10話
「それじゃ、ひとまず服買いに行こうか」
ロシャスは、作り的に貫頭衣のような布を一枚着ているだけだ。さすがに服を買わないわけにはいかないだろう。それに、ロシャスの服は俺の中ではすでに決まっている。
「うん、この店ならありそうだ」
貴族が着ていそうな少し高級な服を古着で売ったりリメイクして売っている服屋を見つけ、そこへ入る。
「いらっしゃいませー」
「あ、すいません、執事の着るような服ってありますか?」
そう。ロシャスには絶対執事服が似合う。
「今は……3着あるよ。まだリメイクもなにもしてないから、売ってもらった時のままだけどね」
「この男に合うサイズありますかね?」
「うーん、たぶん着れるのが1着だね。試着してみるかい?」
「はい、お願いします。ロシャス着てみて」
「はい、かしこまりました」
店員が持ってきてくれた執事服をロシャスが着てみる。
地球でモーニングと言われていた部類に近い作りの服だ。うん、想像通りの執事服って感じ。
「お、似合うじゃないか」
「そうですか?ありがとうございます」
「店員さん、これいくらですか?」
「これは金貨3枚だね」
うげ、古着で金貨3枚とか高すぎるだろ。
「高いなあー。せめて、サイズ微妙に合ってない部分の直しサービスしてくれない?」
「元々がかなりいい服なんだよこれ。状態も良かったしね。この値段で買ってくれるなら直しはサービスするよ。すぐ直せるしね」
「ありがとう!」
「……!! よろしいんですか? 奴隷に着せる服の値段ではないと思いますが……。私ならもっと安価なものでも……」
「いいのいいの、ロシャスにはこの服って決めてたからさ。本当は仕立てたいんだけど、今はちょっと時間ないもんで」
「いえ、ありがとうございます」
ロシャスは深々と頭を下げる。
「じゃあ、あんたはこっちに来て」
ロシャスは店員に連れられて奥へ行ってしまった。
俺も服買っておこう。ずっとこの世界に来た時のこのよくわからん服のままだったし
自分の服は旅装束って感じの派手過ぎない小綺麗な服を2着程度と、黒い外套を買っておく。
服を選び終わる頃、ロシャスの服もも補正が終わり着替えて出てきたので、金を払い店を出た。
しかし、執事を連れて旅をする俺は周りの人の目にはいったいどのように映るのだろうか。そのへん詳しく聞かれたら適当に没落貴族の子供的な設定にしとくか……ま、その時考えよ。
「よし。次は旅に必要そうな物を買って回ろう」
「タロー様、すぐに旅に出るのですか?」
「明日の朝には出ようかなあと」
「目的地はどちらでしょうか?」
「目的地は……ない!!」
えぇー。って感じの目で見られました。
「とりあえずダンジョンのあるところに行きたいなあとは思ってるんだけど」
「ダンジョンですか。それならば、ダンジョンを中心として栄えている街があるはずですので、そこを目指してはいかがでしょうか?」
「よし、そこにしよう。そこって遠い?」
「私の記憶が間違っておらず、昔聞いた情報通りでしたら、ここから馬車で5日ほど行ったところに王都があり、そこからさらに馬車で10日ほどだったと思います。」
なかなかの距離である。
「結構かかりそうだなあ。とりあえずは王都までの5日の旅の準備は必要ってことね」
しかし、王都を通過しなければならないのか。あまり近寄りたくはないが王都の様子を見てから色々判断すればいいか。
「タロー様、5日は馬車での日数です。馬車をお持ちですか?ないのであれば定期馬車のようなものか、護衛を兼ねて行商人に同行するか、どちらかになるとは思いますが」
まあ、急いでるわけでもないから歩いてもいいし、金はあるから馬車買ってもいいけど、どうしようか。
「あまり他人と行動は共にしたくないから歩くか馬車買うかのどちらかだな」
「でしたら、王都までは歩いて行き、王都で馬車を購入した方がいい馬車、いい馬を手に入れられるかもしれませんね」
「そうだな、急ぐ旅でもないし、歩こうか。何日かかるかわからないけど、10日分くらいの準備があれば余裕あるかな?」
「はい、それくらいあれば余裕があると思います」
「じゃあ、その予定で準備しよう」
まずは旅支度がなんでも整いそうな雑貨屋みたいな店だな。
行き交う人に店を聞きたどり着いた店で必要そうなものを買い揃える。
