99話
前回のあらすじ
魔王の出現と魔物の侵攻が確認され、勇者を含めた各国の騎士や冒険者が森へと進行。
魔王と遭遇した鳳芳樹ら精鋭に立ちはだかるサタンと魔王のスカルドラゴン、そして高ランクの魔物たち。サタンは勇者シズカが。スカルドラゴンはリュトス、カラナ、ヤークが。その他の魔物を精鋭らで対応していたが、サタンの実力に戦闘が長引く恐れを考慮したシズカが、タローへの救援を要請。屋敷で寛いでいたタロー達の元へ、救援の要請をシズカに頼まれたリュトスが訪れた。
「誰かいないか!!」
外から声が聞こえてきたなあ、と思ってお茶を啜っているとロシャスがやってきた。
「タロー様、リュトスさんがいらっしゃいました」
「……リュトス?」
それだけ声をかけてロシャスは玄関へと、対応に向かった。
ドアホンもないのに、誰が来たのか正確にわかるロシャスさんが素敵。
それにしてもリュトスか……なにしに来たのだろうか。
それに声色からして割と焦ってる感じである。
そんなことを考えながら俺も玄関へと向かうことにした。
「シズカ様に頼まれたんだ! 急いでくれ! 誰でもいいと言われたが……」
玄関先には縋るような姿で必死にロシャスに訴えかけるリュトスがいた。
「どうしたんだ?」
「タロー様、どうやら……」
ロシャスはリュトスから聞いたことをまとめて説明してくれた。
それによると、魔王の出現にサタンが関与していた。シズカさんが奮闘しているが決め手に欠ける。シズカに頼まれ助けを呼びに来た、とそういうことらしい。
「なるほど、魔王討伐作戦が始まっていたのか」
すっかり忘れてた。
「いかがいたしますか?」
ロシャスに問われ、少し考える。
相手はサタン。魔王として認識されていたスカルドラゴンは討伐済み。ほかの魔物たちは4人の勇者たちと交戦中だが、それほど心配いらないし、いざとなればリュトスたちが参戦できる。
問題であるサタンの実力はシズカさんに若干劣る程度であるが、攻めきれない。
「よし、今から行こう。ロシャス、メイ、オルマ一緒に来てくれるか?」
「お供いたします」
「「はい!」」
「ぼ、僕もいかせてください!」
お、タッカムも来るか。
タッカムと同時期にスミスカンパニーの一員となったみんなも、既に勇者に余裕を持って勝てる程度には強くなっている。しかし強くなったとはいえ、シズカが苦戦するサタンとなればまだ荷が重いはずだ。
だが、見るのはいい経験だな。
しかし、シズカと戦えるサタンなんて存在がいるのがわかったとなれば、身を守れる程の強さの基準を勇者にするのは危うくなってきたな。
「よし、それじゃあ行こうか」
俺たちは玄関にやってきた格好のまま、ラスタが繋ぎ続けてくれているリュトスのやってきたゲートへと向かう。
「お、おい。本当にこのまま行くのか? それになんの準備もなしに……」
「……え? 誰でもいいって言われたんじゃないの?」
シズカさんは誰か指名してたのか?
「誰でもいいとは言われたが……」
「それなら問題ない」
これ以上説明するのもめんどくさいのでさっさと向かうことにする。
ゲートをくぐると同時に俺たち5人は黒い外套とお狐様のお面を装備した。
「ラスタ、お疲れ」
ゲートを屋敷へと繋いだまま待っていてくれたラスタ(分裂体)をねぎらい、戦闘中のシズカさんの方へと視線を向ける。
「たしかになかなか苦戦してるなぁ。メイ、オルマ頼んだ。一応殺さない程度で」
「はーい!」「はい!」
メイとオルマがサタンに向かって行く。
「エレクトリックニードル!」
メイが雷魔法で作り出した複数の電気の針が高速でサタンの羽根を貫く。貫通力、スピードにすぐれ、麻痺効果もある魔法攻撃である。
「ぐはっ!! な、なんだ……!?」
それと同時に近づいたオルマが槍で両脚を両断。そのオルマの後ろから飛び出したメイが両肘から先を刀で切断。そしてその両手両足が地面に落ちる前にオルマが火魔法で燃やし尽くす。
「がっ……!!!」
サタンはなにもできずに地面に転がる。
「……容赦ねぇ」
フランク、マーヤ……メイをこんな娘にしてしまってすまん。
とりあえず手を合わせ、天を仰ぎ、フランクとマーヤに謝っておく。
「……なにしてらっしゃるのですか?」
