなった。


「ただ、ザビエラ様ほどの方が捕らえられていることに驚いただけです。本当にあなた達が……?」


「あぁ、さっきも言ったが、俺の指示で俺の仲間が捕らえた。アメリがドラちゃんのところで泣いている時に支えてくれた少年がいるだろ?あの子ともう1人……2人で捕らえた」


「あ、あの方が……」


 オルマのことを思い出したのか、少し顔を赤らめるアメリ。


「ひとまずアメリが心配していたことはこれで解決したんじゃないかな?もしもサタンのいるところへ帰りたいと言うなら好きにしたらいいけど、行く宛がないのならもうしばらくここにいたらいい。オルマも心配していたし、顔を見せてやって欲しい」


「い、いいのですか?」


 ザビエラがこんな状況になる程の力がある者がここにはいることは明白。そしてザビエラがいないまま王の元へ帰る行為の方が危険に思えた。もし、帰ってザビエラの今の状況を伝えれば、王はどのような反応を示しどのような行動を取るのかアメリには想像もできなかった。

隷属の呪いも解けている今、このまま姿をくらました方が危険も少なく過ごせるのではないか……やっと多少の自由を手に入れられるのではないかとそんなことをアメリは考えていた。なにより、自分が泣き崩れた時に、見た目の幼さからは想像もできない大きな心で包み込んで支えてくれたあの少年の顔をもう一度見たいと思ってしまっている。


「あぁ、いいさ。まぁ、なにかいい方法が思いつくまではなるべく外には出ない方がいいだろうけど」


 自分の見た目の事を心配してくれているのだと、察してアメリは恐縮する。


「……ありがとうございます」


 アメリはそんなタローの言葉に甘え、しばらくここに身を潜めることを決めた。

恐ろしいと思える程、底知れない力を持っていると思われるこのタローという男と、その仲間たち。しかし、なぜか不思議と安心感を感じ、あまり不安はなかった。そんなことを思いながら、その日は空いた部屋をあてがわれ、再び眠りについていった。










お読みいただきありがとうございます。


次回更新は2週間後の予定です。




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