「なあ、ロシャス。マジックバッグとかマジックポーチとか名前はわからないけど、見た目よりたくさん入るカバンみたいなのは存在しないのか?」
「ありますよ。ただ、容量が多いものほど高額になるかと思います。人族でも価値が同じならですが。あれなんかマジックバッグですね」
店の棚に並べられたバッグを指差しながら教えてくれる。
そこには普通のカバンよりも少し頑丈そうな生地でできた、数こそ少ないが大小様々な大きさのカバンが陳列されていた。
「これいくらですか?」
ノートパソコン程度の大きさのスポーツバッグのような形をしたカバンを指して聞いてみた。
「それは大金貨8枚だよ。容量的にはそのカバンの15倍の荷物なら余裕で入るくらいだね。安いだろ?」
高っ! 容量もめちゃくちゃ少ないじゃないか。全然便利な感じがしない。
俺のスーパー巾着の方がよっぽど容量があるな……荷車まで入っちゃうし。
「ははは、すごいですね。でも今の僕にはまだ手が出ないなあ」
適当なこと言いながら棚に戻した。
必要そうな物や、食事の材料などを買い込み宿へ戻る。もちろん部屋は2部屋にしてもらった。ロシャスは簡単な料理ならできるというので材料さえあれば旅の食事も心配ないだろう。
「タロー様、私もすっかり失念しておりましたが、この荷物を持っての旅は少々困難かもしれませんね。それに食事の材料もこんなに生の物を買ってしまっては腐ってしまいます。軽くてコンパクトな携帯食のようなものにするべきかと」
「やだ。あれまずい」
携帯食も一応買って食べてみたのだが、不味くて耐えられなかったのだ。だからロシャスの料理ができるというのは大変助かった。材料を買っていけばその場で調理できるのだから。
「これ見てみて」
巾着から薬草を取り出しロシャスに見せる。
「これは薬草ですね。まだ採りたてですか?いつの間に?」
「これ昨日の朝採った薬草なんだ」
「そんなまさか。こんなに採れたての瑞々しい葉が昨日摘んだものなんですか?」
時間停止されてるか実験がなかなかできそうになかったので、結果が分かりづらいかもしれないが一応薬草を少ししまったままにしておいたやつだ。
「実はこの巾着はマジックバッグになっていて、中は時間が止まってるんだ」
「まさか……そんな物聞いたことありません」
「やっぱり時間が止まる機能まで付いたマジックバッグはないのか?」
「はい、少なくとも私は聞いたことがありません」
そっか。やっぱりないか。ただのマジックバッグとして使えるけど、時間が止まってることはなるべく知られないようにしないとだな。でもマジックバッグ自体は高価だが結構存在してるから使う分には気にしなくていいのは楽になった。
「それをどこで手に入れたのですか?」
「自分で作った」
「そんなことまで……いったいあなたは……」
「見習い商人兼Fランク冒険者だよ」
「ありえません……」
信じられない物を見るような目で見られたが、そんなことより重要なことを思い出した。
「しまった……ロシャスの冒険者登録しておくの忘れた。」
たぶん奴隷だから身分証明とかいらないけど、あるに越したことはない。
「話を逸らしましたねタロー様」
「いやいや、そんなつもりはなかった。まあ、これからも色々驚くことあるかもしれないし、慣れてくれ。そして他言無用で頼む」
「はぁ、わかりました」
とりあえずは適当にごまかしながら慣れてもらうしかないな。俺にも把握できてないことばかりだし。
「ロシャスの隠蔽がバレることってあるのか?というか、この世界のステータスの確認法ってどんな方法があるの?」
「ステータスは鑑定のスキル持ちが鑑定するか教会にて確認が行えます。実際は鑑定紙というものがあればどこでもできますが、乱用を防ぐために教会のみが取り扱えるようになっているようです」
魔族なのに本当によくご存知だこと。素晴らしい。
「鑑定紙を使用した確認にも隠蔽の効果は発揮されますので、レベルが高ければ本当のステータスを知られることはないと思います」
「じゃあ、ロシャスの隠蔽レベルならよっぽど高レベルの鑑定スキル持ちでなければ大丈夫ということか」
とりあえずは安心かな。さすがにロシャスの隠蔽レベルを超える鑑定持ちはなかなかいないだろうし。
でも上げておくに越したことはないか。