「……両親に謝罪を」
目を瞑り、謝罪を続ける俺を、いつものように呆れ顔で見つつ、ロシャスはタッカムを連れ、シズカさんとメイたちの方へと向かう。
「来てくれたんだ!!」
「シズカねぇちゃんやっほー!」
「ご無沙汰しております」
周りに人がいなかったこともあり、お面を上げたメイとオルマがシズカさんの元へと辿り着き、遅れること数秒、ロシャス達もシズカさんの元へと辿り着く。
「シズカさん、ご無事でなによりです」
「あ、ロシャスさんも来てくれてたんだ!」
さっきまで戦っていたとは思えない雰囲気である。
転がったまま放置されているサタンが惨めだ。
「シズカさん怪我はない?」
「タローくんまで! みんなのおかげでとくに怪我はないよ!」
「そうか、それならよかった」
まぁ、この白銀の鎧を身に着けているのでそう簡単には怪我しないだろうけど。
「さて、サタンはどうしようか……ところでサタンってなんだ?」
サタンの方へと向かっている途中、後ろを振り返り、ふと疑問に思ったことをロシャスに尋ねてみた。
「……サタンとは謎の多い種族です」
そんなこともご存知ないので?みたいな感じでロシャスはため息を1つつくと、サタンについて簡単に説明してくれた。
「……なるほど」
うむ、よくわからないが、これは貴重な情報源になる可能性があるのだな。生かしておいてよかった。ナイス俺。
「じゃあ、とりあえず声をかけてみよう」
未だに転がったまま身動きできずに呻き声を上げるサタンへと近寄る。
「やぁ、ご機嫌よう。俺はタロー。あなたは?」
「……お、おぬしらの仕業か……ありえぬ、ありえぬ……」
やばい……会話にならない。
顔は青ざめ、血の気がない……あっ。
「その前にヒールしないと死んでしまうか」
簡易的にヒールを施し、出血を止める。
「ロシャス、ここで聞いても仕方なさそうだから、連れて帰って地下の森に拘束しておこう」
「かしこまりました。急ぎ専用の部屋を作ります。それまではオルじいとラナに監視してもらいましょう」
うんうん、そうだね、それがいい。
てか、これって国とかに報告した方がいい案件?
……まぁ、いいか。逃げ出されても困るしうちで拘束しておこう。忘れなかったらマリア様くらいには報告しとくか。
サタンからスキルを奪い、体の自由を奪っておけば連れて帰っても特に問題がないと判断し、さっそく作業に移る。
とりあえず鑑定してみると、今まで鑑定した中でダントツに高いステータスが表示された。
シズカさんの方が数値的にはいくらか上だが、拮抗してるとも言える。
スキルレベルは高いが、上限に至っているものはない。そう考えるとスキルを極めるのは結構大変なことなのかもしれないな。とくにレベル8以上にレベルアップするとなると極端に難易度が上がるように思える。もしくはなんかしらの条件があるのか。
まぁ、スキルレベルが同じでもステータスに差があればスキル自体にも差が生まれるわけだから単純にスキルレベルだけでの比較はできないってことはわかった。
なんにしても、こんなバケモノのような奴が存在するのなら勇者で対抗するには無理がある気がする。今の勇者では魔王討伐がギリギリって感じだな。
それはそうと、やはりスキルとして獲得経験値増加を持つのと、アクセサリーに付与した獲得経験値増加スキルには効果に差が出るのかな?
シズカさんとオルマはほぼ同じようなタイミングで獲得経験値増加スキルを付与しているが、スキルとして持つオルマと付与されたアクセサリーを身につけているシズカではレベルもステータスも伸びに差ができている。
どれほどの戦闘経験を積んだかにもよるのかもしれないが、予想ではスキルとして持つか、付与されたアクセサリーを持つか、両者間には少なくない差があると思われる。
まだまだ考察すべきことが多い。
この世界の常識にも疎いままだし。
「ん、重力魔法か。初めて見るなぁ。便利そうだ」
ザビエラというサタンからスキルを全て奪い、重力魔法は自分にスキルとして付与しておく。
「よし、それじゃあ帰ろうか」
「あ、待って! もう1人いるの!」
「もう1人?」
誰が?
「うん、サタンがもう1人。詳しくはリュトスに……ってリュトスはどこ?」
こんなのがもう1人いたのか……?