よく考えたらスキルオペレーターでロシャスのスキルレベル上げられるんじゃないか?まぁ、今はやらなくてもいいか。旅の途中で色々話しながらやってけばいいな。今はマジックバッグを作って荷物しまわないと。
「ステータスの心配は今のところ大丈夫だということがわかったし、マジックバッグを作ってこの荷物しまおう」
買い物途中で見つけた革のアタッシュケースのようなカバンとサコッシュのような肩からかけられる小さいポーチをマジックバッグにする。もちろん時間停止も付与してある。
「本当に作れてしまうのですね……」
半分呆れたような顔でロシャスがつぶやく。
「これで食料の問題も手荷物の問題も解決しただろ?料理は任せたよ」
「はい、かしこまりました。」
ロシャスが諦めてくれたところで、主な旅の荷物をアタッシュケースの方へ入れ、あとは適当に分けておく。
サコッシュの方はオレが持ち歩くので、金を移したが、巾着の方にも金を少しいれロシャスに持たせることにした。
「準備はだいたいこのくらいでいいかな。明日朝一で冒険者ギルドに立ち寄ってロシャスの登録してから出発しよう。ところで、今更聞くけどロシャスはなにか武器いる?」
「いえ、私は体術とこの杖があれば大丈夫です」
杖はロシャスの腰より少し低いくらいの、手をかざすとちょうど良い位置に来るような長さで、上1/4程度が少し太くなっており、手に持つところは少し丸みを帯びた球状で細かな飾り細工がしてある。ステッキと呼んだ方がしっくりくるかもしれない。派手ではないがかなり手の込んだ物のようだ。杖先端と持ち手の部分は金属でできている。
「もしかしてそれって仕込み刀?」
「かたな?名前はわかりかねますが、一見杖のように見えますが実は中にレイピアが仕込んであります」
おう。武器でした。レイピアを抜いて見せてくれた。刀ではなくレイピアだったが、まさに仕込み刀のようなものだ。カッコいい。俺も欲しい。
「くぅーっ! カッコいいな。それかなり業物って感じだし、他の武器は持たなくてもいいな」
鑑定で見たら、細工も刀身もミスリルでできている。ミスリルです。ファンタジーです。やっぱミスリルの武器持ちたいよね!
「はい、これさえあれば基本的には大丈夫かと思います」
「それミスリルだろ? ミスリルってのは手に入りやすいか?」
「いえ、ミスリルは鉱脈も少なく、精錬や鍛治技術もかなり熟練の職人にしかできないので、かなり高価です。ですが手に入らないというわけではないのでそれほど珍しいものでもありませんね」
「なるほど。よし、目標のひとつをミスリルの刀を作ることにしよう。まずはミスリルのインゴットを手に入れないことには始まらないな。それに後々はダマスカス鋼やオリハルコンも使ってみたいなあ。あぁ夢が広がる」
「また、とてつもない夢を…オリハルコンの武器などこの世に数点しか見つかってもいないと言いますよ。ところで先ほどから言っているカタナとはなんですか?」
「刀ってのは片刃の反りのある剣なんだけど見たことないかな?」
「うーん、そのような武器を目にしたことはありませんねぇ」
そうか、やっぱりこっちの世界には刀は存在しないのかな。とりあえず今手持ちにある剣を2本くらい潰して鉄のインゴット作って、宿の裏の釜のところにあった炭を拝借してきたので炭素も作れると思うから鋼を作れる気がする。知識とか全くないけど、材料さえあれば魔法の力でゴリ押しでなんとかなるだろう。
「なにをするのですか?」
材料となるものを出しているとロシャスが聞いてきた。
「んー、できるかわからないからとりあえず見てて」
鍛治のスキルと錬金のスキルのレベル高いからいけると思うけど……。
なんとなくどうすればいいかがわかるのはきっとじいちゃんの加護のおかげだ。やり方がわかればあとは行動に移すのみ。ということで、やってみたら剣と炭が光って金属の塊のようなものができた。
「お、できた。これは……玉鋼ってやつかなあ?」
「なっ……!?」
よくわからないけどここまでやれてしまったら早速刀作りたくなってきた。鍛冶屋のおじさんとこまだ空いてるかなあ?鍛冶場かしてくれるといいけど…。
「ちょっと出掛けてくる。すぐ戻るから!」
唖然として固まっているロシャスを置き去りにしておじさんのところへ向かうことにした。
2018.9.29 編集