シズカさんもみんなもよく無事だったなぁ。
「リュトスなら一緒に来たけど……あれ?」
近くにリュトスの存在が見受けられなかったのであたりを見回すと、ゲートからやってきて少し進んだところで口を開けて目を見開き固まっていた。
「なにしているのでしょうか」
と、ロシャス。
「ま、まさか石化の呪いか……?」
と、俺。
「それはありえません」
と、オルマ。
「つーんつーん」
と、いち早くリュトスに近づきその体をつつくメイ。
「リュトス! リュートースー!!」
シズカさんもリュトスの元へ駆け寄り、肩を揺らす。
「……ハッ!! シズカ様!」
「あ、起きた」
あぁ、寝てたのか。うんうん、わかるわかる。お腹も満たされて眠たくなるよね。
「私はなにを……そ、そうだ。シズカ様が手こずる相手をいとも簡単にまだ幼い少女と少年が……あれ? 夢なのか……?」
なにやらブツブツと呟きながら現状の把握に努めようとしているリュトスであるが、今はそれに構ってる暇はない。
周りに人が来る前にサタンを連れ家に帰りたいのだ。
「リュトス、スカルドラゴンのところ……もう1人のサタンのところへ案内して」
シズカにそう促され、リュトスは混乱気味のまま、案内を始めた。
そして案内された先にはスカルドラゴンの亡骸とそこに縋るように座り込むサタン、その様子を見守るように立つカラナとヤークの姿があった。
「なにこれ。どんな状況?」
「これは……」
リュトスから簡単に説明してもらった俺はそこに座ったままのサタンに声をかけることにした。
一応は鑑定でステータスを見てみるが、ステータス自体は人族の勇者にも劣るものだった。特徴的なのは死霊魔法というスキルがあることだ。アメリというこのサタンの持つスキルの中では飛び抜けて高いレベル6。そしてテイマーLv5のスキルも有していた。あとは魔力が異様に高い、という以外は一般的なBランク冒険者程度のステータスだろう。
ザビエラを見たあとだったので、いささか拍子抜けではあったが、サタンの全てがザビエラのようなステータスでないことに安堵した。安全に越したことはないからな。
それと彼女には、行動を制限し命令に逆らえないようにする「隷属」という呪いがかかっている。奴隷よりたちの悪い呪いだ。
「お嬢さん、いつまでそうしているんだい?」
「……」
声をかけてみるが、反応がない。
「そうか、君にとってこのスカルドラゴンは大切な友達だったんだね……」
と、適当なことを言ってみた。
「……」
コクン。
……う、うなずいた。
「そうか、このスカルドラゴンは生前の大切な友達なんだな。それを殺され、命令のまま君の持つ死霊魔法でスカルドラゴンとして蘇らせ、そのドラゴンすらも隷属させたと」
「……」
無言で立ち上がりこちらを振り返るサタンのアメリ。こちらへ向かって数歩歩いたところで立ち止まった。その顔は赤く、今にも泣き出しそうなのを我慢しているようである。
「無理矢理蘇ることを強制されたドラゴンも君も、望まぬ戦いに連れてこられた」
俺は予測したストーリーを続けて話してみる。
「……」
そして彼女の顔は泣き顔に変わり、ついには大粒の涙を流しながら大声で泣き始めた。
「うわぁあぁぁあぁ〜ドラちゃんが、ドラちゃんがぁ〜〜〜」
……ど、どうしよう。
俺が勝手に作り出したストーリーがどうやら正解に近いものだったらしい。
泣き出したアメリはその場で大声をあげ涙を流し続ける。
そんなアメリを見かねたのか、オレの後ろにいたオルマが近づき、その体をそっと包み込むように抱きしめた。
しばらく大声で泣き続けたアメリが落ち着き、その場に静寂が訪れる。
「……悲しいですね。大切な友を失うのはとても悲しいことです。しかし、その友はあなたが泣き続けること望んでいますか?」
オルマが優しく問いかけると、アメリは静かに首を振る。
「あなたは、このドラゴンと過ごした幸せな日々を忘れることはありません。そしてこのドラゴンもあなたと過ごした幸せな日々を忘れることはきっとありません。ですから、静かに天に送ってあげましょう。ドラゴンさんも、あなたがいつまでも泣き続けることなく、幸せな日々を胸に、前へ向かって歩き出してくれることを願っているはずです」
「……うぅ。わ、わかった…」
未だに涙は止まっていないが、彼女はオルマから離れ、立ち上がると後ろのドラゴンへと向き直る。
「ドラちゃん今までありがとう」
それだけ言うと、再び俺たちのいる方へ向き直った。
彼女の瞳から、とめどなく涙が溢れ出し、流れ出るそれを止めることなく、静かに泣いていた。
そんなアメリをオルマが支え、アメリはオルマの胸にうずくまるように泣き続けた。
▽▽▽▽▽
「……寝ちゃったのか?」
しばらくすると、オルマが支え泣き続けていたアメリはそのまま寝入ってしまったらしい。
もともと、アメリは健康状態がいいようには見えなかったし、表情に疲労の色が見て取れた。溜まった疲れなどもあったのだろう。
アメリは21歳。オルマは確か11歳。オルマは年齢に似合わぬ立派な大人だな。
遠くからは未だに戦闘音が聞こえる。まだ魔王討伐作戦は終わっていないということだろう。
それでも魔王が死んだとわかった魔物達は統率が取れなくなり、そろそろバラバラに逃げたり、抵抗したりしているはず、近いうちにそれも終わるはずだ、とシズカさんが言っていた。
オルマがアメリに言っていたように、この世界でも死者は天に向かうと言う考えがあるらしい。
「なぁ、ロシャス。死んだ人の遺体とか、この場合でいうと、このドラちゃんとかの遺体ってどうするのが普通なの?」
「信仰する宗教によって違うかもしれませんが、燃やして天に送るというのが一般的でしょう」
そうか、火葬するか……。
「しかし、今回の場合、このスカルドラゴンが魔王だった様子。討伐したことを証明するためにも遺体は残っていた方がよいかと思います」
あぁ、そっか。一応このスカルドラゴンが魔王なのか。それにすでに体は骨だけだしなぁ。
仕方ない。遺体は残すか。
「……タロー様なにを?」
オレがドラゴンの牙、そして心臓を守るように構成されている骨の一部を切り取り、コアを構成していた魔石の一部を拾っているとロシャスから声がかかった。
「アメリにこのドラちゃんの形見みたいなのを作ろうかと思って」
遺体を燃やして上げることはできない。それに骨で構成されているスカルドラゴンだからかなり高温の炎でなければ燃えることはない。その炎を作り出すことはできるが、魔王討伐ということを考えると、残しておいた方がいいという話。だからせめて、形見をと思ったのだ。
死霊魔法で蘇る者は、動力源とするために魔石やなにか魔力を込めた物をコアとするらしい。
このスカルドラゴンの場合は生前のドラゴンの魔石をそのまま利用していたため、この魔石はドラちゃん本人の物であるわけだ。
死霊魔法で蘇った者はこのコアとなっている部分を破壊することによって殺すことができる。つまりドラちゃんの魔石は砕けていたが、カケラを少し貰う程度であればバレることもないだろう。
ん? なぜそんなことわかるかって? そりゃ死霊魔法のスキルをこっそりいただいたからである。ついでにアメリにかけられていた呪いも解呪しておいた。これで呪いをかけた者からの束縛もなくなり、何者にも縛られることはないはずだ。まぁ、お尋ね者になった可能性はあるが。
「よし、帰ろう」
「タロー様、このサタンは……」
オルマが未だに抱えるアメリを見ながら俺に聞いてくる。
「連れて帰ろう。しばらくはうちで面倒を見ればいい。なにか情報を得られるかもしれないしね」
「かしこまりました」
俺の家にいるぶんには誰かにバレることもないと思う。探している者がいるかわからないが、外に出たとして、その姿からサタンとわかれば討伐しようとしてくる人族は多いはずだ。匿えるに越したことはない。それに、逆に俺たちを殺そうと行動するのであれば、それこそ対処するには身近にいた方が安全である。
シズカさん達はアンドレさん達と合流し、未だに戦う者達の支援に向かうということで、ここでお別れだ。
「それではまた近いうちに」
と、シズカさん達は走り去っていった。
「さて、帰ろうか」
オルマがアメリを抱えなおし、家に向かうことにする。帰ったらさっそく形見作りをしよう。そんなことを考えながらゲートをくぐり、屋敷へと帰宅した。
家に帰ると、仕事をサボってしまったことに気がついたオルマが慌て始めるなど、少々トラブルがあったものの、誰もオルマを責めることもせず、労ってくれたとのことだ。
「タロー様、あとこれを」
「あ、はい」
そのオルマの代わりに俺が残りの仕事をこなしたことは言うまでもあるまい。
あけましておめでとうございます。
いつも読んでいただきありがとうございます。
更新遅くなって申し訳ございません。
レビュー、感想ありがとうございます!お返事できなくて申し訳ありません。
今年もよろしくお願いします。
次回更新は2週間後の予定です。